一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい
七十八.奴隷適性王女
「「「「…………人身売買……」」」」
「ZZZ」
エメラルドの長い回想話を聞いていた全員が口を揃えて言った。
こういった話は寝ながら聞くに限るのに、何て真面目なんだこいつら。
「………本当だとしたら……とんでもない話ですよ。ウテンさん、この国はそういったものを認めているのですか…?」
「ムセン・アイコム。貴女は一体王の何を見ていたの?ウルベリオン王がそんな事を許すと思ってるの?」
「………その通りです……認めるわけないですよね……すみません」
「辺境伯領主についてのそういった黒い噂は諜報部にも伝わっていた。まさか真実とは思わなかったけど」
「……その事実を目の当たりにしても……わたしにできる事はありませんでございました。それからの一年間は『第二王女』としての肩書きを世に知らしめる下準備として…わたしが17歳で候爵夫人となる事を大々的に世間に響かせるため……少しずつ外に出していただきました。しかし行動の自由はやはりなく……わたしは今日までそれを知らせる事も……逃げる事もできませんでした」
「……では……本日その候爵がウルベリオン国に来たのは……」
「……恐らく……下準備の最終段階。ウルベリオン王に承認させるつもり。相手が隣国の王女となればその領土を抱える国の王の認可が必要。第二王女を慰安という建前で訪問させたのも……向こうの王と領主の示し合わせだと思う」
「………そんな……たとえどんな適性だろうと……実の娘をまるで道具のように……」
「ムセン・アイコム。この世界ではそんな事普通。政略結婚なんてどこでもやってる当たり前の事。王族の婚姻相手は限られてる、政治のための道具にされるのは仕方ない、全ては国のため」
「…………」
「とりあえずいー君があらぬ疑いをかけられる前に第二王女を連れて行くべき。話は聞いたけど現状はどうしようもない」
ウテンお得意の正論にムセンもエメラルドも、エミリもならず者達も黙る他なかった。
ていうか、この豚野郎盗賊団まだいたのかよ。
なにをなに食わぬ顔で居座ってんだ、なんか王女の回想話を聞いて泣いてるし。
そこへ不機嫌そうな顔をしていたシューズが割って入った。
「やり口が汚いよー、だってエメラルドちゃんは相手の事を何も聞かされてないでしょー?そんなのダメだよー」
「……セーフ・T・シューズ。貴女は事なかれ主義かと思っていたけど。第二王女を助けるべきだとでも言いたいの?」
「うん、だって嫌なんだよね?辺境伯と結婚するの」
「…………………はい、嫌、でございます」
「だったら行く必要ないよー、あたしだったら嫌な相手としないもん」
「だけどシューズさん……既に誘拐沙汰になってしまっている今……せめて無事である事を知らせなくては……」
「誰に?ムセンちゃん。エメラルドちゃんの両親に?辺境伯に?道具として扱ってる人達に無事なんて知らせる必要ないよー。むしろ行方不明にして見つからないようにした方がいいと思うよー?」
「……………それは……でも………」
「もう辺境伯はその辺りの根回しは済ませてると思うから手段はそれしかないよー、たとえエメラルドちゃんの同意が得られなくても王族両家が認めちゃえば結婚させられちゃうんだもん。政略結婚だから。当人の気持ちなんか意に介さないよ話を聞く限り。だったら逃げちゃうしかないじゃん」
シューズが珍しく長々と話す。
何か思うところでもあるのかこいつ、なんかイライラしてるように感じるな。
「……けど、逃げるとしてもどこへ逃げるなのよ?平民がどこかへ逃げるのとワケが違うなのよ……王女様なのよ?きっとシュヴァルトハイムも辺境伯も名誉のために捜索に総力をあげるなのよ……もしもイシハラ達がそれに巻き込まれたらタダじゃ済まないなのよ……やっぱりここは別の手段を見つけた方がいいなのよ……」
「別の手段なんてないよー、唯一の方法は辺境伯の悪事を暴いて人身売買の件を露見させて縁談をご破算にする事だけど、諜報部すら掴めない情報をすぐに暴けるとは思えないしー。間に合わないよー」
逃亡を望むシューズとエメラルド。
自国や俺達のために逃亡は避けたいウテンとエミリで話は平行線を辿る。
ならず者達はまだしくしく泣いている。
「イシハラさん……イシハラさんは……どうお考えですか?」
ムセンが寝ている俺に問う。
どうお考えかもクソもない、答えなんか最初から一つだ。
俺はライトセイバーにエネルギーを注入した。
ブォンッ
「……え!?イシハラさん!?」
「……ナツイ様……?」
そして、エメラルドに向けライトセイバーをぶん投げた。
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<ウルベリオン城.玉座>
「むふ、お久しぶりです陛下……新軍師様も……相変わらずお美しい」
「ありがとう、貴方に言われても嬉しくないけどね。今日は何の用なの?陛下はご多忙なの、防衛軍事予算の件ならまたにして頂戴」
「むふふ、手厳しいですな。しかし……本日はそんなお堅いお話ではありません。陛下にご承認頂きたいのです、余は隣国シュヴァルトハイム王家第二王女【エメラルド・バルト・ルイム】との婚姻を取り付けたのですよ」
「…………………なに?」
「……寝耳に水なんだけど………何の冗談?バルト王からは何も聞いてないんだけど」
「むふふ、冗談でも何でもありませぬぞ?驚かせようと思いましてな。既にバルト王からの承認は書面にて取りまとめてあります。エメラルド王女ももうこちらへ到着している筈です」
「何それ?ほとんど事後承認みたいなものじゃない。そういった事はもっと早く報せて欲しいんだけど」
「むふ、それは失礼致しました。しかし、これでより一層……隣国との絆が深まると思えば些事たるものでございましょう?」
(確か第二王女は10歳の適性検査を境に6年間ほど職業訓練を名目に公に姿を現さなかったけど……何かキナ臭いわね……だけど、向こうの承認が既にあるなら私達に出来る事はほぼないわ……確かに今は魔王討伐のために繋がりを強固にする必要がある……)
「……陛下、如何なさいますか?」
「…………ふむ……」
(むふ、むふふふふ………もうすぐ、もうすぐ余のコレクションに『王女』が加わるぞ。たっぷりと遊びつくし……子を産ませたら見知らぬ土地へでも売り飛ばしてやろうぞ!なに、奴隷適性なら何一つ文句は言うまい……むふふふふふふふふふふ!!)
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