ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

043 掟コンプリート

 サユキが正気を取り戻し、真性少女契約ロリータコントラクトを交わした後。
 しばらくの間、俺に柔らかく抱き着く彼女の背中に手を回していると……。

「コホン。そろそろよいか?」

 母さんが咳払いをしながら、少し気まずげに尋ねてきた。
 その声に、ハッとして周りを見回す。
 苦笑する父さんの他、悔しげに歯噛みしているイリュファ。キラキラした目で見詰めてくるリクル。俺が視線を向けた瞬間、顔を赤くしたままパッと目を背けるフェリト。
 各人各様の反応だが、いずれにしても一部始終を見ていたのは間違いない。

「サユキ」

 背中をポンポンと軽く叩きながら名前を呼ぶと、彼女は「うん」と今度は素直に頷いて体を離し、俺の腕を取りながら隣に立った。

「と、ともかく、これで解決じゃな。……全く無茶をしおって。冷や冷やしたぞ。この前の時と言い、本当に一体誰に似たのやら」
「それは勿論、俺とお前だろう」

 緊張の糸が切れたように深く安堵の溜息をついた母さんに、同じくホッとした様子を見せながら言う父さん。相当心配をかけてしまったようだ。

「あ、ああするしかないと思ったから」
「そうだな。そうだったと俺も思う。よくやった、イサク。氷漬けにされた皆、お前に感謝するはずだ。俺も助かった」

 俺の言い訳に父さんは同意し、軽く右手を掲げて改めて回復した事実を示しながら感謝を口にする。が、内容に反して表情には申し訳なさが滲んでいた。

「しかしじゃな。あるじよ。子供の無謀な真似。少しはお主も親として戒めてやらぬと――」
「元はと言えば、俺がイサクを焚きつけたことだからな」

 余程肝を冷やしたのか母さんはそこに割って入って更に苦言を呈しようとするが、それを遮って父さんはそのまま言葉を続ける。

「多くの人の未来がかかっていたとは言え、命の危険がある場所に連れてきて、あそこまで無茶をさせて。お前はともかく、俺にイサクの無茶を責める資格はないさ」

 それから父さんは俺を真っ直ぐに見て「すまなかったな」と謝罪した。
 勿論、そうは言いながらも言葉の端々や表情には、母さんと同様に俺を心配していた気持ちが滲み出ている。言えないでいるだけで。

 正直な話。
 俺自身スマートな解決方法とは思えず、両親に心配をかけて当たり前だったと思う。
 資格や前提なんて関係なく。
 もっと俺が強かったら最初から二人を頼ったりせず、不安にもさせなかっただろうし。
 それにある意味、少しぐらい理不尽な心配のされ方は愛されている証でもある。
 何より――。

「謝らなくていいよ。俺は感謝してるから。サユキのことを知らせてくれたこと」

 父さんが無理に連れてきたのではなく、俺がわがままを言ってここに来たのだ。
 そもそも選択肢はあった。選んだのは俺だ。

「父さんのおかげで、サユキと再会できた」

 隣に立つ彼女の肩を抱いて軽く引き寄せながらハッキリと言う。
 サユキは幸せそうにはにかむ。
 父さんがそうしなければ、これも見ることは叶わなかった。

「ありがとう、父さん」
「イサク……」
「それと母さんも。俺のお願いを聞いて一緒に来てくれて、ありがとう」
「……馬鹿者。親ならば当然じゃろう」
「後、ごめんなさい。無茶をして。次があるなら、父さんも母さんも不安にさせなくて済むぐらい強くなるよ」

 最後に、二人の心配は確かに伝わったことも言葉で示す。
 勿論本心だが、そうするのが正しいという前世の経験からの判断も含まれているのは内緒だ。素直な感謝も反省も、子供の時分では結構難しかったものだ。
 何にせよ、この場における正しい選択肢なのは間違いなく、父さんの罪悪感で微妙に硬くなっていた雰囲気が弛緩する。

「……多分、今のイサク様であればジャスター様に匹敵する力を持っていると思いますが」

 と、それまで黙っていたイリュファが、何だか妬ましげな声を出し始める。
 一体何ごとかと思う。

「ど、どうした? イリュファ」
「まさか、こんなにも早く真性少女契約を……普通の少女契約のみならず……ましてやイサク様からの口づけまで……ぐぬぬ」
「ま、またか、イリュファ。イサクのこととなると、お前はどうにも変になるのう」

 ブツブツと悔しげに呟くイリュファに、ドン引きしたように顔をひきつらせる母さん。
 俺も時々彼女がよく分からなくなる。
 いや、とりあえず好意の一種であることぐらいは分かるが。

「ん? 真性少女契約?」

 そんなイリュファの言葉を聞いて何かに気づいたらしく、母さんが疑問の声を上げる。
 それからハッとしたように俺とサユキを交互に見た。

「これは……どうなるのじゃ?」
「ん? 何がだ?」
「掟を達成したと言ってよいのではないか?」

 父さんの問いに、更に疑問形で答える母さん。
 あ、そういえばそうなる、のか?

「た、確かにそうだな。この場合、どうなるんだ?」

 どうやら父さんも分からないらしい。

「それについてですが、村を離れる前の真性少女契約。何度か前例があります」

 皆で首を傾げていると、イリュファが口を開く。普段通りの落ち着いた態度と共に。
 あの状態から急に冷静になるのは戸惑うからやめて欲しい。

「この場合、掟は達成したと見なされ、村を離れる義務は免除されます。勿論、掟の通り村を出て、学園都市トコハの学園に通うことも可能ですが、当人の意思次第ですね」
「ほうほう。つまり…………イサクを外に出さずとも済む訳じゃな!!」

 突然、嬉々として叫び出す母さん。ちょっと驚く。
 そんな過保護だったか? 母さん。
 そう一瞬思うが、兄さんであるアロンが村を離れている間に行方不明となった現在。
 あるいは、そうなるのも仕方のないことかもしれない。

「まあ、待て。ここで判断する話でもないだろう。イサクの気持ちもあるしな」

 興奮気味になっている母さんを落ち着かせるように父さんが言う。

「とりあえず、村に戻ろう。話はそれからだ」
「う、うむ。そうじゃな」

 俺の気持ち、か。
 救世の転生者であることも含めて、よくよく考えないといけないな。

「よし。じゃあ、行こうか」

 そして父さんが号令を出し、行きと同じように皆でその影の中に入る。
 何はともあれ、後は家に帰るだけだ。
 父さんの複合発露〈擬光転移デミライトナイズ〉を利用した短時間の移動。
 数分もすれば村に着くはずだ。

 しかし、サユキはその間に力を使い果たしたのか眠りについてしまった。
 数年の間、ずっと俺を探し続け、その果てにあのような状況に陥っていたのだから仕方のないことだろう。
 俺に体を預け、あらゆる不安から解放されたように穏やかに寝入っている。
 暴走している時には感じられなかった、かつての面影があるあどけない寝顔。
 その姿に、俺は事態が収束したことを改めて、本当の意味で実感したのだった。

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