一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

八十二.意志持つ奴隷



<ウルベリオン城.玉座>


「………本当に宜しいのですか?陛下……」


「……ふむ、既に王家の了承を得ているのならば……我等が邪推してこのような祝報に水を差すような真似をするわけにはいくまい」


「むふ、さすが陛下でございます。新たな軍師様は御納得頂いておらぬようですが……謀り事ばかりを考えずにもう少し柔和な発想をした方がよろしいかと……折角の美貌を損ねますぞ……?」


(カチンッ!!)


「……あら、貴方こそ適齢期に至ったばかりの少女をすぐに頂こうなんて……御趣味を疑われても仕方ないんじゃないかしら…?あらぬ噂を立てられるのも頷けるというものね、もしかして……第二王女様の適職職業の情報を事前に何処かで掴んだのかしら?そしてそれを利用して王家に取り入った……だとしたら一年前に急に姿を見せ始めた時期より以前からってことね。まだ邪推してあげようかしら?」


「……むふ、むふふふ……」


「よさぬか、ジャンヌ。玉璽をここへ、調印を始めよう」


「……かしこまりました」


スタスタスタスタ…ガチャッ…バタンッ!


(むふふふふふふふっ!!クソ女め!偉そうにしておられるのも今のうちだけだ!!これをきっかけに余が昇爵し、新たな国を築き上げた際には貴様もコレクションに加えてやるわ!!泣き喚かせながら余に存分に奉仕させてくれようぞ!むふ、むふふふ……いずれ全ての種族、職業の奴隷を集め……奴隷斡旋職として他国への裏の繋がりを更に深める……辞められぬ副職よのぉ……むふ、むふふふ!)


スタッ!


「候爵殿、お話が……」


「むふ……余の『影』か。何用だ?陛下……場を弁えず大変失礼しますが……」


「良い、退室しても構わぬぞ?」


「お心遣い感謝致します、いえ、この場で結構でございますぞ……どうした?」


ボソボソ……


「………………むふ、そうか。陛下、どうやら第二王女がこちらに到着したようです…………………………は?何?」


スタッ!


「陛下、お話中大変失礼」


「む?……【雨天】か、どうしたのだ?」




「失礼ながら先に言っておきます。シュヴァルトハイム第二王女、並びに、護衛の依頼を受けた【警備兵一行】がこちらへ来ます、大変無礼を働きますがどうかお許しを」


「……………何?」




バァンッ!!!




「その結婚、ちょっと待ったーーー」


言えた。
人生で一度は言ってみたいランキングに入っているとかいないとかいうセリフ。
ここを逃すともう言う機会なさそうだし。
あとは『ここはお前に任せて俺が先に行く』と『諦めた方が楽じゃない?もう試合終了するぞ?』の二つだな。


「イシハラさんっ!お願いだから絶対やらないでくださいって言ったのに!!それに何ですか残り二つのセリフ!!本当にそれチキュウの名言ですか!?何か改変されてませんか!?」


日本の文化を知らないのに本当に大したツッコミだよムセンは。


「なっ……何奴だ!!?ここを何処だと思っておるのだ!!陛下!!余にお任せください!!余の兵隊達につまみ出させましょう!!それとも捕縛してやりましょうか!?」


何か太ったおっさんががなりたてている。
あれがスパゲッティ伯爵か、俺達が駆け込み乗車の如く玉座に飛び込んできたのを怒っているようだ。
確かに駆け込み乗車は良くないなそういえばどうでもいい話だけど駆け込み乗車と炊き込みご飯って語呂や発音が似ているな腹減った。


「陛下、大変失礼致しました。しかしながら急を要する事態であった為、やむ無くお話中と知りつつ立ち入らせて頂きました。非礼をお許し下さい」


俺はすごく丁寧に話した。


「急を要する事態というのは他でもない、シュヴァルトハイム王国第二王女であらせられるエメラルド・バルト・ルイム様を保護し、こちらへお連れしたためです。その王女様が陛下とそちらにいるスパゲッティ伯爵に折り入ってお話があるようで」


「スパゲッティ伯爵とは誰の事だ!?余はマルグラフ候であるぞ!?無礼者が!!」


「マルグラフ候、こちらは先の魔王軍幹部との戦いにて幹部テロリズムを退けた英雄、イシハラナツイ殿だ」


「こっ……この者がっ……ですかっ!?………し、して……第二王女を保護したとは一体……」


「王女エメラルド様はこちらへ向かう道中、護衛達とはぐれてしまったそうで。偶然居合わせた私どもがお連れした次第です」


「な……何と……そうであったか……それは大儀であった。余が後に褒美を取らせようぞ…ご苦労であった。下がるが良いぞ」




「……イ……イシハラさんがかつてない程真面目に話しています……まるでイシハラさんじゃないみたいです……ねぇシューズさん」
「…………………」
「……シューズさん?どうかされましたか……?」
「うぅん、何でもないよー?ムセンちゃん。あたし達はイシハラ君とエメラルドちゃんに任せて静かにしてよー?」
「え?あ……はい……そうですね……」


ギィィィィィ……スタ……スタ……スタ……


「いいえ、陛下……マルグラフ候。このお方達はわたしの恩人でございます。是非一緒にこの場にて……お話を聞いて頂きたく感じます」


俺達に続いてエメラルドが扉を少し開き、入室した。
ちなみにならず者達は外へ置いてきた、このたたかいにはいらないから。


「陛下……お久しぶりでございます。覚えておられるかはわかりませんが……わたしが幼き頃……一度お城に訪問なさって頂いた時に……」


「勿論覚えておるぞ、見違えましたな。エメラルド嬢……かつては好奇心旺盛で活発であった少女が……聡明でお美しくなられた」


「うふふ、陛下はお変わりないですね……王としての威厳、風格と優しさを兼ね備えた……わたしが知る中で比類なき唯一無二の絶対の王でございます」


「ははは、貴女のお父上を差し置いてそのような評価をされては怒られてしまいますな。まぁ挨拶はこのくらいにして………こちらは初対面でございますかな?話されるといい」


「はい……では、失礼ながら……お初にお目にかかります。【マルグラフ・ベリル・マグラータ】辺境伯爵様、わたしはシュヴァルトハイム王家次女【エメラルド・バルト・ルイム】でございます」


「おぉ……御両親の話と寸分違わぬ美しさ……もうお話は聞かされましたかな?余が…………………………………」




エメラルドと辺境伯爵は初対面の挨拶を交わし、社交辞令的な話を始める。
ふむ、臆さずに堂々と話せているな。


「………イシハラさん、勝算はあるのですか……?」


ムセンがボソボソと俺に耳打ちする。


「勝算?何の?」


「婚約破棄を勝ち取る勝算ですよっ……何か算段があるのではないのですか?」


「何言ってんだ?そんなの一つもないぞ」


「………では、王女様の思いが王様に聞き届けられなかった場合……どうなさるおつもりですか?」


「その時は逃げるしかないだろう、たとえこの国にもう住めなくなっても仕方あるまい。エメラルドからの依頼は受けちゃったんだから」


「…………」


それにこの話の焦点は勝ち負けじゃない。
勝率だけで言ったら現状、エメラルドが婚約破棄を勝ち取れる率は、ほぼ無い。


ウルベリオン王はエメラルドの思いを汲み取ってくれるだろうが、味方になるとは限らない。
王の立場からすれば、隣国との関係悪化に繋がるエメラルドの逃走を手助けするにはリスクが大きいしな。
味方は誰もいない、と考えるべきだろう。


だが、それでも今まで奴隷としていないように扱われ、更に道具として扱われようとしているエメラルドがそれから脱却しようとしているんだ。
全てを捨て、初めての自由を得ようとしている。


その思いさえ伝えればそれでいい、それだけで価値のある事だ。


そして俺達は依頼しごとを受けた。
なら、その思いを誰にも邪魔されないよう『警備』してやればいいだけだ。


「……イシハラさん……」


さて、後はエメラルド次第だな。
流れに任せるとするか。


ひとしきり挨拶を終えたエメラルドは深呼吸して、表情を変える。
奴隷とは程遠い、意志を持った顔つきに。




「皆さま、お聞きください。わたしは……今日まで『奴隷』でした」





















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