【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~
最終話 自由 ③賭けをしよう
限界を超えた魔力収束を重ね、急速に崩壊していく体。
「おおおおおおおおおおっ!!」
その嫌な感覚を抑え込むように叫びながら、ただ女神アリュシーダを目指す。
右足の一点に込めた限界以上の力を以って、無限色の光を受け止めながら。
同時に発動させている〈六重強襲過剰強化〉による推進力と姿勢制御を用いて。
しかし、相手に近づけば近づく程に無限色の光の圧力は凄まじくなり、ある距離で均衡して、それ以上進めなくなってしまった。
「今度こそ、終わりです」
対して女神アリュシーダは、その状況から勝利を確信したように告げる。
今正に、それの顕現体が崩壊するよりも遥かに速く崩れていく雄也達の体。
先程の攻防の時でさえ、雄也達の方が先に消滅したのだ。
現在、更に消耗の激しい状態にある以上、確実に女神アリュシーダには余力が残る。
そして障害物たるこの身がなくなってしまえば、何の苦もなく核を撃ち抜かれるだけ。
あちらもそう判断したが故に、そう言い切ったのだろう。
(まだ……この体は持つ)
防御を疎かにし、女神アリュシーダの攻撃がこの身を貫いてしまえば核を傷つけられてしまいかねない。
故に魔力の配分を防御寄りにしていた。
だが、ここに至ってはもう少しだけ。
無限色の光から己の体を守る力を減らしても、まだ耐えられるはずだ。
いや、耐えてみせる。
既に崩れつつあるこの身。今更少しぐらい傷が増えたところで構わない。
だから、その分だけ推進力を強め……。
「お、おお、おああああああああああっ!!」
それによって僅かずつ均衡が崩れ出す。
引き延ばされた認識の中で、じりじりと女神アリュシーダの姿が近づく。
(く、う)
それに伴い、右足が先の方から無限色の光に飲まれ、消え去っていく。
仮初の肉体故に痛みも最小限に減じられているが、その感覚に慣れることはない。
消滅の感覚はおぞましい。
「…………無駄な足掻きを」
それでも進み続ける雄也に、女神アリュシーダは冷淡に告げた。
その攻撃が届き、この女神アリュシーダを倒すことができたとしても結局は新たな体を伴って再生する。
それからすれば、もう一度やり直せばいいだけの話に過ぎない。
その事実に裏打ちされた言動。
…………だからこその油断だ。
(この一撃は――)
そもそも女神アリュシーダを倒すための攻撃ではない。
既に右足は膝から下が砕け散り、もはや真っ当な威力などないだろうが構わない。
ただ近づくため。
それ以外の意図などありはしないのだから。
「あああっ!!」
そして女神アリュシーダへと届く距離に至り――。
「だあっ!」
雄也は、崩れかかってこそいるがまだ形は保っている左足で無限色の光を放出し続けているそれの手を蹴り上げた。
その蹴りに弾かれた腕の動きに従い、光の線が空に浮かぶ雲を切り裂いていく。
その様に一瞬女神アリュシーダが視線を逸らした瞬間、その隙を突いて雄也は右手を伸ばした。
リスクを犯してまで接近したのは全てこの時のため。
その手で女神アリュシーダの顕現体に触れるためだ。
全身全霊を以って伸ばした手はそれに届き……。
《Unite》
最後の一手。
ツナギのMPドライバーの機能たる融合を使用した。
「な、何を」
虚を突かれ、狼狽する女神アリュシーダ。
互いの今のあり方故に、覆すことのできない力の差が存在している。
そのため、半端な形での融合にしかならないことは分かっている。
だが、たとえ一部分でも浸食することができれば、それでいい。
その部分から力を無理矢理汲み上げ、更に融合の領域を広げるための力としていく。
互いに崩れつつある脆弱な体。
だが、各々の根源と繋がった実体であることに変わりはない。
接触した部分を通じ、一気に核と核とを融合させんと試みる。
「ま、まさか」
雄也達が何をしているのか。
女神アリュシーダが完全に理解する前に少しでも領域を広める。
「やめ――」
やがてそれは抵抗を始めるが、融合においては雄也達に一日の長がある。
雄也を含め、九人分の処理能力もある。
突然、内側での領域争いに移行させられたそれに防ぐ術を整える時間はない。
そして遂には、雄也達が力を得られる領域は女神アリュシーダの全域に広がった。
それと同時に、役目は終わったと言うように雄也達の体は消え去り、少し遅れて女神アリュシーダの実体もまた崩れ去っていく。
『こ、こんなことをしても、私を滅ぼすことなど不可能です』
融合により、直接意識に響いてくる女神アリュシーダの言葉。
その声の色は焦燥に染まっているが、それの言うことに間違いはない。
そもそも女神アリュシーダたる全て、世界の全てから雄也達もまた力を得られるようになったところで、同じところに力の起源を持つそれとは互角にしかならない。
諸共に死ぬことは可能かもしれないが、世界もまた滅んでしまう以上何の意味もない。
どう足掻いても、今の雄也達には女神アリュシーダを討つことはできない。
『けど、お前を抑え込むことはできる』
女神アリュシーダの理、秩序の束縛が世界を覆い尽くさないように。
互角に至った力でそれを封じる。
それができれば雄也達の勝利だ。
『愚かな。貴方達は今、世界を滅ぼす引金を引いたのです』
『いいや。不当な束縛が失われ、人々が自由に生きていく世界になるだけだ』
ぶつけ合う主張は無意味。
どこまで行っても議論は平行線。
対話で説得することは、今は互いに不可能だろう。
同じ高みにあることで言葉は届くとしても。
だから……。
『話になりませんね』
『ああ、そうだな。……なら、女神アリュシーダ。賭けをしようか』
雄也はそれにそう提案した。
『賭け? 何を言って――』
『実際に人類が自由を得たら、自滅してしまうのか、あるいは自滅せずに世界は存続し続けるのか。勿論、俺は自滅しない方に賭ける』
強い苛立ちと共に問い質さんとする女神アリュシーダを遮って告げる。
『それに何の意味があるというのですか』
『もし自滅の兆候が本当に見られたら、俺達は揺らぐだろう』
女神アリュシーダと融合し、力だけならそれと匹敵するレベルに至った。
しかし、雄也達はあくまでも人間。
その心は脆い。
強く強く信念を保ち続けようとしても、実際に世界が終わりかければ自分は間違えてしまったのではないかと己を疑ってしまうこともあるはずだ。
そうなれば、女神アリュシーダを抑え込む力は弱まってしまうだろう。
『もう俺達の戦いは力の強さじゃない。どれだけ自分の意思を貫けるかだ』
言わば、精神力の勝負。
どちらの言葉が正しいか。それをどこまで信じられるか。
そういう勝負だ。
『だから、賭けをしよう。俺が勝ったら、お前はこれ以上何の干渉もせず黙って人間を見守り続ける。お前が勝ったら……お前の好きにしろ』
『……元より今の私に選択肢はありませんが、いいでしょう』
声から苛立ちは消え、女神アリュシーダは了承の意を口にする。
一定の理解はしてくれたらしい。
やむにやまれず、という感じではあるが。
『自由の果ての滅び。混沌の世界が苦痛に溢れる様を見るのは業腹ですが、そうした人間の姿を見て絶望し嘆く貴方が私に縋りつくのを待つことにします』
そして、それは絶対の自信を示すように続け――。
『人間が幸福を得るために必要なのは、完全なる秩序なのですから』
改めて自身の主張を繰り返し、そう締め括った。
『まあ、一定の秩序が必要なのは同意するけどな』
対して雄也もまた最後に己の考えを告げる。
人間の自由を守るとは言っても、誰も彼も欲望のままに暴虐の限りを尽くしても構わないという訳ではない。そんなことは考えていない。
『だけど、自由なき秩序は歪んだ束縛だ』
秩序という言葉に込めた意味も違う。
『人間の幸福に必要なのは、混沌の中に生まれてくる自発的な秩序。互いの自由を最大限尊重できる社会だ。人間はきっとそれを作り出せる』
雄也が思う秩序は、人間が人間のために自らの意思で生み出したもの。
決して押しつけられたものではない。
たとえこの世の善悪が立場で変わる曖昧なものであったとしても、人類に理性、良識というものがある限り、人間はそうした世界を目指して生きていくはずだ。
正しいかどうかではなく、合理的であるが故に。
『そう俺は信じる』
強く強く雄也は言い切った。
『そうですか』
それを受け、女神アリュシーダが少しだけ口調を柔らかくした。
何となく、微笑んだ気がした。
その意味は分からない。
嘲笑や冷笑かもしれない。一種の感嘆かもしれない。
神たるもの。そうそう容易く理解できるものではないだろう。
これから長いつき合いになる。
少しぐらいなら相互理解の努力をしてもいいかもしれない。
『時は永遠。貴方達は未来永劫揺らいではならない。圧倒的に不利な賭けです』
『それでも、俺達が勝つさ』
『では、見届けましょう』
『ああ。見届けよう』
そして聞こえなくなる女神アリュシーダの声。
存在は感じる。
必要があれば対話もできるだろうが、今はこれで区切りということだろう。
少しの間だけこの結末を噛み締めるようにし、それから雄也は口を開いた。
『皆――』
『野暮なことは言いっこなしだよ』
つき合わせて申し訳ないと改めて言おうとしたのを、フォーティアに遮られる。
『納得の上でのことですから』
『むしろ成し遂げた感がありますわ』
続いて、いっそ清々しい様子でイクティナとプルトナが言う。
『この状態も興味深いし』『いろいろ研究しがいがありそうね』
『そもそも、賭けは賭けとして留まるつもりもないのだろう?』
頭脳担当のメルとクリア、ラディアがその観点から告げると共に問いかけてくる。
雄也達が賭けに負けたら女神アリュシーダに好きにしろとは言ったが、その時雄也が何もしないとは一言たりとも言っていない。
勿論、それまで何もせずに傍観するとも。
進化の因子。
果てなく、自由に進歩を求める心。
それがある限り、いつか女神アリュシーダを超えることも不可能ではないと信じる。
あらゆる枷を振り切って。
『……行こう。どこまでも』
『いつまでも一緒に、自由に』
『ああ!』
アイリスとツナギの言葉にそう応じ、雄也はこれから先の未来、彼女達との道行き、人間が紡ぐ明日の世界に思いを馳せた。
***
その日。
女神アリュシーダは封印され、それに挑んだ者は行方知れずとなった。
進化の因子を奪い去る理は失われ、秩序を保たんとする女神の祝福も消え去った。
全ての人々に進化の因子が取り戻される日はそう遠くなく、自由意思を以って各々行動の選択を行っていくことになるだろう。
そして世界は――。
***
「おおおおおおおおおおっ!!」
その嫌な感覚を抑え込むように叫びながら、ただ女神アリュシーダを目指す。
右足の一点に込めた限界以上の力を以って、無限色の光を受け止めながら。
同時に発動させている〈六重強襲過剰強化〉による推進力と姿勢制御を用いて。
しかし、相手に近づけば近づく程に無限色の光の圧力は凄まじくなり、ある距離で均衡して、それ以上進めなくなってしまった。
「今度こそ、終わりです」
対して女神アリュシーダは、その状況から勝利を確信したように告げる。
今正に、それの顕現体が崩壊するよりも遥かに速く崩れていく雄也達の体。
先程の攻防の時でさえ、雄也達の方が先に消滅したのだ。
現在、更に消耗の激しい状態にある以上、確実に女神アリュシーダには余力が残る。
そして障害物たるこの身がなくなってしまえば、何の苦もなく核を撃ち抜かれるだけ。
あちらもそう判断したが故に、そう言い切ったのだろう。
(まだ……この体は持つ)
防御を疎かにし、女神アリュシーダの攻撃がこの身を貫いてしまえば核を傷つけられてしまいかねない。
故に魔力の配分を防御寄りにしていた。
だが、ここに至ってはもう少しだけ。
無限色の光から己の体を守る力を減らしても、まだ耐えられるはずだ。
いや、耐えてみせる。
既に崩れつつあるこの身。今更少しぐらい傷が増えたところで構わない。
だから、その分だけ推進力を強め……。
「お、おお、おああああああああああっ!!」
それによって僅かずつ均衡が崩れ出す。
引き延ばされた認識の中で、じりじりと女神アリュシーダの姿が近づく。
(く、う)
それに伴い、右足が先の方から無限色の光に飲まれ、消え去っていく。
仮初の肉体故に痛みも最小限に減じられているが、その感覚に慣れることはない。
消滅の感覚はおぞましい。
「…………無駄な足掻きを」
それでも進み続ける雄也に、女神アリュシーダは冷淡に告げた。
その攻撃が届き、この女神アリュシーダを倒すことができたとしても結局は新たな体を伴って再生する。
それからすれば、もう一度やり直せばいいだけの話に過ぎない。
その事実に裏打ちされた言動。
…………だからこその油断だ。
(この一撃は――)
そもそも女神アリュシーダを倒すための攻撃ではない。
既に右足は膝から下が砕け散り、もはや真っ当な威力などないだろうが構わない。
ただ近づくため。
それ以外の意図などありはしないのだから。
「あああっ!!」
そして女神アリュシーダへと届く距離に至り――。
「だあっ!」
雄也は、崩れかかってこそいるがまだ形は保っている左足で無限色の光を放出し続けているそれの手を蹴り上げた。
その蹴りに弾かれた腕の動きに従い、光の線が空に浮かぶ雲を切り裂いていく。
その様に一瞬女神アリュシーダが視線を逸らした瞬間、その隙を突いて雄也は右手を伸ばした。
リスクを犯してまで接近したのは全てこの時のため。
その手で女神アリュシーダの顕現体に触れるためだ。
全身全霊を以って伸ばした手はそれに届き……。
《Unite》
最後の一手。
ツナギのMPドライバーの機能たる融合を使用した。
「な、何を」
虚を突かれ、狼狽する女神アリュシーダ。
互いの今のあり方故に、覆すことのできない力の差が存在している。
そのため、半端な形での融合にしかならないことは分かっている。
だが、たとえ一部分でも浸食することができれば、それでいい。
その部分から力を無理矢理汲み上げ、更に融合の領域を広げるための力としていく。
互いに崩れつつある脆弱な体。
だが、各々の根源と繋がった実体であることに変わりはない。
接触した部分を通じ、一気に核と核とを融合させんと試みる。
「ま、まさか」
雄也達が何をしているのか。
女神アリュシーダが完全に理解する前に少しでも領域を広める。
「やめ――」
やがてそれは抵抗を始めるが、融合においては雄也達に一日の長がある。
雄也を含め、九人分の処理能力もある。
突然、内側での領域争いに移行させられたそれに防ぐ術を整える時間はない。
そして遂には、雄也達が力を得られる領域は女神アリュシーダの全域に広がった。
それと同時に、役目は終わったと言うように雄也達の体は消え去り、少し遅れて女神アリュシーダの実体もまた崩れ去っていく。
『こ、こんなことをしても、私を滅ぼすことなど不可能です』
融合により、直接意識に響いてくる女神アリュシーダの言葉。
その声の色は焦燥に染まっているが、それの言うことに間違いはない。
そもそも女神アリュシーダたる全て、世界の全てから雄也達もまた力を得られるようになったところで、同じところに力の起源を持つそれとは互角にしかならない。
諸共に死ぬことは可能かもしれないが、世界もまた滅んでしまう以上何の意味もない。
どう足掻いても、今の雄也達には女神アリュシーダを討つことはできない。
『けど、お前を抑え込むことはできる』
女神アリュシーダの理、秩序の束縛が世界を覆い尽くさないように。
互角に至った力でそれを封じる。
それができれば雄也達の勝利だ。
『愚かな。貴方達は今、世界を滅ぼす引金を引いたのです』
『いいや。不当な束縛が失われ、人々が自由に生きていく世界になるだけだ』
ぶつけ合う主張は無意味。
どこまで行っても議論は平行線。
対話で説得することは、今は互いに不可能だろう。
同じ高みにあることで言葉は届くとしても。
だから……。
『話になりませんね』
『ああ、そうだな。……なら、女神アリュシーダ。賭けをしようか』
雄也はそれにそう提案した。
『賭け? 何を言って――』
『実際に人類が自由を得たら、自滅してしまうのか、あるいは自滅せずに世界は存続し続けるのか。勿論、俺は自滅しない方に賭ける』
強い苛立ちと共に問い質さんとする女神アリュシーダを遮って告げる。
『それに何の意味があるというのですか』
『もし自滅の兆候が本当に見られたら、俺達は揺らぐだろう』
女神アリュシーダと融合し、力だけならそれと匹敵するレベルに至った。
しかし、雄也達はあくまでも人間。
その心は脆い。
強く強く信念を保ち続けようとしても、実際に世界が終わりかければ自分は間違えてしまったのではないかと己を疑ってしまうこともあるはずだ。
そうなれば、女神アリュシーダを抑え込む力は弱まってしまうだろう。
『もう俺達の戦いは力の強さじゃない。どれだけ自分の意思を貫けるかだ』
言わば、精神力の勝負。
どちらの言葉が正しいか。それをどこまで信じられるか。
そういう勝負だ。
『だから、賭けをしよう。俺が勝ったら、お前はこれ以上何の干渉もせず黙って人間を見守り続ける。お前が勝ったら……お前の好きにしろ』
『……元より今の私に選択肢はありませんが、いいでしょう』
声から苛立ちは消え、女神アリュシーダは了承の意を口にする。
一定の理解はしてくれたらしい。
やむにやまれず、という感じではあるが。
『自由の果ての滅び。混沌の世界が苦痛に溢れる様を見るのは業腹ですが、そうした人間の姿を見て絶望し嘆く貴方が私に縋りつくのを待つことにします』
そして、それは絶対の自信を示すように続け――。
『人間が幸福を得るために必要なのは、完全なる秩序なのですから』
改めて自身の主張を繰り返し、そう締め括った。
『まあ、一定の秩序が必要なのは同意するけどな』
対して雄也もまた最後に己の考えを告げる。
人間の自由を守るとは言っても、誰も彼も欲望のままに暴虐の限りを尽くしても構わないという訳ではない。そんなことは考えていない。
『だけど、自由なき秩序は歪んだ束縛だ』
秩序という言葉に込めた意味も違う。
『人間の幸福に必要なのは、混沌の中に生まれてくる自発的な秩序。互いの自由を最大限尊重できる社会だ。人間はきっとそれを作り出せる』
雄也が思う秩序は、人間が人間のために自らの意思で生み出したもの。
決して押しつけられたものではない。
たとえこの世の善悪が立場で変わる曖昧なものであったとしても、人類に理性、良識というものがある限り、人間はそうした世界を目指して生きていくはずだ。
正しいかどうかではなく、合理的であるが故に。
『そう俺は信じる』
強く強く雄也は言い切った。
『そうですか』
それを受け、女神アリュシーダが少しだけ口調を柔らかくした。
何となく、微笑んだ気がした。
その意味は分からない。
嘲笑や冷笑かもしれない。一種の感嘆かもしれない。
神たるもの。そうそう容易く理解できるものではないだろう。
これから長いつき合いになる。
少しぐらいなら相互理解の努力をしてもいいかもしれない。
『時は永遠。貴方達は未来永劫揺らいではならない。圧倒的に不利な賭けです』
『それでも、俺達が勝つさ』
『では、見届けましょう』
『ああ。見届けよう』
そして聞こえなくなる女神アリュシーダの声。
存在は感じる。
必要があれば対話もできるだろうが、今はこれで区切りということだろう。
少しの間だけこの結末を噛み締めるようにし、それから雄也は口を開いた。
『皆――』
『野暮なことは言いっこなしだよ』
つき合わせて申し訳ないと改めて言おうとしたのを、フォーティアに遮られる。
『納得の上でのことですから』
『むしろ成し遂げた感がありますわ』
続いて、いっそ清々しい様子でイクティナとプルトナが言う。
『この状態も興味深いし』『いろいろ研究しがいがありそうね』
『そもそも、賭けは賭けとして留まるつもりもないのだろう?』
頭脳担当のメルとクリア、ラディアがその観点から告げると共に問いかけてくる。
雄也達が賭けに負けたら女神アリュシーダに好きにしろとは言ったが、その時雄也が何もしないとは一言たりとも言っていない。
勿論、それまで何もせずに傍観するとも。
進化の因子。
果てなく、自由に進歩を求める心。
それがある限り、いつか女神アリュシーダを超えることも不可能ではないと信じる。
あらゆる枷を振り切って。
『……行こう。どこまでも』
『いつまでも一緒に、自由に』
『ああ!』
アイリスとツナギの言葉にそう応じ、雄也はこれから先の未来、彼女達との道行き、人間が紡ぐ明日の世界に思いを馳せた。
***
その日。
女神アリュシーダは封印され、それに挑んだ者は行方知れずとなった。
進化の因子を奪い去る理は失われ、秩序を保たんとする女神の祝福も消え去った。
全ての人々に進化の因子が取り戻される日はそう遠くなく、自由意思を以って各々行動の選択を行っていくことになるだろう。
そして世界は――。
***
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
549
-
-
3087
-
-
75
-
-
58
-
-
4
-
-
127
-
-
4
-
-
4112
-
-
124
コメント