ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

199 セトの考えと借用権とヴィマナ遺構

「……最初は、少女化魔物ロリータ少女契約ロリータコントラクトを結ばないで強くなる方法を探してたんだ」

 おずおずと、しかし、真剣に冒険家を目指す理由を話し始めた弟の言葉に耳を傾ける。
 どうやら、これもまた幼少期のトラウマに端を発している話らしい。
 人間至上主義者の操る少女化魔物による、生まれ故郷ヨスキ村への襲撃。
 本当に根深く、彼の本質的な部分にまで食い込んでしまっている。
 今のセトの状態を不健全だから矯正すべきなどと言うつもりは全くないけれども、あの事件によって彼の人生が大きく変わってしまったことだけは間違いない。
 身勝手な理由で馬鹿げた真似をした奴らに感じるのは怒りだけだ。
 だが、まあ、今この場は感情を抑えてセトの話に集中しなければ。
 余計な思考に心を囚われるのは、真面目に語ろうとしている弟に失礼だ。
 親しき仲にも礼儀はある。

「それで、強い祈望之器ディザイアードを手に入れられれば、もしかしたら兄さんと肩を並べて戦えるぐらいになれるかなって考えて、遺跡のこととかを調べて……」

 冒険家となって遺跡を巡り、有用な祈望之器を探す。
 そういった結論に至った訳か。

「ですが、もし冒険家になって祈望之器を発見することができたとしても、その所有権は普通発見者ではなく、その遺跡が存在する国に帰属するのでは?」

 そんなセトに、瑕疵の指摘ではなく純粋な質問という感じに尋ねるレンリ。
 口振りからしてダン達とは異なり、セトの夢について全く知らなかったようだ。
 何より、彼女はアクエリアル帝国の人間。それも皇帝の娘にして現在皇帝の資格たる祈望之器アガートラムを持つ存在でもある。
 それだけに、そういった疑問を持つのは無理もないことに違いない。

「少なくとも、アクエリアル帝国ではそうですが」

 と言うか、かの国ならば遺跡の発掘は間違いなく国家事業だろう。
 そもそも冒険家など関わることができないはずだ。
 むしろ、そんな職業も存在しない可能性が高い。

「確かに、基本的にはレンリさんの言う通りなんだけど……アクエリアル帝国以外では発見者は国からその祈望之器を借りることもできるみたいなんだ」

 レンリの問いに、しっかりと答えるセト。
 自分がなりたい職業だけに、ちゃんと細かいところまで調べているらしい。

「祈望之器を見つけた者は、その借用権か、それを放棄して報奨金を得るかを選べるんだって。大体の場合、報奨金を選ぶみたいだけど」
「ちなみに借用権は一代限りで、紛失した場合は凄く重い罪になるらしいよ」
「かなりの賠償金を請求されるから、借用権を行使する冒険家は物好き扱いみたいだね」

 セトに続いて補足を入れるダンとトバル。
 どうやら二人もセトの調べものにつき合ってくれていたようだ。
 ラクラちゃんの表情を見るに、彼女もか。
 レンリ一人が事情を知らないのは、彼女と真性少女契約しているリヴァイアサンの少女化魔物であるラハさんが護衛している時にでも調べていたからに違いない。

 ……多分、余り俺には知られたくなかったんだろうな。
 レンリの様子を見ていれば、彼女を通じて話が漏れそうだと考えてもおかしくないし。
 身内だからこそ夢を大っぴらに語りにくい、となる人間は結構いるものだ。
 そんな風に、相談してくれなかったことに理由づけしている間にも、説明は更に続く。

「フレギウス王国だけは自国民に限定してるけど、ホウゲツとウインテート連邦、ランブリク共和国は協定があって三国のいずれかに所属する冒険家なら、他の二国でも借用権を得ることができるらしいんだ」
「……成程」

 そう締め括ったセトに、自国との差異を吟味するようにレンリは呟く。
 報奨金目当てにそれなりの実力者が積極的に遺跡の探索に参加し、調査が進み易くなるといったメリットもあるけれども、物好きな冒険家が他国の祈望之器を紛失した場合にはかなり面倒なことになりそうなデメリットもなくはない。
 後者は借用権を選択する冒険家自体少ないようだから、相当レアなケースだろうけど。
 何にせよ、独裁的で閉鎖的なアクエリアル帝国では採用しにくい制度に違いない。

「まあ、冒険家の説明はいいとして……つまり、少女化魔物に頼らないで強くなるための単なる手段として冒険家になりたいってことなのか?」
「えっと……ううん、違うよ。初めはそうだったけど、調べてる内に遺跡自体に興味が出てきて、世界の色んな場所に行ってみたいって思うようになったんだ」
「………………そうか」

 真っ直ぐに俺の目を見て告げるセトに頷く。嘘や誤魔化しではなさそうだ。
 手段を夢の位置に据える形ではモチベーションが続くか危ういんじゃないか、と一瞬危惧したが、それ自体が目的にもなっているのなら立ち塞がる壁も乗り越え易いだろう。
 とりあえず動機の部分については、俺が一々口を挟む必要はないようだ。

「けど、その方向だと、ヨスキ村の掟に反するってことは分かってるのか? 少女化魔物と真性少女契約を結ばない限り、ヨスキ村に帰ることはできないんだぞ?」
「それは…………うん。分かってる」

 敢えてハッキリ言ってやると、セトは表情を固くしながらもそう答えた。
 彼はまだまだ子供だが、その意味するところを理解できない程に幼くはない。
 俺のようなイレギュラーな立場にある者でもない限り、ヨスキ村の人間と関わることが許されなくなることも承知の上、ということだ。
 無論、ヨスキ村の人間には父さんと母さんも含まれる。

「でも、それは冒険家を目指さなくても同じことだから」

 そう口にしたセトの顔には決意の色が滲んでいる。
 十二歳ながら聡明な弟だけに、少女化魔物との契約は本能的な部分で拒絶しているがために不可能だと早々に結論してしまっているのだろう。自己分析によって。
 諦め。いや、受容か。
 それが自分だと既に受け入れてしまっているのだ。

 実際、己の本質に深く根を下ろしてしまった考えは、それこそあの事件と同等以上の衝撃でもなければ変わることはないだろう。
 誰かが無理に働きかけても拗れる以外の結果にはならない。
 それにそもそも、あくまでも冒険家を目指す切っかけの一つがそれだっただけ。
 冒険家になると、本人の意思とは違う別の不可思議な力で少女契約が不可能になる訳でもない。その仕事の中で、奇跡的に心変わりする出来事に遭遇する可能性だってある。
 正にセトの言う通り、冒険家を目指す目指さないは、もはや別の話と言っていい。

「分かった。そこまで考えてるのなら、兄ちゃんはセトを応援する。けど、中途半端は駄目だぞ? ヨスキ村の父さんや母さんに伝わるぐらい有名な冒険家になれ。いいな?」
「うん!」

 俺の言葉に力強く返事をするセト。
 ……父さんや母さんと二度と会えないていで言ったが、ふと村の掟など別に守らなくてもいいのではないかという考えが浮かぶ。
 全く以って身も蓋もないことだけれども。
 真性少女契約できない、しないと決めたのなら、もう完全に開き直るのも有りだ。
 掟を無視して村の外で両親と会ってしまってもいい気がする。
 ヨスキ村も村社会だけに後ろ指をさされかねないが、よくよく考えれば、あの子煩悩な両親がそんなことを気にしてセトと決別することを選ぶはずがない。

 うん。そうだ。
 村の知り合いとの関係性まで含めて何もかも全部いい感じに解決しようと思うから、セトが掟を達成する可能性に縋って板挟みになる訳で……。
 もう少し単純に考えてもいい。
 あの村に十七年もいて、知らず村社会の空気に毒されていたのかもしれないな。
 いっそのこと、父さんや母さんに真正面から聞いてみるか。
 一人で勝手に気を回すことだけが親孝行じゃないだろうし。
 …………決めた。そうしよう。

「ところで、何か狙ってる祈望之器はあるのか?」

 頭の中で結論しつつも一先ず脇に置き、堅苦しい話はおしまいと軽い調子で尋ねる。

「えっと、今のところ二つかな。祈念魔法とか他の祈望之器を強化する力を持つ祈望之器のメギンギョルズと宝蓮灯。メギンギョルズは行方不明で手がかりがないけど、未発見の宝蓮灯はランブリク共和国にある可能性が高いって」
「ランブリク共和国か。未発見の遺跡にあるか……もしかすると、まだ全ての探索が完了してないヴィマナ遺構のどこかにあるかもしれないな」
「うん。僕もそう思うんだ」

 我が意を得たりと明るい顔で頷くセト。
 成程。だから、ヴィマナ遺構に反応した訳か。

「ヴィマナ遺構と言うと、祈望之器ヴィマナが発見された場所ですよね?」

 と、横からレンリが興味深そうに問いかけてくる。
 さすがに、かの祈望之器とその発見場所に関しては、アクエリアル帝国でもある程度は知られているようだ。
 まあ、当然だろう。
 巨大な船のような形で、飛行能力を持つ祈望之器ヴィマナ。
 その発見以後、複製改良された飛行機もどきマナプレーンによって、飛行の複合発露エクスコンプレックスや祈念魔法を使えない者でも空路で他国に行くことができるようになったのだから。
 もっとも、完全に自由に行き来できるのはホウゲツ‐ウインテート間だけだけども。

「……遺跡というものは、本当に不思議です。何もなかったはずの場所に突如として現れたこともあったそうですし」

 実際のところ。
 遺跡とは言っても、本当に先史文明があったのかどうかは誰にも分からない。
 レンリが口にした事例が何かの勘違いでなければ、思念の蓄積によってある日突然でき上がったのかもしれない訳だから。
 たとえ年代測定ができたとしても、それこそ数千年経過しているという測定結果が出る状態で発生している可能性もある以上、真実は現在を生きる俺達には知り得ないことだ。
 誕生の瞬間でも目の当たりにしない限り。
 ともあれ、本当に古代の遺跡だったにせよ、思念の産物だったにせよ、ロマン溢れる存在であることに変わりはない。

「そうそう。遺跡っていうのは奥が深いんだ。恐ろしい魔物が巣食っていたり、常識ではあり得ない罠があったり――」

 だから、セトが遺跡オタクもかくやという勢いで話し出すのも無理からぬことだ。
 惹きつけられるだけの魅力がそれにはある。
 そうして俺達は、いつもよりも随分と積極的に話すセトを中心に、注文した料理が来てからも世界各地の遺跡や未発見の祈望之器の話を続けたのだった。

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