Recollection~SとМを間違えたら~

石ノ森 槐

硬い歯車

「…ん。」

俺は目を覚ますと、家に帰ってきていた。

あれ、俺いつ帰ってきたんだろ…確か…矢間根さんと飲んで…どしよ…記憶がない…。

俺…絶対何かやらかしてるよな、これ。

プルルル…

ズキズキッ
う゛…、二日酔いが…。

あぁ!!うるせっ…!!いつまでもなってんなよ!!

朝っぱらから誰だよ…?

携帯の画面を見て…『矢間根部長』ぉぉおおおッ!!!!??

俺は携帯を一旦机の上に置いた。壊れちゃダメだもんなッ、うん!!!!!

…ど、どど…どしよッ…、出た方がいいんだよね…ってか出なきゃまずいよね…。

でも、ヘマしていたとしたら…確実に説教喰らう…

オーマイガァ゛ァ゛ア゛ア゛!!!!!!!!!


…俺は机に置いたままで通話ボタンを押して、耳を近づけた。

「は、はい!西島でございましゅ!!」

…しゅ!!!!
噛んだぁぁあああ!!!!!!

俺何動揺しちゃってんだよぉッ!!

「あぁ…おはようございま"しゅ"。矢間根で"しゅ"。」
「ッ!!!!??」

うぐっ…、めっちゃバカにされてる…2回も言わなくても…。

俺が黙ってしまったからか、電話口から笑い声が聞こえてきた。

「フフッ、悪い悪い。朝から笑わせてもらったわ。」
「ッ…んもうッ!!」

「ハハッ!!あ…そうだ、体調はどうだ?」

「…大丈夫ですよ。」
本当は大丈夫じゃないけどッ!!
吐き気と頭痛やばいけども!!!

「そうか…。実は、俺の方は二日酔いでな…わかめスープをコンビニで買ったんだが、うっかり2個買ってしまってな…。」

「…はぁ。」
それ、くれないかな…。朝食も入りそうにないし。

「良かったら、1つ貰ってくれないか?賞味期限、今日の昼までみたいだし。」

「ッ!!」


多分…今の俺は、しっぽをバタバタさせる犬みたいな『パァッ!!』という顔をしているんだろうな…。



電話を切ってから頭を上げ…れなくなっていた。

首が…しびれて動かん…ん゛ん゛ん゛~~~ッ!!!!!!!!




注意:電話は耳に当てるものです。
耳を当てるものではありません。

あ゛ぁ゛ぁ゛…まだ首がギシギシしてる…。
さっき首に貼った湿布も効いてる気がしない……。

俺はやっとこさで、自分の席を見つけて座った。…首が回らないだけでこんなに動きづらいんだな…。

「お前って、二日酔いが首にくるやつなのか?」

「ふぇ?…い゛ッ!!」

急に振り返らせるなよぉ゛ぉ゛…!!!!
こんなこと言う人は、一人しか思い当たらない。

「おはようございます、矢間根さん…。」
「おお。ほいよ、わかめスープ飲んで、早く"首の二日酔い"治せよ。」

「は、はは…。」
あんたのせいだっつうのッ!!!!
オレは顔を作り笑いで引きつらせた。

「それと…早速だが、今日から新商品の会議を12時からやるから、提案考えておいてくれ。」

「あ…はい。確か、高級ブランド化させると。」
「あぁ、そうだ。向こうは俺の知り合いでもあるから、なかなか妥協してこないぞ?」

う゛っ…、よっぽどいい案じゃなきゃダメじゃん…!!

なぜか矢間根さんは楽しそうに笑ってらっしゃるけど…。

「だから、"より良く見える"パワーポイントを作ってくれ。12時までに。」

…そう言う事ですか…って、え?
12時までに?

腕時計を見ると、間違いなく、10:30を指していた。

「ええええええええええええ!!!!」

「よろしくな~。」

そう言って、そそくさと向こうの席に行ってしまった…。

なんてこと…もう1時間半しかない…。

どうにか出来ても3ページがギリくらいなのに…。



…待てよ?
これで3ページしかできなかったなんて言ったら…

『もうお前には任せない。』

『なんてことしてくれたんだ!!企画がパアだ!!』

『もう君のデスクはないよ。』

俺の頭の中にヒラヒラと辞表が舞った…。


「…そ、それだけはッ…。」
絶対にヤダッ!!!!


俺は瞬きをすることも忘れて、資料中の文字や図をパワーポイントに叩き入れた。


ドダダダダダダダ…
バタバタバタバタ…
ズドドドドドドド…

バンッ!!

「はぁ…はぁ…ゲホッゲホッ」

「おい、ノックくらい」
コンコンッ

「はぁ、ぶ…ぶ…ぶちょ…す…すm…すみ…で…でき…ま…まし…ましッ……だぁぁあああ!!!!!!」

「…まず、落ち着こうか…。」

矢間根さんは机のコーヒーを指差した。

「い…いた…だき…まッ
ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク…

俺は全部言わないうちに、コーヒーに口をつ…飲み干した。


「ッぷはぁぁあ!!うんめぇえええ!!」

まさに生き返ったって感じだ。
…あれ?ここって会議室で…ってか俺2つコーヒー飲み干してある…。

そして目の前の席に座っておられるのは……ッ!!!!!!!!!!

「飲みっぷりいいなぁ~。」
「s、すみませんっしたぁぁあああ!!!!」

やっちまったぁぁああ!!!!!!!!!!

「ブフッ、ウハハハハ…!!!!!!」


…ん?笑って…る?
「怒ってないんですか?」

「あ~、腹いて…ッ。ん~?」

「だ、だって…昨日の今日だったので…てっきり…「無理押し付けられたんじゃないかって?」ッ!!??」

き、気づかれてるッ!!!!


「やっぱりそう思ってたかぁ、あっはっは!!」

「…え?」

一体何が何やら…俺の頭はフリーズしてしまって、考えることすらできない。

二日酔いが良くなかったのかな…うーん…良くわかんないんだけど!


「ワケわからんって顔してんな。」

俺は首だけでブンブンと振って頷いた。
…ってあれ?

俺は首の湿布に手を当てた。

「首治ったか?」

「あ…はい…。」

すると、矢間根さんは優しく微笑んだ。
初めて見る顔で、固まってしまった。

「筋違えたときは、動かさないのが一番だからな。パソコンにくっついてる様にと思ってな。」

この人こんなに優しいんだ…以外…。

「今失礼なこと考えてたろ。」
「え?いえ!!」


「まぁ、とりあえず資料見せてみろ。確認。」
「あ…はい。」

俺はUSBメモリを矢間根さんのパソコンに差し込んだ。



カチカチッ…カチッ

うッ…無言で確認されてる時間って、何回体験しても緊張するよ…。

「あ、あの…どうでしょうか…?」
「お前…1時間半で10ページも作れるんだな…。」

「…へ?」
「感心するよ。」

あ、あれ?

「3ページくらいで概要を確認したかっただけなんだけど…ここまで作ってありゃ、文句なしだな。」

え……?
「そのくらいで良かったんですかぁ!?」

「あぁ。お前まさか、俺がそんな無茶言ってきたとか思ってないだろうな?」

ギクッ!!!!!!!!!!「い、いぇえ?」

「ぶはははは!!!!!!」

俺の顔がひくついたからか、矢間根さんはまた笑い出した。



「ちょ…。」
「んぁ、わりわりッ。なかなかの出来だぞ。ただ…ココとココが…」

指摘を入れるために、カーソルをビュンビュンと動かされて、矢印を追うだけで精一杯だ…。
「じゃ、これで訂正かけたら…いいな。俺もこんな感じでプレゼンの準備をするよ。」

「は、はい!ありがとうございます!!」

折れが深々と頭を下げると、矢間根さんの手が俺の頭をぐしゃっと撫でた。





坂井の手より…少しだけ重くてごっつかった。
その手のぬくもりがなんとなく苦しくて、『ギリッ』と歯ぎしりをした。


なぁ、坂井?お前は、もうそっちでうまくやれてるか?

俺は、まだまだ無理そうだ。
気がつくと、いつもお前の面影を探してる…。

もう遅いのに……今は忘れる事に専念しないといけないのに…。




「…う?おい、西島!」
「ッは、はい!」

ヤバ…声裏返った…ッ!!

「坂井か?」
「…へ?」

き、気づかれた!!?
な、なにか言われる…かな…。

「そりゃ、初めての教育係ならな~。」


…ん?

「ん?質問の内容、間違えたか~?」
「ふえ?い、い~え!?」

俺が顔を上げると、矢間根さんは悪そうな笑みをにやりと浮かべた。

…矢間根さん…なにか知ってるのかな…。
もしかしたら…あいつに迷惑かけることになる…?

「矢間根さん、あいつは本当にただのいい奴ですから。…きっと、上手くやってますよ。」

俺は矢間根さんに投げた言葉を自分にも言い聞かせた…。

「よくわかったな。」

「…はい?」
思いがけない矢間根さんの言葉に固まってしまった。

「坂井くんは、上手くやってるだろうよ。あいつは丁寧そうだしな。」

「丁寧…でしたか?」
仕事のミスも多くて、机の上だってぐしゃぐしゃしてたのに…。

「ファイルの揃え方見ただろ?」

揃え方…?

「背表紙を交互にしてあった。しかもファイル順もバッチリに揃えてあった。」

…え…?
「気がつかなかったのか?」

そういえば…課長室に入る前に確認したら、順番は完璧だった。

でも、…そこまで細かいやつだっけ…? むしろガサツなやつだった…はず…。

雅樹だったら…几帳面なやつだったし…ありえるけど…?

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品