真っ黒マントのうさぎさん

石ノ森 槐

第3話

動けない私の前で、さっきまでウヨウヨしていた男たちの集団は小柄な男の子のごく自然に見える動きの周りでバッタバッタとすべて倒れていく……。

この男の子……一体……。

「……ふぅ、おっさん共弱すぎッククク。ウォーミングアップにもならないよ?。」
一人残らず地面に倒すと、男の子は『んん~』と声を上げながら背伸びをした。

「さてと。」
「ッ!?」
フードの男の子はくるりと身をかえした。
そして手を後ろに回すとトコトコと近づいてきた。

「あ、あの……」
ち、近ッ……!
「怪我はない?」
「……え?うん……平気……」

「」
「ッ!?」
男の子は私の返事に怪訝そうに首をかしげると、ふと私の手を取った。

「怪我……。」
私の手の平からは血が流れていた。

「ッこのくらい……平気「……じゃない。」……。」

その静かな口調は体が震える私にとってはすごく説得力があって、私は思わず口をつぐんだ。

私の反応に納得したのか、男の子は私のカバンから少しだけ頭をのぞかせていた水のペットボトルを抜き出すと、ジャバジャバと私の手の平にかけ始めた。

「それ……。」
「川の水かけるよりはましでしょ?」
「……そうだけど……。」
「なら黙って。」
「」
そうピシャリと言い放たれると……ムカつくというか……落ち込むというか……。

私のもやもやしている間に、男の子は水をすべてかけると、自分のポッケから黄色いチューブを取り出した。
「それ……何?」
「塗り薬。怪我に使うやつ。」

「ふ~ん……って何やってんの!?」
「ん?」
「”ん?”じゃなくて!!」
男の子はチューブから白い薬を押し出すと、指じゃなくて自分の舌に乗せた。

「なんで……舌になんか……「我慢ひてて。(我慢してて)」いや、意味わかんないからッ!!」
そして男の子は舌に乗った薬を……そのまま塗り始めた。

く……くすぐったい……、手か冷たッ。
私は抵抗のためにフードを思いっきりつかんだッ途端、つかんだ私の手はガシッとつかまれた。

「いった!!「ひうかにしておよ、終わんねぇかあ。(静かにしてろよ、終わんねぇから。)」ッ……。」

さっきまでの男の子とは思えない冷たい声とともに私の手はフードから少し乱雑に外された。
それからというもの、私は……くすぐったいだの……恥ずかしいだの……もやもやしながら治療(?)が終わるのを待つことにした。

え?もち、マジおこで睨みながら。

……って、あれ…? 舌に金属がついてる……?
それでさっきからずっと冷たかったのかな……。

にしても……さっきからずっと睨んでるのに、目が合うどころか顔全体もよく見えない……。隠れてると……な~んか気になってくるんだけど…。

でも、銀髪が少しだけフードからはみ出て、少し沈み始めた日に照らされて光って見えた。

私はもう一度恐る恐るフードに手を伸ばそうと使える方の手を持ち上げたその時。
「終わり。」
「ッ!!」
び……ビックリした……。

「おえ……、まっじぃ。」
「……ありがと……。」
……不味いんだったら手ぇ使えば良かったじゃん…。
私はそう思いながら男の子の手に目を落とした。

「」
きったな!!
……これで塗られた方が……悪化しそう……。

「い~え。じゃ。」
フードの男の子はすっくと立ち上がって土手をあがり始めた。
「は……? ちょっ。」
って私、何引き留めてんの!?
私がうっかりズボンの裾を抑えたせいで、男の子はずりずりと滑り落ちてしまった。

「痛い。」
「ご、ごめん。」
「いいけど。なに?」

「え……と。」
やばい…引き留めたはいいけど、何もいう事考えてなかった。
「あぁ、名前でも聞きたかった?」
「……え゛?」
何言ってんの、このガキ。
ってそんなこと言ってる場合じゃないじゃん、私。

一応聞いとかないと、いざあったとき気まずすぎっしょ!!
「う、うん!助けてもらったからお礼もあるし……。」

いや、お礼はしないけどね。
「しなそう。」
「」
私の顔ってわかりやすいのかな。

「まぁ、知っといてもらってもいっか。俺は、『うさぎ』。」
「は?」
「動物の。ぴょんぴょん跳ねるあれ。」
「」
「じゃ。」

その、自称『うさぎ』さんはひらひらと手のひらを振りながら去った。

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