ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
190 異なる複合発露の進化先
「それじゃあ、行くわよ」
影から出てきたフェリトはそう前置くと、軽く咳払いをしてから表情を引き締めた。
場所はいつものホウゲツ学園の訓練施設。
サッカーのフィールド程ある広い空間の真ん中には今、俺が真・複合発露〈万有凍結・封緘〉を用いて作り出した人型の氷の彫像が設置されている。
そこから三メートル程離れた位置に立っている俺の隣に並ぶ彼女は、一昨日の夜に結んだ真性少女契約で得た真・複合発露の発動を合図するように口を開いた。
「〈共鳴調律・想歌〉」
その名を告げて一呼吸置いてから、美しい歌声が施設に響き渡り始める。
とても心地がよく、精神が安定して頭が冴えていくような感覚に包まれる。
それに合わせ、俺は再度〈万有凍結・封緘〉を使用し、拳大の氷の塊を特に圧縮したりせずに一つだけ作り出して氷の彫像へと射出した。
すると、同じ人間が同程度の力で作ったものにもかかわらず、新たに生み出した小さな氷塊は無傷のまま彫像を粉砕し、訓練施設の床を穿つ。
そこで慌てて消滅させるが、結構深い穴が開いてしまって少しだけ焦る。
まあ、破損した部分は後でトリリス様が直してくれるはずなので放置で問題ないが。
今はそれよりも新たな力についてだ。
「……複合発露がかなり強化されてるな」
「そうみたいね。効果としては単純に複合発露の強化、でいいのかしら」
「いえ。すぐ結論を出さず、色々試してみましょう。自分が少女契約した少女化魔物の複合発露を正確に把握することは、少女征服者にとって基本中の基本ですから」
一回の試用で当たりをつけた俺達に、影の中から戒めるように言うイリュファ。
分かり切ったことだが、不覚を取った後だけにそこは意識的に徹底するべきだ。
そう改めて胸に刻み込むように、自分自身に心の内で言い聞かせる。
「その通りだな。じゃあ、可能な限り検証してみよう」
そうして更に、この場で実行できるいくつかの実験を何度も繰り返し行っていった結果……真・複合発露〈共鳴調律・想歌〉の能力は、おおよそ理解することができた。
簡潔に言うなら、パートナーのイメージ力の強化、というところだ。
さすがに位階が上昇したりはしないものの、その効果が祈念魔法や通常の複合発露にも適用されることは確認している。
母さんから受け継いだ第五位階最低位に当たる複合発露〈擬竜転身《デミドラゴナイズ》〉が、あくまでも同じ第五位階の範疇ではあるものの最上位レベルになる程だった。
ただし、祈望之器には全く効果がない。
また、最初の実験では〈共鳴調律・想歌〉使用前に出した氷の彫像は適用範囲外だったが、強化されるように望めば後からでも対象となるようだった。
その辺は、よくも悪くも自分の認識次第らしい。
「でも、これって弱体化とは違うよね?」
とりあえず実験が一段落したと見てか他の皆と一緒に影から出てきたサユキが、特に深くは考えていないような軽い口調で問う。
割と思考が単純な彼女の場合は、単なる確認のための質問でしかないだろう。
「名前からしてかなり違いますです。凄く不思議です」
対照的に、リクルは俺と同じ疑問を抱いているようで首を傾げている。
セイレーンの少女化魔物たるフェリトの元々の複合発露は〈不協調律〉。
先日、同じセイレーンの少女化魔物である彼女の姉が狂化隷属の矢によって暴走した状態で使用した暴走・複合発露は〈不協調律・凶歌〉。
〈不協調律〉は自分以外の祈念魔法や複合発露を弱体化させる(周囲の観測者のイメージ力を低下させる)もので、〈不協調律・凶歌〉はその効果を高めたものだ。
が、フェリトの真・複合発露〈共鳴調律・想歌〉はパートナーを強化するもの。
デバフとバフ。完全に逆の能力だ。
「同じ種族でも、全く違う複合発露を持つことは普通にあるらしいけど……」
例えば、スライムの少女化魔物たるリクルの複合発露〈如意鋳我〉はパートナーが持つ複合発露を自身の位階の範囲で再現するものだが、世の中には分裂する複合発露や完全にスライム化して相手を捕食する能力を持つ者もいる。
だが、姉妹である二人は基本となる通常の複合発露は全く同じもの。
と言うか、そもそもヨスキ村を襲撃した時にフェリトが使用した暴走・複合発露もまた、周囲の存在を弱体化させる〈不協調律・凶歌〉だった。
だから、真・複合発露もその類の能力になると思っていたのだが……。
「こういうことはよくあるのか?」
「いえ、比較的珍しいことではあります。元々複合発露の効果はその少女化魔物の種族と個々の性質を基に決められるものですが、種族への依存度の方が遥かに大きいので」
俺の疑問に答えてくれるのは、やはりイリュファ。
相変わらずの生き字引具合。頼りになるメイドさんだ。
……しかし、決められるもの、か。受け身だ。
何によって決められるのかと言えば、人間が無意識に共有する認識によってだろう。
「まず種族で絞って、その中から個々の性質で一つに決まる感じか」
ただし、種族で絞られた段階で選択肢は片手で数えられる程なのだろうけれども。
リヴァイアサンの少女化魔物たるラハさんのような特異思念集積体は例外として。
脳内での補足も含めて肯定するようにイリュファは頷き、それから説明を再開する。
「ただ、少女化魔物も観測者の端くれ。性質……望みが複合発露の形態に大きな影響を与えることは十分にあり得ます。恐らく、フェリトはイサク様の力になる一心で真性少女契約を受け入れたのでしょう。結果、その方向に真・複合発露が変質した訳ですね」
「れ、冷静に解説しないでよ」
淡々と自分の胸の内を語られたフェリトは、顔を赤くして俯いてしまった。
まあ、イリュファは俺に乞われて説明しているだけで意地悪をしている訳ではない。
恥じらうフェリトは可愛らしいし、口は挟まないでおく。
「もっとも、真・複合発露と暴走・複合発露は元々別ものですので、同じ効果に見えても少なからず差異があります。暴走・複合発露の方が相手を傷つける目的で使用した際の威力が高い、などです。そういう意味では厳密には珍しい事例ではありません」
変化の度合いが大きいことが珍しい、という訳だ。
実際、暴走状態の方が攻撃性が強いのはイメージし易い。
イメージし易いということは、この世界では共通認識として影響を与え得る。
十分理解できる話だ。
「逆に、暴走・複合発露の場合に通常の複合発露から効果が大きく変質してしまうケースもあるようです。なので、種族からの類推を余り過信しないことです」
最後に真剣な口調で忠告をつけ加えて締め括ったイリュファに「分かってる」と応じると、彼女は表情を和らげて頷いた。
当然ながら、補導員として依頼を受ける場合は、複合発露がどのようなものか事前に情報も手がかりも一つもない状態で相手と対峙することは滅多にない。
どの少女化魔物と契約しているか分からない少女征服者の方が、余程危険ではある。
とは言え、突発的な遭遇がないとは言い切れないし、そうした常識を利用して複合発露の能力を欺瞞して不意打ちしてこようとする少女征服者も存在するかもしれない。
イリュファの忠言は肝に銘じておこう。
「いずれにしても、この力があれば姉さんの〈不協調律・凶歌〉を打ち消せるはずよ」
「それは間違いないでしょう」
勿論、相手も新たな力を得ているかもしれないし、油断はできないが。
それでも、今回最大の問題点は解消されたと言っていい。
「次があったら、今度こそ……」
「ああ。絶対に助け出そう。俺達皆の力で」
少し自分を追い込むような雰囲気を見せたフェリトに、自分達もいると告げる。
彼女の願いは俺の、いや、皆の願いなのだから。
複合発露的に、そもそも彼女一人では戦えないという野暮はなしだ。
あの夜に話をして表面上は冷静だが、それで焦燥が全てなくなる訳でもない。
「ええ」
それでも、俺と同じ意思を示すように自分を見詰める複数の瞳に気づいてか、フェリトはそう返しながら少し照れ臭そうに笑った。
「さて……強化された力に振り回されないように、もっと慣れておかないとな」
そうして俺達は、その願いを確実に叶えるため、この新たに得た力を組み込んだ訓練を腹の虫が激しく自己主張を始めるまで続けたのだった。
影から出てきたフェリトはそう前置くと、軽く咳払いをしてから表情を引き締めた。
場所はいつものホウゲツ学園の訓練施設。
サッカーのフィールド程ある広い空間の真ん中には今、俺が真・複合発露〈万有凍結・封緘〉を用いて作り出した人型の氷の彫像が設置されている。
そこから三メートル程離れた位置に立っている俺の隣に並ぶ彼女は、一昨日の夜に結んだ真性少女契約で得た真・複合発露の発動を合図するように口を開いた。
「〈共鳴調律・想歌〉」
その名を告げて一呼吸置いてから、美しい歌声が施設に響き渡り始める。
とても心地がよく、精神が安定して頭が冴えていくような感覚に包まれる。
それに合わせ、俺は再度〈万有凍結・封緘〉を使用し、拳大の氷の塊を特に圧縮したりせずに一つだけ作り出して氷の彫像へと射出した。
すると、同じ人間が同程度の力で作ったものにもかかわらず、新たに生み出した小さな氷塊は無傷のまま彫像を粉砕し、訓練施設の床を穿つ。
そこで慌てて消滅させるが、結構深い穴が開いてしまって少しだけ焦る。
まあ、破損した部分は後でトリリス様が直してくれるはずなので放置で問題ないが。
今はそれよりも新たな力についてだ。
「……複合発露がかなり強化されてるな」
「そうみたいね。効果としては単純に複合発露の強化、でいいのかしら」
「いえ。すぐ結論を出さず、色々試してみましょう。自分が少女契約した少女化魔物の複合発露を正確に把握することは、少女征服者にとって基本中の基本ですから」
一回の試用で当たりをつけた俺達に、影の中から戒めるように言うイリュファ。
分かり切ったことだが、不覚を取った後だけにそこは意識的に徹底するべきだ。
そう改めて胸に刻み込むように、自分自身に心の内で言い聞かせる。
「その通りだな。じゃあ、可能な限り検証してみよう」
そうして更に、この場で実行できるいくつかの実験を何度も繰り返し行っていった結果……真・複合発露〈共鳴調律・想歌〉の能力は、おおよそ理解することができた。
簡潔に言うなら、パートナーのイメージ力の強化、というところだ。
さすがに位階が上昇したりはしないものの、その効果が祈念魔法や通常の複合発露にも適用されることは確認している。
母さんから受け継いだ第五位階最低位に当たる複合発露〈擬竜転身《デミドラゴナイズ》〉が、あくまでも同じ第五位階の範疇ではあるものの最上位レベルになる程だった。
ただし、祈望之器には全く効果がない。
また、最初の実験では〈共鳴調律・想歌〉使用前に出した氷の彫像は適用範囲外だったが、強化されるように望めば後からでも対象となるようだった。
その辺は、よくも悪くも自分の認識次第らしい。
「でも、これって弱体化とは違うよね?」
とりあえず実験が一段落したと見てか他の皆と一緒に影から出てきたサユキが、特に深くは考えていないような軽い口調で問う。
割と思考が単純な彼女の場合は、単なる確認のための質問でしかないだろう。
「名前からしてかなり違いますです。凄く不思議です」
対照的に、リクルは俺と同じ疑問を抱いているようで首を傾げている。
セイレーンの少女化魔物たるフェリトの元々の複合発露は〈不協調律〉。
先日、同じセイレーンの少女化魔物である彼女の姉が狂化隷属の矢によって暴走した状態で使用した暴走・複合発露は〈不協調律・凶歌〉。
〈不協調律〉は自分以外の祈念魔法や複合発露を弱体化させる(周囲の観測者のイメージ力を低下させる)もので、〈不協調律・凶歌〉はその効果を高めたものだ。
が、フェリトの真・複合発露〈共鳴調律・想歌〉はパートナーを強化するもの。
デバフとバフ。完全に逆の能力だ。
「同じ種族でも、全く違う複合発露を持つことは普通にあるらしいけど……」
例えば、スライムの少女化魔物たるリクルの複合発露〈如意鋳我〉はパートナーが持つ複合発露を自身の位階の範囲で再現するものだが、世の中には分裂する複合発露や完全にスライム化して相手を捕食する能力を持つ者もいる。
だが、姉妹である二人は基本となる通常の複合発露は全く同じもの。
と言うか、そもそもヨスキ村を襲撃した時にフェリトが使用した暴走・複合発露もまた、周囲の存在を弱体化させる〈不協調律・凶歌〉だった。
だから、真・複合発露もその類の能力になると思っていたのだが……。
「こういうことはよくあるのか?」
「いえ、比較的珍しいことではあります。元々複合発露の効果はその少女化魔物の種族と個々の性質を基に決められるものですが、種族への依存度の方が遥かに大きいので」
俺の疑問に答えてくれるのは、やはりイリュファ。
相変わらずの生き字引具合。頼りになるメイドさんだ。
……しかし、決められるもの、か。受け身だ。
何によって決められるのかと言えば、人間が無意識に共有する認識によってだろう。
「まず種族で絞って、その中から個々の性質で一つに決まる感じか」
ただし、種族で絞られた段階で選択肢は片手で数えられる程なのだろうけれども。
リヴァイアサンの少女化魔物たるラハさんのような特異思念集積体は例外として。
脳内での補足も含めて肯定するようにイリュファは頷き、それから説明を再開する。
「ただ、少女化魔物も観測者の端くれ。性質……望みが複合発露の形態に大きな影響を与えることは十分にあり得ます。恐らく、フェリトはイサク様の力になる一心で真性少女契約を受け入れたのでしょう。結果、その方向に真・複合発露が変質した訳ですね」
「れ、冷静に解説しないでよ」
淡々と自分の胸の内を語られたフェリトは、顔を赤くして俯いてしまった。
まあ、イリュファは俺に乞われて説明しているだけで意地悪をしている訳ではない。
恥じらうフェリトは可愛らしいし、口は挟まないでおく。
「もっとも、真・複合発露と暴走・複合発露は元々別ものですので、同じ効果に見えても少なからず差異があります。暴走・複合発露の方が相手を傷つける目的で使用した際の威力が高い、などです。そういう意味では厳密には珍しい事例ではありません」
変化の度合いが大きいことが珍しい、という訳だ。
実際、暴走状態の方が攻撃性が強いのはイメージし易い。
イメージし易いということは、この世界では共通認識として影響を与え得る。
十分理解できる話だ。
「逆に、暴走・複合発露の場合に通常の複合発露から効果が大きく変質してしまうケースもあるようです。なので、種族からの類推を余り過信しないことです」
最後に真剣な口調で忠告をつけ加えて締め括ったイリュファに「分かってる」と応じると、彼女は表情を和らげて頷いた。
当然ながら、補導員として依頼を受ける場合は、複合発露がどのようなものか事前に情報も手がかりも一つもない状態で相手と対峙することは滅多にない。
どの少女化魔物と契約しているか分からない少女征服者の方が、余程危険ではある。
とは言え、突発的な遭遇がないとは言い切れないし、そうした常識を利用して複合発露の能力を欺瞞して不意打ちしてこようとする少女征服者も存在するかもしれない。
イリュファの忠言は肝に銘じておこう。
「いずれにしても、この力があれば姉さんの〈不協調律・凶歌〉を打ち消せるはずよ」
「それは間違いないでしょう」
勿論、相手も新たな力を得ているかもしれないし、油断はできないが。
それでも、今回最大の問題点は解消されたと言っていい。
「次があったら、今度こそ……」
「ああ。絶対に助け出そう。俺達皆の力で」
少し自分を追い込むような雰囲気を見せたフェリトに、自分達もいると告げる。
彼女の願いは俺の、いや、皆の願いなのだから。
複合発露的に、そもそも彼女一人では戦えないという野暮はなしだ。
あの夜に話をして表面上は冷静だが、それで焦燥が全てなくなる訳でもない。
「ええ」
それでも、俺と同じ意思を示すように自分を見詰める複数の瞳に気づいてか、フェリトはそう返しながら少し照れ臭そうに笑った。
「さて……強化された力に振り回されないように、もっと慣れておかないとな」
そうして俺達は、その願いを確実に叶えるため、この新たに得た力を組み込んだ訓練を腹の虫が激しく自己主張を始めるまで続けたのだった。
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