一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

五十八.メンチ



「ガ…ガ………」
「さらばだ、クソライオン」


キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ……


俺はとどめをさす為にエネルギー的なものを溜める。


クソライオンの顔は口から出る煙によって隠れて判然としないが、多少は効いているだろう。
もっかい口の中に追撃すればさすがに倒れるかな?


「やっちまえー!警備兵!」


戦いを見ていた住民や兵士達から歓声が飛んでくる。


くっそやかましい。
俺は今まさにやろうとしている事を他人に急かされるのが世界で一番嫌いなんだ。


ギロッ


俺は住民や兵士達にメンチをきった。


「な…何だよ…応援してるのに…」「凄い怖い顔してるぞ…」ザワザワ…


まぁいいか。
とりあえずさっさと終わらせて二日間くらい寝よう。


キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……






バチィッ!!!




「ん?」


何だ?
エネルギーを溜めていたらいきなり手に衝撃が走った。
静電気か?


ポタッ……ポタッ……


ザワッ…!ザワザワザワザワ……


「お……おい!どうしたんだ!?警備兵っ………いきなり……手から血がっ…!?」


「ん?」


見てみると確かに銃を持つ手から血が滴り落ちていた。
大したケガじゃなさそうだが、一体どこから攻撃されたんだ?
またどこから来たかわからない所在不明の攻撃か。
そういえば探るのを忘れてた。


【異界アイテム『スマートフォン』技術『異界マップ』】
         +
【一流警備兵技術『周囲確認術』】


ブゥゥゥゥンッ……カチッ…カチカチッ……


俺は適当に自分の取得した技術を組み合わせてみた。
俺の視界、右上には自分の周囲の地図が表示される。


「便利なものだな」


俺は適当に感想を述べてマップを見てみる。
地図に周囲確認術を組み合わせたおかげか、自分の周囲にいる人間達が青色の人型アイコンで表示されていた。


「うわ、うじゃうじゃしてて気持ち悪っ」


ここには人が多いせいか、人型アイコンは折り重なるようにしてうじゃうじゃ表示されている。
魔物は赤色のエネミー的な感じでこれまたうじゃうじゃ表示されている。
まるで蓮コラ的な気持ち悪さだ。


「鳥肌たった」


「お…おい…何かあの警備兵一人でブツブツ言ってるぞ…?」「急に睨んできたり一人言言ったり何なんだあいつ…」「今戦ってる最中なんだよな…?」




「ん、そこか」


俺はマップの住居のマークに重なるように点滅している人型アイコンを見つけた。
まだ家の中に人がいるとは考えにくい。
視界で確認してみたら屋根の上らへんの空間が蜃気楼みたいに歪んでいる。


「何か知らんが出てこい、出てこないなら攻撃するぞ」


俺は屋根の上に向かって言った。


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「あら、うふふ……わたくしの魔法攻撃を通さないどころか…まさか上位隔離空間を見つけるなんて……素晴らしいわ、ね」
「おいキャリア、どういうことだ?」
「勇者様、あの警備さんに見つかってしまいましたわ。ここはもう計画を実行に移すのがよろしいか、と」
「えー!?何やってるのんキャリア!あんなオッサンに見つかるなんてアンタらしくないのん!」
「うふふ、ごめんなさいね」
「ちょっ…どうすんスか?勇者さん」
「……ちっ、仕方ねぇな。もう少し絶望的な状況が良かったけど…行くぞ!」


----------------------------


ブゥゥゥゥンッ……


バッ!!


「おい!魔物ども!よくもやってくれたなっ!!」


何か演技くさい台詞と共に、屋根の上に四人の集団が突然現れた。
赤髪のギザギザ頭にマントを羽織った青年。
白いフードつきの服を着て杖を持った女。
胸元の空いた服を着て魔女みたいな帽子を被った女。
なんかチャラ男みたいな侍っぽいやつ。


既視感があるな、何だこいつら。


トッ…………………スタッ!!


四人が屋根から飛び、戦場となっている中央広場に降り立った。
見たところ戦えそうだが戦士か何かか?


「……ゆ、勇者様達だっ!!勇者御一行が…来てくれたぞぉっ!」


ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!


中央広場に歓声があがる。
………勇者………?


あぁ、そういえば。
こんな顔だったっけ?
毛ほども興味ないからまた忘れてた。


「悪いな、修行してたら遅れちまった!だが、もう安心しろ!俺達が魔物どもを蹴散らしてやるぜ!見ておけ!」


ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!


住民や兵士達の歓声で中央広場は歓喜の渦に包まれる。


「キャリア!リュウジン!魔物達を頼む!リィラはケガしたやつらを回復しろ!俺は………こいつをブッ倒す!」


「うふふ、お任せくださいな、勇者様」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


魔女っぽい女が派手に装飾された杖をかざすと、地鳴りと共に魔物の多くが押し潰されていく。


【高位属性技術『グラビティエクセキューション』】


《ギャァァァァァァッ!》《グオオオオッ!!》


「うふふ、リュウジン君。今よ」
「わかったぜ姐さん!」


チャキンッ


チャラ男侍が腰の刀を抜き、潰されて動けない魔物達に斬りかかる。


【侍技術『ウェーイ斬り』】


ズバッ……ズバズバズバズバッ!!バタバタバタバタ……


チャラ男侍は何か滅茶苦茶に刀を振って魔物達を斬り伏せた。


「つえー!俺つえーっしょ!なはは!これも勇者様達との修行の賜物っスよ!」


陽気に魔物達を足蹴にして刀を振りあげた。
動きが滅茶苦茶だったな、たぶん魔物達が身動きできてたら逆にやられてたぞ。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ズバズバズバズバッ!


魔女とチャラ男侍コンビは次々と魔物を倒していく。
さすが勇者一行を名乗るだけあって魔物の討伐はお手の物か。
あの新入りのチャラ男侍はともかく。


まったく、修行か何かしらんが勇者ならもっと早く来い。
しかしこれで安心そうだ。
何故屋根の上に隠れてたのかとか、俺に攻撃してきたのかとか色々と疑問はあるが後はこいつらに任せればいいか。


「おい、オッサン。邪魔だ、どけ」


俺は勇者に声をかけられる。


「まぐれでここまで追い詰めたのは結構だがよ、平民達が求めてるのは…勇者のこの俺が魔物を倒す姿だ。調子こいてねーでさっさと消えろ」


ギロッ


勇者は俺にメンチをきる。


まったく、言われなくても消えてやるというのに。
お前らがさっさと来ないせいで俺がこんな面倒な事してたんだ。
本来ならもう試験を終えて俺も避難してだらだら寝てたというのに。


ギロッ


イライラした俺は勇者にメンチをきった。


「なっ…何だよ…手柄を取られるのがそんなに悔しいのか!?残念だったな!人々が求めてんのは『警備兵』のお前じゃねーんだよ!まぐれは二度と起こらねーよ!俺が確実に倒してやるっつってんだ!」


ザワザワ…ガヤガヤ……


「そ…そうだぞ!勇者様の邪魔するな!」「さっさと消えろよっ…!追い詰めたのは確かだが…後は勇者様に任せろよ!」


ワーワーッ!!


住民達からも野次がとんでくる。
何言ってんだこいつら、だから消えてやると言ってるだろうに。




ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッンッ!!


ゴォォォォォォォッ!!


「「「「「うわぁぁぁっ!!?」」」」」


「ん?」


突然、俺と勇者の立つ場所が大爆発を起こした。
遠巻きに見ていた住民達が爆風に巻き込まれる。




ドォンッ!




「ガ……ガ…ガハハッ!…やるじゃねぇか!そうこなくっちゃな!今のはここ最近で一番効いたぜ!!…だがっ!俺様はまだまだやれるぜぇっ!!戦いはこれからだっ!さぁ!続きだっ!」




何かと思ったらクソライオンが復活した。
やはり間をあけすぎてたか、考え事したり勇者やらが出てきてほったらかしにしてたからな。


まぁいいか。
俺はナントカ技術のナントカの極意とやらで爆発は効いてないし、もうこの場には勇者がいる。


無視して俺はエミリ達のところへ行くとしよう。




………ドサッ


「ん?」


隣で何かが床に倒れるような音がした。
何かと思って見てみると。




勇者が倒れていた。


「がはっ……!はぁ…はぁ……な…んだ……今のばくは……つは…はぁ…はぁ…ごほっ…」


爆発が直撃した勇者は既に満身創痍だった。


あちこちに火傷があって死にそうになっている。


あ?
こいつ何やってんだ?
ふざけるな、何いきなり負けてるんだ。


このままじゃ結局また俺がこいつと戦わなくちゃいけなくなるだろ。
俺は休息しようと思ってた時に予定外の仕事を押し付けられるのが世界一嫌いなんだ。




俺は再び勇者にメンチをきった。





















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