ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
171 振り返り的な挨拶
レンリと共にトリリス様達と面会したその日の夜。
昨晩と同じように職員寮の自室の窓がノックされる音が耳に届き、カーテンを開く。
すると、案の定と言うべきか、狭いベランダにはレンリの姿があった。
前回同様ピンと背筋を伸ばして立っているものの、今日の彼女はどことなく表情に疲労の色が滲んでいるような気がする。微笑みで隠そうとしてはいるようだが。
何にせよ、少女を外で放置する趣味はない。
すぐに窓を開け、彼女を部屋の中に招き入れる。
「旦那様!」
と、彼女はまたも無駄な身体能力を発揮し、今度は正面から高速で抱きついてきた。
一応、アコさんの言葉を受けてレンリに対する警戒心は大分なくなっていたので、回避したり反撃したりすることなく素直に彼女を受け止める。
互いに二次性徴前の肉体であることもあり、背丈は同程度。
そのため、体の各部位の高さもほぼ同じだ。
しかし、レンリが背伸び気味に来たため、変に手と手が干渉したりすることなく、俺は下から彼女は上からそれぞれの背中に手を回す形に収まっていた。
そのまま彼女は首を左に傾けながら俺の肩に顎を乗せ、結果として頬と頬が触れる状態になる。……そこから更に軽く頬擦りをされて、こそばゆいやら恥ずかしいやら。
「い、一体、どうしたんだ? 急に」
そうした突然のスキンシップに、小さくない羞恥と困惑を感じながら尋ねる。
対して、彼女はしばらく黙したまま俺に抱き着いていたが――。
「……申し訳ありません。少々ストレスが溜まっていましたので」
やがて満足したのか体を離すと、そんな言い訳を口にした。
「ストレス……って、トリリス様達との面会でか?」
俺の問いかけに、恥じ入るようにコクリと頷くレンリ。
彼女達に慣れている俺からすると首を傾げてしまうが、よくよく考えてみれば、レンリがそうなるのも無理もない話かもしれない。
トリリス様達はあれで国の中枢に食い込んでいる存在。
レンリは次期アクエリアル皇帝の資格を持つ者。
ある種、国家間の会談に近い緊張感があったことだろう。
高度に政治的な判断を要する、とかアコさんも言っていた訳だし。
「そういった訳で、旦那様に元気を頂きに参りました」
俺がそんな推測をしていると、レンリはそう締め括って再び抱き着こうとしてきた。
しかし――。
「そうではないでしょう。それに、はしたないですよ」
その足元の影から見覚えのある少女が現れ、呆れたように彼女を窘め始める。
レンリと真性少女契約を結んでいるリヴァイアサンの少女化魔物。
確かラハと言ったか。
「少しぐらいよいではありませんか。親交を深めることも大切なことです」
「本題が先です。気持ちは分からないでもありませんが、そういったことは用事を済ませた後で、双方合意の上でなさい」
淡々と告げるラハさんの言葉を受け、レンリは自制するように目を閉じると一つ深く息を吐いてから「分かりました」と表情を引き締めて頷いた。
見たところ、ラハさんは彼女のお目付役のような感じだろうか。
「ええと、本題というのは?」
「はい。学園長達との協議の結果、ある程度ですが、私の目的について話すことのできる部分が定まりましたので早速伺った次第です」
「……成程」
一応あの場では理解して引き下がりはしたが、彼女の目的やトリリス様達の反応についてモヤモヤした気持ちが消えた訳ではなかったので助かる。
勿論、あくまでも話せる部分のみで、全容が判明することはないだろうけれども。
何もないよりはマシだ。
知って後悔するような部分についてはカットされているはずだし、少なくともマイナスにはならないだろう。
「ですが、その前に。できれば、旦那様と契約なさっている少女化魔物の皆様を御紹介頂きたいのですが……」
「ん……そう、だな」
彼女達は皆、窓をノックされた段階で俺の影の中に入っている。
夜間の訪問者ということで念のためにそうしていたが、相手が予想通りレンリだと確認できたなら、別に全員が全員隠れたままでいる必要はない。
特にイリュファとリクルは、最初に彼女が弟達と来た際に既に会っている訳だから。
これから否が応でも長いつき合いになりそうだし、セト達を守るという契約もある以上は共闘することも十分あり得る話だ。
あのアコさんも、俺達と敵対することはないと保証してくれている。
そう考えると、顔合わせぐらいはしておいてもいいのかもしれない。
「では、まずは私から」
と、そんな俺の意をくんだように、イリュファが率先して影から出てきて口を開く。
「ゴーストの少女化魔物のイリュファと申します。トリリス様より救世の転生者様の教育係を請け負い、ヨスキ村でイサク様と巡り合いました。年長者として主に身の回りのお世話などをしております。よろしくお願い致します、レンリ様」
そして彼女は、そう自己紹介すると丁寧に頭を下げた。
しかし――。
「ゴーストの少女化魔物……失礼ですが、真性少女契約は?」
「……いえ。私はあくまで使用人のような立場ですので」
レンリのその質問に対しては、突っぱねるように目を閉じながら答えるイリュファ。
そんな拒絶の色濃い彼女の表情と口調から、どうやらレンリも真性少女契約云々には余り触れるべきではないと判断したらしい。
「そ、そうですか。ええと、よろしくお願い致します、イリュファさん」
「はい」
誤魔化すように切り上げ、イリュファもそれを受け入れて一人目は終わり。
続いて、影の中からリクルが出てくる。
「スライムの少女化魔物のリクルです。その、他のスライムに追われていたところを御主人様に助けて頂いて、少女契約まで結んで頂きましたです。今は従者としてお傍に置いて頂いてますですが……私も真性少女契約は結べていません、です」
「結べていない、ですか?」
こちらはイリュファとは対照的に助けを求めているような雰囲気が滲み出ていたからか、同じくデリケートな問題ながらレンリは首を傾げて問うた。
「はい。私はご主人様のために命も懸けられるつもりですが、どうしてか真性少女契約を結べないんです。何度も試しているのですが……です」
対して、誰でもいいから知恵を借りたいと縋るような目をレンリに向けるリクル。
これもまた解決の手立てが皆目見当のつかない問題だけに、そうした彼女の引け目を解消してやれないことを本当に申し訳なく思うばかりだ。
「スライムの少女化魔物……真性少女契約を結ぶことができない……」
そんなリクルを前に、レンリは思案するような素振りを見せ――。
「そう言えば、似たような事例をどこかで聞いたことがあったような気が……」
記憶を辿るように斜め上に視線を向けながら、そう口の中で呟いた。
「本当ですか!? 詳しく教えて下さい! です!」
それを耳聡く聞き取ったリクルは強く反応し、必死な表情で詰め寄る。
「す、すみません。記憶が定かではなく……」
「そう……ですか、です」
その勢いに圧されて慌てたように謝りながら弁明するレンリに、リクルは心の底からガッカリしたように肩を落として引き下がった。
目に見えて落ち込んでいる様子に、傍から見ている俺まで罪悪感が湧く。
「お、思い出しましたら、リクルさんにお教えしますので」
まして正面のレンリは尚更らしく、彼女は配慮の色濃い声で励ますように告げた。
「は、はい。ありがとうございます、です」
そうした彼女の気持ちをくみ取ってか、リクルは顔を上げて感謝を口にした。
耐え忍んでいる様子はいじらしく、何かしてやりたい気持ちが増す。
……後で俺からもレンリに頭を下げて頼んでおくとしよう。
「じゃあ、次はサユキの番だね。サユキは雪女の少女化魔物。でも、元々は雪妖精って魔物としてイサクに出会ったんだ。サユキって名前はイサクにつけて貰ったんだよ」
「元々は、ですか?」
「雪妖精は本来、春になると消えちゃうらしいんだ。でも、気づいたら雪女の少女化魔物になってて……それで、イサクを探してたら途中で襲われて暴走しちゃったんだ。それをイサクにとめて貰って真性少女契約を結んで、今に至るって感じかな」
「……珍しい事例ですね」
「雪妖精の時にイサクから色んなことを教わったからかもって、聞いたよ」
サユキの伝聞の推測に、レンリは「成程」と納得の意を示した。
僅かなものではあれ、それによって観測者に一歩近づいたことが彼女と再会できた一要因であることは間違いではないだろう。
「レンリちゃんもイサクのことが好きなんだよね? イサクを好きな人はサユキのお友達だから。仲よくしようね!」
「あ……そう言って下さると私も嬉しいです。共に旦那様を支えていきましょう!」
それから互いに手を取り合い、長年の友人のように笑い合う二人。
フェリトが同類と称した証明の如く、その一言のみで意気投合してしまったようだ。
ちょっとサユキが増えたような気分だ。
「で、後はフェリトちゃんだね」
「そうね。ただ、申し訳ないけれど、私は影の中から失礼するわ」
そのサユキに振られ、姿を見せずに声だけを部屋に響かせるフェリト。
最近では人間に対するトラウマも大分軽減され、人がいても外に出られるようになってきているので、それが理由ではない。
テアを影の中に一人にはできないからだ。
さすがにガラテアの肉体たる彼女だけは、なるべく姿を見せない方がいいだろうし。
「私の名前はフェリト。セイレーンの少女化魔物よ。人間至上主義者に狂化隷属の矢で操られてヨスキ村を襲ったところを助けられ、イサクと取引をして仲間になったわ」
「取引、ですか?」
「同じく人間至上主義者に利用された姉さんが行方不明なのよ。その捜索に力を貸して貰う代わりに……そうね。見つけ出した暁には、真性少女契約を結ぶって感じかしら」
確か、そんな条件はつけていなかったはずだが……。
彼女も色々と経験して、心境の変化があったのかもしれない。
「成程。であれば、私もお手伝い致しましょう。新たな真・複合発露を得て旦那様の力が増すのは、妻としても喜ばしいことですからね」
「……本当にサユキと似た者同士みたいね、貴方。でも、まあ、姉さんを探す手伝いをして貰えるってことなら、その厚意はありがたく頂戴するけれど」
何だかんだサユキと仲のいいフェリトだけに、レンリとも相性がよさそうだ。
ともあれ、紹介はこれぐらいで十分だろう。
「これで一通りかな。もう一人、俺と真性少女契約を結んでいるサンダーバードの少女化魔物がいるけど、この場にはいないから紹介は後々だ」
「あの雷の如き超高速移動を可能とする真・複合発露の持ち主ですね」
レンリの確認の言葉に頷く。
補導員事務局の受付であるルトアさん。
彼女とは、今後いくらでも会う機会があるだろう。
「じゃあ、そろそろ本題に――」
「待って下さい。その前に、ガラテアの肉体とも対面させて下さいませんか?」
「……何の、ことだ?」
「旦那様。私は全て知っていますから、隠す必要はありませんよ。それと、妻として夫の不利になるような真似はしないと誓います」
「………………そうか」
一瞬、惚けようとした俺だったが、なだらかな胸元に手を当てながら言って真剣な顔で真っ直ぐに見詰めてくるレンリに折れる。
全て承知の上ならば誤魔化そうとしても意味はない。
「フェリト」
「分かったわ」
俺の呼びかけに応じ、フェリトがテアを連れて影の中から出てくる。
が、彼女はレンリに怯えているようで、すぐに俺の背中に隠れてしまった。
「成程。これが……」
「……レンリ。テアをもののように言うのは、やめてくれないか。あくまでも、ガラテアとこの子は別ものなんだから」
「あ……それは、申し訳ありませんでした」
俺が少し強めに言うと、レンリはハッとして深く反省したように頭を下げる。
「この世界に生きる者はガラテアは最凶の人形化魔物と教え込まれていますので、その感覚がどうしても抜けず。……ですが、旦那様の頼みであれば肝に銘じます」
「……まあ、分かってくれたなら、いいさ」
若干言い訳染みているが、それは真実だろう。
テアが怯えたのも、最近は彼女も人見知り気味であることに加え、そうした教育に伴って植えつけられた無意識の敵意を感じ取ってのものに違いない。
長い年月をかけて形作られたある種の偏見を抑え込むのは困難だろうが、この場はレンリの言葉を信じよう。
「けど、わざわざテアを見たいなんて、どうしてだ?」
「勿論、興味本意ではありません。私の目的にも関係するからです」
俺の問いに答えたレンリはそこで一つ言葉を区切ると、深く息を吸い込み――。
「救世の転生者に依らずガラテアから世界を救う術を得る。それこそは御祖母様から続く悲願であり、私が必ずなさねばならない責務なのです」
それから、どこかの誰かに対して宣言するように力強く告げたのだった。
昨晩と同じように職員寮の自室の窓がノックされる音が耳に届き、カーテンを開く。
すると、案の定と言うべきか、狭いベランダにはレンリの姿があった。
前回同様ピンと背筋を伸ばして立っているものの、今日の彼女はどことなく表情に疲労の色が滲んでいるような気がする。微笑みで隠そうとしてはいるようだが。
何にせよ、少女を外で放置する趣味はない。
すぐに窓を開け、彼女を部屋の中に招き入れる。
「旦那様!」
と、彼女はまたも無駄な身体能力を発揮し、今度は正面から高速で抱きついてきた。
一応、アコさんの言葉を受けてレンリに対する警戒心は大分なくなっていたので、回避したり反撃したりすることなく素直に彼女を受け止める。
互いに二次性徴前の肉体であることもあり、背丈は同程度。
そのため、体の各部位の高さもほぼ同じだ。
しかし、レンリが背伸び気味に来たため、変に手と手が干渉したりすることなく、俺は下から彼女は上からそれぞれの背中に手を回す形に収まっていた。
そのまま彼女は首を左に傾けながら俺の肩に顎を乗せ、結果として頬と頬が触れる状態になる。……そこから更に軽く頬擦りをされて、こそばゆいやら恥ずかしいやら。
「い、一体、どうしたんだ? 急に」
そうした突然のスキンシップに、小さくない羞恥と困惑を感じながら尋ねる。
対して、彼女はしばらく黙したまま俺に抱き着いていたが――。
「……申し訳ありません。少々ストレスが溜まっていましたので」
やがて満足したのか体を離すと、そんな言い訳を口にした。
「ストレス……って、トリリス様達との面会でか?」
俺の問いかけに、恥じ入るようにコクリと頷くレンリ。
彼女達に慣れている俺からすると首を傾げてしまうが、よくよく考えてみれば、レンリがそうなるのも無理もない話かもしれない。
トリリス様達はあれで国の中枢に食い込んでいる存在。
レンリは次期アクエリアル皇帝の資格を持つ者。
ある種、国家間の会談に近い緊張感があったことだろう。
高度に政治的な判断を要する、とかアコさんも言っていた訳だし。
「そういった訳で、旦那様に元気を頂きに参りました」
俺がそんな推測をしていると、レンリはそう締め括って再び抱き着こうとしてきた。
しかし――。
「そうではないでしょう。それに、はしたないですよ」
その足元の影から見覚えのある少女が現れ、呆れたように彼女を窘め始める。
レンリと真性少女契約を結んでいるリヴァイアサンの少女化魔物。
確かラハと言ったか。
「少しぐらいよいではありませんか。親交を深めることも大切なことです」
「本題が先です。気持ちは分からないでもありませんが、そういったことは用事を済ませた後で、双方合意の上でなさい」
淡々と告げるラハさんの言葉を受け、レンリは自制するように目を閉じると一つ深く息を吐いてから「分かりました」と表情を引き締めて頷いた。
見たところ、ラハさんは彼女のお目付役のような感じだろうか。
「ええと、本題というのは?」
「はい。学園長達との協議の結果、ある程度ですが、私の目的について話すことのできる部分が定まりましたので早速伺った次第です」
「……成程」
一応あの場では理解して引き下がりはしたが、彼女の目的やトリリス様達の反応についてモヤモヤした気持ちが消えた訳ではなかったので助かる。
勿論、あくまでも話せる部分のみで、全容が判明することはないだろうけれども。
何もないよりはマシだ。
知って後悔するような部分についてはカットされているはずだし、少なくともマイナスにはならないだろう。
「ですが、その前に。できれば、旦那様と契約なさっている少女化魔物の皆様を御紹介頂きたいのですが……」
「ん……そう、だな」
彼女達は皆、窓をノックされた段階で俺の影の中に入っている。
夜間の訪問者ということで念のためにそうしていたが、相手が予想通りレンリだと確認できたなら、別に全員が全員隠れたままでいる必要はない。
特にイリュファとリクルは、最初に彼女が弟達と来た際に既に会っている訳だから。
これから否が応でも長いつき合いになりそうだし、セト達を守るという契約もある以上は共闘することも十分あり得る話だ。
あのアコさんも、俺達と敵対することはないと保証してくれている。
そう考えると、顔合わせぐらいはしておいてもいいのかもしれない。
「では、まずは私から」
と、そんな俺の意をくんだように、イリュファが率先して影から出てきて口を開く。
「ゴーストの少女化魔物のイリュファと申します。トリリス様より救世の転生者様の教育係を請け負い、ヨスキ村でイサク様と巡り合いました。年長者として主に身の回りのお世話などをしております。よろしくお願い致します、レンリ様」
そして彼女は、そう自己紹介すると丁寧に頭を下げた。
しかし――。
「ゴーストの少女化魔物……失礼ですが、真性少女契約は?」
「……いえ。私はあくまで使用人のような立場ですので」
レンリのその質問に対しては、突っぱねるように目を閉じながら答えるイリュファ。
そんな拒絶の色濃い彼女の表情と口調から、どうやらレンリも真性少女契約云々には余り触れるべきではないと判断したらしい。
「そ、そうですか。ええと、よろしくお願い致します、イリュファさん」
「はい」
誤魔化すように切り上げ、イリュファもそれを受け入れて一人目は終わり。
続いて、影の中からリクルが出てくる。
「スライムの少女化魔物のリクルです。その、他のスライムに追われていたところを御主人様に助けて頂いて、少女契約まで結んで頂きましたです。今は従者としてお傍に置いて頂いてますですが……私も真性少女契約は結べていません、です」
「結べていない、ですか?」
こちらはイリュファとは対照的に助けを求めているような雰囲気が滲み出ていたからか、同じくデリケートな問題ながらレンリは首を傾げて問うた。
「はい。私はご主人様のために命も懸けられるつもりですが、どうしてか真性少女契約を結べないんです。何度も試しているのですが……です」
対して、誰でもいいから知恵を借りたいと縋るような目をレンリに向けるリクル。
これもまた解決の手立てが皆目見当のつかない問題だけに、そうした彼女の引け目を解消してやれないことを本当に申し訳なく思うばかりだ。
「スライムの少女化魔物……真性少女契約を結ぶことができない……」
そんなリクルを前に、レンリは思案するような素振りを見せ――。
「そう言えば、似たような事例をどこかで聞いたことがあったような気が……」
記憶を辿るように斜め上に視線を向けながら、そう口の中で呟いた。
「本当ですか!? 詳しく教えて下さい! です!」
それを耳聡く聞き取ったリクルは強く反応し、必死な表情で詰め寄る。
「す、すみません。記憶が定かではなく……」
「そう……ですか、です」
その勢いに圧されて慌てたように謝りながら弁明するレンリに、リクルは心の底からガッカリしたように肩を落として引き下がった。
目に見えて落ち込んでいる様子に、傍から見ている俺まで罪悪感が湧く。
「お、思い出しましたら、リクルさんにお教えしますので」
まして正面のレンリは尚更らしく、彼女は配慮の色濃い声で励ますように告げた。
「は、はい。ありがとうございます、です」
そうした彼女の気持ちをくみ取ってか、リクルは顔を上げて感謝を口にした。
耐え忍んでいる様子はいじらしく、何かしてやりたい気持ちが増す。
……後で俺からもレンリに頭を下げて頼んでおくとしよう。
「じゃあ、次はサユキの番だね。サユキは雪女の少女化魔物。でも、元々は雪妖精って魔物としてイサクに出会ったんだ。サユキって名前はイサクにつけて貰ったんだよ」
「元々は、ですか?」
「雪妖精は本来、春になると消えちゃうらしいんだ。でも、気づいたら雪女の少女化魔物になってて……それで、イサクを探してたら途中で襲われて暴走しちゃったんだ。それをイサクにとめて貰って真性少女契約を結んで、今に至るって感じかな」
「……珍しい事例ですね」
「雪妖精の時にイサクから色んなことを教わったからかもって、聞いたよ」
サユキの伝聞の推測に、レンリは「成程」と納得の意を示した。
僅かなものではあれ、それによって観測者に一歩近づいたことが彼女と再会できた一要因であることは間違いではないだろう。
「レンリちゃんもイサクのことが好きなんだよね? イサクを好きな人はサユキのお友達だから。仲よくしようね!」
「あ……そう言って下さると私も嬉しいです。共に旦那様を支えていきましょう!」
それから互いに手を取り合い、長年の友人のように笑い合う二人。
フェリトが同類と称した証明の如く、その一言のみで意気投合してしまったようだ。
ちょっとサユキが増えたような気分だ。
「で、後はフェリトちゃんだね」
「そうね。ただ、申し訳ないけれど、私は影の中から失礼するわ」
そのサユキに振られ、姿を見せずに声だけを部屋に響かせるフェリト。
最近では人間に対するトラウマも大分軽減され、人がいても外に出られるようになってきているので、それが理由ではない。
テアを影の中に一人にはできないからだ。
さすがにガラテアの肉体たる彼女だけは、なるべく姿を見せない方がいいだろうし。
「私の名前はフェリト。セイレーンの少女化魔物よ。人間至上主義者に狂化隷属の矢で操られてヨスキ村を襲ったところを助けられ、イサクと取引をして仲間になったわ」
「取引、ですか?」
「同じく人間至上主義者に利用された姉さんが行方不明なのよ。その捜索に力を貸して貰う代わりに……そうね。見つけ出した暁には、真性少女契約を結ぶって感じかしら」
確か、そんな条件はつけていなかったはずだが……。
彼女も色々と経験して、心境の変化があったのかもしれない。
「成程。であれば、私もお手伝い致しましょう。新たな真・複合発露を得て旦那様の力が増すのは、妻としても喜ばしいことですからね」
「……本当にサユキと似た者同士みたいね、貴方。でも、まあ、姉さんを探す手伝いをして貰えるってことなら、その厚意はありがたく頂戴するけれど」
何だかんだサユキと仲のいいフェリトだけに、レンリとも相性がよさそうだ。
ともあれ、紹介はこれぐらいで十分だろう。
「これで一通りかな。もう一人、俺と真性少女契約を結んでいるサンダーバードの少女化魔物がいるけど、この場にはいないから紹介は後々だ」
「あの雷の如き超高速移動を可能とする真・複合発露の持ち主ですね」
レンリの確認の言葉に頷く。
補導員事務局の受付であるルトアさん。
彼女とは、今後いくらでも会う機会があるだろう。
「じゃあ、そろそろ本題に――」
「待って下さい。その前に、ガラテアの肉体とも対面させて下さいませんか?」
「……何の、ことだ?」
「旦那様。私は全て知っていますから、隠す必要はありませんよ。それと、妻として夫の不利になるような真似はしないと誓います」
「………………そうか」
一瞬、惚けようとした俺だったが、なだらかな胸元に手を当てながら言って真剣な顔で真っ直ぐに見詰めてくるレンリに折れる。
全て承知の上ならば誤魔化そうとしても意味はない。
「フェリト」
「分かったわ」
俺の呼びかけに応じ、フェリトがテアを連れて影の中から出てくる。
が、彼女はレンリに怯えているようで、すぐに俺の背中に隠れてしまった。
「成程。これが……」
「……レンリ。テアをもののように言うのは、やめてくれないか。あくまでも、ガラテアとこの子は別ものなんだから」
「あ……それは、申し訳ありませんでした」
俺が少し強めに言うと、レンリはハッとして深く反省したように頭を下げる。
「この世界に生きる者はガラテアは最凶の人形化魔物と教え込まれていますので、その感覚がどうしても抜けず。……ですが、旦那様の頼みであれば肝に銘じます」
「……まあ、分かってくれたなら、いいさ」
若干言い訳染みているが、それは真実だろう。
テアが怯えたのも、最近は彼女も人見知り気味であることに加え、そうした教育に伴って植えつけられた無意識の敵意を感じ取ってのものに違いない。
長い年月をかけて形作られたある種の偏見を抑え込むのは困難だろうが、この場はレンリの言葉を信じよう。
「けど、わざわざテアを見たいなんて、どうしてだ?」
「勿論、興味本意ではありません。私の目的にも関係するからです」
俺の問いに答えたレンリはそこで一つ言葉を区切ると、深く息を吸い込み――。
「救世の転生者に依らずガラテアから世界を救う術を得る。それこそは御祖母様から続く悲願であり、私が必ずなさねばならない責務なのです」
それから、どこかの誰かに対して宣言するように力強く告げたのだった。
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