ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

038 雪の嵐の中へ

 セトをエノスさん夫妻に預けた後。
 母さんと俺達は父さんの影に入り、その複合発露エクスコンプレックス擬光転移デミライトナイズ〉によって、南下し続けるサユキの下へと向かった。

「ここから先は、あの子の領域だ」

 彼女の雪女としての性質が暴走して現れ、第四位階の力を持つ吹雪とが荒れ狂う半球形の空間。その境界の直前で俺達は一度止まり、影から出て父さんの言葉を聞く。
 冬の晴れた世界とクッキリ分かたれたその様は、異常の一言だ。
 フェリトの時とは余りにも規模が違う。
 狂化隷属の矢で人工的、強制的に暴走させられた状態とは、想いの強さとか純度とかそういうものが決定的に異なるのだろう。

「覚悟はいいか? イサク」
「妾達が全力で守るが……間違いなく、ただ進むだけでも肉体的な負荷は恐ろしいものとなるじゃろう。引き返すなら今の内じゃぞ」

 二人に問われ、覚悟を決めるように一度目を閉じる。
 それから瞼の裏に、サユキと過ごした日々の情景を映し……。

「覚悟は、できてるよ。俺は、絶対にサユキを助けたいんだ」

 目を見開いて二人を真っ直ぐに見詰めて告げる。

「……ふう。親が知らぬ間に子は成長するものじゃな」
「ああ。いっぱしの男の顔だ」

 対して母さんと父さんは、一握りの寂しさとそれ以上の誇らしさと共に言う。
 前世の経験もあるので、成長云々を両親に褒められるのは少し気まずいが……。
 それでも嬉しくない訳ではない。
 前世の俺は、親孝行ができるような一人前の男になる前に死んだのだから。

「実力もそうであれば、言うことなしなのですが」

 と、調子に乗らないように注意するためか、チクリとイリュファに言われる。
 まあ、その通りだ。
 加えて、こんなことで慢心するようでは、眼前の吹き荒れる雪の嵐を突破してサユキに辿り着き、彼女を救い出すことなど誰の助けを借りようとも不可能だろう。
 パンパンと軽く手で自分の頬を挟み込むように張り、気合を入れる。

「リクル」
「はいです」

 それから俺は自身の複合発露〈擬竜転身デミドラゴナイズ〉を使用し、同時にリクルと手を繋ぐ。
 即座に彼女は〈如意フィギュア鋳我トランスファー〉を発動させ、俺と同化した。

「では、私達は影に入ります。……闇の根源に我は希う。『陰影』『随行』の概念を伴い、第四の力を示せ。〈冥府〉之〈影随〉」

 それからイリュファが発動した祈念魔法により、彼女自身と父さんと母さん、それからフェリトが俺の影にずぶずぶと埋まっていく。
 この祈念魔法は特訓に使用した〈冥府〉之〈影界〉とは違い、境界に力を防ぐ結界の役割はない。中から外に力を放出することができる。
 ただし、その代わりに外からの攻撃を防ぐ力はないが。

「すまぬな、フェリト。イサクもおらぬ空間で、妾達とおるのは辛かろう」
「大丈夫よ……じゃなくて、大丈夫です。イサクのご両親なら。この一年、影の中からずっと見てたので。二人が悪い人じゃないことぐらい分かってます」

 母さんの言葉を否定するフェリトだが、ちょっと無理をしている感じもある。
 それでも出会った当初よりは遥かにマシだろうが……。

「イサクのために、少しだけ我慢してくれ」
「……はい」

 父さんの頼みに少し硬い口調ながら応じるフェリト。
 辛さがあっても、彼女ならきっと耐えてくれるはずだ。
 そんなフェリトの様子に、父さんが小さく微笑んだような気配が影の中から届く。

「イサクのわがままにつき合ってくれるいい仲間だ」
「全くじゃな。この年にして三人も。恵まれておる。それだけにイサクよ。この子らを悲しませるようなことはするでないぞ」
「……うん、分かってる」

 たとえ二人に言われずとも、彼女達を悲しませるつもりはない。
 しかし、だからこそ俺はここにいると言ってもいい。
 リクルもフェリトも苦しむ少女化魔物を見捨てる俺など望まないだろうし、イリュファにしても俺の使命を優先すると言いながらも最後には意思を尊重してくれるのだから。
 彼女達が認めてくれる俺のあり方を裏切ることはできない。
 それは、皆が窮地に陥った時に同じように諦めない誓いでもある。

 勿論、可能な限り、無策で突っ込む無謀な真似をするつもりもない。
 彼女達に加え、父さんと母さん。
 皆の力があれば、サユキに届く可能性があると俺は信じている。

「よし。ならばやるか。あるじよ」
「ああ。久し振りの共同作業だな」

 そんな俺の気持ちに呼応するように、次の瞬間、影の中から炎が噴き上がる。
 母さんが持つ複合発露が父さんとの真性少女契約によって強化された力。
火炎レッド巨竜ギガ転身ドラゴナイズ〉。
 それは体を変化させ、身体能力を強化するだけの効果に留まらない。
 火竜レッドドラゴンを象徴する炎。
 全身から噴き上がる火炎。そして全身に帯びる熱。
 これもまたこの複合発露の力であり、その脳筋具合から脅威度EXにはなり得ないものの脅威度Sに相応しい絶大な力だ。
 だからこそ、父さんは氷漬けにされずに帰ってくることができた。
 だからこそ、自分自身の炎とリクルの力に加えて二人の炎に守られた俺は、この雪の嵐の範囲内を満たす暴走・複合発露の影響に耐えて進むことができる。

「今行くぞ。サユキ」

 そして俺はそう呟くと、彼女が作り出した領域に一歩踏み入れた。
 第四位階相当の雪の嵐も、第六位階の炎を前にすれば形なしだ。
 勿論、近づけば近づく程に、サユキの周囲全てを凍らせようとこの身を襲う暴走・複合発露が力を増していくだろう。
 だが、それは想定済みだし、覚悟している。
 全てはそれに耐えてサユキに近づき、察知されてからが本当の勝負――。

「避けろ!!」

 そう悠長に考えていると父さんが叫び、俺は咄嗟にその場を飛び退いた。
 すると、直前までいた場所が空間ごと凍りつく。

「動き続けろ!」

 更に、言われるがまま雪の嵐の中を全力で駆ける。
 それに伴い、俺が通った場所に次々と人がすっぽり入るような氷が連続で発生していく。

「どうやら、一層攻撃的に狂乱しているようじゃな」

 あるいは簪を失ったからか。

「領域に入ったものは即座に攻撃か。性質たちが悪くなっているな。食らったら、よくて俺の二の舞、下手をすれば一撃でゲームオーバーだ。イサク、心してかかれよ」

 父さんの忠告に返答する余裕はない。
 どうやら想定よりも厳しい状況になってしまったようだ。
 しかし、やることは変わらない。
 俺の目的は変わらない。
 だから、俺は迷うことなく走り続けることを選び、一心にサユキを目指した。

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