おまえら幾らなんでも喚びすぎだ! ~何でもかんでも願いが叶うと思うなよ~

テムジン

1話 3


三ヶ月が経過した、アスのおっちゃんとの鍛練が始まって。体の反応と思考がようやく合致して、動きも捉えられるようになった。並みの騎士団員なら余裕で勝てる。
だが、アスのおっちゃんに勝てるのは半々ぐらいだ。

「どうして勝てないか、ですか。そうですね…勇者殿にはまだ足りないものがあります。何かわかりますか?」
考えろってことか。何だろうな。まず、思い浮かぶのは経験の差か。だが、勇者としての称号が経験を積んでいると言っていた。経験ではなさそうだ。
後は…足りないものかぁ。
「習熟の訓練時間とか?」
「勇者殿に関して訓練時間の長さは関係ありません。他の者は勇者殿に敵わないでしょう。それほど勇者としての力は隔絶してます」
違うのか。
それにしても隔絶しているか、それは実感できる。戦闘になるとスイッチが入るような感覚だ。たった三ヶ月で世界が止まってみえるとか、
まさにチートだな。
後は…精神的なものかな。戦いに対して臆している。
「心構えとか?」
「確かに、それは根幹の部分です。とても大事です。いかに勇者といえども戦う気構えがないと何もできませんから」
うん、それはそうだ。戦う以前の問題だな。確信があるわけではないのだが、戦う意欲はありクリアしてると自分では思っている。
では、何だろうな。
黙考しているが浮かばない。

「では、ヒントを教えてあげましょう」
おもむろに剣を抜く。正眼の構えだ。何度も目にした。
すると、戦闘のスイッチが入る。宙に線が描かれアスのおっちゃんの体に到達。
その線に沿って打ち込めばアスのおっちゃんは昏倒するはずだ。
だが無数にある線のどこを打ち込んだとしても、結果はいなされ防がれてしまう。
うん、当たる気がしないな。なぜだろうな。

ああ、ここの部分か。なぜいなせるのか、なぜ防げるのか。そこだな。
試しに下段から左脇の下まで延びている線に沿って打ち込んでみる。

カッ

容易く弾いてくる。まるで初めからそこに打ち込まれるのが分かっていたかのようだ。
先読みの能力か何か?
いや、アスのおっちゃんに原因があるわけではない。
自分の問題だ。
速さかな、いや、アスのおっちゃんの動きはスローで他の団員と変わらない。
うーむ、やはり分からないな。
聞いてみるか。
「どうして打ち込む場所がわかるんだ?」
「何となくですね。ここではないか、と当たりぐらいはつけられます」
そうなのか。
「それは経験で何となく?」
「はい、それもあります。まぁ、外れることがほとんどですが」
ふーん、外れることがほとんどね。経験は当てにならんということか。

「勇者殿っ」
と、突然鞘を放り投げてくる。
ん? 何だ? 放物線を描いて向かってくる鞘。
その鞘をキャッチ。

トンッ

と、同時に腹へ衝撃を受ける。見るとアスのおっちゃんの剣が腹に突きつけられていた。
全く見えていなかった。戦闘のスイッチは入ったままで、ゆっくりと近付いてきた鞘を捉えていたのは確実。
注意を払っていたのは鞘のみ。

「人間はこうやってからめ手を使ってきます。魔獣などの知性が低いものなら勇者殿お一人でも問題ないでしょう」
剣を鞘に納めながら続ける。
「今の一撃は致命。説明すると非常に簡単です。鞘で注意をひき、死角へ移動し突く。それだけです」
アスのおっちゃんが事も無げに言う。
確かに、言葉にすれば簡単だ。誰が聞いても納得の簡潔さ。
だが、それが自分の足りないものにどう繋がるのか。
「勇者の経験というのは、いわば他人の知識の集合体みたいなものです。自分の知識ではないし、ましてや万能でもない」
それはそうだ、だからこその習熟訓練だ。
「ええ、そうです。訓練の長さではない、といいましたね。私の目から見ても勇者としての力は十分会得していると思っています」
おお、そうなのか。アスのおっちゃん、そういうの普段言ってくれないから、何か素直に嬉しいぜ。
「勇者殿、その力は仮初め。戦いは仮初めの力で勝てるほど甘くはありません。隔絶した力を持つ者を殺すのは幾通りもあります。先程私がからめ手を使ったようなことでも簡単に奪えるのです」
まぁ、そう繰り返し言うってことは大事なことなのだろう。伝えたいことはおぼろ気ながら分かる。
要は慢心するなってことだろう。
だが、それは足りないことではないよな。
「意志というのは自分の中にあるものです。決して他人から与えられるものではない。勇者殿、ご自分の考えで戦ってください。それが私と勇者殿の差です」
えらく哲学的な話になったな。
そういえば、アスのおっちゃんは何で戦っているのだろうな。考えたことなかった。
アスのおっちゃんと自分の差か。
自分の考えで戦う、その差。
自分に足りないものがそれだろう。
これが完全な答えというわけではない。
一つ言えることはアスのおっちゃんの言葉が凄く響いた。

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