一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい
六十一.最適性武器
タッタッタッタッ……
「はぁっ…はぁっ…」
「…………」
「ウ…ウテンさんっ……ようやく追い付きました……じょ…状況はどうなってますかっ…?!イシハラさんはっ…!?」
「………見てのとおり、ムセン・アイコム」
「………え?」
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「オラァァァァァァァァッ!!!」
ガキィンッ!!
勇者はクソライオンに剣で斬りつけた。
およそ生身を剣で斬りつけられたとは思えないような金属音がする。
あのライオン、鉄ででも出来てるのか?
勇者の剣はライオンの皮膚、薄皮一枚すら通さず止められた。
余談だが勇者の持つ剣は超かっこいい装飾がされている。
あの勇者には贅沢すぎる代物だ。
ググッ…!
「……っ!かってぇっ…!なんつー固さだよ…っ!」グググッ…
アホ勇者が弱いのかライオンが固すぎるのかしらんが、勇者が剣を押し込んでもクソライオンは一ミリも動かない。
「…あぁ?誰だよおめーは?今楽しんでんだから邪魔すんなや」
クソライオンは勇者の事をまったく意に介していないようだ。
ザクッ
「がっ……!?速っ……!?」
「勇者っ!!」
『ショック療法』
バチィッ
「痛っ!!」
ライオンに爪で斬られ、なんなくあしらわれた勇者をすぐに性格ブスが回復した。
よし、ずっとそうやって攻撃&回復してればいつかは倒せるだろ。
ザワザワザワザワ……
「ゆ……勇者様が苦戦してる…そんなに強いのか…あの魔物…」「やばいんじゃないか…?俺達……勇者様が倒せなかったら…もう…この国は…」「しかも……更に強い『魔王』もいる……勇者様が対抗できないんじゃ国どころか……世界は終わりだ……」
住民達は不安を抱き、ざわついている。
ほら、お前らがさっさとライオンを倒さないからだぞ。
「あんたのせいなのん!オッサン警備兵!勇者はあんたのせいで受けた傷が万全に回復してないのん!だから本調子が出てないのん!!」
「そうだぜオッサン!だからさっさと協力しろ!勇者と共闘できる事を誇りに思って死ぬ気でやれよ!」
ザワザワザワザワ…
「そうだぞ警備兵!さっさとやれ!」「あんたのせいなんだから勇者様に力を貸しなさい!」
ワーワーワー!!
勇者達は何か俺に向かってギャーギャー騒いでいる。
ふむ、なるほど。
こいつらが隠れて様子をうかがってたり、俺を陰から攻撃してきた理由が何となくわかったぞ。
ピンチに駆けつけるヒーロー的な演出をつくりあげて勇者への信仰心を一層高めようとしてるわけか。
つまり、国全体を相手どって恩を売ろうとしてるわけだ。
チンピラに絡まれてる女を助ける演出をして惚れさせようとするやつと同じ事をしてるのか。
凄いなこいつら、一国を巻き込んでそんな事をするなんて。
規模がでかすぎるだろ。
さすがに魔物がこの国を襲ったのは偶然だろうが、それをチャンスと言わんばかりに好機を狙ったわけだ。
(くっくっ…最近はこの国で豪遊しすぎて俺らへの不満も聞くようになっちまったからな、ここで一発でかい魔物を討伐すれば住民達も口を閉じるしかねーだろ!)
(そうなのん!アタシらの居場所をわざと流して魔王軍の耳に届くように仕向けたのん!あとは国が襲撃されるのを待つだけなのん!まさか幹部まで来るとは思わなかったけど…)
((これであとは幹部を倒せば住民は俺らに平伏す(のん)))
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「…………って事だと私は思う。推察でしかないけど。色々とおかしい部分もこう考えると納得」
「……な……そんな……それにイシハラさんを利用しようとしているって事ですかっ!?」
「たぶん。あの勇者…修行なんてしてるとこ見た事ない。この国の滞在中、ずっと遊び回ってた。そう報告されてる」
「……許せません……絶対!皆さんに伝えにっ…!」
「無駄、推察でしかないし…誰が信じるの?あなたも見ての通り、この世界は『職業信仰』が根付いている。あなたといー君は警備兵…いや、まだ無職。向こうは勇者。百人が百人、勇者の嘘を信じる。たとえそれが破綻した理論であっても。それが『職業』に対するみんなの信用度」
「そんなっ……そんなのっ……!!おかしいですっ!狂ってます!この世界っ!」
「あなたのいた世界では違ったの?ムセン・アイコム。『職業』に対して偏見はなかったの?」
「!!…………………」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
『まったく、『栄養管理士』なんてこの船にいるのかしら?栄養カプセルも自動給士も船に備えてあるのに。もう古いのよそんな廃れた職業』
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…………」
「それに今はそんな事言ってる場合じゃない、いー君一人だったら互角に戦ってたけど…今はあの勇者に足を引っ張られてる。それに決め手になる攻撃手段がなかったのも確か。このままじゃ危ない」
「……何か…方法はないんですかっ!?」
「……………1つだけあるとしたら……いー君の『最適性武器』を探すこと」
「…『最適性武器』……?」
「『天職』の才の者だけが扱える武器。勇者が今使ってる武器がそう、先代勇者…父親の形見だった『聖剣』。あれは勇者だけが扱える勇者という職業に最適の武器」
「………イシハラさんにも…そんな武器があるのですか?そういえばイシハラさん…どの武器を使っても納得いっていない様子でしたが…」
「必ずある。だけどこの世界にある物とは限らない、いー君が前世でよく扱って愛着があったものかもしれない。そうなると不可能」
「………イシハラさんの……」
ブォンッ……ピピッ!
「?ステータス画面を開いてどうしたの?ムセン・アイコム」
「イシハラさんのプロフィールに…ずっと気になっていた文章があったんです…」サッサッ…
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◇『イシハラ・ナツイ秘密項目』
・…………であり、体脂肪率は10%。股下のサイズは………
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「……何か顔赤いけどこの非常時に何してるの?ムセン・アイコム」
「すみませんっ!間違えましたっ!ここじゃなくてっ…確か職業の『警備員』を長押しして…」サッサッ…ピッ
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◇『警備員』
・……【誘導棒】や旗を使用し、交通誘導を行う。
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「試験の時から考えていたのですが…もしかしたらこの【誘導棒】なるものがイシハラさんの適性武器になるのではないかと…イシハラさんもよく棒を振ってたと言っていましたから!ただこの【誘導棒】…詳細がわからないんです…」
「…今、この世界で確認されていない『異界アイテム』はステータス画面に詳細が表示されない。私にもわからない、聞いた事もない」
バサッ…バサバサッ
「ぴいっ!ムセン様っ!御主人様は無事だっぴ!?」
「ぴいさんっ!シューズさんとエミリさんは!?」
「大丈夫だっぴ!無事お母さんに送り届けたっぴよ!シューズ様が護衛して避難してるぴ!」
「……良かった……!…そうですぴいさんっ!確かイシハラさんの事は従事する以前に調べたのですよねっ!?イシハラさんの前世のチキュウという世界の事もわかりますかっ!?」
「ぴ!もちろんだぴ!何かあったぴ!?」
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「さぁ勇者っ!!ボーッとしてないでかかってこいや!もっと楽しもうぜっ!」
「ちっ…!言われなくてもそうしてやるよっ!」チャキッ
【天職勇者技術『七光剣』】
ガキィィンッ!!
勇者は光輝く剣を構え、再度ライオンに斬りかかった。
しかし、また鋼体に阻まれ傷一つつかない。
「さっきから何なんだおめーはよ!今俺様は勇者と遊んでんだ!邪魔すんじゃねえ!!」
「はぁ!?誰も遊んでねぇよ?!俺は魔物と遊ぶ趣味なんかねえ!可愛い女の魔物ならともかくなっ!」
なんかすれ違いコントみたいなことになっている。
もしかしてこのライオン、勇者の事を勇者と思ってないんじゃないか?
「うざってぇ!!どうせ勇者には効かねーんだ!ここら一帯爆破してやる!周りの雑魚ども全員まとめて吹き飛びやがれ!!」
グゥゥゥゥゥゥンッ……バチィッ!バチバチッ!
クソライオンは巨体をかがめ、光を放ち、放電しはじめた。
どうやらまた爆破を起こそうとしているらしい。
今までとは比べものにならないような規模の爆発を。
「ひぃっ…!!」「ゆ、勇者様っ!!はやくっ…倒さないとっ…!」
住民達もその脅威を肌で感じとったのかおののいている。
「お、おいオッサン!!とどめはくれてやるっ!早く倒せっ!」
「そっそうなのんっ!これはまずそうなのんっ!」
何好き勝手言ってんだこいつら、自分でやれよ。
まぁこいつらじゃ仕留めきれないだろうけど。
しかし俺にも決め手がない。
爆発は俺には効かないが、このままじゃこいつらが全滅、それどころか街も消し飛ぶな。
ふむ、まいったまいった。
「イシハラさんっ!!!」
バッ……クルクルクルッ……
「ん?」
群衆の奥からムセンが登場し、俺に何か投げてきた。
また銃か?二丁あったところでどうにかなるとは思えないけど。
パシッ
「!」
投げられた物を受けとり、手にとった瞬間。
俺は直感した。
なんて手に馴染むのだろう。
まるで何年も何十年も手にしていたような、そんな感覚だ。
初めて持つ物のはずなのに。
もう何度も振っていたような、そんな感覚。
間違いない。
ようやく見つかった。
これが俺の『適性武器』だ。
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イシハラは最適性武器『ライトセイバー』を手に入れた!
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