ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

189 萌ゆる春の祭り、夜空の下の契約

 人間至上主義組織スプレマシーによる襲撃から数時間後の現在。
 ホウゲツ学園はホウシュン祭中夜祭の真っ只中にあった。
 眼下には、まるで何ごともなかったかのように祭りを楽しむ人々の姿がある。

 遡って、テネシス達が石像化したイアスを奪い去って姿を消した直後。
 俺はしばらくテネシスとの戦いを顧み、不甲斐さから地面を睨んでいた。
 そこへ突如として地響きが鳴り始め、すわ何ごとかと顔を上げると……。
 真っ平らな空地と化していたホウゲツ学園の敷地に建物が地の底から浮かび上がるように生えてきて、ものの数秒で襲撃が始まる前の状態に戻っていた。
 校舎や寮、その他の施設は勿論、ホウシュン祭の飾りつけや屋台に至るまで。
 事態が収束したと見て、ミノタウロスの少女化魔物ロリータたる学園長トリリス様が複合発露エクスコンプレックス迷宮悪戯メイズプランク〉の力で地下に収納した全てを元通りにしたようだった。
 建物を一つ残らず消した時は恐らく、これの逆回しのような光景だったに違いない。

「しかし、大丈夫なんですか? あんな事件のすぐ後で。住民の反発とか……」

 まだ無人のホウゲツ学園の敷地に一歩足を踏み入れた瞬間、トリリス様が作り出した最初とは別の小部屋に連れてこられ、そこでホウシュン祭を再開する旨を聞いて問う。
 それに対して彼女と傍にいたディームさんが答えるには――。

「特に問題ないのだゾ。奴らによる襲撃自体は過去に何度も起きていることだしナ。それに何より、学園都市トコハとしてホウシュン祭を中止にする訳にもいかないのだゾ」
「街全体として大きな損失を被ってしまうのです……」

 とのことだった。
 確かに、学園都市トコハを挙げての一大イベントであるだけに、中止になってしまったら致命傷を負う店が出てもおかしくはない。
 そうした世知辛い話も無視できない理由の一つではあるのだろう。
 しかし、トリリス様が口にした通り、数百年のホウゲツ学園の歴史においてホウシュン祭やシュウゲツ祭が襲撃されることは珍しいことではないというのも大きいようだ。
 詳しく聞くと、対応がマニュアル化もされている程だと言う。
 学園都市トコハの住民も他の都市から訪れた人々も全て承知の上らしく、中には今回の襲撃を一種のアトラクションのように楽しんでいた者もいたとか。
 長年の積み重ねにより、襲撃が起きたとしても学園側が安全確実に対応してくれるという信頼がホウシュン祭に参加する人々の中に広く行き渡っている訳だ。
 勿論、死者や重傷者が出ていたなら話は別だったに違いないが。
 今回はそうした事態に陥ったりはしなかったため、速やかに(事態が収拾して数十分後には)ホウシュン祭が再開される運びとなったらしい。
 とは言え、俺はテネシスとの不甲斐ない戦いの後で祭りを楽しむ気にはなれず……。

「人の少ない場所? ホウシュン祭の間だと……普段から基本的に立ち入り禁止になっている校舎の屋上ぐらいのものだゾ」

 トリリス様にお願いして、校舎全体が騒がしいから焼け石に水かもしれないが、比較的静かなそこへと〈迷宮悪戯〉の応用的な能力で送り出して貰ったのだった。

 ちなみにイアスに操られていた少女化魔物は、対応を任せたレンリと共に一先ず特別収容施設ハスノハに連れていかれている。
 狂化隷属の矢による暴走の影響がなければ、事情聴取をした上で本人の希望に沿って故郷に返されたり、少女化魔物の教育機関に入れられたりすることになるだろう。

 ともあれ、そういう流れで俺は今現在。
 頭の中で色々と一連の騒動について考えつつ、人気のない校舎の屋上からホウシュン祭の様子を眺めているというような状態にあった。

「はあ」

 そうして、意識的に聴覚の強化を抑え込んで地上の喧騒を遠くに追いやりながら、軽く嘆息していると――。

「…………ごめんなさい」

 影の中から出てきたフェリトが、酷く辛そうな顔で頭を下げてきた。

「何で、フェリトが謝るんだ? 謝らないといけないのは……セレスさんを助けることができなかった俺の方じゃないか」

 彼女のそんな姿に居た堪れない気持ちを抱き、自分が情けなくなり、思わず視線を逸らして暗くなった空へと向けながら言葉を返す。
 行方不明になっていたフェリトの姉、セレスさんを目の前にしながら再び連れ去られてしまったことは、俺の落ち度としか言いようがない。
 彼女が今、人間至上主義組織スプレマシー代表テネシスの手中にあること、一先ず生存していることを確認できたことは一つの進展と見れなくもないが……。
 あの場で助け出すことができたのではないかと後悔が募る。
 彼女自身が持つ暴走パラ複合発露エクスコンプレックス不協調律ジャマークライ凶歌ヴァイオレント〉による弱体化の影響など言い訳にしかならない。
 どこかで、自分は救世の転生者だからと甘く考えていた部分があったのだろう。

「俺がもっと強ければ、今日で終わっていたはずの話なんだから」
「それは……正しくない訳じゃないけど、イサクのせいじゃないわ」

 正しいなら俺のせいだろうに、と内心首を傾げながらフェリトの顔に視線を移す。
 すると、彼女は過ちを告白するように苦しげな表情を浮かべながら口を開いた。

「私が……私が最初からイサクと真性少女契約ロリータコントラクトを結んでいたなら、姉さんの複合発露に負けずに助けることができたはずだもの。テネシスも、きっと捕らえることができた」
「いや、けど、それはそもそもそういう約束だったじゃないか。真性少女契約を結ぶのは、セレスさんを見つけ出してからって」

 更に言えば、そうなったのも最近彼女の方からそういう話にしてくれただけで、最初はセレスさんを探す対価に力を貸して貰うというだけだった。
 元々不老である少女化魔物にとっては、力の強化と引き換えに契約者の死に連動する死という寿命を生じさせる契約。尻込みするのが普通だ。
 そう言ってくれるだけで、ありがたいと思いこそすれ、急かす気持ちにはならない。

「フェリトが悔やむ必要はない。真性少女契約は、そんな風に余儀なくされて行うようなものじゃないだろ? ……うん。次は必ず勝ってセレスさんを救って見せるから」

 俺がいつまでも落ち込んでいるからフェリトに気を使わせてしまったのだろうと、意識的に気持ちを切り替えて告げる。
 対して、彼女は否定するように首を横に振った。

「そうじゃない。そうじゃないの。私は、仕方がないから貴方と真性少女契約を結ばないといけないって思ってる訳じゃない。本当は、イサクを救われたあの日からいつか貴方とそうなるんだろうなって思ってたし、今はそう強く望んでる」

 そして、そう絞り出すように告げたフェリトはそこで「でも」と区切り、少し躊躇うように視線を彷徨わせてから言葉を続けた。

「散々渋った手前、自分から契約して欲しいなんて言え出せなくて、一歩踏み出せなくて、切っかけが欲しくて。姉さんを見つける、なんて条件をつけてしまったの。本当はもっと早くに契約を結んでもよかった。だから――」

 私のせい、と言いたい訳か。
 しかし、何か別の切っかけが必要だったのなら、まだ時機ではなかったのだと思う。
 とは言え、彼女と真性少女契約を結んでいれば、テネシスも容易くあしらえた可能性が高いのもまた紛うことなき事実ではある。
 そこを否定しても、フェリト自身は納得できないに違いない。

「……そうだな。今回のことはフェリトのせいでもあり、そんなフェリトの気持ちを察せられなかった俺のせいでもある。対等な仲間って約束なんだから、責任も半々だ」

 彼女の気持ちに寄り添った落としどころをと考えると、そんなところだろう。
 そうした俺の意図を理解してか――。

「………………うん」

 納得はし切れずとも、言葉を受け入れるように小さく頷くフェリト。
 俺の気遣いに微かな笑みを浮かべる彼女としばらく見詰め合う。
 そうしていると、フェリトは多少なりとも冷静になったらしい。
 なし崩し的に告白染みたことを口にしたことに思い至ったようで、微妙に顔を赤らめて視線を彷徨わせ始める。

「なら、フェリト」

 そんな姿を見せる少女の姿をした彼女にこちらから切り出すのは、人外ロリコンたる者の甲斐性というものだろう。

「セレスさんのことは関係なく、俺と真性少女契約を結んでくれるか?」

 その問いに対してフェリトは、少し顔を赤くしながら「うん」と繰り返す。
 普段は割と勝気な彼女が先程からしおらしいが、これは質がまた違うものだろう。

「じゃあ…………ここに我、イサク・ファイム・ヨスキと少女化魔物ロリータたるフェリトとの真なる契約を執り行う。フェリト。汝は我と共に歩み、死の果てでさえも同じ世界を観続けると誓うか?」

 真性少女契約の定型文を前に、フェリトは覚悟を決めるように鋭く息を吐いてから顔を上げ、俺の目をいつもの表情で真っ直ぐに見る。

「……誓うわ。私の命は如何なる時も貴方と共にある」

 その返答を以って真性少女契約は結ばれ、その証となる感覚に目を見開いた彼女はそれを心に刻むように胸元に手を置いて目を瞑った。
 俺もまた強まったフェリトとの繋がりを噛み締めながら、一つ頷いて口を開く。

「フェリトの家族は俺にとっても家族同然だ。今度こそ一緒に、力を合わせてセレスさんを取り戻そう」
「ええ。末永く、よろしく頼むわ。イサク」

 そして、普段の調子を取り戻したフェリトと決意の言葉を交わし合う。
 空に近い校舎の屋上。
 萌ゆる春の祭の夜に。
 苦い経験を経て、俺達はまた一つ距離を縮めると共に新たな力を得たのだった。

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