ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

194 人形化魔物との会敵

 少女祭祀国家ホウゲツの小都市アカハ。
 元の世界で言えば福岡県の辺りにあり、ウラバ大事変が起きたウラバに隣接しているが故に、そのとばっちりを受けた辺境の小さな街(ホウゲツ基準)だ。
 あの島(九州地方)にある都市の中では比較的大きく、製鉄が盛んな地域でもある。
 そんな小都市は今、不幸にも前回の事件に続いて新たな災厄に見舞われていた。
 夜が明けると、都市のどこかで誰かが斬殺されるのだ。
 その最初の被害者は、深夜に出歩いていた何の変哲もない一般男性。
 目撃者もなく、一刀の下に正中線で真っ二つにされていた。
 友人と飲みに行った帰り。家への近道となる人気のない裏通りで被害に遭ったようだ。

 正に俺が噂で聞いた通りの犯行状況。
 だが、当初は噂とは異なり毎夜毎夜事件が起きていた訳ではなかったらしい。
 人伝に学園都市トコハに伝わるまでの間に、尾ひれがついたのだろう。
 もっとも、最後の数日間は発生頻度においても噂通りの状態になっていたようだが。
 その辺の正確な情報が事実として万民に伝わるには、事件の全容が解明された後で新聞に事件の記事が掲載されるまで待つ必要があるだろう。

 ともあれ。
 実際に二度目の被害者が出たのは、最初の凶行から一週間後のこと。
 同じく夜も深まった頃だった。
 被害者は仕事帰りの人間で、まるで誇示するようにまたもや一刀両断されていた。
 繰り返された凄惨な現場の状況は二度目ということもあって瞬く間に市民に伝わり、アカハ全体が恐怖を主体とする異様な雰囲気に包まれ始めた。
 とは言え、この段階ではまだ犯人はとち狂った人間か暴走した少女化魔物ロリータだと考えられていたし、すぐ警察によって捕らえられるものと思われていた。
 しかし、五日後に三度目。その三日後に四度目と続き……。
 遂には翌日、二日連続で斬殺死体が発見されてしまう。

 二度目の段階で既に一般市民の間では夜の外出を自粛するようになり、四度目の前にアカハの行政から正式に非常事態宣言が出ると共に夜間外出禁止令が通達されていた。
 しかし、被害はとまらない。
 三度目に、ある種の度胸試しを行っていた危機感の乏しい若者が無残に殺されたのを最後に、指示を待つまでもなく夜間に外出しようという愚か者はいなくなっていたが……。
 犯人を確保すべく夜の見回りを行っていた警察官が、四人目の被害者に。
 曲がりなりにも真性少女征服者ロリコンである彼が抵抗できた様子もなく殉職したことで、警察は犯人に対する警戒度を大きく引き上げた。
 それに伴い、その後は四人一組での巡廻としたものの……翌日、それを嘲笑うかのように今度は一人暮らしの青年が家の中で殺害されたのだった。

 ここに至り、もはやアカハ単独での解決は不可能と判断した行政は即座に中央に救援を求め、翌々日派遣されたS級補導員が現着。
 彼は攻撃系のアーク複合発露エクスコンプレックスを二つ、身体強化系の真・複合発露を一つ持つ実力者だったが、またもや一撃の下に敗北してしまう。
 首筋から袈裟切りにされたように斜めに分断されていたことから、僅かに反応することはできたものの回避し切れなかったものと推測された。
 また、これに伴い、真性少女契約ロリータコントラクトしていた少女化魔物三名が共にこの世を去っている。
 そうして更にその翌々日。
 新たに白刃の矢が立った、EX級補導員たるシニッドさんがこの地を訪れ……。

「八名の人間と四名の少女化魔物が死亡。一名が重傷という結果を受け、これ以上の被害を食い止めるために救世の転生者が駆り出された訳だ」

 一通りトリリス様達から聞いた情報を改めて口に出して整理し、俺はそう締め括った。
 その声は俺と影の中の彼女達以外に届くことなく、闇夜に溶けて消えていく。
 アカハの表通りのど真ん中。暗闇の世界に人の気配は一つ分。
 当然ながら周囲に通行人の姿はない。
 光源は空の星と月明かり。後は、遠くの大きな公民館一ヶ所から漏れ出る光のみだ。

「……しかし、人類抹殺を目的とした人形化魔物ピグマリオンにしては、随分と悠長なやり口だな」

 虫の声も大分遠い静けさの中、気を紛らわすようにポツリと呟きながら首を傾げる。
 一回だけ家に侵入して犯行に及んでいるものの、ほぼほぼ辻斬りのような手口。
 音に聞く人形化魔物ならば、もっと派手に、短期間に大量虐殺を行いそうなものだが。

「人形化魔物も千差万別です。人間が恐怖に慄く様子を楽しもうとする者もいますし、極めて効率的に人間を殺処分する装置の如き人形化魔物もいます」

 そんな俺の疑問に答えるように、闇の中の微かな影からイリュファが告げる。

「前者の場合であっても直接痛めつけることに愉悦を抱く者もいれば、間接的に恐怖を蔓延させて人々が混乱する姿を嘲笑う者もいます。ですが……」
「いずれにしても、最終的に人類を滅ぼそうっていう基本方針だけは変わらない、と」
「その通りです」

 一口に破滅欲求と言っても、人の感情は複雑怪奇。
 あくまでも一つ確固たる前提を置いた上で、の話ではあるが、人形化魔物にも様々な個性がある訳だ。何とも迷惑で、嫌な多様性だけれども。

「今回のケースでは、惨殺死体を見せつけることで人々に恐怖を与えようとしているのでしょう。じわじわと真綿で締めるように。恐慌状態の一歩手前に留めて苦しみを長引かせるため、一回につき殺すのは一人だけという制約を己に課しているようにも見えます」

 事件のあらましを一通り整理した限り、件の人形化魔物【イヴィルソード】と【リビングアーマー】の行動パターンはおおよそイリュファの言う通りと考えてよさそうだ。
 真性少女契約のルールのせいで同時に複数人が命を落としているパターンもあるにはあるが、彼女達については例外と見なすべきだろう。
 別の根拠もあって、そもそも人間ではない存在を勘定に入れていない可能性が高い。

「全く……被害は比較的増えにくいけど、たちが悪いな」

 たとえ数字の上での被害が少なくとも、多くの心ある者を害するだろう人の世の異物。
 疑うまでもなく、これらは救世の転生者が可及的速やかに排除せねばならない敵だ。

「ええ。ですが、そうした歪んだ性質を持つだけに、おびき寄せることは簡単です」
「イサクが一人で外を歩いていればいいんだよね?」
「……その通りです」

 結論をサユキに横取りされ、若干不満げに肯定するイリュファ。
 気持ちは分からないでもないが、これまでの情報から容易に導き出せることではある。
 だからこそ、俺はこうして夜の街をうろつく不審者と化している訳だ。
 一種の囮として。

 当然ながら一人でいる人間が狙われるという推測はアカハの行政でもなされており、六度目の段階で一人暮らしの市民を公民館一ヶ所に集める対策が行われていた。
 もっとも、シニッドさんが到着する前日は一瞬の隙を突かれ、タイミング悪く公民館の洗面所で一人になった者が被害に遭ってしまった訳だけれども……。
 街中で単独行動している(ように見える)者がいる状況なら、こちらを優先するはずだ。
 影の中に彼女達がいるが、殉職した警察官、S級補導員、シニッドさんは少女化魔物を連れていても襲われたため、やはり人ならぬ存在はものの数に入っていないと見ていい。
 現在の俺の状態で、十分に囮の役割を果たすことができるだろう。
 とは言え、夜は長い。
 いつ敵がやってくるかは全くの不明だが――。

「しかし、たまには深夜の散策も悪く……っ!?」

 長期戦に備え、適度な精神状態を保つために世間話でもしようかと口を開いた瞬間。
 果たして敵は、俺という餌に食いついたようだった。
 事前に周囲へと展開していた氷の粒子が音よりも速く迫るそれを察知し、瞬間的に真・複合発露〈裂雲雷鳥イヴェイドソア不羈サンダーボルト〉を発動させて距離を取ると共に襲撃者に向き直る。
 纏う雷光により、その姿がハッキリと照らし出される。
 そこにいたのは、西洋的な両手剣ツーハンデッドソードを持った二メートル程度の厚手の全身鎧フルプレート
 いずれも闇に溶け込むような漆黒を基調に、血管のように脈打つ網目状に走った鮮血の如き赤いラインが全体に見て取れた。
 見ているだけで呪われそうだ。
 正に破滅欲求の権化。それが標的であることは一目瞭然だ。

「こいつらが……【イヴィルソード】と【リビングアーマー】だな」

 確信を持って俺が呟く間にも、鎧は問答無用で一直線に間合いを詰め、眼前の人間を一刀の下に両断せんと両手剣を真っ向上段から振り下ろしてきた。

「くっ」

 即座に受け止めようとするべきではないと判断し、飛び退って回避する。
 シニッドさんの身体強化が施された肉体をも断ち切った斬撃が、一瞬前まで俺がいた空間を真っ直ぐに通過していく。
 余りにも単純な軌道だが、その軌跡は気味が悪い程に美しい。
 美しいが……どこか穢らわしい。
 人間が到達し得る限界の技術を発現させながら、にもかかわらず、そこに憎悪を乗せて殺人のためだけに使用しているが如き歪みが感じられる。
 そのような雑念がある限りは到達できそうもない領域を、負の思念の蓄積というバグを使って無理矢理に侵犯しているかのようだ。

「成程。人類の大敵。これが――」

 返す刀で斬り上げてくる鎧の一撃を雷速を以って避け、氷を纏った拳で殴りつける。
 しかし、それが漆黒の装甲を傷つけることは僅かたりともなく……。
 逆に、氷が衝撃に耐えることができずに完膚なきまでに砕かれてしまった。
 更には反動が身体強化が施されているはずの右腕に返り、鋭い痛みが駆け抜けていく。

「これが、人形化魔物か」

 その様に俺は忌々しく吐き捨てながら、死に至るまで手を緩めるつもりなどないと主張するかのように絶え間なく絶命の一撃を繰り出してくる相手を迎え撃たんと身構えた。

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