【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~

青空顎門

第二十五話 脱却 ③力を繋げて(物理)

「確かに、随分とマシになった」

 愉快そうに称賛を口にするラケルトゥス。
 彼の言う通り、ラディアとの連携は先程までより遥かに向上している。
 雄也の攻撃の未熟な部分を埋めるように的確に支援をしてくれる彼女のおかげで、実際のところ均衡を保つという点においては容易になった。しかし――。

「付け焼刃と言ったことだけは取り消そう」

 そうやって敵を褒めることができるということは、未だ余裕がある証左でもある。
 事実、均衡を破って反撃するとなると決め手に欠けているのが現状だ。

「だが、もっとだ。もっと強く。もっと激しく戦え!」

 ラケルトゥスは、正に戦いを楽しんでいるかのように喜色を強めて煽ってくる。
 彼を含め、六大英雄は誰も彼も戦闘狂にも程がある。
 正直つき合い切れない。
 が、降りかかる火の粉は払わなければならない。
 それが他者の自由を侵害する一因ともなれば尚更のこと。

(こいつがここにいる限り、ティアを救うことはできない)

 いつまで経っても操られたままというのは余りにも酷だ。
 とにかく、状況を打破する必要がある。

(〈五重クインテット強襲アサルト過剰エクセス強化ブースト〉を使うか?)

 そうすれば一時的にラケルトゥスを上回ることは不可能ではないはずだ。
 ラディアの援護を加えれば、より確実に。

(……いや、駄目だ)

五重クインテット強襲アサルト過剰エクセス強化ブースト〉は絶大な力を発揮するのと引き換えに、激しい負荷によってほとんど行動不能の状態に陥ってしまうのだ。
 よしんば彼を撃退できたとして、何かしら想定外の事態が起こったら対処できない。
 そのせいで以前イクティナに大きな負担をかけてしまったこともある。

(どうする?)

 そうやって次なる対応に苦慮していると――。

「迷いが動きに出ているぞ!!」

 英雄とまで謳われた達人には当然見抜かれ、より激しく攻勢に出たラケルトゥスに対して防戦一方となってしまう。

「ちっ」

 大斧が薙ぐように迫り来る。角度とタイミングからして回避は危うい。
 だから雄也は大鎚の頭部を盾に刃を受けることで何とか威力を殺しつつ、ほぼ間髪容れずに柄を手放して後退した。

《Sledgehammer Assault》

 そして再度武装し、彼我の間合いを戻そうとする。
 その時には既に、ラケルトゥスもまた大斧を放り捨てて突っ込んできていた。
 少し前の攻防の繰り返しになるという予測が一瞬頭を過ぎる。

「同じ手は通用せんぞ!」

 しかし、その考えは直後の彼の言葉と行動で打ち砕かれた。
 先の再現とすれば、彼もまた大斧を生成し直したはず。
 だが、実際にはそうせず、雄也が武器を構え直す前に徒手のまま殴打を繰り出してきた。

(くっ、間に合わない!)

 その事実が頭を見たし、一瞬思考がフリーズしそうになる。
 重量武器が相手だったからこそ、同じ重量武器で対処できたに過ぎないのだ。
 虚を突かれた状態で達人の拳を大鎚で素早く受け止めることなど、輪をかけて不可能だ。

『ユウヤ!!』

 とは言え、今雄也は一人で戦っている訳ではない。
 それで即座に敗北とはならない。

《Final Multiple-Wired-Artillery Assault》
「アージェントアサルトスパークル!」

 ラケルトゥスの殴打が眼前に迫る中、電子音とラディアの鋭い声が耳に届く。
 と同時に、強大な魔力を帯びた光線が彼女の操る有線砲台から放たれた。
 魔力無効化を突破するため、砲口でラケルトゥスの横顔を殴りつけるようにしながら。

「ぬ、おおっ!」

 拳に勢いが乗り切った状態の彼を狙った一撃。
 タイミングは絶妙で、並の相手なら回避はできないだろう。
 だが、相手は六大英雄。
 空いている手で砲台を叩き、射線自体を逸らしてしまう。
 それでも僅かに動きが鈍ったのは事実で、雄也は何とか彼の拳に大槌を間に合わせることができた。

「〈マルチオーバーレイ〉!」

 そして一瞬力が釣り合って動きが止まったラケルトゥスに対し、ラディアは複数の砲台を突撃させつつ、それぞれから強烈な光線を撃ち出した。
 当然接射でなければダメージが通らないため、そうしながらも彼女はラケルトゥスに直接砲口を叩きつけんと操作し続ける。
 対してラケルトゥスは瞬時に拳を引いて釣り合いを崩し、飛び退った。

(今っ!)

 そこで仕切り直させないように、一旦引き下がったりせずに彼を追って突っ込む。

《Final Sledgehammer Assault》
「レゾナントアサルトクラッシュ!」

 追いかけつつ、大槌を大上段に構えてラケルトゥスに振り下ろす。

「〈マルチオーバーレイ〉!」

 同時にラディアが回避の余地を潰すように、追撃を仕かけた。

《Greataxe Assault》

 それを前にラケルトゥスは大斧を再度手にするが、タイミング的に今度こそ避けることはできない。如何に六大英雄たる男であろうとも。

「おおおおおおお――」

 だが、六大英雄だからこそと言うべきか、彼はラディアの攻撃を全く無視し、雄也の一撃にのみ視線を向けて大斧の刃をぶち当ててきた。

「おおおあああああああああっ!!」

 ようやく余裕を捨て去ったかのように鋭く叫びながら。
 冷徹な取捨選択に恐ろしさすら感じる。
 しかし、さすがに武装に蓄えられた魔力の差は大きく、威力を相殺し切れなかったようだ。大斧の刃は衝撃に耐えられずに砕け散る。

(よし。追撃を!)

 それを目にして、優位に立ったと思った正にその次の瞬間――。

「どおああっ!!」

 大鎚がラケルトゥスの体に届く前に、雄也は顎を彼の拳で強打されてしまった。

「がはっ!?」
『ユウヤッ!?』

 一瞬意識が揺らぐ。それでもラディアの呼びかけで何とか繋ぎ止め、雄也は無理矢理にでも大鎚を叩きつけんと振り回した。
 だが、その時にはラケルトゥスは大きく間合いを取っていて、その攻撃は空振りに終わるのみだった。
 どうやら一撃貰った雄也に気を取られ、ラディアは僅かに包囲を乱してしまったようだ。
 先程の反撃と言い、小さな活路を確実に掴み取る辺りは、やはり六大英雄と呼ばれるだけのことはある。

「このヒヤリとする感覚。これこそ生の実感というものだ。さあ、もっと味わわせてくれ!」

 ダメージがゼロという訳ではないだろう。
 だが、そうと見せない言葉、姿は脅威だ。
 こちらも無傷ではない以上、今の攻防は痛み分けというところか。

(ラディアさんのおかげで形勢は逆転してる。けど、その度合いは微々たるものだ。どうしても決め手に欠ける)

 均衡状態に陥っている訳ではない。
 むしろ多少押し気味だ。が、それだけに焦れてくる。
 ラディアと共に紙一重のところを攻め続けているだけに、精神的な負担が大きい。

『ユウヤ。どうにも後一歩が足りん』

 ラディアも同じ感覚を抱いているのか、〈テレパス〉でそう伝えてくる。

『……はい』
『私の攻撃にもう少し重みがあればよかったのだがな……』

 雄也の同意に、彼女はやや自虐気味に言って更に続ける。

『しかし、今はそんな分析をしている場合ではない。済まないが、お前に託していいか?』
『やりようがあるなら、何でもします。任せて下さい』

 申し訳なさそうに問うラディアに雄也は即答した。
 優先すべきは状況の打破だ。
 多少負担が増えるだけでそれが可能になるなら、むしろ御の字だ。

『ならば――』

 そして彼女の策を聞く。
 それは十分納得できるもので、だから雄也は頷いて再びラケルトゥスへと駆けた。

《Twingreataxe Assault》

 対して彼は大斧を両手に生成し、待ち構える。
 見た目では威圧感が先行しただけの悪手のようにも見えるが、オルタネイトの力があれば重量武器を片手で扱うのは不可能ではない。
 単純に脅威が二倍になったと言っていい。

「さあ、次は何を見せてくれる?」

 何より、声色こそ楽しげであるものの全く以て隙が感じられない。空気が違う。

「次は、お前の敗北を、見せてやるよ」

 それでも彼の問いにそう不敵に答えてやる。何故なら――。

『行くぞ、ユウヤ!』

 ラディアの策ならば、その脅威も容易く乗り越えられると確信しているからだ。

《Wired-Gauntlet Assault》

 間髪容れずに鳴った電子音の直後、彼女は新たに己の装甲と有線で接続された武装を生み出し、こちらへと飛ばしてくる。
 その形は雄也がいつも使用しているミトンガントレット。
 色は彼女が製作者と分かるように白銀だ。

「〈オーバーフィジカルブースト〉!」

 大鎚を捨てて雄也がそれを両手に装備した正にその瞬間、ラディアはそう叫んで魔法を発動させる。と、その線を伝って彼女の光属性の魔力が体に流れ込んできた。
 結果、肉体と相性がいいそれが、全て雄也の身体強化に用いられる。

「疑似〈六重セクステット強襲アサルト強化ブースト〉!」

 それを自身の身体強化と混ぜ合わせ、一気に全身に浸透させていく。
 技量で劣るのは分かっている。
 小手先の工夫でラケルトゥスの隙を見出すことなどできはしないだろう。
 ならば、手は一つ。単純極まりない。
 身体能力で上回る。これしかない。

「何っ!?」

 ラディアの魔力を加えたその速度は〈五重クインテット強襲アサルト過剰エクセス強化ブースト〉以上。
 しかも、〈オーバーフィジカルブースト〉のおかげで基礎的な頑強さも向上しているため、負担なく同等の力を発揮できる。
 先程までとは比べものにならない動きを前に、さしものラケルトゥスは急激な変化についてくることができなかったようだ。

(今度こそ!)

 そして彼が体勢を整える前に、その懐に飛び込む。

「〈マジックギムレットオブフレイム〉」
《Final Arts Assault》

 そのまま魔力の道を作り、ラディアの魔力に満ちた手甲に己の力も集中させ――。

「うおりゃあああああああっ!!」

 技の名を叫ぶような余裕もなく、雄也は全力で拳をラケルトゥスに叩き込んだ。

「ぐ、がああああっ!!」

 その一撃は、確かに雄也がかつて出したことのない威力を秘めていたようだ。
 ラケルトゥスは苦痛を全て吐き出さんとするように叫喚する。しかし……。

(くそっ、外された!)

 裏を返せば未だ叫ぶ力は残っているということだ。
 もし急所にしっかりと命中していれば、如何に六大英雄とて命を落としていたはず。
 それがこの程度で済んでしまったのは、ラケルトゥスが直撃する直前に体を逸らし、雄也の殴打を左肩で受け止めたからだ。

(もう一発だ!)

 だから雄也は即座にもう一方の拳を振りかざした。
 魔力を収束していなくとも、ラディアの魔力を上乗せした身体能力ならば素の攻撃でも確かなダメージを与えることができる。
 このまま押し切れれば、ここで彼を討ち果たすことも不可能ではない。
 だが…………敵は幾度も修羅場を潜り抜けてきたであろう英雄だ。

「ぐおおおおおおおおおおおおっ!!」

 ラケルトゥスは力を捻り出すように絶叫しながら、無事な右手に持った大斧を地面に叩きつけた。その衝撃波と巻き起こった砂塵によって、一瞬視界が遮られる。
 それでも無理矢理に拳を振るうが、空を切るのみ。手応えは全くなかった。
 そして視界が万全に戻った時には、既にラケルトゥスは姿を消していた。
 どうやら転移してしまったようだ。

『今日は貴様らの勝ちだ。だが……次はこの力を一人で出せるようになることだな』

 そう捨て台詞を残して。
 その字面は完全に負け惜しみのそれだが、これまでのことを考えると紛うことなき彼らの総意ではあるのだろう。

『ユウヤ、ティアが!!』

 と、息をつく暇もなく脳裏にプルトナの声が響き、雄也はハッとしてフォーティアの方へと駆け出した。
 まだ事態は終息していない。

《Final Glaive Assault》

 そうして彼女達の元へと至った時、フォーティアは有線砲台による拘束を振り解き、今正にラディアへと襲いかからんとしていた。

「しまっ――」

 ラケルトゥスとの戦いに意識の大部分を割いていたためだろう。
 フォーティアを縛っていたそれらが僅かなりとも緩み、同じ理由で不可避的に攻撃への対応が遅れてしまい、ラディアは薙刀の餌食になろうとしていた。

「やめろ、ティア!!」

 制止の声は無意味。だが、そう叫びながら雄也は突っ込んでいき、未だ体に残るラディアの魔力で向上したままの身体能力に任せて両者の間に無理矢理入り込んだ。
 そのままフォーティアの武装を叩き落とし、一気に羽交い締めにして改めて拘束する。
 当然抵抗されるが、技量の差を容易く覆せるだけの力を前には無意味だ。
 体内の魔力が維持されている限りは。

「ラディアさん!」

 だから、雄也はそれが残る間に全てを終わらせようと促した。

「あ、ああ!」

 するとヒヤリとして動揺していたのか、ラディアはやや焦り気味に応じる。
 しかし、彼女はすぐに冷静な判断力を取り戻し、フォーティアの体に手を伸ばした。

「今、解放してやるぞ。ティア」

 そしてラディアの言葉と共に互いに目で合図をし、そのための魔法を同時に発動させる。

「〈オーバーライトディスペル〉!」
「〈マジックギムレットオブフレイム〉〈オーバーダークディスペル〉!」

 白銀と漆黒。
 二色の魔力の煌きが、魔力の道を通じてフォーティアの体に吸い込まれていく。

「あ……」

 その途端、彼女は拘束を振り解かんとする動きを完全に止め、糸の切れた人形のように力なく雄也に体を預けてしまった。

《Return to Drakthrope》《Armor Release》

 同時に真紅の装甲が消失し、目を閉じてピクリとも動かないフォーティアの姿が現れる。


「ティア!?」

 その様子に失敗の二文字が脳裏を過ぎり、雄也は慌てて彼女を支えるように強く抱きかかえ、名前で呼びかけながら体を揺らした。

「落ち着け。ユウヤ」

 すると傍に来たラディアにそう諭され、顔を上げて彼女を見る。
 ラディアはフォーティアの顔を指差しながら更に言葉を続けた。

「気を失っている……と言うか、眠っているだけだ。疲れ果てているのだろう」

 言われて改めてフォーティアをよく見る。と、装甲がなくなった瞬間こそ無表情だったが、今は何とも呑気な寝顔になっている。ちゃんと寝息も立てている。
 それどころか「ふへへ」と殴りたいにやけ顔になる始末だ。
 その内、いつもの寝相の悪さが出てきそうな感じだ。

「……はあぁ」

 いずれにせよ、こんな反応をする者が操り人形のはずがない。
 だから、無事彼女を解放できたと確信し、雄也は深く安堵のため息をついた。

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