一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい
六十.絶対勇者信仰計画
~イシハラと勇者が爆発を受ける数分前~
◇【ムセン・アイコム視点】
「…………あの人…」
私達と住民達の間に見た事のある方が割って入ります。
こんな事言ってはあれなんですけど……私の凄く苦手とする女の子。
初対面からそれはもう最低な出会いかたをして…少し恐怖の念すら感じている……あの勇者一行の一人。
ケガの治療に精一杯でしたから気付きませんでしたが…もしかしてあの最低な勇者一行がここに…?
私は喜んでいいのか微妙な思いで成り行きを見守ります。
あの人達の性格はともかくとして…とにかくこれで人々は助かるんですよね?
しかし、また聞いた事のない職業を聞きました。
「異界の白……魔導師…?」
「はい、リィラ・ホワイティア様もかつて異界召喚にて呼び出された御方なのです。リィラ様の世界では魔法という力を主としていたそうで…その中で回復や治癒魔法を使う者を『白の魔導師』と呼んでいたそうです」
「………あの人も…異界から喚ばれた方だったのですか…」
ビリッ…ビリビリッ…!
【異界の白魔導師技術『ショック療法』】
バチィッ!バチィッ!バチィッ!
「いたっ!!いてぇっ!!何だこれ!?」「リ…リィラ様っ…重傷の方もいらっしゃいますのでもう少し優しく…っ!」
白魔導師の女の子が杖を振るうと白い雷みたいなものが人々に降り注ぎます。
それを受けた人々は痛みに顔を歪めながら白魔導師さんに懇願しています。。
攻撃でもしているのかと思った私は白魔導師さんに言います。
「なっ、何をしてるんですかあなたは!?」
「アタシの魔法を知らない異界のブスが口出しするななのん。痛みを伴う治療行為だのん、アンタのとってつけた技術なんかよりよっぽど治りが早いのん」
「そ……そうなんですか?大神官様…?」
「………はい、リィラ様が治癒技術に長けているのは確かです…」
……大神官様が仰るならそうなんでしょうけど…確かに治癒や治療には痛みというのはつきものかもしれませんけど…。
バチィッ!
「ぅわぁぁぁぁんっ!痛いよぉぉぉっ!」
「うるさいのんっクソガキがっ!黙って大人しくしてろってのん!」
白魔導師さんは幼い子の治療にも容赦なく、泣いた子供に罵声を浴びせます。
私はたまらずその子のもとに駆け寄って抱きしめます。
「何やってるんですかっ!!安心を与えるのも治療行為をする者の責務ではないんですかっ!!怖がらせてどうするんですかっ!」ギュッ
「あぁんっ!?っとにケンカ売んのが好きみたいねんアンタ!上等だのんっ!叩きのめしてやるからかかってこいのんっ!」
「ぅあああああんっ!!うああああああっん!!」
私の腕の中で子供は更に大泣きします。
「おらどうした!?かかってこいのんっ!ケンカ売るくせにすぐビビるブスがっ!また涙目になってるのんっ!すぐに何も言えなくなるのはわかってるのんっ!!」
「………」グッ……
(……確かに…私はすぐに怖じ気づいちゃって何も言えなくなってしまいますけどっ……!それでもっ…!)
「ぅぁぁぁぁぁんっ!ぅぁぁぁぁぁんっ!」
(……いえ、今はそんな事やってる場合ではありませんね……悔しいですけど……この子を落ちつかせてあげなくちゃ……)
ギュゥッ……
「……大丈夫ですからね、もう痛いのは無くなっちゃいますから…」
私は子供を思いきり抱きしめて技術を使います。
『キュアライト』
パァァァァァァァッ………
「ぐすっ……ぐすっ…………うん……ぐすっ……ありがとう……お姉ちゃん…」
「はっ!結局何も言えないのんっ!ガキはもう治したってのにバカだのんっ!これに懲りたらそこでずっと子守りでもしてろのんっ!二度とアタシにツラ見せるなってのんっ!」
「……………」
「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」
周りにいた方々はいつの間にか静かに私達のやりとりを暗い顔をしながら見つめていました。
「あぁん?アンタらも何か文句あるのん!?ケガを治してやったんだからもっと喜べってのん!…まぁいいのん、これでアンタらにはまた『貸し』ができたのん。魔物退治が終わったらまた勇者一行を丁重にもてなすのんっ」
「……」「……」「……」「……」「……」「…はい…ありがとうございます…リィラ様……」
人々は愛想笑いのような顔をして白魔導師さんに頭を下げます。
(……本当に…この国の……いえ、この世界の人々は…職業による信仰にここまで取り憑かれて…)
でも……私もそれに何も言えません。
魔王という世界を脅かす存在に唯一対抗しうる勇者という職業。
人々が世界の平和を望んでいるのなら…勇者という職業に頼るしかないんですから…。
異世界から来た私が…それに口出しして…世界を危機にさらすわけにはいかないんですから。
グッ……
「……?どうしたのお姉ちゃん…?おなかいたいの…?」
「……」
(悔しいなぁ……私も…イシハラさんみたいになれたらなぁ…)
イシハラさんなら…きっと魔王なんかも倒せたりして…勇者一行なんかも簡単に黙らせられるのに。
何で私には…そんな力がないんだろう。
(だめですね……また…挫けそう……イシハラさんがいないと…私…やっぱり何もできない……)
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ……!!!
「「!!?」」
近くでまた爆発音が聞こえます。
音の方へ向くと火柱が立ち昇っていました。
(あれは……あの獅子の魔物のっ…!)
「イシハラさんっ「勇者っ!!!」
タッタッタッタッタッタッタッ…
爆発音を聞いた白魔導師さんは私の叫びを遮りすぐに音の方へ向かいます。
「ムセン・アイコム様、こちらは私に任せて貴女も向かってください。きっと……イシハラ様にも貴女の御力が必要です」
「大神官様……っ!はいっ!」
「こっち、ムセン・アイコム。ついてきて」
タッタッタッタッタッタッタッ……
私はウテンさんに先導されてイシハラさんのもとへ向かいます。
(…弱音を吐くのも…考えるのも後っ…!イシハラさんっ!無事でいてくださいっ!)
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◇
-時は戻り、現在-
「勇者っ!!!」
「ん?」
クソライオンをどうしたものかと考えていると群衆の中から聞いた事のないようなないような声が聞こえた。
見てみると群衆を押し退けて白フードの性格ブスが倒れている勇者に駆け寄ってきた。
杖持ってるし白フードだし、たぶんこいつは回復役だろう。
勇者を回復しにきたのか、良かった良かった。
これで俺はお役ごめんだな、早く帰ろう。
今度は一撃でやられるんじゃないぞ。
【異界の白の魔導師技術『大ショック療法』】
バチィッ
「痛たたたたっ!!?」
何か電気ショックみたいな感じで勇者は痛がりながら回復した。
回復してるのか?あれ。
まぁ火傷とか治ってるし回復術なんだろうが。
何て無茶苦茶な治癒術だ、現実的なのかファンタジー的なのかどっちかにしろ。
(なにやってるのん勇者!!なにやられてるのん!これじゃあ計画が台無しなのんっ!)ヒソヒソ
(しっ…仕方ねーだろ!思った以上に化物だったんだからよ!このデカブツの魔物!魔王幹部ってこんな強えーのかよ!)ヒソヒソ
足手まとい勇者と性格ブスはひそひそと会話をしている。
何話してるか知らないが早くこいつ倒せよ。
「ゆ…勇者様……?やられたように見えたけど…もしかして…」「馬鹿っ!聞こえちまうだろっ!そんなわけないって…!ちょっと油断してたんだろ…!」「そっ…そうよね…!リィラ様も駆けつけてくれたしっ…もう大丈夫よねっ……?」「け…けど…あっちの警備兵はピンピンしてるのに……?」「それはお前…………」
ザワザワ……
(ほらっ!平民も怪訝な目を向けてるのんっ!どうするのんっ!?)
(知らねーよっ!雑魚魔物だったら楽勝なのに……最近修行もレベル上げもだるくてしてなかったから勘が鈍ってんだよ!)
(じゃあ…逃げるしかないのんっ!?)
(バカかよっ!この警備兵のオッサンに全部持ってかれちまうだろっ!このオッサンどうやったか知らねーけど幹部と互角だっただろ!オッサンが倒しちまったら……もうこの国にいらんねーぞ!)
(ちぃっ!…キャリアのせいなのんっ!アイツがもっと豪遊できるようになるからって変な計画たてなければっ…!)
(言ってる場合かよ!とにかく誤魔化さねーと…っ!…そうだ!)
バッ!!
足手まとい勇者は突然立ち上がり、群衆に向けていきなり叫びはじめた。
「サンキューリィラっ!この警備兵に足を引っ張られて爆発をもろに喰らっちまったけどもう大丈夫だ!おい警備兵!そんなに戦いたいなら協力しろ!手柄は分けてやるからよ!仕方ねえやつだ!今のは見逃してやるから手を貸せっ!」
ザワザワッ…ザワザワ…
「そ…そうだったのか…」「あの警備兵…まぐれで魔物を倒せそうだったからって…勇者様の横入りを邪魔したのねっ…何てやつっ…!」「け…けど…そんな風に見えたか…?」「馬鹿っ!勇者様がそう言ったんだからそうなんだよっ!おい警備兵!責任をとって勇者様に協力しろ!」
ワーワーワーッ!!
(くっくっくっ…!これでこのオッサンが倒したところを俺が仕留めれば民衆は確実に俺が倒したと思うだろ。そうすりゃ民衆は更に俺に感謝して求心力を高める!そうすりゃもっと好き放題できるぜ!これが俺達の計画…『絶対勇者信仰計画』だ!)
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