一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

百五.焼き鳥Ⅱ



ギィィィィィィ…………


俺達は坂になっている山道を馬車で降りて、シュヴァルトハイム側の関門を通る。
こちら側の兵士にも話は通っていたようで滞りなく入国できた。


「随分と時間を食ってしまったな……」


「そうですわね、とりあえず橋を渡り大川を越えた先の『ムキリョクの町』へ行きましょうですわ。そこでセーフ家三女の情報を集めるのですわ」


無気力の町。
なんだろう、凄く俺のホームな気がする。


ドドドドドドドドドドドドドドッ………


「なっ、なんだ!?変な鳥が凄い勢いで坂を降ってくるぞ!?新たな魔物かっ!?」


シュヴァルトハイムの兵士達が坂上からの来訪者に臨戦体勢を取る。
また魔物か?俺達が通った時には何も出なかったのに。


「………!!イシハラさんっ!!あの鳥さんっ!!見覚えがありませんかっ!?すみません兵士の皆さん!!攻撃しないでくださいっ!!」


ムセンが何かに気付き、兵士達の前に立ちはだかる。
何言ってんだこいつは、この世界に来てから鳥の知り合いなぞできた事ないだろう。


ドドドドドドドドドド………


「ぴぃっ!!御主人様御主人様!遅くなって申し訳ないっぴぃー!ただ今戻りましたっぴぃーっ!!」


鳥が喋った、ピーピーうるさい。
なんだこいつ。


「ぴぃさんっ!?ど……どうしたのですか!?そのお姿は!?物凄く……その……丸くお太りになられたような気がっ……」


ムセンが鳥の事をピーさんと呼んだ。
……………………………そうか、こいつは焼き鳥のぴぃか。
久々に見たと思ったら手のり文鳥サイズだったやつがダチョウサイズまで成長している。
しかも縦にだけでなく、横にもでかくなってデブ鳥になっている。
だからわからなかったんだ。
ふむ、これはわからない、仕方ないな。


「嘘ですよね?イシハラさん。普通にぴぃさんの存在自体も忘れていましたよね?」


「うむ」


「ぴぃっ!!忘れないでほしいっぴぃっ!!けど今まで御主人様のお側にいられなくて申し訳なかったっぴぃーっ!ぴぃは精霊の『クラスアップ』試験を受けていたんだぴぃっ!」


「クラスアップ試験……ですか?」


「ぴぃっ!!御主人様のお力になるには『下級精霊』から『上級精霊』くらいにならないとお役に立てないと判断したぴぃはクラスアップ試験に挑んでみたっぴよ!結果……なんと『中級精霊』にクラスアップしたっぴ!」


「『中級精霊』……それで……そんなお姿になってしまわれたのですか?」


「ぴぃっ!!元のサイズにも戻れるっぴよ!これは新たに修得した技術……『形態変化』だぴいっ!このサイズなら荷運びも簡単に出来るっぴ!馬よりも速いっぴよ!」


「凄いじゃないですか!これでシューズさんにも追い付けるかもしれないですよ!ねぇイシハラさん!?」


「俺達を乗せて竜みたいに飛ぶ事はできないのか?」


「ぴぃっ……それはまだできないっぴぃ……」


「まだ、という事は更に精霊のクラスとやらがあがればできるのか?」


「ぴぃっ!できると思うぴ!」


ふむ、思わぬところに便利屋がいたものだ。
焼き鳥がそれをできるようになれば竜などわざわざ探しに行かなくてもいいな。


「よし、今すぐ受けてこい」


「ぴぃ~……それは無理なんだぴ……上級試験を受けるには『職業レベル』の経験値が足りないっぴ……」


実務経験のようなものか。
ふむ、ならばこれからビシビシと鍛えてやろう。


「「か……可愛い……(ですわ)……」」


だもん騎士とですわ騎士が焼き鳥に釘づけになる。
そういえばこの二人が焼き鳥を見るのは初めてだったか。


「ぴぃっ!?御主人様御主人様っ!この二人は誰だっぴ!?御主人様の新しい雌だっぴか!?」


「ぴぃさんっ!?新しい雌とかいう生々しい発言はやめてください!」


俺は面倒くさかったのでムセンに今までの経緯などを説明してもらった。


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「ぴぃっ!!承知致しましたぴ!ぴぃもこれからシューズ様を救うために尽力するっぴよ!では最初の目的地は『ムキリョクの町』っぴね!アクア様っ!荷車をぴぃに繋いで背中に乗るっぴ!」


「い……いいのか?」


俺達は焼き鳥の言う通りに荷車に乗り、だもん騎士は馬から手綱などを外し焼き鳥につけ替えてから背中に乗る。


「じゃあ~行くっぴよ!!みんな掴まるっぴよ!?出発っび!」


ザッザッザッ…………ビュッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!




「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」」


ムセンとですわ騎士が大声で叫ぶ。
無理もない、焼き鳥が思った以上に猛スピードで走り始めたからだ。
たぶん100キロ近く出ている。


ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ!!!


荷車に積んである安定していない荷物が揺れるたびに前後左右上下に振られる。
ふむ、さながら地震体験のようだ。
俺は母親の胎内にいるような感じで眠くなってきた、腹いっぱいだし。


「何故そんな冷静なんですかイシハラさんって貴方はいつもそうでしたね今さらでしたねっ!!!」


こんな時でも突っ込みをいれるムセンの姿勢に感心した。


「スピード出すぎですわよっ!アクアは大丈夫なんですのっ!?」


俺は外に顔を出してだもん騎士を確認した。


「ん?どうしたの?ナツイ」


「お前はこのスピードでも平気そうだな」


「当たり前よ、騎士なんだから。話したでしょ?私は騎士になるために色々修行したんだもん」


ふむ、感心感心。
このスピードなら目的地まで直ぐだろう。


俺はうとうとしたから起きながら眠りについた。


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<一時間後>


ドドドドドドドドドドドドドドドド……


「ぴいっ!見えてきたっぴよ!あれが川に架かる橋だっぴね!」


「ああ、あの橋を越えたら町はすぐそこだ」


外から焼き鳥とだもん騎士の会話が聞こえる。
ふむ、話では馬で半日くらいと聞いていたのにもう着いたらしい。
素晴らしい仕事ぶりだな。


「ぅう……イシハラさん……」
「も……もう無理ですわ……限界ですのよ……」


ムセンとですわ騎士はダウンして両側から俺の首に手を回ししがみついている。
どうやら酔ったらしい、仕方のないやつらだ。


「…………待て、様子が変だ。何やら橋に人だかりがある……ぴぃ君、ここで停まっていい。私が様子を見てこよう」


「ぴいっ!承知したっぴ!」


だもん騎士はそう言って一人歩いて、前方に見える橋らしきものに向かった。
ふむ、確かに人が大勢いるな。
見た所シュヴァルトハイムの兵士のようだが、何かトラブルか?
まぁいいか、だもん騎士が帰ってくればわかるだろう。


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「トラブルだ、何でも数日前に下流からの氾濫により橋が破壊されたらしい。今現在急ぎ復旧作業を進めているようだが……どうやらこのルートは使えなさそうだ。見込みでも仮の復旧にも十日ほどかかる、と言っていた」


ふむ、いきなりのトラブルだな。
まぁ自然災害では仕方ないが、十日もここで足止めを食らうわけにはいかない。


「他のルートで行くしかないな」


「………シューズさんは橋の決壊前に通ったのでしょうか……?」


「それは確かめようがないですわね……アクア、確か……ここから最短で町に寄るには……」


「……ああ……例のルートを通るしかない」


だもん騎士とですわ騎士は何か含みを持たせた言い方をして苦虫を噛み潰したような顔をした。
それを見たムセンが不安そうな顔をする。


「アクアさん……ツリーさん……何でしょうかそのルートとは……とても嫌な予感がするのですが……」


すると、だもん騎士は少し間を置いて話した。




「………『慰霊墓地』……自分の職に恨みを抱き……死んでいった者達の亡霊が住み着いている……悪霊の巣窟だ……」




何かと思えば幽霊かい。
何でそんな神妙な面持ちで話すんだ。


「「「「だって怖い(だろう)(ですわ)(じゃないですか)(ぴぃ)!!!」」」」


駄目だこいつら。

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