当て逃げされなかった!!っていう日常

石ノ森 槐

第3話 すっぴんでの送迎

次の日、私はいつもの時間までに登校の準備を済ませた。
すると、合わせたように家のチャイムが鳴り母が出ると、男性が出たようで少し話し込んでいた。


私は顔をのぞかせてると、若めの男性が私に手を振った。
誰だろう。あれくらいの男性で知り合い居たっけ?親戚?

私は、時間もなかったこともあり、学校への荷物を持った玄関に出た。
「あら、周すごいわね!」
「ん?」
「周ママ、これ気が付いてないわよ。」

その、落ち着いた女性の言葉遣いを聞いて私はやっと男の人の顔をガン見した。
「おぉ……。そんなに見ないで、今日すっぴんなんだから。」
「え!!京さん!?!?」

私が思わず声裏返すと、母も京さんもケタケタと笑いだしてしまった。リビングから父の笑い声まで聞こえてきて、気が付いていなかったのは私だけだとわかって顔が熱くなった。

ひとしきり笑うと、京さんはいち早く笑うのをやめてくれた。
「ごめんね?あまりにかわいらしい反応だったものだから、嬉しくなっちゃったのよ。」
「もう行きましょう。遅刻は避けたいです。」
私の言葉に、京さんは自分の腕時計を見てパチンと一拍した。

「いけない、遅れちゃうのはまずいわね。行きましょ。足元気を付けてね。」
京さんは私を気遣いながら私の母に軽く会釈をして、しっかり私の体を支えてくれた。

車に乗ると、音楽を流したままだったのかかシャンという音の後に一つの曲が流れてきた。
「え、これって……。」
思わず声を上ずらせると京さんは軽く微笑んだ。

「そ、昨日聞いていた曲ちょっと入れてみたの!そのまま聞いて帰ったんだけど、この人の曲素敵ね!!」
「ですよね!!この低い声もかっこいいし!!」
「音程もこの人じゃなきゃできないわね!」
「それにこの曲の最後のセリフ絶叫が最高で!!」

「「“だからどうした!!”」」
「ッ!」
「フフッ」
「「あはははははは!!!!!!!!!」」


こんなに曲のタイプが合うなんて、さすが女性の感覚を持っているっていうだけある!!
私は、京さんと話をするのがとてもわくわくするんだと知った。

そしてあっという間に学校に着くと、京さんはさっと車を降りて私の方に回ってきて扉を開けて私に手を貸してくれた。
「ありがとうございます。」
「フフッ、お姫様をエスコートしているみたいで嬉しいわ。ここからは一人で大丈夫そう?」

「はい。校舎まですぐなので。」
「そう?なら遠慮なく離れることにするわ。帰りは又連絡して。」

京さんはにこっと微笑んで手を振ってから車を走らせて行った。
その直後、ジェラシーな視線が背中に刺さっていることに気が付いた。

振り向くと、一斉にクラスの女子が私によってたかった。
ここからがえらいこっちゃで、たくさんの手助けとたくさんの質問に攻め立てられながらクラスに入ることになった。

そしてクラスには……。
「あらぁ?一匹狼さんにもちゃぁんとお相手いらしたのね?」
「」
クラスのリーダー的存在、男子も女子も教師でさえ頭が上がらないといわれている柊木椿ひいらぎかめりあがいる。

超お金持ちの家庭で育ったおかげで、高慢でわがままこんこんちきな性格で、お金持ちということもあり人が周りにわんさか集っている。
もちろん教師もお金で親から圧をかけられているせいで椿の主犯となったいじめにも介入してこない。

だから皆なおさら標的になるのを避けている。まぁ、私もなんだけど。
「ちょっと!!椿様が仰せなのよ!!ご挨拶なさったら?」
「本当ね!!失礼なお方!!」

この私にいちゃもんつけてきているのは、椿にいち早くすり寄った二人、三田理沙と西野ありん……結局3人とも陰湿な輩であるのは間違いがない。
そして、すでに標的に特定されているのが分かってすり寄るほど獲物も馬鹿じゃない。

私は黙って移動教室の準備を整えて教室を出た。
後ろでは奇声を上げる声が聞こえるけど、逃げるが勝ちだもの。
「はぁ……。」

足にはテーピングをがっちりつけてもらっているとはいえ、今日の所は体育も休ませてもらおう。授業のあとで体育研究室に急ごう。……と私は一人今日一日のすり抜ける術を考えていた。

……。

ふぅ……今日はどうにか切り抜けたな……。
それにしても、災難続きだった。

机はどうやって取り寄せたのかわからないけどトリモチがべっとり入っていて、椅子には画びょうが張り付けてあったし、体育はもう手が回されていたのか、無理してでも出ろって言われたから、一応録音だけさせてもらってそれを提示して難を逃れた。って言っても保健室にいただけだけど。

何はともあれ……、全部荷物持ち歩いててよかった!!
足超痛いけど!!なんかすんごい達成感ある!!

あ、そうそう。連絡入れなきゃ!!
「細島さん?ちょっとお時間いいかしら?」
「急いでるので……いッ!?」

私が椿の顔を見て踵を返すと、椿の足が痛い方の膝裏に飛んできた。
おかげで私の足はすぐに悲鳴を上げて体はへたり込んだ。
「やだ、細島さん。すぐに終わるのよ?」

やむを得ず、私は椿の後をついていくことにした。
すると、もちろんとでも言うようなお約束の場所、体育館裏に連れてこられた。
そこには、お約束の陰湿2人も待ち構えていた。

さて、何を言われるのやら。


          

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