真っ黒マントのうさぎさん

石ノ森 槐

第5話 ~みゆきの視線~

「…"蛇のことを早くお縄にしてくれ。こっちも迷惑してんだ"って。」
「…そうか…。」

私が答えると、父親は口元にぐっと力を入れて腕を組んだ。
そして何かを考えるように少し唸った。

「…お父さん、何か知ってるんでしょ?教えて。」
「しかし、お前を危険な目に合わせるわけにはいかない。」

…危険な目?…
「なら尚更教えてよ。もう片足突っ込んでるようなもんだから。」

それに、私だって大切な人を失いたくないもん…お母さんのように。

私の覚悟が伝わったのか、父親は私の顔をじっと見て深く息を吐いた。

「"龍と蛇"はどちらもヤクザの組名だ。」
「…はッ!?」

ヤクザ!?
…意味わかんないんだけど…。

「蛇の名を出すということは、それを言ったやつはきっと龍の周辺のやつだろうな。」
「ちょっと待ってよ…あいつヤクザなの!?」

思わず大きな声が出て、父親だけでなく自分も驚いた。

「…もう少し声を抑えろ。近隣に聞かれても困る。」
「ごめんなさい…。」

私の謝罪のあと、しばらくは沈黙が流れた。

父親は至って冷静な顔をしてるけど、私が"あいつ"と言ったことが気になるのか、何かを言いたげに口を開いては閉じを繰り返している。

沈黙を破るのは…きっと私の役目だよね。

「お父さん…龍の人達捕まえるの?」
とっさに出た言葉に、父親は首を横に振った。

「俺の手で縄をかける気は無い。だがな、龍には多くの容疑がかかっているんだ。」
「容疑?」

「殺人、傷害…性被害に薬…。」

いかにもヤクザがやりそうな言葉たちに、思わず顔をしかめると、父親は言葉を続けた。

「あまりに証拠が揃いすぎているがな。犯罪行為のプロがこんなに証拠を残していくはずがない…と俺は踏んでいる。」

「証拠がないんじゃなくて…ありすぎても変なの?」

わけが分かんない…。

私が首を傾げると、父親はかわいた笑い声をあげた。

「例えばお前が憎いやつにいたずらを仕掛けたとする。」
「うん。」

「でもバレたら怒られるだろ。」
「そりゃね。私ならバレないようにするし。…あ。」

今気がついた。
そうだよね…バレたくないはずだから誤魔化すよね。

「でも隠しきれなかったとかじゃないの?」
「そうとも考えたんだが…わざわざ見える所に証拠が残りすぎていて…気味が悪い。」

わざとらしく証拠が残るなんて…まるで。
「…他の人を犯人にしようとしてるみたい。」

「お前もそう思うだろ。」
「うん。」

それから私は本来の聞きたいことを忘れて、父親と明け方まで話し込んでいた。



結局学校に行ったのは昼休みに入った頃だった。
the遅刻常習犯ドヤァ

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