ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
193 見立て違い
「あ、イサク君、トリリス様がすぐ来て欲しいとのことです!」
翌日。訓練施設に向かう前に、仕事の確認をしておこうと補導員事務局に入った直後。
こちらが挨拶をするよりも早く、受付にいたルトアさんにそう告げられた俺は「分かりました」と応じながら回れ右をして学園長室へと向かった。
昨日話をしたばかりで一体何の用だろうか、と内心首を傾げながら。
トリリス様の複合発露〈迷宮悪戯〉で強制連行されていないところを見るに、即時対応しなければならない程の緊急事態という訳ではないはずだが……。
まあ、その辺は呼び出した本人から話を聞けば分かる話だ。
なので、そのまま早歩き気味に学園長室の扉の前まで行き、いつものようにノックに反応が返ってきてから扉を開けて中に入る。
それから所定の立ち位置に収まったところで――。
「昨日の今日で申し訳ないのだゾ」
大きな机に手を乗せて椅子に浅く腰かけて座っていたトリリス様が、そう神妙な顔と口調で言いながら天板に額をぶつけそうになるぐらい深々と頭を下げてきた。
「ええと、一体どうしたんですか?」
その妙に殊勝な様子に、若干の戸惑いを抱きながら尋ねる。
彼女の場合は、それが本気なのかネタなのか今一分からないから困る。
「実は、早速イサクの力が必要な事態になってしまったのです……」
と、机の脇に立つディームさんが俺の問いを受け、同じく申し訳なさそうに答えた。
その内容に、だろうな、と思う。
正直なところ、呼び出しを受けた時点である程度は予測できていた。
しかし、前言を撤回するのが早過ぎて、釈然としない気持ちがないでもない。
しばらくは救世の転生者でなくとも十分に対処できる、とは何だったのか、と。
「目算が外れてしまったのです。面目ないのです……」
微妙に困惑した俺の心を読み取ったように続けられた深刻な口調の一言に、若干緊張を欠いていた気持ちを意識的に引き締めようと姿勢を正す。
見通しが狂ったなどと五百年以上の経験を持つ彼女達が言うなら、それは正に不測の事態以外の何ものでもない。
発言者がディームさんならば尚更のことだ。
「……状況を教えて下さいますか?」
真剣な声色と共に尋ねると、トリリス様は一つ頷いて口を開く。
「昨日、イサクが挙げた噂の中に毎夜毎夜斬殺死体が出ているというものがあったナ?」
「ええ」
問いに問いで返してきた彼女に、俺は一先ず首を縦に振って肯定した。
このタイミングで関係のない話題を出すはずもない。
それが呼び出した理由に深く関わっているのだろう。
「確か、人形化魔物【イヴィルソード】によるものだとか」
「そう。そして、ワタシ達はシニッドに討伐の依頼を出していたのだゾ」
「……まさか、シニッドさんに何かあったんですか?」
話の流れから予測して尋ねる。
この状況だと、そうとしか考えられない。
「なす術なく右腕を切り落とされた上、腹部を半分以上切り裂かれていた。勿論、治癒の祈念魔法によって接合済みで今ではピンピンしているがナ」
「ウルとルーのおかげで何とか退却することができたようなのです……」
二人の返答に、ホッと一つ息を吐く。
一先ず無事ならいい。不幸中の幸いだ。
しかし、その情報だけで、相手がEX級補導員であるシニッドさんの真・複合発露による身体強化を遥かに上回る攻撃力を有していることが分かる。
そんな敵と対峙しながら、それでも最悪の事態を回避して情報を持ち帰ってくることができるからこそ、彼らは熟練の補導員たり得るのだろう。
さすがはシニッドさん達だ。
「【ガラテア】以外の人形化魔物も決して侮れない、という訳ですね」
最凶の人形化魔物にして救世の転生者の大敵として繰り返し繰り返し聞かされてきたためか【ガラテア】に意識が引っ張られがちだが、他の人形化魔物とて脅威に他ならない。
人類抹殺を目的に行動する存在というだけで、最大限に警戒すべき存在だ。
「いや――」
しかし、トリリス様は否定気味の声を口にし、少し逡巡してから再び口を開いた。
「実のところ初期段階で発生する人形化魔物の力は、暴走した少女化魔物と同程度だったのだゾ。だから、EX級補導員たるシニッドであれば、容易い……とまでは言わずとも決して難易度の高い仕事ではないはずだったのだゾ」
「今回は、その目算を敵の強さが遥かに上回っていたのです……」
「え……何で、そんなことに?」
二人の言葉に首を傾げながら問いかける。
これまでと明らかに異なる現象が起こったのなら、必ず何かしらの原因があるはずだ。
「恐らく、ここ百年で急激に人口が増加したせいなのです……」
「観測者の人数が増えれば、破滅欲求の量も増大するからナ」
成程。人形化魔物の成り立ちを考えると、それは確かに道理だ。
しかし、待てよ。そうなると――。
「それってつまり【ガラテア】も強化されてるってことですよね?」
「まあ、そうなるだろうナ」
「……救世に支障が出るのでは?」
「そこは心配いらないのです。救世の転生者と人形化魔物全体との力関係は、恐らく以前と変わっていないはずなのです……」
「どういうことですか?」
「人口が増加すれば、ポジティブな思念の蓄積もまた増える。それを半ば一身に受ける救世の転生者もまた、相応に強化されて然るべきなのだゾ」
「相対的に見て、プラスマイナスゼロなのです……」
それはそうか。
人形化魔物特効様々だな。
「話を戻すゾ。今回、人口増加によって人形化魔物全体の強さが底上げされたことで、本来なら補導員として上位に位置するシニッドですら敵わなかった。となれば――」
「イサクに戦って貰うしかないのです。勿論、相応の報酬は出るのです……」
当然の帰結。だが、そうなると今までにも増して忙しくなりそうだ。
報酬が増えるとしても、使う暇がないぐらいになるのは勘弁願いたいものだが……。
まあ、何にせよ、人類に対する脅威を野放しにしておく選択肢はない。
「分かりました。まずは【イヴィルソード】からですか」
「その通りだゾ。と言いたいところだがナ。それだけだと正確ではないのだゾ」
同意しつつ、妙なことを言い出したトリリス様に疑問の視線を送る。
「シニッドの証言から敵は【イヴィルソード】のみではないことが分かったのです……」
「二体いたってことですか!?」
ディームさんの言葉を受けて問うた俺に、彼女は頷いて肯定の意を示す。
「十中八九、もう一体は【リビングアーマー】と呼ばれる人形化魔物なのです……」
「【リビングアーマー】……」
「シニッドがあそこまで容易に敗北したのは、それも大きな理由だろうナ」
然もありなん。
一体一体の強さが大幅に増している上に二対一。
よく無事に逃げおおせたものだ。
改めて感服する。
「そして何より、人形化魔物において注意すべきはその複合発露だゾ」
「威力としては私達が知る人形化魔物でも真・暴走・複合発露と同程度。今の状態ならそれ以上と見ておいた方がいいのです……」
「真性少女契約的なものもなく、ですか?」
「そう。生まれながらにそれだけの力を有しているのだゾ」
確かに人形化魔物もまた複合発露を使うとは、イリュファからも聞いていたが……。
人類の敵だけあって、特異思念集積体に勝るとも劣らない特異な存在のようだ。
「故に、人形化魔物の複合発露を特別に滅尽・複合発露と呼ぶのです……」
「滅尽・複合発露、か」
「【イヴィルソード】なら切断系、【リビングアーマー】なら防御系の可能性が高いナ」
基本はイメージ通り。そこは少女化魔物と同じようだ。
思念の質が異なるだけで、発生の構造としては似たようなものだから当然か。
しかし、そんな俺の思考を呼んだように――。
「……それと、イサク。人形化魔物は少女化魔物とは全く異なる存在だからナ。慈悲をかける必要はない。見敵必殺。即座に、問答無用で破壊して構わないのだゾ」
口調は変わらないものの、押し殺した敵意が感じ取れる声でトリリス様が告げる。
あくまでも、似た発生形態というだけ。
彼女達にとっては【ガラテア】もそうだが、人形化魔物は正に不倶戴天の敵なのだろう。
救世のサポートのみならず、このホウゲツという国を守る役割を負った者にとっては特に、秩序を乱すその存在は憎悪の対象と言っても過言ではないはずだ。
そしてそれは同時に、彼女らがそうした感情を抱くだけの脅威を、人形化魔物が過去の比較的弱い状態であっても最終的には持つに至っていた証に他ならない。
「分かりました」
だから俺は一層気を引き締め、二体の人形化魔物の出現予測や戦い方の確認を入念に行いながら、それらが現れる夜を待った。
翌日。訓練施設に向かう前に、仕事の確認をしておこうと補導員事務局に入った直後。
こちらが挨拶をするよりも早く、受付にいたルトアさんにそう告げられた俺は「分かりました」と応じながら回れ右をして学園長室へと向かった。
昨日話をしたばかりで一体何の用だろうか、と内心首を傾げながら。
トリリス様の複合発露〈迷宮悪戯〉で強制連行されていないところを見るに、即時対応しなければならない程の緊急事態という訳ではないはずだが……。
まあ、その辺は呼び出した本人から話を聞けば分かる話だ。
なので、そのまま早歩き気味に学園長室の扉の前まで行き、いつものようにノックに反応が返ってきてから扉を開けて中に入る。
それから所定の立ち位置に収まったところで――。
「昨日の今日で申し訳ないのだゾ」
大きな机に手を乗せて椅子に浅く腰かけて座っていたトリリス様が、そう神妙な顔と口調で言いながら天板に額をぶつけそうになるぐらい深々と頭を下げてきた。
「ええと、一体どうしたんですか?」
その妙に殊勝な様子に、若干の戸惑いを抱きながら尋ねる。
彼女の場合は、それが本気なのかネタなのか今一分からないから困る。
「実は、早速イサクの力が必要な事態になってしまったのです……」
と、机の脇に立つディームさんが俺の問いを受け、同じく申し訳なさそうに答えた。
その内容に、だろうな、と思う。
正直なところ、呼び出しを受けた時点である程度は予測できていた。
しかし、前言を撤回するのが早過ぎて、釈然としない気持ちがないでもない。
しばらくは救世の転生者でなくとも十分に対処できる、とは何だったのか、と。
「目算が外れてしまったのです。面目ないのです……」
微妙に困惑した俺の心を読み取ったように続けられた深刻な口調の一言に、若干緊張を欠いていた気持ちを意識的に引き締めようと姿勢を正す。
見通しが狂ったなどと五百年以上の経験を持つ彼女達が言うなら、それは正に不測の事態以外の何ものでもない。
発言者がディームさんならば尚更のことだ。
「……状況を教えて下さいますか?」
真剣な声色と共に尋ねると、トリリス様は一つ頷いて口を開く。
「昨日、イサクが挙げた噂の中に毎夜毎夜斬殺死体が出ているというものがあったナ?」
「ええ」
問いに問いで返してきた彼女に、俺は一先ず首を縦に振って肯定した。
このタイミングで関係のない話題を出すはずもない。
それが呼び出した理由に深く関わっているのだろう。
「確か、人形化魔物【イヴィルソード】によるものだとか」
「そう。そして、ワタシ達はシニッドに討伐の依頼を出していたのだゾ」
「……まさか、シニッドさんに何かあったんですか?」
話の流れから予測して尋ねる。
この状況だと、そうとしか考えられない。
「なす術なく右腕を切り落とされた上、腹部を半分以上切り裂かれていた。勿論、治癒の祈念魔法によって接合済みで今ではピンピンしているがナ」
「ウルとルーのおかげで何とか退却することができたようなのです……」
二人の返答に、ホッと一つ息を吐く。
一先ず無事ならいい。不幸中の幸いだ。
しかし、その情報だけで、相手がEX級補導員であるシニッドさんの真・複合発露による身体強化を遥かに上回る攻撃力を有していることが分かる。
そんな敵と対峙しながら、それでも最悪の事態を回避して情報を持ち帰ってくることができるからこそ、彼らは熟練の補導員たり得るのだろう。
さすがはシニッドさん達だ。
「【ガラテア】以外の人形化魔物も決して侮れない、という訳ですね」
最凶の人形化魔物にして救世の転生者の大敵として繰り返し繰り返し聞かされてきたためか【ガラテア】に意識が引っ張られがちだが、他の人形化魔物とて脅威に他ならない。
人類抹殺を目的に行動する存在というだけで、最大限に警戒すべき存在だ。
「いや――」
しかし、トリリス様は否定気味の声を口にし、少し逡巡してから再び口を開いた。
「実のところ初期段階で発生する人形化魔物の力は、暴走した少女化魔物と同程度だったのだゾ。だから、EX級補導員たるシニッドであれば、容易い……とまでは言わずとも決して難易度の高い仕事ではないはずだったのだゾ」
「今回は、その目算を敵の強さが遥かに上回っていたのです……」
「え……何で、そんなことに?」
二人の言葉に首を傾げながら問いかける。
これまでと明らかに異なる現象が起こったのなら、必ず何かしらの原因があるはずだ。
「恐らく、ここ百年で急激に人口が増加したせいなのです……」
「観測者の人数が増えれば、破滅欲求の量も増大するからナ」
成程。人形化魔物の成り立ちを考えると、それは確かに道理だ。
しかし、待てよ。そうなると――。
「それってつまり【ガラテア】も強化されてるってことですよね?」
「まあ、そうなるだろうナ」
「……救世に支障が出るのでは?」
「そこは心配いらないのです。救世の転生者と人形化魔物全体との力関係は、恐らく以前と変わっていないはずなのです……」
「どういうことですか?」
「人口が増加すれば、ポジティブな思念の蓄積もまた増える。それを半ば一身に受ける救世の転生者もまた、相応に強化されて然るべきなのだゾ」
「相対的に見て、プラスマイナスゼロなのです……」
それはそうか。
人形化魔物特効様々だな。
「話を戻すゾ。今回、人口増加によって人形化魔物全体の強さが底上げされたことで、本来なら補導員として上位に位置するシニッドですら敵わなかった。となれば――」
「イサクに戦って貰うしかないのです。勿論、相応の報酬は出るのです……」
当然の帰結。だが、そうなると今までにも増して忙しくなりそうだ。
報酬が増えるとしても、使う暇がないぐらいになるのは勘弁願いたいものだが……。
まあ、何にせよ、人類に対する脅威を野放しにしておく選択肢はない。
「分かりました。まずは【イヴィルソード】からですか」
「その通りだゾ。と言いたいところだがナ。それだけだと正確ではないのだゾ」
同意しつつ、妙なことを言い出したトリリス様に疑問の視線を送る。
「シニッドの証言から敵は【イヴィルソード】のみではないことが分かったのです……」
「二体いたってことですか!?」
ディームさんの言葉を受けて問うた俺に、彼女は頷いて肯定の意を示す。
「十中八九、もう一体は【リビングアーマー】と呼ばれる人形化魔物なのです……」
「【リビングアーマー】……」
「シニッドがあそこまで容易に敗北したのは、それも大きな理由だろうナ」
然もありなん。
一体一体の強さが大幅に増している上に二対一。
よく無事に逃げおおせたものだ。
改めて感服する。
「そして何より、人形化魔物において注意すべきはその複合発露だゾ」
「威力としては私達が知る人形化魔物でも真・暴走・複合発露と同程度。今の状態ならそれ以上と見ておいた方がいいのです……」
「真性少女契約的なものもなく、ですか?」
「そう。生まれながらにそれだけの力を有しているのだゾ」
確かに人形化魔物もまた複合発露を使うとは、イリュファからも聞いていたが……。
人類の敵だけあって、特異思念集積体に勝るとも劣らない特異な存在のようだ。
「故に、人形化魔物の複合発露を特別に滅尽・複合発露と呼ぶのです……」
「滅尽・複合発露、か」
「【イヴィルソード】なら切断系、【リビングアーマー】なら防御系の可能性が高いナ」
基本はイメージ通り。そこは少女化魔物と同じようだ。
思念の質が異なるだけで、発生の構造としては似たようなものだから当然か。
しかし、そんな俺の思考を呼んだように――。
「……それと、イサク。人形化魔物は少女化魔物とは全く異なる存在だからナ。慈悲をかける必要はない。見敵必殺。即座に、問答無用で破壊して構わないのだゾ」
口調は変わらないものの、押し殺した敵意が感じ取れる声でトリリス様が告げる。
あくまでも、似た発生形態というだけ。
彼女達にとっては【ガラテア】もそうだが、人形化魔物は正に不倶戴天の敵なのだろう。
救世のサポートのみならず、このホウゲツという国を守る役割を負った者にとっては特に、秩序を乱すその存在は憎悪の対象と言っても過言ではないはずだ。
そしてそれは同時に、彼女らがそうした感情を抱くだけの脅威を、人形化魔物が過去の比較的弱い状態であっても最終的には持つに至っていた証に他ならない。
「分かりました」
だから俺は一層気を引き締め、二体の人形化魔物の出現予測や戦い方の確認を入念に行いながら、それらが現れる夜を待った。
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