ビラを受け取ったらガチのメイドが付いた件。

ノベルバユーザー397046

メイド喫茶に行くアニオタは案外少なそう。

週末の秋葉原。
世界でもナンバーワンの、オタクの聖地。
小さなチラシを頼りに、大通りから一本道を逸れて裏路地に入る。
すると、そこに佇むは小綺麗な雑居ビル。
案内に従って階段を上がっていくとーーあった。
扉の張り紙には、こう書いてある。
「メイドはじめました」
それにしても、メイド喫茶というのはもっとポップな外観をしているものとばかり思っていたが……。

つい、先程のことだった。
アニメショップを巡り、さて帰ってグッズを開封しようと意気込んで駅に向かっていたところ。
道の右も左も、至る所にコスプレをしてビラを配る女性の姿があるではないか。
しかし、そのビラを受け取る姿はなかなか見ることが出来ず。
素通りする人や、会釈して去っていくものがほとんどだ。
そんな彼女たちを見て不憫に思う俺だったが、俺とて帰ろうとしている身。
ビラを受け取ることなく駅に直行しようと思っていた。
心は痛むが、仕方がない。
受け取ったところで、アニメショップで手持ちのお金はほとんど使ってしまったために店に行くこともない。
心を決めて、俺は足を踏み出した。
すると、当然のようにコスプレの女性たちに囲まれる。
しかし俺に受け取る意思がないことを悟った彼女たちは、すぐに別のご主人様を探して散っていく。
そんな光景を一瞬寂しく思うも、何事も起きなかったことに安堵する。
さて、今度こそ帰ろう。
しかし、再び足を踏み出そうとするも、なぜか前に進まない。
左足に、なにかがしがみついているような感覚が……あっ! 違和感を感じて足元を見ると、さっきの人たちとは別のメイドががっしりと俺の足にしがみついてるじゃないか。
「ちょ……ちょ、と……待っ……はぁはぁ」
「なになになになに! なんですか……っ! 客引きにしては必死すぎやしないですかね? 通報されても仕方ないと思いますけど……」
突然のことにしては、冷静に対応できたほうじゃないだろうか。
俺はスマートフォンをポケットから出すと、110……と、順番に入力していく。
「ちょ……ほん……ご主人様ぁぁぁぁ!」
すると、足元の変態メイドが……俺の股間に噛み付いた。
「っっっっっっぁぁぁぁいってぇ!」
「んぐ……ぐぅ……はぁ、はぁ……こ、これ……ここ、に……来て……ください……」
あまりの激痛に俺が悶絶していると、息切れの止まらないメイドがビラを渡してくる。
「わかった……わかったから……!」
「……ほんとに来てくれるんですね?」
「うんうん、行くから」
「…………見てますからね? 今、ご主人様にGPS発信機をつけました。来てくれなかったら、あなたの家の前で全裸で泣きますから」
「…………逮捕志願者ですか?」

それから、数分。
なんだか怖くなった俺は、迷った結果……来てしまった。
ビラに書かれた住所に辿り着くと、その貼り紙を確認して扉を開ける。
メイド喫茶なんだったら、インターフォンもなにもいらないだろう。
ノブを回して、足を踏み入れる。
靴はここで脱ぐようだ。
なんだか、普通のアパートみたいだ。
そして、黄緑色のカーペットを踏んでのれんをくぐる。
しかしそこには、何もいなかった。
「あれ……? 誰もいない……?」
ガチャリ。
後ろから、鍵のかかった音がした。
……うん、絶対やばいやつだこれ。
恐る恐る振り向く。
するとそこには、先程の変態メイドが膝をガクガクいわせて立っているじゃないか。
「……ご主人……様……。おかえり、なさい……」
「……うん、正しくはただいまだね」
はぁはぁぜぇぜぇと息を整えるメイドを前に、軽く突っ込んでみる。
ご主人様よりあとに帰宅するメイドなんて、聞いたことがなかった。
「……で、ここはメイド喫茶……でいいのかな?」
とりあえず、疑問のひとつを言葉にしてみる。
すると、嗚咽しながらも律儀に答えてくれるメイドさん。
「……今日、から……はぁはぁ……ご主人様には…………私を、メイドとして雇ってもらいます……っ!」
「…………なんて?」
「…………だから……今日から私は、あなたのメイドを担当させていただきます……!」
「……結構です」
なんか、メイド喫茶のビラを貰ったら本物のメイドが付くことになったんだが。

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