ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
150 思念の極大化
「お兄さんが…………救世の転生者、様?」
眼前に示された日本刀、祈望之器印刀ホウゲツと俺とを見比べながら、ルコちゃんは呆然と呟くように問うてきた。
俺がそうだとは全く予想だにしておらず、俄かには信じられないのだろう。
余程の衝撃を受けたのか、自分の状況すら完全に忘れてしまったかのように顔を上げてハッキリとした驚きを表情に浮かべている。
しかし、彼女が救世の転生者に強い憧れを抱いているというアコさんの情報は正しいらしく、目の前にあるものが確かな物的証拠であることも理解しているようだ。
改めてそれを確認し、小さく「本で見たのと同じ……本物……」と呟いている。
それでも、これもまた易々と受け入れられるような話ではないらしく――。
「ほ、本当、に?」
彼女は、俺の後ろにいるアコさんやエイルさんに視線を向けて尋ねた。
それに対して、エイルさんは困ったようにアコさんに目で助けを求める。
「あー……」
そんな目を向けられたアコさんは、どう返答すべきか迷ってしまったのか、思考を巡らせるように斜め上へと目線をやりながら弱ったような声を出した。
「…………はあ、もう。本当だよ。偽物なら即座に逮捕しないといけないだろう?」
しかし、迷った時点でもはや誤魔化せないと判断したのだろう。
彼女は一度俺を軽く睨み、それから深く嘆息しながら肯定した。
特別収容施設ハスノハの職員という法の番人の一員たる者達の前で、複製を禁止された国宝の偽物を見せびらかしたりするはずもない。
アコさんの言う通り、その場ですぐに取り押さえようとしない時点で本物ということになる。必然的に、俺自身に関しても。
「救世の転生者様……」
確信を得、それによってまたも放心したように俺を見るルコちゃん。
そんな突然有名人に会ったみたいな反応をされると、正直なところ気恥ずかしい。
当然ながら偉ぶるために明かした訳ではないので、とにかく話を戻すことにする。
今この場で大事なのはそこではないのだから。
一つ咳払いをしてから口を開く。
「もう一度言おう。ルコちゃん、君を人間に戻せる可能性はある。俺を信じて欲しい」
それで状況を思い出したのか、ルコちゃんは当惑したように瞳を揺らす。
憧れの救世の転生者からの言葉とは言え、諦めて心の奥底に抑えつけていた望みであるだけに、無条件で信じ切るとまではいかないようだ。
「……どう、やって?」
それでも期待して耳を傾ける程度には、天秤が傾いたらしい。
俺は、そんな彼女の姿に一つ関門を抜けたと感じながら説明を始めた。
「ルコちゃんは覚えていないだろうけど、君がそうなったのは君自身が死にたくないと願ったからだ。大多数の思念の蓄積と同等の重さを持つ個人の願いの結果だ」
「それは……はい。そう聞きました」
精神干渉による記憶の封印は確かで、ルコちゃんは伝聞形で応える。
「でも、それがこんな形になるなんて……」
そのまま彼女は、改めて考えても納得がいかないと憤るように続けた。
死にたくないという願いから生じた力によって死にたいと願うような事態に陥ってしまったのは、皮肉としか言いようがない。
如何にこの世界が思念の蓄積によって影響を受ける人間原理に基づいた世界とは言え、そうそう個人の思い通りにはならないということだろう。
ましてや人間が他人の思いなど容易く制御できようはずもない。
人間至上主義者達が人類の利益のために治癒系の複合発露を得んと画策したにもかかわらず、再生能力の上位少女化魔物しか生み出せなかったように。
「まあ、それは奴らのやり方が乱暴過ぎたせいでもあるだろうけど」
あるいは、それぐらい暴力的な真似をしなければ個人で大多数の思念を上回ることなどできはしない、ということなのかもしれないが。
「ただ……業腹だけど、奴らのおかげで君を救える可能性に思い至ったんだ」
勿論、今正にルコちゃんが苦しんでいる原因もまた人間至上主義者達の所業にある以上は、決して感謝したりするつもりはないが。
「えっと……どういう、ことですか?」
「つまり。人間に戻りたいという願いが極限まで高まれば、この世界はその思いに応えて君を人間に戻してくれる可能性が高いってことだ。たとえそうならなくても、少なくともリビングデッドじゃない他の上位少女化魔物になることはできるはず」
思念が蓄積すれば人間でさえ少女化魔物になるというのなら、少女化魔物や上位少女化魔物が更に別の存在となっても何らおかしくはない。
異なる願望が由来ならば、リビングデッド以外の存在になるのは間違いない。
「ま、待て、イサク。私の複合発露〈命歌残響〉で見て分かっているはずだろう? 人一人の思念で世界に影響を与えることがどれ程、困難なことなのかは」
そんな俺の案を受け、横からアコさんが不可能だと告げるように反論を口にする。
「ええ。分かっています」
拷問染みた人体実験。毒に苦しみ、激しい痛みに苛まれ、死にゆく己を知覚し、恐怖と絶望、理不尽への怒りの果てに思考が一色に染まる。
それぐらいでなければ、異種族への変化など起こり得ないことは重々承知している。
「まさか、同じことをしようという訳じゃないだろうね」
「そんな訳ないじゃないですか」
独断で無理矢理に話を進め過ぎたせいか疑わしげに睨むアコさんに、苦笑を向ける。
感情の上でも、理屈の上でも、あんな強引な真似をするつもりなど毛頭ない。
あれでは死にたくないと願ってゾンビ化したように、願望の方向性がずれかねない。
「なら、どうするつもりだい? 言っては何だけど、今のルコの状態からそこまで混じり気のない情動を作り出すことは無茶な話だと思うよ」
確かにルコちゃんが人間に戻りたいと願うだけで済むのなら、腕輪を外して腐った己の肉体を目の当たりにした段階で変化が生じているはずだ。
彼女が意識を取り戻してから最も激しく感情が動いたのは、間違いなくそのタイミングだっただろうから。
諦観と絶望によってある意味で安定した状態となった後である今、それ以上に感情を揺さぶることは既存の方法では不可能だろう。
ならば、別のやり方で強い感情を形成すればいい。
「新しく作り出すのが無理なら、今ある感情を極限まで増幅させるだけです」
「増幅? …………そうか!」
そこでアコさんもまたその方法に思い至ったらしく、ハタと膝を打った。
「確かにそれなら拷問のような真似をしなくても、世界に影響を与えられる程の思念の蓄積を生み出すことができるかもしれない!」
更に彼女は興奮と共に納得の声を上げる。
全く頭になかった方法なのだろう。
元々少女化魔物としてアイデンティティを持つ彼女だ。
人間に戻すという思考にそもそも至っていなかったようだし、少女化魔物を蔑ろにする忌々しき人間至上主義者の人体実験から応用することなど考えもしなかったはずだ。
「あ、あの……?」
そんなアコさんの勢いに、戸惑ったような反応を見せるルコちゃん。
しかし、どことなく期待の色が濃くなっているようにも感じられる。
「イサクの言っていることは一理ある。確かに、君を救うことができるかもしれない」
「本当……ですか?」
アコさんの言葉に、ルコちゃんはおずおずと問う。
絶望しかなかった表情に希望の光が灯り始めている。
だが、まだまだ足りない。
「かもじゃない。必ずだ」
もっと彼女が信じられるように断言し、それから俺はアコさんに目配せをした。
それに頷いたアコさんは、話についていけていないエイルさんに顔を向ける。
そして――。
「今すぐにルシネを連れてきてくれるかい? エイル」
「ルシネを、ですか?」
「そう。ルコを救うため、あの子の真・暴走・複合発露〈千年五色錯誤〉の力で、人間に戻りたいという願望を極限まで増幅させる」
首を傾げて問うたエイルさんに、俺の考えをそのまま告げたのだった。
眼前に示された日本刀、祈望之器印刀ホウゲツと俺とを見比べながら、ルコちゃんは呆然と呟くように問うてきた。
俺がそうだとは全く予想だにしておらず、俄かには信じられないのだろう。
余程の衝撃を受けたのか、自分の状況すら完全に忘れてしまったかのように顔を上げてハッキリとした驚きを表情に浮かべている。
しかし、彼女が救世の転生者に強い憧れを抱いているというアコさんの情報は正しいらしく、目の前にあるものが確かな物的証拠であることも理解しているようだ。
改めてそれを確認し、小さく「本で見たのと同じ……本物……」と呟いている。
それでも、これもまた易々と受け入れられるような話ではないらしく――。
「ほ、本当、に?」
彼女は、俺の後ろにいるアコさんやエイルさんに視線を向けて尋ねた。
それに対して、エイルさんは困ったようにアコさんに目で助けを求める。
「あー……」
そんな目を向けられたアコさんは、どう返答すべきか迷ってしまったのか、思考を巡らせるように斜め上へと目線をやりながら弱ったような声を出した。
「…………はあ、もう。本当だよ。偽物なら即座に逮捕しないといけないだろう?」
しかし、迷った時点でもはや誤魔化せないと判断したのだろう。
彼女は一度俺を軽く睨み、それから深く嘆息しながら肯定した。
特別収容施設ハスノハの職員という法の番人の一員たる者達の前で、複製を禁止された国宝の偽物を見せびらかしたりするはずもない。
アコさんの言う通り、その場ですぐに取り押さえようとしない時点で本物ということになる。必然的に、俺自身に関しても。
「救世の転生者様……」
確信を得、それによってまたも放心したように俺を見るルコちゃん。
そんな突然有名人に会ったみたいな反応をされると、正直なところ気恥ずかしい。
当然ながら偉ぶるために明かした訳ではないので、とにかく話を戻すことにする。
今この場で大事なのはそこではないのだから。
一つ咳払いをしてから口を開く。
「もう一度言おう。ルコちゃん、君を人間に戻せる可能性はある。俺を信じて欲しい」
それで状況を思い出したのか、ルコちゃんは当惑したように瞳を揺らす。
憧れの救世の転生者からの言葉とは言え、諦めて心の奥底に抑えつけていた望みであるだけに、無条件で信じ切るとまではいかないようだ。
「……どう、やって?」
それでも期待して耳を傾ける程度には、天秤が傾いたらしい。
俺は、そんな彼女の姿に一つ関門を抜けたと感じながら説明を始めた。
「ルコちゃんは覚えていないだろうけど、君がそうなったのは君自身が死にたくないと願ったからだ。大多数の思念の蓄積と同等の重さを持つ個人の願いの結果だ」
「それは……はい。そう聞きました」
精神干渉による記憶の封印は確かで、ルコちゃんは伝聞形で応える。
「でも、それがこんな形になるなんて……」
そのまま彼女は、改めて考えても納得がいかないと憤るように続けた。
死にたくないという願いから生じた力によって死にたいと願うような事態に陥ってしまったのは、皮肉としか言いようがない。
如何にこの世界が思念の蓄積によって影響を受ける人間原理に基づいた世界とは言え、そうそう個人の思い通りにはならないということだろう。
ましてや人間が他人の思いなど容易く制御できようはずもない。
人間至上主義者達が人類の利益のために治癒系の複合発露を得んと画策したにもかかわらず、再生能力の上位少女化魔物しか生み出せなかったように。
「まあ、それは奴らのやり方が乱暴過ぎたせいでもあるだろうけど」
あるいは、それぐらい暴力的な真似をしなければ個人で大多数の思念を上回ることなどできはしない、ということなのかもしれないが。
「ただ……業腹だけど、奴らのおかげで君を救える可能性に思い至ったんだ」
勿論、今正にルコちゃんが苦しんでいる原因もまた人間至上主義者達の所業にある以上は、決して感謝したりするつもりはないが。
「えっと……どういう、ことですか?」
「つまり。人間に戻りたいという願いが極限まで高まれば、この世界はその思いに応えて君を人間に戻してくれる可能性が高いってことだ。たとえそうならなくても、少なくともリビングデッドじゃない他の上位少女化魔物になることはできるはず」
思念が蓄積すれば人間でさえ少女化魔物になるというのなら、少女化魔物や上位少女化魔物が更に別の存在となっても何らおかしくはない。
異なる願望が由来ならば、リビングデッド以外の存在になるのは間違いない。
「ま、待て、イサク。私の複合発露〈命歌残響〉で見て分かっているはずだろう? 人一人の思念で世界に影響を与えることがどれ程、困難なことなのかは」
そんな俺の案を受け、横からアコさんが不可能だと告げるように反論を口にする。
「ええ。分かっています」
拷問染みた人体実験。毒に苦しみ、激しい痛みに苛まれ、死にゆく己を知覚し、恐怖と絶望、理不尽への怒りの果てに思考が一色に染まる。
それぐらいでなければ、異種族への変化など起こり得ないことは重々承知している。
「まさか、同じことをしようという訳じゃないだろうね」
「そんな訳ないじゃないですか」
独断で無理矢理に話を進め過ぎたせいか疑わしげに睨むアコさんに、苦笑を向ける。
感情の上でも、理屈の上でも、あんな強引な真似をするつもりなど毛頭ない。
あれでは死にたくないと願ってゾンビ化したように、願望の方向性がずれかねない。
「なら、どうするつもりだい? 言っては何だけど、今のルコの状態からそこまで混じり気のない情動を作り出すことは無茶な話だと思うよ」
確かにルコちゃんが人間に戻りたいと願うだけで済むのなら、腕輪を外して腐った己の肉体を目の当たりにした段階で変化が生じているはずだ。
彼女が意識を取り戻してから最も激しく感情が動いたのは、間違いなくそのタイミングだっただろうから。
諦観と絶望によってある意味で安定した状態となった後である今、それ以上に感情を揺さぶることは既存の方法では不可能だろう。
ならば、別のやり方で強い感情を形成すればいい。
「新しく作り出すのが無理なら、今ある感情を極限まで増幅させるだけです」
「増幅? …………そうか!」
そこでアコさんもまたその方法に思い至ったらしく、ハタと膝を打った。
「確かにそれなら拷問のような真似をしなくても、世界に影響を与えられる程の思念の蓄積を生み出すことができるかもしれない!」
更に彼女は興奮と共に納得の声を上げる。
全く頭になかった方法なのだろう。
元々少女化魔物としてアイデンティティを持つ彼女だ。
人間に戻すという思考にそもそも至っていなかったようだし、少女化魔物を蔑ろにする忌々しき人間至上主義者の人体実験から応用することなど考えもしなかったはずだ。
「あ、あの……?」
そんなアコさんの勢いに、戸惑ったような反応を見せるルコちゃん。
しかし、どことなく期待の色が濃くなっているようにも感じられる。
「イサクの言っていることは一理ある。確かに、君を救うことができるかもしれない」
「本当……ですか?」
アコさんの言葉に、ルコちゃんはおずおずと問う。
絶望しかなかった表情に希望の光が灯り始めている。
だが、まだまだ足りない。
「かもじゃない。必ずだ」
もっと彼女が信じられるように断言し、それから俺はアコさんに目配せをした。
それに頷いたアコさんは、話についていけていないエイルさんに顔を向ける。
そして――。
「今すぐにルシネを連れてきてくれるかい? エイル」
「ルシネを、ですか?」
「そう。ルコを救うため、あの子の真・暴走・複合発露〈千年五色錯誤〉の力で、人間に戻りたいという願望を極限まで増幅させる」
首を傾げて問うたエイルさんに、俺の考えをそのまま告げたのだった。
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