ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
061 補導員チュートリアル
入学式の翌日。
セト達が通学するのを彼らの寮の近くまで行き、陰ながら見送ってから。
フェリトに遠慮して影の中にいるイリュファ達共に、俺はシニッドさんと待ち合わせている嘱託補導員用の事務局へと向かった。
管理棟に入って階段を上っていき、当該の部屋の扉を開ける。
すると、既にシニッドさんはそこにいて、壁に背を預けて腕を組みながら待っていた。
禿頭。大男。筋骨隆々。緩い着流し。
一昔前のヤクザのようで少しビビる。
こっちに気づいて視線を向けられると尚のこと。
もしも傍に亜人(ライカン)の少女化魔物である可憐な双子、ウルさんとルーさんがいて中和されてなかったら、またちょっと顔に出てしまっていたかもしれない。
「おう。来たな」
「すみません。お待たせして」
「構わねえさ。別に遅れた訳じゃねえからな」
話し始めれば、気のいい兄貴分という感じで表情を和らげるシニッドさん。
こうなると、その強面はむしろ心強さにもなり得る。
学園長たるトリリス様が紹介するぐらいだから、優秀なのは間違いないだろうしな。
かつて指導を受けていた兄さんも、きっと彼を信頼していたに違いない。
「ただ、この商売は基本早い者勝ちだ。早め早めの行動を心がけた方がいいぞ」
「……それは確かに」
先に少女化魔物を鎮圧した者の手柄になる訳だから、一理ある。
……もしかして、それを言うために先に来ていたのか?
だとしたら、本当に本気で指導してくれるつもりなのかもしれないな。
もっと気を引き締めよう。
「さて、今日からお前の嘱託補導員生活が始まる訳だが……とりあえず、具体的な仕事の手順からだな。ついてこい」
「はい」
そうしてシニッドさんに促され、その後に続くと掲示板の前まで連れてこられる。
そこには、今現在世界各地で暴れている少女化魔物達の情報が書かれた紙、依頼書が何枚も張りつけられていた。……結構いるもんだな。
フレギウス王国、アクエリアル帝国、ウインテート連邦共和国、それに元の世界で言う中国から南アジア一帯を統べるランブリク共和国。
主要な国の領土内の情報も網羅されている。
各地に諜報員のような存在がいるのかもしれない。
「見りゃ分かると思うが、基本はこの掲示板から補導する少女化魔物を選ぶ訳だ」
「でしょうね」
余談だが、この仕事が補導員という名をつけられていることに付随して、暴れる少女化魔物を鎮圧することをこの世界では補導するとも言う。
鎮圧と補導。比べると前者は少々暴力的というか、抑圧的な感があるので、俺も今後は補導と言った方がいいかもしれないな。
まあ、少女化魔物に甘いこの国でも、使用頻度は半々というところみたいだけど。
「今日は実際に補導をするんですか?」
「ああ。とは言え、最初だからな。流れの確認のために低難易度の相手だけだ」
シニッドさんはそう言うと、掲示板に貼られた依頼書の内二枚をはがした。
「何の少女化魔物なんですか?」
「水精と土精。最も多く発生し、能力も単純な魔物から進化した少女化魔物だ。脅威度はC。攻撃系の複合発露持ちでは最下級だな」
水精と土精。いわゆる精霊的な存在だ。
この世界にもアニミズム的な思想は古くから存在し、精霊という概念もまた生じている。
特に、祈念魔法の体系化以後は属性としてある十の要素について、四元素ならぬ十元素、四大精霊ならぬ十大精霊として特別視されていたりもするらしい。
根本的な物理法則は元の世界と変わらない以上、緩い宗教みたいなものだが……。
この世界には人間原理に基づく特殊なルールが存在するが故に、そうした思念の蓄積は実際に形となってしまう。それが水精や土精という訳だ。
勿論、それらは分類上あくまでも魔物の範疇でしかないが。
「で、だ。まずはこの依頼書を受付に持っていって承認を貰う。登録のランクと少女化魔物の脅威度がマッチしてないと承認されないから気をつけろよ」
「承認されないと補導できないんですか?」
「いや、不可能ではねえが……勝手にやって返り討ちに遭った場合、完全な自己責任になる。承認されてりゃ保険が下りることもあるからな。状況次第じゃ査定は下がるが」
「成程……」
一応、労災みたいなものもあるらしい。
まあ、緊急の案件で手続きをする時間も惜しい、というような事態でもない限り、基本的にはちゃんと手順を踏んで仕事をするのが無難だろう。
「じゃあ、受付に行ってこい」
「分かりました」
シニッドさんから二枚の紙を受け取って、少女化魔物が座る受付に向かう。
俺達の他に依頼を受けに来ている人間がいないためか、彼女はチラチラとこちらの様子を窺っていたが、俺が近づくと背筋を伸ばして目線を正面に固定した。
「あの――」
「ようこそ、補導員事務局へ! イサク様!」
俺が口を開くとほぼ同時に、彼女はバッとこちらを向いて大きな声で挨拶し出す。
おかげで俺の声はかき消されてしまった。
「トリリス様から伺ってます! 承認の前にまずこちらをどうぞ!」
彼女は畳みかけるように言葉を続けると、何やら名刺ぐらいの大きさのプレートのようなものを両手でズバッと差し出してくる。
「は、はあ。どうも」
その勢いに戸惑いながら受け取って観察する。
表にはC級補導員(仮)と刻まれており、裏には俺の名前がフルネームで書かれていた。
身分証か? そう言えば貰ってなかったな。
「イサク様はまだ研修期間ですので戦闘系最低ランクの仮身分証です! シニッド様の許可が下り次第、正式な身分証が発行されます!」
更に、めっちゃ早口で捲し立てられる。
何だろう。緊張でもしてるのか?
「おい、ルトア。少しは落ち着け。イサクが戸惑ってるじゃねえか」
「す、すみません! シニッド様!」
やれやれという様子で傍に来たシニッドさんに窘められ、ルトアと呼ばれた少女化魔物はペコペコと頭を下げる。
「私にとって初めての新人さんなので!」
「……まあ、いきなり嘱託補導員からスタートする補導員が珍しいのは分かるけどな。実際、アロンやライム以来な訳だしよ」
そうなのか。
さすが兄さん。それと同郷のライムさん。
「ええと、どこまで話しましたっけ?」
「いや、その前に自己紹介ぐらいしとけ」
「そ、そうでした! えと、補導員事務局の受付兼警備員のルトアです! サンダーバードの少女化魔物です! 元気が取り柄です! よろしくお願いします!」
朗らかな笑顔で言い、それから机に頭突きしそうな勢いで頭を下げるルトアさん。
元気が長所で、短所はそそっかしいって感じか。
まあ、受付として応対する上では明るいのはいいと思う。
サンダーバードの名の通り雷属性のようで、快活そうな短めの髪と瞳の色は橙色だ。
「よろしくお願いします、ルトアさん。俺はイサク・ファイム・ヨスキです」
そんな彼女につられるように、俺は笑顔で自己紹介を返した。
来歴とかは、トリリス様が都合のいい感じに説明してくれてるのを信じて省いておく。
「はい! イサク様! …………それで、その、次は何を説明するんでしたっけ?」
「いや、俺に聞かれましても……」
「俺が許可し次第、正式な身分証が発行されるってところからだ」
「そうでした!」
ポンと手を叩いて笑うルトアさん。
あざとい行動だが、嫌味な感じはない。
性格と表情のおかげで許されるタイプだな。
「その際のランクについてですけど、イサク様は既に攻撃系の複合発露を持つ少女化魔物と真性少女契約を結んでいますので、A級補導員からスタートとなります!」
「おお、A級…………って、凄いんですか?」
「それはもう! 通常はC級。戦闘系の複合発露でない場合は、もっと低いランクからのスタートですから! その上はS級とEX級だけですし!」
「ちなみにS級には脅威度Sを十体あるいは脅威度EXを一体補導すれば、EX級には脅威度EXを五体補導すれば昇級だ。実績でのみ与えられる階級だな」
つまりカタログスペックで飛び級できる中では、A級は最上位ということか。
しかし、救世の転生者としての使命を負った身としては慢心できない。
張り子の虎とならないように、経験と実績を積んでいこう。
「シニッド様やジャスター様もEX級補導員なんですよ!」
「へえ」
シニッドさん。父さんと同格なのか。
そう思うと俄然シニッドさんへの尊敬の念が湧いてくる。
そんな人の指導を受けられる環境を作ってくれたトリリス様には感謝すべきだろう。
「イサク様もEX級補導員を目指して頑張って下さいね!」
「はい、頑張ります!」
グッと力を込めて言うルトアさんに、俺は力強く首を縦に振った。
……どうも彼女と接していると、そのテンションに引っ張られるな。
ムードメーカーって奴だろう。
そんなことを考えながら、ふと受付の奥を見る。
そこにはもう一人、職員と思われる少女化魔物がいた。
いたのだが……。
「って、あの子! 大丈夫なんですか!?」
その様子に思わず俺は更に声を大きくしてしまった。
彼女は口を半開きにしながら、焦点の合わない紫色の瞳で虚空を見詰めていたからだ。
どう見ても、まともな精神状態にあるようには見えない。
今すぐ何らかの治療を施さないとヤバそうだ。
「へ? ああ! 大丈夫です大丈夫です。あの子、待機状態なだけですから!」
「は、はい? 待機状態?」
「あれはムニっていう少女化魔物が複合発露で作り出した分身体なんです」
「ムニ? 分身体?」
「詳しくは分かりません。けど、たまに突然動き出して少女化魔物鎮圧の依頼書を書き始めるんです。どこかにいる本体から情報が送られてくるみたいで」
つまり、まだ通信機器のないこの世界の情報伝達を担う少女化魔物ということか。
と言うことは恐らく、本体は国の中枢、情報局のようなところにいるのだろう。
長い紫色の髪を見るに悠属性。
相当特異な能力のようだ。
……本当に複合発露は千差万別だな。
「彼女のおかげで俺達は最新の情報を得られる訳だ。とは言え、長年知ってる俺でも、あの状態の時は気味が悪いがな。まあ、余り気にするな。彼女はああいう存在だと思え」
「わ、分かりました」
苦笑しながら言うシニッドさんに、戸惑い気味に頷く。
いずれ話をしてみたいが、今はやるべきことをやろう。
「えっと、じゃあ、ルトアさん、承認をお願いします」
「はい! では、書類と身分証の提出をお願いします!」
ルトアさんに言われた通り、依頼書と身分証を彼女に手渡す。
今貰ったばかりの身分証がまた彼女の手に戻るのは二度手間な気分になるが、お役所の手続きというものはそういうものだろう。
今回は流れの確認でもある訳だし。
「はい。ランクと脅威度のマッチング、確認できました。承認致します」
「ありがとうございます」
判子を押された依頼書と身分証を返却されたため、影の中に保管しておく。
多分そこが、紛失の確率も低い一番安全な場所だ。
「よし。次は少女化魔物の補導だ。早速、現場に向かうぞ」
「了解です。行きましょう」
そして、俺の同意を待ってから歩き出したシニッドさんの後に続く。
「イサク様、お気をつけて!」
それを、ルトアさんはぶんぶんと手を振りながら見送ってくれる。
ムードメーカー的な彼女にそうされると、何だかやる気が出る。
だから俺は、ルトアさんに感謝を込めた笑顔と共に振り返って小さく礼をし、それからシニッドさんと一緒に事務局を出て初仕事に向かったのだった。
セト達が通学するのを彼らの寮の近くまで行き、陰ながら見送ってから。
フェリトに遠慮して影の中にいるイリュファ達共に、俺はシニッドさんと待ち合わせている嘱託補導員用の事務局へと向かった。
管理棟に入って階段を上っていき、当該の部屋の扉を開ける。
すると、既にシニッドさんはそこにいて、壁に背を預けて腕を組みながら待っていた。
禿頭。大男。筋骨隆々。緩い着流し。
一昔前のヤクザのようで少しビビる。
こっちに気づいて視線を向けられると尚のこと。
もしも傍に亜人(ライカン)の少女化魔物である可憐な双子、ウルさんとルーさんがいて中和されてなかったら、またちょっと顔に出てしまっていたかもしれない。
「おう。来たな」
「すみません。お待たせして」
「構わねえさ。別に遅れた訳じゃねえからな」
話し始めれば、気のいい兄貴分という感じで表情を和らげるシニッドさん。
こうなると、その強面はむしろ心強さにもなり得る。
学園長たるトリリス様が紹介するぐらいだから、優秀なのは間違いないだろうしな。
かつて指導を受けていた兄さんも、きっと彼を信頼していたに違いない。
「ただ、この商売は基本早い者勝ちだ。早め早めの行動を心がけた方がいいぞ」
「……それは確かに」
先に少女化魔物を鎮圧した者の手柄になる訳だから、一理ある。
……もしかして、それを言うために先に来ていたのか?
だとしたら、本当に本気で指導してくれるつもりなのかもしれないな。
もっと気を引き締めよう。
「さて、今日からお前の嘱託補導員生活が始まる訳だが……とりあえず、具体的な仕事の手順からだな。ついてこい」
「はい」
そうしてシニッドさんに促され、その後に続くと掲示板の前まで連れてこられる。
そこには、今現在世界各地で暴れている少女化魔物達の情報が書かれた紙、依頼書が何枚も張りつけられていた。……結構いるもんだな。
フレギウス王国、アクエリアル帝国、ウインテート連邦共和国、それに元の世界で言う中国から南アジア一帯を統べるランブリク共和国。
主要な国の領土内の情報も網羅されている。
各地に諜報員のような存在がいるのかもしれない。
「見りゃ分かると思うが、基本はこの掲示板から補導する少女化魔物を選ぶ訳だ」
「でしょうね」
余談だが、この仕事が補導員という名をつけられていることに付随して、暴れる少女化魔物を鎮圧することをこの世界では補導するとも言う。
鎮圧と補導。比べると前者は少々暴力的というか、抑圧的な感があるので、俺も今後は補導と言った方がいいかもしれないな。
まあ、少女化魔物に甘いこの国でも、使用頻度は半々というところみたいだけど。
「今日は実際に補導をするんですか?」
「ああ。とは言え、最初だからな。流れの確認のために低難易度の相手だけだ」
シニッドさんはそう言うと、掲示板に貼られた依頼書の内二枚をはがした。
「何の少女化魔物なんですか?」
「水精と土精。最も多く発生し、能力も単純な魔物から進化した少女化魔物だ。脅威度はC。攻撃系の複合発露持ちでは最下級だな」
水精と土精。いわゆる精霊的な存在だ。
この世界にもアニミズム的な思想は古くから存在し、精霊という概念もまた生じている。
特に、祈念魔法の体系化以後は属性としてある十の要素について、四元素ならぬ十元素、四大精霊ならぬ十大精霊として特別視されていたりもするらしい。
根本的な物理法則は元の世界と変わらない以上、緩い宗教みたいなものだが……。
この世界には人間原理に基づく特殊なルールが存在するが故に、そうした思念の蓄積は実際に形となってしまう。それが水精や土精という訳だ。
勿論、それらは分類上あくまでも魔物の範疇でしかないが。
「で、だ。まずはこの依頼書を受付に持っていって承認を貰う。登録のランクと少女化魔物の脅威度がマッチしてないと承認されないから気をつけろよ」
「承認されないと補導できないんですか?」
「いや、不可能ではねえが……勝手にやって返り討ちに遭った場合、完全な自己責任になる。承認されてりゃ保険が下りることもあるからな。状況次第じゃ査定は下がるが」
「成程……」
一応、労災みたいなものもあるらしい。
まあ、緊急の案件で手続きをする時間も惜しい、というような事態でもない限り、基本的にはちゃんと手順を踏んで仕事をするのが無難だろう。
「じゃあ、受付に行ってこい」
「分かりました」
シニッドさんから二枚の紙を受け取って、少女化魔物が座る受付に向かう。
俺達の他に依頼を受けに来ている人間がいないためか、彼女はチラチラとこちらの様子を窺っていたが、俺が近づくと背筋を伸ばして目線を正面に固定した。
「あの――」
「ようこそ、補導員事務局へ! イサク様!」
俺が口を開くとほぼ同時に、彼女はバッとこちらを向いて大きな声で挨拶し出す。
おかげで俺の声はかき消されてしまった。
「トリリス様から伺ってます! 承認の前にまずこちらをどうぞ!」
彼女は畳みかけるように言葉を続けると、何やら名刺ぐらいの大きさのプレートのようなものを両手でズバッと差し出してくる。
「は、はあ。どうも」
その勢いに戸惑いながら受け取って観察する。
表にはC級補導員(仮)と刻まれており、裏には俺の名前がフルネームで書かれていた。
身分証か? そう言えば貰ってなかったな。
「イサク様はまだ研修期間ですので戦闘系最低ランクの仮身分証です! シニッド様の許可が下り次第、正式な身分証が発行されます!」
更に、めっちゃ早口で捲し立てられる。
何だろう。緊張でもしてるのか?
「おい、ルトア。少しは落ち着け。イサクが戸惑ってるじゃねえか」
「す、すみません! シニッド様!」
やれやれという様子で傍に来たシニッドさんに窘められ、ルトアと呼ばれた少女化魔物はペコペコと頭を下げる。
「私にとって初めての新人さんなので!」
「……まあ、いきなり嘱託補導員からスタートする補導員が珍しいのは分かるけどな。実際、アロンやライム以来な訳だしよ」
そうなのか。
さすが兄さん。それと同郷のライムさん。
「ええと、どこまで話しましたっけ?」
「いや、その前に自己紹介ぐらいしとけ」
「そ、そうでした! えと、補導員事務局の受付兼警備員のルトアです! サンダーバードの少女化魔物です! 元気が取り柄です! よろしくお願いします!」
朗らかな笑顔で言い、それから机に頭突きしそうな勢いで頭を下げるルトアさん。
元気が長所で、短所はそそっかしいって感じか。
まあ、受付として応対する上では明るいのはいいと思う。
サンダーバードの名の通り雷属性のようで、快活そうな短めの髪と瞳の色は橙色だ。
「よろしくお願いします、ルトアさん。俺はイサク・ファイム・ヨスキです」
そんな彼女につられるように、俺は笑顔で自己紹介を返した。
来歴とかは、トリリス様が都合のいい感じに説明してくれてるのを信じて省いておく。
「はい! イサク様! …………それで、その、次は何を説明するんでしたっけ?」
「いや、俺に聞かれましても……」
「俺が許可し次第、正式な身分証が発行されるってところからだ」
「そうでした!」
ポンと手を叩いて笑うルトアさん。
あざとい行動だが、嫌味な感じはない。
性格と表情のおかげで許されるタイプだな。
「その際のランクについてですけど、イサク様は既に攻撃系の複合発露を持つ少女化魔物と真性少女契約を結んでいますので、A級補導員からスタートとなります!」
「おお、A級…………って、凄いんですか?」
「それはもう! 通常はC級。戦闘系の複合発露でない場合は、もっと低いランクからのスタートですから! その上はS級とEX級だけですし!」
「ちなみにS級には脅威度Sを十体あるいは脅威度EXを一体補導すれば、EX級には脅威度EXを五体補導すれば昇級だ。実績でのみ与えられる階級だな」
つまりカタログスペックで飛び級できる中では、A級は最上位ということか。
しかし、救世の転生者としての使命を負った身としては慢心できない。
張り子の虎とならないように、経験と実績を積んでいこう。
「シニッド様やジャスター様もEX級補導員なんですよ!」
「へえ」
シニッドさん。父さんと同格なのか。
そう思うと俄然シニッドさんへの尊敬の念が湧いてくる。
そんな人の指導を受けられる環境を作ってくれたトリリス様には感謝すべきだろう。
「イサク様もEX級補導員を目指して頑張って下さいね!」
「はい、頑張ります!」
グッと力を込めて言うルトアさんに、俺は力強く首を縦に振った。
……どうも彼女と接していると、そのテンションに引っ張られるな。
ムードメーカーって奴だろう。
そんなことを考えながら、ふと受付の奥を見る。
そこにはもう一人、職員と思われる少女化魔物がいた。
いたのだが……。
「って、あの子! 大丈夫なんですか!?」
その様子に思わず俺は更に声を大きくしてしまった。
彼女は口を半開きにしながら、焦点の合わない紫色の瞳で虚空を見詰めていたからだ。
どう見ても、まともな精神状態にあるようには見えない。
今すぐ何らかの治療を施さないとヤバそうだ。
「へ? ああ! 大丈夫です大丈夫です。あの子、待機状態なだけですから!」
「は、はい? 待機状態?」
「あれはムニっていう少女化魔物が複合発露で作り出した分身体なんです」
「ムニ? 分身体?」
「詳しくは分かりません。けど、たまに突然動き出して少女化魔物鎮圧の依頼書を書き始めるんです。どこかにいる本体から情報が送られてくるみたいで」
つまり、まだ通信機器のないこの世界の情報伝達を担う少女化魔物ということか。
と言うことは恐らく、本体は国の中枢、情報局のようなところにいるのだろう。
長い紫色の髪を見るに悠属性。
相当特異な能力のようだ。
……本当に複合発露は千差万別だな。
「彼女のおかげで俺達は最新の情報を得られる訳だ。とは言え、長年知ってる俺でも、あの状態の時は気味が悪いがな。まあ、余り気にするな。彼女はああいう存在だと思え」
「わ、分かりました」
苦笑しながら言うシニッドさんに、戸惑い気味に頷く。
いずれ話をしてみたいが、今はやるべきことをやろう。
「えっと、じゃあ、ルトアさん、承認をお願いします」
「はい! では、書類と身分証の提出をお願いします!」
ルトアさんに言われた通り、依頼書と身分証を彼女に手渡す。
今貰ったばかりの身分証がまた彼女の手に戻るのは二度手間な気分になるが、お役所の手続きというものはそういうものだろう。
今回は流れの確認でもある訳だし。
「はい。ランクと脅威度のマッチング、確認できました。承認致します」
「ありがとうございます」
判子を押された依頼書と身分証を返却されたため、影の中に保管しておく。
多分そこが、紛失の確率も低い一番安全な場所だ。
「よし。次は少女化魔物の補導だ。早速、現場に向かうぞ」
「了解です。行きましょう」
そして、俺の同意を待ってから歩き出したシニッドさんの後に続く。
「イサク様、お気をつけて!」
それを、ルトアさんはぶんぶんと手を振りながら見送ってくれる。
ムードメーカー的な彼女にそうされると、何だかやる気が出る。
だから俺は、ルトアさんに感謝を込めた笑顔と共に振り返って小さく礼をし、それからシニッドさんと一緒に事務局を出て初仕事に向かったのだった。
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