当て逃げされなかった!!っていう日常

石ノ森 槐

第2話 余るほどの平謝り

体の無事が分かって内心ほっとしたのもつかの間次の不安が頭に浮かんできた。

整形の初診って高いんだよね……。
私は恐る恐る財布を覗いた。
……これ、後で休みの日に払いにッ

「ほら、電話変わって。」
「はい?」
「学校にかけてるから。私からある程度伝えたけどあなたからも話をした方がいいわ。」

そう言われてスマホを渡されて電話に出ると、教頭先生が電話先で心配そうな声をしていた。そういえば、名前聞いてないや。私の名前はさっき医師と話していた時に確認できたんだろう。

今日の所は事故の処理もあるだろうからと一日休みをもらった。
授業、遅れそうだな……あとで今日の分先生に聞きに行こう。

そして電話中に会計を済まされてしまったのが、視界に入って申し訳ない率がなお上がった。

「電話終わった?」
「はい。休みを取るようにって言われました。」
「そうよね。今日は本当にごめんなさい!!私の不注意でこんな……。」
「いえいえ!!私もうっかり飛び出してしまったので、気にしないでください。」

ここまでしてもらって挙句、謝罪なんてとてもじゃないけど受け入れきれない。
それでもなお謝罪をやめてくれないので、思い切ってわがままを言ってみることにした。

「じゃ、あなたの名前を教えてください。まだ聞いてませんでしたよね?」

私の問いに、その人はハッとした顔をしてバッグを漁りだした。
「そうね、言ってなかったわ。私は、土岡京つちおかけい。名字呼びってされ慣れてないから京って呼んでね。あなたの名前は……ごめんなさい、さっき問診票書いてるときに見えちゃったわ。」

京さんはそう言いながら自分の免許証を私に見せた。もしかして……学生相手だからって気にしてくれてるのかな。

「ハハッ、いいですよ。」
私も京さんに合わせて学生証を見せた。学生にとってはこれが身分証明書だから、多分これでお互いさまって感じなのかな。

すると、京さんは驚いたように目を見開いた。
「驚いたわ。まさか、学生にも身分証明されるなんて。」
「え?」
「ほら、こういうことするのは、私みたいにどこの馬骨~ってやつがするものだと思ってやってることだから、学生がさっと提示してくれるのは何となくほっとするわね。罪悪感が減るわ!!」

この人は良く話すんだな……と京さんの話を聞いているうちに、私服警察の人が私たちのいる席にまで顔を出してくれた。
どうやら京さん自身で警察に事故を起こしたことを話したらしく、警察が事故現場と事情聴取に分かれて調べるらしい。

私は、先ほどあったことを包み隠さずにすべて話し、京さんにお金の関わらない示談を希望するということを伝えた。
だってここまでしてもらって警察からお叱りを受けてこれ以上にお金を払ってもらうなんてさすがに考えられない。

でも、京さんはそれじゃだめだと猛抗議した。
最低でも、私のけがが完治するまでの分は請求してほしいみたいだった。
と言われてもここからどれだけかかるかなんてとてもじゃないけど分からないし、困り果ててしまった。

すると、京さんはおもむろに警察の人と話をすると私に向き直った。
「まずは、親御さんと話をさせてちょうだい。」

どんなに抜けているといわれる私でも、さすがに一瞬でここから起きるであろう状況を呑み込めた。
「いや、いやいや!!本当に面倒になりそうなんで大丈夫です!!本当に!!」
「あら、ってことは親御さんは飛んできてくれそうね。よかったわ。」

話聞いてない!!
私の抵抗むなしく警察の人にも親を呼ぶように促されてしまって大人ってずるいなって思いながら母に電話をかけたのだった。

そこからの時間は長いような短いようなむずむずした不快感を抱えて大人だけの会話を眺めることになった。
仕事が休みだった両親はすぐに私の状況を聞きつけ飛んできた。

私は不注意を怒られたものの、京さんの謝罪に圧倒されて責められすぎることはなかった。結局、お金は京さんの言った通り私のけがが治るまでは診察代を出すことと、親の要望で学校への送り迎えを京さんにやってもらうことでまとまった。

とは言っても、嫌な意味とかではなくどちらかというと親の送り迎えが不可能だからっていう理由だった。
そこからも、京さんは私たちが車で病院から見えなくなるまで何度も頭を下げていた。

家に帰って、軽く足を引きずりながら席に着くと父がコーヒーを入れてくれていた。
「ほら、とりあえず疲れただろうし一杯飲め。」
「ありがと。」

母も、父の入れたコーヒーをすすりながら席に着いた。
父もそれに少し遅れて席に着いた。
「優しい人で幸いだったわね。」
「確かにな。服装を見た時は驚いたが、話してみると案外きちんとした人だったな。」

「うん。」
私は、両親が警察と話している間に、京さんと電話番号を交換していた。
そのままチャットの友達登録も済ませたことで、友達欄に一人増えたのが少しだけワクワクしていた。

すると父も母も私の顔をにやにやと眺めていた。
「……なに?」
「周、気に入ったのか?あの人のこと。」
「は?」
「うちの子にもついに恋の季節ね~。」
「はぁ!?」

父も母もこういう話になるととてもテンションを上げてくる。
それもまぁ、女子高生並みだから、もう面倒臭くって面倒臭くって!!

って言っても、私がもともとほかの女の人と恋愛対象が少し違っているのは何となく察知してくれている。母は感覚として分かったらしいが、父は理解したいからといろいろ調べてくれている。

なぜ知っているか……。知りたくはなかったけど、家族共通のパソコンで履歴にセクマイが並べば誰だって気が付くと思う。

そんな、ある意味家族には恵まれた私は実をいうと一度も恋にまで気持ちを発展させたことはない。いや、付き合ったことはあるんだけど、相手からの告白の失恋。好きにならないうちに終わるのが典型になっていた。

だから、今日のワクワクを恋と呼ぶ両親に私はわからないまま首をかしげた。

          

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