一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

六十八.イシハラ勧誘会



<ウルベリオン城.『職巫ジョブの間』>


「よくぞ集まってくれた、国の英雄…『警備兵』達よ」


俺とムセン、シューズは城に呼ばれ何か仰々しい間に通された。
至るところに銅像やら輝く宝玉やらが並んでいる。


魔法陣みたいなのの中央付近にはキングオブキング、美人神官、宝ジャンヌ。
そして警備協会の試験官のハゲとアマクダリがいる。


「いえ、このような場を設けて頂き至極光栄の極みです、陛下」


俺は丁寧に挨拶をした。


「あ、あれ?今度はちゃんとした丁寧語なんですか?イシハラさん」
「当たり前だ、神聖な場だぞ。常識だろバカかお前」
「……もうイシハラさんの常識がわかりません……」


「ははは、本当に面白い男だ。礼節を弁えつつ時に破天荒で常識破り。ここは『職巫ジョブの間』だ。ここで御主達は正式に『警備兵』として認可され、ステータスにも反映される。つまり御主達は立派な職業の一員となる、畏まらずともこの場は無礼講で良い。王も警備兵も職務の1つ……対等だ。しかし、普段は礼を弁えてもらうぞ?ワシ歳上だし……国を舵取るにはまだ威厳尊厳というものが必要なのだよ…」




確かにいくら職業平等を推し進めているとはいえ、いきなり下っ端兵士と王様が対等に話しはじめたら威厳もなにもあったもんじゃないな。


「あんたも苦労してるんだな」


俺は王を労う。


「貴様!陛下に向かって何だその口のききかたはっ!!」
「マルボウ、良いと言っておる」
「ぐっ……!」


「それで?具体的にはこの職巫の間とやらで何をするんだ?」
「僭越ながら…それは私から説明させて頂きます」


美人神官が前に出てきた。


「お三方はここで【職業神】様に祈りを捧げるのです。そうすることで職業神様の加護を受け、晴れて『警備兵』として認可されるのです」


何だ、それだけか。
地球とは違って正式な書類やら何やら書かなくて済むのは面倒じゃなくていいことだ。


「えっと…それだけで良いのですか?神官様」
「はい、ムセン様。就職や転職される方はこちらで祈りを捧げるのが通例となっていますので…」
「そしたらあたし達はもう警備兵になるの?」
「はい、シューズ様。そうする事により警備兵の技術や資格がステータスに刻まれ、その概要や習得法がいつでも確認できるようになります」


つまりあれだ、ジョブに就くとそのジョブ独特の技術が使えるようになるという事だな。
面倒だし脳を使いたくないからそういう事にしとこう。


「では、お三方は魔法陣中央にて祈りを捧げてください」


俺達は促されるまま、魔法陣中央にいく。


「ふふ、ちなみにジョブは同時に一人二つまで就く事ができるのよ。メインとサブ……通称『掛け持ち』って言われてるけど…この話は後でするわね」


急に宝ジャンヌが何故か俺を見ながらそう言った。
掛け持ちなんか誰がするか、俺はそこまでして稼ぎたくない。




「では、就職の儀を始めます」


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<遥か遠い地・『魔王城』>


カツ………カツ………カツ………




「あら?帰ったの?偽装魔女【オールフォーエリート】……いえ、人間名は【キャリア・オールマイティー】だったっけ?」


「うふふ、ええ…さすがですわ、魔王様。驚かそうと思いましたのに」


「なめないで。姿を隠してもわかるわよそんなの。それで?勇者はどうだったの?脅威になりそう?」


「うふふ、いいえ。思ってた以上に役立たずでしたわ、あれなら放っておいても魔王様の敵にはなりえません、わ」


「ふーん、つまんないわね。じゃあもう様子見してなくていいんじゃないの?」


「うふふ……まだダメですわ。至るところに危険因子が存在してます、特に……厄介なのが異界召喚によりこの世界に現れた戦士達…『後天的』な潜在力を秘めた者が大勢います。ふふ…馬鹿な人間達は気付いていないみたいでしたけど」


「えー、アタシ退屈なんだけどー。いつまでこうしてればいいのよー」


「焦りは禁物ですわ、魔王様が所望されている【至高の悪職】も未だ発見されていません。もう少し人間共を観察する必要があります、わ」


「その当て馬にするために【テロリズム】をけしかけたんでしょ?良さそうな人間は見つからなかったの?」


「うふふ、見つかりましたわ。名を【イシハラナツイ】…『天職の警備兵』…直に一流の警備兵となるお方です、わ」


「……何の冗談?ふざけてるの?警備兵なんかが参考になるわけないでしょ?」


「うふふ、ええ。注視すべきは職業ではなくその人間性……強大な力を秘めながら信念や目的たるものを何一つ持たない男…まるで『無』なのです。流れゆく雲……きっと魔王様も気に入ると思います、わ」


「……面白そうね、アタシも見に行ってみようかしら。…いずれ仲間になるかもしれないしね…【至高の悪職】……その男が器になればいいんだけど」


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<冥界>


ギャアッ……ギャアッ…ギャアッ……


「ヒッヒッ、冥王様……何故わざわざお力を貸されたのですか?あの【イシハラ】という男に……」


「気付かなかったか?バカ者め、あの男…わらわに近い器を持っておる。今のうちに恩を売っておこうと思うてな、この冥界を更に荒らす存在になるぞ」


ピラッ…


「ヒッヒッ、調べによりますと……【ケイビヘイ】という職業に固執されているようですが……誘いにのるでしょうか?」


「バカ者め、そのためにわざわざわらわが出向いて力を貸してやるのだ。どうやら魔の者が蔓延しているようだからな。行くぞ、異界『オルス』へ」


「ヒッヒッ!冥王様が動かれるなど何万年ぶりでしょう!よほど気に入られたようですな!良いでしょう、お供しましょう!」


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<ウルベリオン城.医務室>


………パチッ…


「…………………………ここは……吾が輩は……一体……」


「気がつきやがった?ですわ。あれだけの重傷で…流石序列二位ですわね。ここは城の医務室ですわ」


「…ツリー殿…貴女こそよくぞご無事で…ボルト殿は?」


「あのガキもシャドウも生きてますわよ、まだ意識はないけど…快復に向かっているそうですわ」


「それは何より………して、テロリズム率いる軍勢は……」


「………幹部は死亡、魔物達は撤退したそうですわよ。……こちら側には奇跡的に死亡者は出なかった、らしいですわ」


「……そうですか………いやはや、流石勇者殿といったところですかな」


「……………勇者様じゃねぇ、ですわ」


「………何ですと?」


「幹部を倒したのは勇者様じゃねぇ、と、言ったんですわ。詳細はワタクシ達にすら伏せられているけど……ある一人の男が幹部を倒し、魔物達を退けた、らしいですわ」


「………何と……それほどの実力者がこの街に……」


「名前は【イシハラナツイ】……けどワタクシは信じねぇですわ。警備兵ごときが街を救ったなど……仮令たとえ王の言うことでも真っ当に受け止められるわけねぇですわ」


「……警備兵……イシハラナツイ殿…ですか…」


「しかも聞いた話では…現騎士団長と軍師の一人マリオンは解任。何でも民を危険にさらしたのが解任理由だとか……信じられねぇ事ばかりですわ」


ガチャ


「信じられない事は多々あるでしょう。しかし、それが改革というものです。陛下はそうご判断なされました、ならばこれから国はそう進むべきなのでしょう。…マグマ様、ご無事で何よりです」


「大神官殿……っ!!」


「大神官様……ですわ。確か…例の警備兵の就職儀に行ったんじゃなかったの…ですわ」


「はい、先ほど無事に終えたところです。……あなた方には更に信じられない事になりますが……陛下から新たな御布令、そして…ご用命です」


「御布令…?して、ご用命とは?」






「十二人騎士団の序列制度撤廃……そして、件の【イシハラナツイ】様を新たな騎士として勧誘せよ、との事です」

























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