Recollection~SとМを間違えたら~

石ノ森 槐

明るい夜・・・

「お疲れ様でした~。」
今日は、坂井のミスが一つもなくて、残業なしだ……。ヨッシャ!!!!!!

飯、何がいいかな~…。
俺は少し浮き足立ちながらでも、カバンに書類を丁寧に入れた。

忘れ物は…無いな。

腕時計を見ながらデスクを立った。
ドンッ

ヤベッ、誰かにぶつかった…


「あ、すみませ…おまえかよっ!」
「遥さん、帰りましょ!」

コイツ俺の話何も聞いてないよな…。

「何でお前と?」
俺は、坂井を見上げた…
あ~、もう!背高いな!!!!

「奢ります、『シャンデ~リ「行くッ!!」…フフッ♪」

だ、だって『シャンデ~リ』って…、

あの有名なレストランだろ?
あの
『トロトロ オムハンバーグ』の所だろ?
あのクッッッソ高い所で…俺が行きたくも行けてない…グスッ…所だろ?

奢られるなら行くに決まってるだろぉ!!!!!!!!!!

…………………………………………………………

…うわぁ…、会社から見てもポツンと明るい店だとは分かってたけど、到着すると窓ガラスからお金持ちそうな客層が見えて、少し怯んだ。

「遥さん?緊張してます?」
「…少しだけ。」

スッ

坂井は俺のスーツの裾を持って、微笑んだ。
「行きましょ?」

「…はい…。」
坂井のとても慣れた様子で、俺は少しだけ体の震えが取れた。

俺は引きずられるように中に入っていった。


着いた席は、二階の個室だった。

メニューを開くと、大々的に乗っていたお目当ては…
「うわッ…高ッ!!」

予算としていた5,000円をゆうに超えていた。

流石にここまでの値段のを頼むわけには行かないよな…。

「決まりましたか?」
「…あぁ。」
俺は1,000円のハンバーグドリアを頼む事にした。

机に置いてあるボタンを押すと、小綺麗な制服の店員が席にやってきた。
「ご注文承ります。」

坂井は「先に。」と言った。コイツ…相当腹減ってんだな。

「『さっぱりペペロンチーノ』と…」
自分の分を頼んで俺の方に目を向けた。

「あ、俺はハ「コチラには『トロトロオムハンバーグ』で。」…ッ!?」

…いやいや、ダメだって…高いって…!!
俺が放心状態で固まっている間に注文は終わってしまった。

「遥さん、ドリンクバー何がいいですか?」
「お前…嫌味か?」
「…え?」

「俺が食えないことわかっててそう言うこと…したんだろッ!?」
あ~!普通にお礼言えないのか、俺!!!!

俺の言葉に、坂井は少しうつむいてしまった。…ほら、坂井も呆れて…
「何かアレルギーあった感じですか?」

「…は?」
「食べられないって…。」

…何だよ…、心配してくれてたのか…?

「そう言う事じゃなくて…はぁ…。金欠はマズイだろ…お互いに。お前だってまだ新入なんだから。「遥さんッ!!!!」

ビクぅ…ッ!!
坂井のほうを見ると、今にも泣きだすかというくらいに顔を歪ませて、手は何かを抑えようと震えていた。

「僕…遥さんと付き合ってるんですよね?」
「…あぁ。」

「僕、遥さんが好きなんです。好きな人に笑ってて欲しいんです。…迷惑ですか?」


…何だよ…それ。男に好きになられるってそんなに温かいのか?そんなに心がギュウギュウするのか?
俺は…こんなに好きでいてくれてる奴に…雅樹を重ねるなんて…ずるい事を…。


…そう言えば、雅樹は俺をどう思ってたんだろ…。

振らないで、パシリにしたのに毎日毎日付いて歩いてた雅樹は…俺に呆れなかったんだろうか。

風邪をひいた日…あんなに…俺よりずっと真っ青な顔して飛び込んできたのは…まだ俺を思ってたから…なのか…?


「…そんな事…ない…よッ…グスッ」
気がつくと、目から涙が流れていた。

「あれ…おかしいなぁ…。止まんねぇ…ハハハッ…。」

俺は笑って見せたいのに…涙は言葉を紡ぎ出す度溢れ出していった。

ガタッ
「…そちらに行きます。」
「え…、いいよ…気使わなくて…。」

「違いますよ?僕がそばに寄りたいんです。せっかく誰にも見られないんですから…ね☆」

そう言うと、坂井は…ッ
俺の腰に手を回してきた。

俺は慌てて坂井の手を引っぱたいた。

「いってぇ…、酷いっすよ、遥さん!」
「なッ…、さ、盛るな、駄犬。」


「ぶー…。」
「…ッガルルル!!!!」


…。
「「ブフッ」」

「アハハハハハハ…!!!!!!」
バカ過ぎて、不思議と笑えてきた。

「フフッ、その顔ですよ。」
「えぇ…?…ククッ」

坂井はやけに優しい顔をしていた。





「その笑顔が見たかったんです。」





何でだ?…俺の顔がまた熱くなった。
そんなふうに俺の心揺さぶらないで欲しい…。


「遥さん、顔真っ赤ッ!!」
坂井は俺のほっぺをつついた。

「…やめろよ…。」

俺が払うはずの手はもう無くて、俺の手をそっと掴んでいた。

坂井の手は思ったより冷たく感じた。


「俺は、遥さんの本当の顔を見たいんです。だから、俺には本音でいて下さい。」

「…。」

坂井はフフッと笑って俺の頭を優しく撫でて、元の席に戻った。


その直後に、店員が階段を上がる音が聞こえてきた。

「お待たせいたしました、『さっぱりペペロンチーノ』と『トロトロオムハンバーグ』でございます。」


オムハンバーグは…2人前の量だったらしい。

「…デカイな。」
「…ですね…。」

「「…半々で」」
「食べるか。」「食べましょうかッ」


「「……。」」


その後、また二人で大笑いしたのは…言うまでもない。

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