ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

176 いつもより活気のある学園都市トコハ

 いつの間にやらイリュファ達は再び影の中に入って観客と化したため、傍目にはレンリと二人でアマラさんの地下工房の広間に戻る。

「レンリ」

 丁度そのタイミングで呼びかけられ、訝しげに立ち止まったレンリに合わせて俺もまた歩みを緩めた。それから聞き覚えのある声の主へと視線を向けると――。

「ラハ? どうしてここにいるのですか?」

 レンリと真性少女契約ロリータコントラクトを結んでいるリヴァイアサンの少女化魔物ロリータたるラハさんが、アマラさんの弟子であるヘスさんの作業場に続く扉の前に立っていた。
 彼女は指切りの契約に従い、レンリの代わりにセト達についていたはずだが……。

「彼ら四名は今、こちらで複製の手解きを受けています。以前訪問した際に約束していたそうで。ですので、ワタクシもついてきた訳です。サボっている訳ではありません」

 レンリの問いに淡々と説明をしてから、最後に一言嫌味っぽくつけ加えるラハさん。
 そこは彼女の平常運転だそうなのでスルーしておくとして、セトを含んだ四名ということなら残りはダンとトバル、それからラクラちゃんで間違いない。
 前回の様子を見る限り、恐らくはトバルが主体だろう。
 たとえそうでなかったとしても、両親から跡を継ぐことを望まれた関係で複製師という職業から少々距離を置きたがっていた彼がこうして再び工房を訪問しているところを見るに、あの社会科見学は一定の価値があったと確信を持ってよさそうだ。
 視野を広げるという意味で。

「一応、彼らもレンリを誘おうともしていたようですが、その時には既に外出していて留守だったため、四人のみでこちらを訪れたようです」
「成程。貴方がここにいる理由は理解しました」

 そう締め括ったラハの説明に、納得したように頷きながら不審の表情を解くレンリ。
 しかし、つまりこの扉の向こう側にはセト達がいる訳だ。
 俺が声を発すると、ここにいることに気づかれてしまうな。

「御心配なく。防音の祈念魔法を使用しておりますので。ワタクシ達の会話があちらに聞こえるということはありません」

 と、視線から俺の懸念を察したようにラハさんが言う。

「あくまでも密かに、セトさん達に知られることなく見守らなければ、監視されているようで皆さんも落ち着いて過ごせないでしょう。その辺りは抜かりありませんよ」
「それは助かるな」

 そこまで配慮して弟達を守ってくれるのは、実にありがたいことだ。
 とは言え、声が届かずとも先日の今日でレンリと一緒に出かけているところを見られれば、この前かけられた疑いが再燃してしまうかもしれない。
 ただ、辞去する前にヘスさんには挨拶しておく必要がある。
 そう言う訳で、一先ず扉に近づいてコンコンと叩く。
 ラハさんが使ったのは空気の振動を抑制するタイプの防音だろうから、物体を直接伝わる音までは防ぐことができないはずだ。ノックの音は中に伝わる。
 複製の手解き中にせよ、来客者であるセト達がそれに対応することはないはずだ。
 そんな俺の予想通り、少し間を置いてから扉が開くとヘスさんの姿が現れた。

「あれ。貴方は確か、ええっと――」

 名前を思い出そうと視線を彷徨わせている彼女が防音の効果範囲にいるか少々怪しいので、人差し指を口元に持っていって名前を口にしないように暗に伝えておく。
 対してヘスさんは、俺が弟達に内緒で様子を見に来たとでも思ったのか、黙って頷くと広間に出てきて扉を閉めてから改めて口を開いた。

「お久し振りッス。今日はどうしたんスか?」
「今回もアマラさんに複製を依頼しに来ました。もう複製は済んだのですが……」
「ああ、もしかしてまたッスか」

 言葉の途中で、先回りして理解したように苦笑いするヘスさん。
 恐らく、アマラさんが狂化隷属の矢を利用した暴走パラ複合発露エクスコンプレックスによって寝込んでしまうという状況は、よくあることなのだろう。

「了解したッス。トバル君達のことは自分に任せて欲しいッス」
「頼みます。……あの、トバルはどうですか?」
「相変わらずセンスがいいッスね。できれば、毎日手伝って欲しいくらいッス」
「そこは、その、本人の意思を尊重した上でお願いします」
「勿論ッスよ。創作活動はモチベーションも重要ッスからね」

 俺が出した条件に同意するように、ヘスさんは真面目な顔と声で答える。
 一先ず、その返答が貰えれば今は十分だ。
 余り俺が弟達に干渉し過ぎても彼らのためにはならないし、今この場にはレンリもいる。長々と居座って気づかれてしまうといけないので、早々にお暇するとしよう。

「では、今日のところは失礼します。アマラさんによろしくお伝え下さい」
「了解ッス!」

 そうして。大きく首を縦に振りながら応じた彼女に改めて一つ会釈をしてから、俺はレンリと共にアマラさんの工房を後にした。
 当然、ラハさんは指切りの契約があるので、ここでお別れだ。
 祈念魔法を駆使して再びセト達に気づかれないように、見守ってくれることだろう。

「さて、これからどうしようか」

 とりあえず屋敷の前で一旦立ち止まり、隣に並ぶレンリに問いかける。

「私は旦那様と一緒であれば、どこでも」

 すると、彼女は当たり前の顔をして手を繋いできながら、そんな答えを返してきた。
 まあ、わざわざデートと口にしたからには、俺が行き先を決めるのも悪くはない。
 だが、どこでもと言われると選択肢があり過ぎて少々困る。
 アーク複合発露エクスコンプレックス裂雲雷鳥イヴェイドソア不羈サンダーボルト〉を使えば、それこそホウゲツの端から端まで、果ては海外でさえも短時間で移動することができるのだから。
 などという直前の一言にのみ対応した屁理屈はともかく。
 今回に関しては街を散策するという前提でレンリも話をしていたはずなので――。

「学園都市トコハの繁華街にでも行くとしようか」
「はい!」

 同意を貰って決定し、彼女の手を引きながら一先ず停留所へと向かう。
 そこから再びバスもどきメルカバスに揺られること数分後。
 俺達はバスから降車して、この街の目抜き通りに出た。

「……何だか、いつもより随分と活気があるな」
「そうなんですか?」

 繁華街の名の通り、商業施設が多く立ち並んでいて常に人の往来が激しいそこ。
 見回せば大衆食堂に甘味処。呉服屋、洋服屋。文房具屋、本屋、日用雑貨屋等々。
 そのどれもが普段よりも繁盛しているような気がする。
 他にいつもと違うところと言えば――。

「ノボリが沢山出てますね。ホウシュン祭記念、ですか」

 レンリの言う通り、各店舗の前には旗が多く立っていた。
 ホウシュン祭と言えば、約一週間後の休日にホウゲツ学園で催される予定の学園祭のような行事だったはずだが……。

「この学園都市トコハ、いえ、ホウゲツの一大イベントですからね。他の都市からも観光客が集まるので、前後一週間程度は多くの店が便乗して期間限定商品を売る訳です」

 と、影の中から注釈を入れるように説明をしてくれたイリュファに納得する。
 成程。それでこのように賑わっているのか。

「ちなみに秋のシュウゲツ祭も同様です。年に二回の大規模かつ総合的な商機ですね」

 そう補足し終えると、彼女は再び傍観者に徹し始めたように黙り込む。
 他の皆も今は静かなものだ。
 それはそれで楽しんでいるようだし、一先ず今はレンリ優先で問題ないだろうけど。
 しかし、余り混み合うとデートにはよろしくないな。
 前後一週間ということなら、まだまだ本格的な混雑には程遠いのだろうが……。
 こうなるなら、時間が開いた時に色々とリサーチするべきだったか。

「あ……」

 そんなことを考えていると、レンリが小さく呟きながら一つの店に視線を向ける。
 その方向に俺もまた目をやると、老舗の雰囲気漂う甘味処。

「あそこに興味があるのか?」
「は、はい。その、実は私、甘いものが大好きで……。特に、救世の転生者様がもたらした和菓子が。ホウゲツはその本場ですので……」

 ちょっと恥ずかしげに言うレンリ。意外と可愛らしい好みだ。
 しかし、そういうことなら、とレンリと一緒にその甘味処に入る。
 客入りはそれなり。すんなりと座れるには座れる程度。
 これは昼に近い時間帯のおかげだろう。
 甘味専門店らしく、一般的に昼食として頼むようなメニューが全くないようだし。

「ええと、私はこの期間限定ホウシュン祭クリームあんみつを」
「じゃあ、俺は期間限定のホウシュン祭抹茶クリームあんみつで」

 各々注文し、しばらく待って運ばれてきたのは、春をイメージしたようなピンク色を基調とした不思議な色合いのあんみつ。
 更にその上に、それぞれバニラアイスと抹茶アイスが乗っかっている。
 早速スプーンを手に取り、小豆や寒天、果物、抹茶アイスをバランスよく口に運ぶ。

「……うまいな」

 甘いあんみつに、濃いめの抹茶アイスの程よい苦味がいいアクセントになっている。
 気にならない程度に桜の風味もあって春っぽい。
 この部分が、春に行われるホウシュン祭前後の期間限定の趣向に当たるのだろう。

「本当に、とてもおいしいです。やはり本場は違います」

 頬に手を当てながら、幸せそうな顔を見せるレンリ。
 嘘偽りなく好物だと分かるような純真な笑顔だ。
 そうした反応は外見相応で特に愛らしい。

「ん?」

 その彼女はある程度まで食べ進めると、俺がスプーンですくった抹茶アイスをジッと見詰め始めた。こちらも食べてみたくなったのだろう。
 ならば、とスプーンを差し出してレンリの口元に持っていく。
 対して彼女は一瞬躊躇う素振りを見せたが、頬を赤らめながらそれを咥えた。
 目を閉じて味わい、うっとりとした表情になる。

「こちらもおいしいですね。あ、旦那様もどうぞ」

 それから彼女は、お返しにとバニラアイスをすくってこちらに寄越してきた。
 これはまた、待ち合わせの時以上にデートっぽいな。
 そんな風に思いながら、俺もまた気恥ずかしさを押して彼女と同じようにした。
 抹茶アイスよりも甘いのは当然のことだが、想像よりも仄かに甘味が強い気がする。

「おいしいですか?」
「ああ」
「よかったです」

 はにかみつつも嬉しそうなレンリに、こちらの表情も自然と緩む。
 そんな風に、仲睦まじい男女のような行動を取りながら過ごしていると……。
 やがて正午も過ぎ、昼食を終えて来たと思しき人の姿が徐々に店内に増えてきた。

「そろそろ、行こうか」
「はい」

 そうして俺達は、影の中にいる皆やラハさんへのお土産用にと事前に頼んでおいた、同じく桜色基調のホウシュン祭期間限定の饅頭や団子を受け取ってから店を出た。
 影にしまったので家に帰る前に全部食べられている可能性もあるが、ちゃんとラハさんの分は分けてレンリの方に入っているから別に構うまい。
 それから少しの間、腹ごなしに周囲の喧騒を眺めながら手を繋いで通りを歩く。

「ある種の前祝いでこの賑わいなら、本番がどうなるか楽しみですね」
「だな」

 街を挙げてのお祭りのような状態になりそうだ。
 それは正直、少し楽しみでもある。

「あの、旦那様。来週のホウシュン祭、時間があれば一緒に回って下さいますか?」
「いいよ」

 おずおずと問うてきたレンリに即答する。
 もっとも、いずれにしても観客がついてくるのは確実だし、あるいは、一緒に(全員で賑やかに)という可能性も十二分にあるけれども。
 それを気にする彼女でもないだろうから問題ない。

「さて……あっちの広場で屋台が出てるみたいだし、それで昼は軽く済ませようか」
「はい」

 ともあれ、そうしてレンリと約束を交わした俺は軽食を取ってから、夕暮れ時まで彼女と共に服や雑貨などを中心に店を散策し……。
 夕焼け空の下、途中から半ば使命を忘れて楽しんだデートを終えて、レンリと並んでホウゲツ学園に帰ったのだった。

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