異世界バトスポッ!

冬野氷景

じゅうにたま!

ピッピーーーーー!!


『あーっと!!アースリンドウの攻撃が決まったぁー!!ボールアイの英雄、【ボウル・リング】の氷像は無残にも粉々に……おや?まだ一部…残っています!!【ボウル・リング】の象徴たる…『球』!氷で造られた球がまだ形を残しています!!球に救われたボールアイ王国!これは球技発祥の地の奇跡なのかーっ!?』
『それだけじゃない、たぶんミュリフォーリアがそこだけは守った。自分の身を犠牲にして……そして自分も退場しないようギリギリで耐えた。やはり……才能でいえば群を抜いている。でも……もうこの試合は……』


ヒュゥゥゥゥゥゥ………ドサッ!!パリィィンッ!!


「ミュリお姉さん!!」「ミュリフォーリアさんっ!!」
「…………ぅ…………あ…………」


ミュリお姉さんが氷上に倒れる。
その衝撃で纏った鎧は粉々に砕け、散った。


「…ミィシャン、ウチはもう大丈夫にゃ…だから行って」
「ニャンコさん!でも…」


ニャンちゃんが起き上がる。
確かに傷はもうほとんどが治りかけていた。


「ミーちゃん。フウちゃんは私が連れてくる!ミュリお姉さんをお願い」
「……はいっ!わかりました!」


私は急いでフウちゃんの元に駆け寄り、肩を貸してニャンちゃんの元に連れていく。


「はぁ……はぁ…離せおたま…これくらいどうってことない…自分で歩ける……」
「だめだよ!そんな血だらけでっ!大人しくしてて!」
「………」


ミーちゃんもミュリお姉さんをニャンちゃんの元へ運んで回復を始めていた。
すると審判さんがまたどこからか現れ私達に告げる。


「忙しそうなところ悪いけど、配置についた?貴女達ボールなんだから誰が球を持つか決めなさい。決めたらすぐにプレー再開よ」


審判さんは無慈悲にそう言った。
プレーの準備なんて全然できてない……それどころか…もうこのままじゃ試合として成立しない。
でも……これが試合。


「一応言っておくけど……棄権するなら今言った方がいいわ。次のプレーは貴女達ボールだけど…ボールを持たない者が攻撃を食らわないとは限らない。特に…キャプテンさんに当たったら選手生命の危機さえある。プレーが始まってからじゃ遅いわよ?」


審判さんの言う通りかもしれない…。
二人はもう息も絶え絶えで…フウちゃんはかろうじて動けるみたいだけど…ミュリお姉さんはもう意識もはっきりしていない。


「状況が判断できそうな二人に聞くけど…棄権する?続ける?」


審判さんは私とミーちゃんに判断を委ねる。
今、このチームで怪我を負ってないのは私達だけだから…。


「……………………」
ミーちゃんが目を瞑り眉をひそめる。
私の知らない…この球技に懸ける皆の想いと…それを諦める苦渋の決断を下す判断で迷っているのかもしれない。
事情を知らない私から見れば…すぐにでも試合を諦める方がいいに決まっている。
選手生命に関わるような怪我を負って…試合を続ける意味も理由もどこにもない。
普通に考えたら……でも。


「ふっ………ざけるな……ミィシャン…っ!私にっ……ボールを…寄越せ……っ!私が………皆潰してやるっ……」
「貴女も弱点属性の氷……しかも絶氷の技を食らって動けるなんて凄いわね。でもダメよ、まともな判断に欠けるから。チームメイトの判断に従ってもらう」


「………………………………………」


ミーちゃんが少しの間を置いて判断を下そうとする。
たぶん、それはきっと最良の判断。
その決断はきっと正しいんだと思う。


でも……ごめんね、ミーちゃん。
本当はこんな判断……間違ってるかもしれない。
でも、聞こえたから。


「棄権しま」
「続けます、続けさせてください」


私がミーちゃんの言葉を遮り、審判さんに言った。
皆…驚いた顔をして私の方を向いた、それはきっと…試合続行を決断した事にではない。
今まで何もしてなかった私が、飛び入りで参加しただけの私が、皆の命運を決めるような事をしたから。


「………いいのね?忠告はしたわよ?」
「おたまさんっ!!一体どういう事ですかっ!?」


ミーちゃんが涙目で私を睨む。
…そうだよね、その想いは凄くよくわかるよ。
でも…説明してる時間はないんだ。
本当は…嫌だけど…最もらしい言葉を並べてここは納得させなきゃいけない。
ミーちゃんと対立してる場合じゃないんだ。


「ミーちゃん、何でミュリお姉さんが自分を犠牲にして氷像を守ったと思う?ミーちゃんなら…もうわかってるでしょ?」
「っ!……わかってますっ…!わたし達を信じて託したって事くらい……っ!でもっ……!」
「わかってる、でもね。何の考えもなくこんな事言ってるわけじゃないんだ……今は説明してる時間はないけど……やっと見えてきたから」
「………?おたまさん……どういう事ですか?」
「言ったでしょ?今、説明してる時間はないんだよ。タイムは「まだ」とれない。今確認したい事は……ニャンちゃん」


私はニャンちゃんの方を向く、ニャンちゃんが今「それ」を出来るかどうかで……勝敗が決まる。


「……んにゃ?」


なんか…最初に会った時とキャラクターが変わって本物の猫さんみたいになってる気がするけど…気にしている暇はない。


「試合時間は残り8分。『5分間』ボールを維持できる?ニャンちゃんは避けるのが得意なんだよね?ボールを奪われないで…ニャンちゃんも致命的な傷を負わないで…最後の3分間まで…立ってられる?」
「………………結構難しい事を平気で聞くんだにゃ…おたまは」
「できる?それができるかできないかで先が大きく変わってくるの」


「……おたまさん……貴女は一体何をっ……」
「っ……ミィ……シャン……聞いて……あげて……お……たま…の……考えてる……こと……」
「ミュリフォーリアさん!喋っちゃダメです!」
「あなたは……伝説の『球技の女神』様の話を……信じている…んでしょ?……だったら……その…可能性に……賭けて……みて……」
「………………本当に……おたまさんが……?」




試合時間は残り8分、でも…それじゃ長すぎる。
5分…ニャンちゃんが時間を稼いでくれたなら…タイムを含めて残り8分。
残り3分の試合時間の時までに皆が動けるようになったら。
勝つチャンスが……ある。


全然説得力もないし、考えもまとまってないし、ほとんどが運任せだし。
全く作戦と呼べるようなものじゃないけど。
聞こえたから……この世界でも。
『ボール』の声が。
ボールはどっちのチームにも平等で贔屓なんかしない、ただ教えてくれるだけ。
氷の球ちゃんが教えてくれた、「まだチャンスはある」って。


風…氷…回復…防御…重力…空間。
皆の力を借りて…そう、敵の力も利用して。
できる事があったよ、私にも。


それはボールと共にある事。



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