Recollection~SとМを間違えたら~

石ノ森 槐

遥(はるか)

会社に着くと、俺一人だった。

まぁ、今7時だしな…。
坂井だっているわけないか…。

俺はデスクに座った。…あれ?何だろこの付箋…ッ!!!!???。

パソコンの端に貼ってあった付箋には、…中田雅樹の字があった。


雅樹の字は、いつも面倒な文とかを任せてたから、なんとなく覚えてしまった。


俺は付箋の中の字に目を凝らした。

~遥くん、まだ僕のこと忘れてないの?~

え…?
そんなの…忘れられるわけが無い。

雅樹だって覚えてるだろ?あんなことするの…俺だけだろうし。

ってか、なんで雅樹の字がここに?
あいつがいるのか…この会社に?


…坂井?
いや、そんなわけない…アイツはここに"配属された"って言ってた。

それに…同じマサキだけど、性格なんて全く違う。




ガチャッ
「あ、遥先輩おはようございます。」

遥…

「早いですね~。」




遥…はるか…ハルカ……
頭の中で自分の名前がリピートされる…。



「…先輩?」

「…んあ?…あ、わり…ボーッとしてた。おはような。」




「…どうかしました?」

「眠いんだよ…。」


あぁ、なんかそっけなく返しちまったな…。
あれ、普段こんなこと気にしないのに…。



「…そうですか…?」
坂井は、少し不安そうに俺の顔を覗いた……けど、すぐに自分のデスクについて書類を整理しはじめた。


何でだろ…どうしてこんなに寂しく感じるんだろ…。

雅樹…って呼んだら…怒るんだろうか…。気持ちが悪いって引くんだろうか…。


「…先輩?…本当にどうしたんですか?」

気がつくと、俺のデスクの前にいた。

「え?…な、なんでもない。」
「嘘ですね?」

「…お前には関係ない。」

あ…。俺はとっさに口を手でおおった。言っちゃいけないことなんてわかってるのに…。

ダメだ…きっと坂井は怒ってる。

俺は顔をあげられなかった…。
だって、今上げたら…希望すら…、同じ"雅樹"があの時みたいに消えてしまいそうで…。



でも、俺のさげていた顔は簡単に上げさせられてしまった…。
坂井の手で…雅樹の手で。

「遥先輩。」
「だから、そうやって呼ぶなっつってんだよ!!!!!!はるかって呼ぶな!!!!」

「…嫌です。」

「なっ…ん…。」

俺の口はいとも簡単に坂井の口で塞がれた。

…え?
えええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「プハッ…お前…」
「関係ないとか言わないでください…ッ!!」

…坂井の目には、うっすら涙が浮かんでいた。

「俺はッ!!…遥先輩が好きなんです。」

…え…?

「だから、先輩を苦しめてることがあるなら…辛いなら…手を伸ばしたいと思うんです。…これは俺のわがままなんでしょうか…。」

「…。」
「…。」

いきなりの坂井の告白に…俺は何も返せなくて…。

沈黙が流れた。




その沈黙を破ったのは…

…俺だった。


「なんで?」

「…え?」

「どうしてそんなに…お前はッ!!…坂井だろ?坂井雅樹だろ?なのに…なんで…なんっで…。」

なんでそんなに…俺に優しくするんだよ…。

「…遥先輩…俺の名前が嫌いですか?」

「…?」

「それとも…"雅樹"が嫌いで「あいつは嫌いなんかじゃない!!!!」

俺は食いつくようにそう返した。

「その人のこと…好きなんですね?」

…ッ!?

「どうしてそれを…?」

「ハハッ…即フラれちゃいましたか…。」


俺はわけがわからないまま…固まっていた。

「先輩もわかると思いますよ?
『好きな人の気持ちはわかりたい』ですから。」
その時に…坂井のその言葉を聞いた時に…俺は胸が熱くなるのを感じた…。

あの時…初めて雅樹を見た時みたいに…大きく鼓動を立て始めた。




俺…坂井の事…。
いや、そんなわけない…あいつと重なってるだけだ…。


…そうだ、試しちゃえばいいんじゃないか?

そうだよ、坂井は俺のこと好きなわけだし…後輩だし…。







「いいよ…坂井と付き合う。」








俺はまた、自分の罪を重ねた。

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