当て逃げされなかった!!っていう日常

石ノ森 槐

第6話  仲間の女将さん

「食べたいもの決まった?」
「あ、はい。」
美紀さんの声に顔を上げると、いつの間にかたすきをかけたアクティブな姿で私の手元をのぞき込んでいた。

私は、さっきから気になっていた一品のページを開いた。
「この揚げ豆腐……おいしそうです。」
「あぁ、これね!結構女性に人気なのよ。熱いけど猫舌じゃない?」
「はい。お願いします。」

私が思わず笑顔になると、美紀さんもそれに合わせてにっこり微笑んだ。
「あぁ、そういえばね?……オブラートに包むの苦手だから率直に聞くんだけどね?いやだったら無理して答えなくていいからね?」
しばらくすると、美紀さんはトントンと野菜を切る音を立てながら口を開いた。


「あのね?その服……何があったの?」
「……あぁ、これですか。やっぱり汚いですよね。」
「違う!そうじゃなくて……。今どきの女子高生とは言え、さすがに泥遊びをするって感じじゃないだろうなって……汚れ方も、ね?」

「……はい。」
「何があったの?」
きっと何か見抜かれてるんだろうな……。とはいえ、全部言うわけにもいかないし……。
「もしかして、京が何か気に入らないことでも……?」
「いえいえ!!京さんはとてもやさしいですから!!……その……これは友達の話なんですけど……。」

京さんの名前を出した美紀さんはまさに鬼の形相でここが血の池になるかもしれないと思って、私はやむを得ずに私の友達の話というていで事情を話すことにした。

正直言って、めちゃめちゃあり触れた嘘の言い方だった気もするけど、美紀さんはフムフムと頷いて聞いてくれた。
「なるほどねぇ。確かに女のひがみ妬みは怖いからねぇ。」
「やっぱりそうでしょうか……。」
「うん、これからいろいろ仕掛けてくるかもしんないから、気を落とさずに今起きてる目の前の事の解決にだけ努めて!!」

やっぱり私の事だってバレてたみたい……。
「……はい。」
私は、美紀さんの助言を頭に置いておくことにした。

すると背後からコツコツと足音が聞こえてきた。
「こ~ら。私の事置いてけぼりで何話してんの?」
少し膨れた顔をして私の顔を覗き込んだ京さんは私の隣にトスンと腰を下ろした。

「え~?女子トーク!男は入ってきちゃいっけませ~ん!」
「あらヤダ失礼しちゃう!!私だって心は純粋無垢な女の子なんですぅ~。」
「嘘つけ、あんた両生類じゃない。」
「人の事カエルみたいに言わないでくれる?」

「フフッ。」
二人の掛け合いがついツボで、私は吹き出してしまった。
すると、二人は私の顔を見てからにっこりと笑った。

「よかった。やっと自然な笑顔見れたわ。」
「えぇ。さっきの塩菜みたいなしゅんとした顔の時は心配しちゃったんだから!!」

こうやって心配してくれる姿を見ていると、本当のお姉さんが2人できたみたいで、正直本当に心が強くなれた気がした。

その後、すぐに私のおなかの音に合わせて揚げ豆腐が出来上がった。
揚げ豆腐には辛めの肉みそと白髪ねぎが乗っていて、もう見た目と香りだけでおいしい。もちろん食べたけど!!

美紀さんにお礼を言ってから、京さんに改めて家に送ってもらうことになった帰り道。
「で?美紀と話してたのって、今日あったこと?」
「ッ!?」
徐に聞かれて私はびくっと顔を上げた。

「うん、私が頼んだのよ。」
「へ……?」
赤信号に差し掛かって車が停止した。
京さんの目がこちらに向き直った。
「ねぇ、周ちゃん?」
「……はい。」
「こんなこと言う資格があるか分からないけど……ちゃんと頼ってね……私以外でもいいから。」

そんなことを言う京さんの顔は私よりもずっと辛そうで、そんな顔を見たせいで私の顔もきっと……。
「何のことか分かんないですけど大丈夫ですよ!!さっきのは本当に女子トークだったんです。」
苦し紛れの言い訳で、京さんにもバレているんだと思う。でもここまでいろいろしてもらってて、今さらどうこうしてもらいたくない。
そんなの駄目だよ。

私が目を逸らすためにうつむくと、頭にぽふっと手を乗せられた。
「周がそう思うなら、これ以上聞くっていうのも野暮ね。わかったわ。」
それから、京さんは私の学校でのことには触れずに、世間話に花を咲かせてくれた。
気を使わせちゃったな……。

私は、家に帰ってから泥だらけの状況を両親に相当心配されたけど、そこには触れないようにそそくさと2階に逃げあがった。


          

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