一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい
八十六.わくわくが止まらない
「……ふざけるなっ!!では貴様っ……余を利用し、謀ったというのかっ!!?」
一人、大団円に水を差す奴がまだいた。
エメラルドの奴隷脱却のために逆に利用されていたマルグラフだ。
「………マルグラフ候、確かに私達は貴方を利用しました。その件については申し訳なく思います……この縁談につきましては王妃並びに王の名において白紙にさせて頂きます」
「ふざけるでないっ!!余は認めぬぞっ!!」
「……貴方は異議を唱える立場にあるでしょうか?今一度よくお考えくださいませ。何故……奴隷適性だった王女をわざわざ妾に迎えようとしたのか、を」
「……ふん!そんな駆け引きに乗るまでもないわ!根も葉もない噂の事を指しておるなら全て出鱈目だ!!」
「……そうですか、しかし、これは駆け引きではありません。忠告です、叩いて出た埃に足元を掬われたくなければそれ以上話さぬ事です、こう言えば理解できるでしょうか?反逆者として指名手配されている魔王軍の一味……魔女【キャリア・オールマイティー】……と」
「!!!」
キャビア・ほうじ茶ミルクティー?
何かどっかで聞いた事のある名前だ。
「一つの秘密を守る事に躍起になるあまりに……脇を緩めましたね?知ったのはあなたの『副職』を調査した際の偶然の産物ですが……あなたが魔王軍がウルベリオン王国に到来する前にこの【魔女】と何度か接触していた記録があります」
あぁ、勇者一味に名を騙って潜入していたとかいうあのTHE・魔法使いな女か。
「この先はあなたの持つ領土を有する国の王……ウルベリオン王に判断を委ねますが……今はこの場を退いた方がよろしいのではないでしょうか?」
「ぐっ…………………………!!………………ふん!!もう良いわ!!縁談を持ちかけられながら他の男に色目をかける尻軽なぞこちらから願い下げだ!後悔するでないぞ!!」
スタスタスタスタスタスタッ!ガチャッバタンッ!!!
マルグラフは逃げるように玉座から退いた。
最低な捨てゼリフを吐いてったな、まぁもうどうでもいいか。
俺は腹へりの限界点に達したので思考をミュートにした。
ここからは俺の感想は一切ナシだ。
「……ふむ、彼の領土を抱える者として数々の暴言……ワシから詫びさせてほしい。マリアージュ王妃、エメラルド王女、不快な思いをさせてしまい申し訳なく思う」
「いえ、陛下が謝罪する必要はありません。私は娘を取り戻せただけで充分です……エメラルド、ごめんね……」
「何がでしょうか?お母様。わたしも再びお母様に抱いて頂けるだけで幸せ、と強く感じます!何も気になりません」
「……マリアージュ王妃、失礼ながら早急にご確認したい事がありますわ。宜しいでしょうか?」
「ええ、何でしょうか?ジャンヌ」
「先程仰られた……魔女と辺境伯の接触の事です。事実なのでしょうか?」
「……接触の事実を確認した、という部分は本当よ。だけど残念ながら記録があるというのはハッタリ……エメラルドから手を引かせるためのね。あの男……世襲だけで辺境伯爵の地位にいるわけでは無いみたいね……少なくとも悪事を隠すという事については抜け目がないわ」
「……そうですね……しかし、有益な情報ですわ。是非情報を共有したいのですが……」
「勿論よ、私達が掴んだ情報は全てお渡しします。大変なご迷惑をおかけしましたから……」
……
…………
「何だか……大変なお話になってきましたね……だけど、王女様が救われて良かったですっ!!ね?イシハラさん!」
「………そちらにいらっしゃるのが……ウルベリオン王国を……そして、エメラルドを救ってくれた英雄【イシハラナツイ】さんですね?娘が大変お世話になりました……エメラルドが変わる事ができたのは、きっとあなたのおかげです……」
「 」
「ナツイ様?」
「 」
「えっと……あの……どうかなされたのでしょうか…?」
「王妃様……お気になさらないでください……この人…たぶんお腹が減っているんだと思います……お腹が減ると無になってしまうんです……そうですよね?イシハラさん……」
「 」
「あら、それは大変ですね。では今回の件のお詫びと礼を兼ねまして私の国の料理を振るいましょう、支援物資として食糧も運ばせておりますから」
「わくわくが止まらない」
俺は目を覚ました。
そして俺達は会食をする事にした。
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<ウルベリオン城.晩餐の間>
そこはまるで『晩餐 城』で検索すると出てくるような豪華絢爛な場所だった。
面倒だし料理の事以外はどうでもいいから場所の説明なんかいらないだろう。
向こうの国の妃が振る舞う自国の料理はどれも素晴らしいものだった。
料理の事はわからんが、まるでファンタジーの満漢全席。
どうやらムセンも手伝ったらしく、味の玉手箱。
俺は料理を貪る。
食事中は無駄話を嫌う俺もご機嫌でドキドキが止まらないので珍しく会話に参加する。
「イシハラさん!王妃様から色々なレシピを教わりました!これでいつでも創れますよ!」
「大変素晴らしい」
「うふふ、ムセンさんの料理の腕は素晴らしいわ。エメラルドもお嫁さんになりたいなら見習わなきゃね」
「はい!お母様!」
ひとしきり、一件落着な和やかな話題をした後、会話は自然とマルグラフの話になる。
しかし俺は料理に夢中なので適当に聞き、適当に返事をする事にした。
「しかし……お母様、わたしは少し不安を感じざるを得ません……あれほどの恥辱を受けた辺境伯がこのまま黙っていると思えないのです」
「……そうね、きっと報復してくるでしょう。それが我々の国だけに収まれば良いのですが……」
「平気ですわ王妃、あの男は職業の権力には弱いですから。一国や王を相手どる度胸はありません。仮に企んでいたとしても必ず我が国がおさえます」
「いえ……報復の対象がイシハラナツイさん達に向かうのを危惧しているのです」
王妃は話を俺達に振った。
確かに見ようによっては俺がエメラルドを横取りした感じになるな。
嘘とは言え思い切り婚約宣言してたし。
シュヴァルトハイム王国やウルベリオン王国にかかされた恥を奴隷職である俺達警備兵で晴らそうとはするかもしれない。
いかにも小悪党が考えそうだ。
「ナツイ様……ご迷惑をおかけして本当に申し訳なく感じます…」
「全然大丈ぷ」
ご機嫌な俺は軽く返事をした、そして料理に集中した。
「イシハラ君、あーゆータイプはしつこいわよ?もしかしたらこれから寝る間もなくイシハラ君達に攻撃を仕掛けてくるかも…それを回避するいい方法があるわ、前に言った話……もう一つ良い条件を追加したの。受けてくれるなら教えるし……きっと貴方は平穏な日々を送れるわよ?どうかしら?」
「……ジャンヌ……卑怯な真似をして彼を困らせるでない」
「それってイシハラさんが騎士になって領地を持つって話ですか?ジャンヌさん……たぶん何度言っても答えは変わら……」
「全然大丈ぷ」
料理に夢中で話を聞いてなかった俺は軽く返事をした。
「!!陛下!!お聞きしましたか!?彼は快く引き受けてくれるそうです!!早速叙勲の準備に取り掛かりますわ!!」
「………ジャンヌ……」
「イシハラさん!!空返事しないでください!!いいんですか!?」
何が?
全然聞いてなかったけど、一度了承した事を覆えすのは良くないだろう。
「ふぃふぃふぁろう、へゃってやる(いいだろう、やってやる)」
何かわかんないけど俺は食いながら了承した。
「ふふふっ!!この時のために貴方の称号を考えていたのよ!貴方の騎士名は……『イシハラ・ライトセイバー』よ!!」
ださっ。
しかし、ご機嫌な俺は何もかもをも了承した。
「え!?本当にいいんですか!?そんな簡単に決めてしまって!?あれほど断っていたのに!!それにこの話ってもう少し……こう……仲間のために仕方なくとか……心の葛藤をしつつ紆余曲折を経てなるものじゃないのですか!?なんですかご機嫌だから騎士になるって!?軽くないですか!?私がおかしいんですか!?」
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