ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

052 〈迷宮悪戯〉

「イリュファさん、どういうことですか?」

 突然、石造りの迷宮に空間転移したが如き状況。
 それを前にして、まるで学園長たるトリリス様の関与があるかのような呟きを漏らした彼女に、緊急事態と判断して俺の影の中から出てきたサユキが不審そうに問いかける。
 相変わらずイリュファにだけ敬語だ。

「申し訳ありません。トリリス様の悪い癖です」
「悪い癖? 一体どういうことよ」

 同じく、周囲に人の気配がなくなったからか表に出てきたフェリトが強い口調で尋ねる。

「……元々あの方達はショウジ・ヨスキ様からこの国を託された少女化魔物ロリータなのです。そして、その使命の中には救世の転生者の補助も含まれます」
「矛盾してる、です」

 影の中で一人きりは嫌らしく、そそくさと傍に来たリクルが指摘する。
 ついでにフェリトの問いの答えにもなっていない。
 彼女達全員から疑惑の目を向けられ、イリュファは困ったようになりながら口を開く。

「遡ること四百年程前、トリリス様達の情報網が万全ではなく、即座に救世の転生者を探し出せなかった頃の話です。我こそは救世の転生者であると主張する輩が後を絶たず……」
「つまり、この迷宮みたいな空間で、俺が本当に救世の転生者なのかどうか試そうとしてるってことか」

 イリュファの言葉から予想して先回りして言うと、彼女は「その通りです」と頷く。
 前提から入るのはイリュファの癖のようなものだが、結論を先延ばしにするといらぬ不審を買うことになりかねない。特にこういう場では。

「けど、イリュファが連れてきたのに疑う訳?」
「所詮、私は百年程度しか関わりのない新参者ですから。……それと、トリリス様は普段からこういった悪戯を好まれますので」

 フェリトの問いに、仕方がないことだと言うように答えるイリュファ。
 しかし、百年従事していて新人扱いとは。さすが異世界と言うべきか。

「悪戯なら危険はないんですか?」
「……トリリス様次第としか言いようがありません。しかし、あの方の性格であれば、死んだらそれまでというスタンスでイサク様を試すことでしょう」

 丁寧語で尋ねるサユキに、イリュファは緊張感を保つためか真剣な口調で告げる。

「そ、そもそも、ここってどこなんです? 何が起きたんです?」

 イリュファの脅かしに、リクルが微妙に怯えたように言う。
 これだけの異常な現象。おおよそ想像はつくが……。

「ここはミノタウロスの少女化魔物たるトリリス様の複合発露エクスコンプレックス迷宮悪戯メイズプランク〉が作り出した空間の中。私達はそこに閉じ込められたのです」
「〈迷宮悪戯〉、か。……効果はどんなものなんだ? 迷宮を作る能力なのは何となくわかるけど、どういう危険があるんだ?」
「トリリス様の意思次第で自由自在に形を変える形状。そこに配置される罠。襲いかかってくる擬似的な魔物、というところでしょうか。トリリス様はこの力で、素性を偽った者のみならず、悪意を持って学園に侵入しようとした者を何人も葬り去ってきました」

 詰まるところは迷宮、ダンジョンと聞いてイメージする通りの空間ということか。
 試験みたいなものだからと、なめてかかったら命に関わりかねないのは確かなようだ。

「ともかく進みましょう。さすがに今回の場合は、逐一迷宮の構造を変えて侵入者を迷わせるような真似はしないはずです。罠と擬似魔物に気をつけて下さい」

 サラッと続けられたイリュファの言葉を咀嚼し、思わずゾッとする。
 この複合発露が完全な敵意と共に使用されていたら、恐らく閉じ込められた存在はこの中を死ぬまで彷徨うことになりかねないことに気づいて。
 勿論、集中して維持しなければならないだろうが……。
 それができれば初見殺しに近い力だ。やはり世の中は広い。
 しかし今は、一先ず彼女が明確な殺意を持った敵対者ではないことに感謝しながら、イリュファの言う通り先を目指すことにする。
 そもそも後ろは壁に覆われているので、何にせよ前に進むしかない訳だが。

「罠があるってことなら、私達は影の中にいた方がいいわよね」

 一歩踏み出す前に、そうフェリトが提案する。
 作られた迷宮の通路は比較的狭く、多人数では身動きがしにくい。
 確かに、罠や疑似魔物とやらに対処をするにしても、少人数の方がいいだろう。
 ……リクルとかサユキとか、如何にも罠に引っかかりそうだし。
 彼女達自身もまたそう思ったのか、各々同意を示し、順番に祈念魔法で俺の影の中に入っていく。リクルだけは複合発露で俺に同化する。

「あ、そうだ。サユキのアーク複合発露エクスコンプレックスをぶつけたら、この空間を壊せないかな?」

 と、最後に残ったサユキが祈念魔法を使う直前、彼女はいいことを思いついたというように人差し指を立てて言った。
 名案に違いないと確信しているらしく、俺の顔を褒めて欲しそうに見詰めながら。

「〈迷宮悪戯〉が作る空間は、以前サユキが暴走した時に作った吹雪の空間を遥かに超える広さを有しますから無理でしょう。空間の端に辿り着ければ話は別ですが」
「後ろの壁は?」
「残念ながら、これは端ではないでしょう。私達は中心付近に放り込まれているはずです」
「むー……」

 影の中のイリュファに淡々と否定され、期待顔だったサユキは不満げに唇を尖らせる。
 まあ、俺の役に立とうと提案してくれたことだ。飴と鞭はバランスよく必要だろう。

「よしよし。ありがとな、サユキ。これからも思いついたことがあったら言ってくれ」

 だから、彼女の機嫌を取るため、その白銀の美しい髪を軽く梳くように撫でながら言う。
 俺の方が微妙に背が低いため、少々見栄えが悪いが。

「うん!」

 それでも一先ずサユキは機嫌を直してくれたようで、笑顔で影の中に入っていった。

「では、イサク様。くれぐれもお気をつけ下さい」

 それから、俺がフォローすることを最初から分かっていたように何ごともなかったかの如く、学園長室の扉を開ける直前と同じ忠告を繰り返すイリュファ。
 できれば、あの時説明しておいて欲しかったが……。
 まあ、事前に教えて貰っていたところで状況は変わらなかっただろうけども。
 終わったことを一々言っていても仕方がない。

「……よし。じゃあ、行こうか」

 そうして俺達は、複合発露によって作り出された不可思議空間、石造りの迷宮から抜け出すために進み始めたのだった。

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