一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

五十.医者の不養生





おいおい、OIOI、マルイ。


何なんだこの状況、まるで本物の規模の戦争じゃないか。
兵士があちこちに倒れて門も壊れ、外から魔物がうじゃうじゃ入ってくる。
まさか異世界に来て就職口を探していたら戦争を体験する事になるとは。




「…ジャンヌ様…」
「大丈夫?アクア、怪我はない?」
「……はい」


「だ…誰かと思ったら……引退した騎士総長と…いつかの兄ちゃんじゃねえか…変な組み合わせだな…」


こっちこそ誰かと思ったらいつだったか門で会った門兵のおっさんか。
だもん騎士と一緒に街の防衛に努めていたわけか、立派なもんだ。




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ……


「イシハラさん!魔物がっ!」


まぁ積もる話は後だ、とりあえずあいつらをどうにかしないとゆっくりできん。
通行止めを張っているからこっちには来れないだろうが、門横にある脇道や家屋から街に侵入してしまう。


「宝ジャンヌって言ったか、魔物をどうにかしてくれ」
「言ってないわ、貴方のその『技術』で何とかできるんじゃない?」
「無職をどこまで働かせるつもりだ、俺の仕事じゃない」
「私ももう騎士は引退しているわ、無職みたいなものよ。片腕の女の子にあれだけの魔物を相手にさせる気?」
「無職というのは給料を貰っていないやつの事を言うんだ、つまりお前は給料を貰っていなくて街を守る気もさらさら無い立場だ、と。そう言いたいのか?」
「…もう…わかったわよ」


文句を言いながら満更でもなさそうな顔で、片腕のショートカット美人はスタスタと悠然に魔物達に向かっていった。




【ムセン・アイコム適性武器技術『サンシャイン・キュアライト』】


バンッ……パァァァァァァッ……キラキラキラキラ………


「………………っ……?俺は……」「……あれ?魔物に……やられたはずなのに…」「温かな光だ………傷も……心も……癒されてく……」


ムセンは回復技術を倒れていた門兵達に使う。
結構重傷だった兵士達も意識を取り戻した、凄いなあいつ。
医者とかになった方がいいような気がする。


「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」ガクンッ


しかし、その代わりにムセンが膝をついた。
怪我人を治した代わりにムセンの顔色が悪くなっている。


「はぁっ…はぁっ…はぁっ…人数と…傷の具合に応じて……私の…はぁっ…体力と…引き換えに…っ…なって……はぁっ…はぁっ…回復をっ…行う…みたいですっ……この技術っ…」


これが医者の不養生というやつか。


「君っ、大丈夫か!?」「治してくれてありがとう!君は女神だっ!」「顔色が悪いぞ!さぁっ!俺が診療所まで運ぼうっ!」「い、いや!俺の肩を貸すよっ!」「お前はまだ傷を負ってるだろ!俺がっ!」


ギャアギャア!ガチャガチャ!


「はぁっ…はぁっ…い、いえっあのっ…」


ムセンが回復した兵士達に囲まれる。
大人気だなあいつ、まぁ顔色悪いし診療所まで運んでもらえるならそうしてもらった方がいいだろう。


「だっ…大丈夫ですっ!私っ…まだ試験中でっ…イシハラさんにおんぶしてもらいますからっ!ありがとうございますっ!イシハラさんっ!お願いしますっ/////」


何怒涛の勢いで勝手に決めてんだこいつ。
俺の発言を許さない感じでムセンは隣に駆け寄ってきた。
まぁムセンがまだ試験を続けたいなら仕方ない、面倒だがおぶってやるか。


ギュッ


「////ご、ごめんなさいイシハラさん…」
「仕方あるまい」


俺はムセンを背負った。
何故か兵士達に睨まれてるがどうでもいい。


さて、ここはあの宝ジャンヌに任せておけば平気だろう。
俺達はエミリの住む貧民街とやらに向かうとしよう。


「ナ…ナツイっ!どこへ行くの!?」


だもん騎士に声をかけられる。


「貧民街だ、とりあえずエミリを母親に引き渡してそこにいる連中を逃がす。貧民街は西南地区だろう、ここは任せたぞ」
「……っ………………………わかった、気をつけてっ……」チャキッ


何か色々言いたそうなだもん騎士だったがそれらを飲み込んだような顔をしてだもん騎士は剣を握った。


「さぁ、行くぞムセン」
「はぁっ…はぁ…はいっ!」


タッタッタッ…


「アクア、まだやれるわよね?やるわよ」
「…はい!ジャンヌ様!」


チャキッ!


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<ウルベリオン王都郊外『地下大聖堂』第一区>




「な……何者なのでありますかっ……?あの人達っ……!外から来て突然東門の魔物を排除して魔物の通行を妨げた上に……西門までもっ…」
「あらぁ……無事だったのねぇ…イシハラ君、ムセンちゃん。良かったわぁ。…ハクテちゃん、じきに貴女の後輩になる二人よぉ。警備兵になったら仲良くしてあげてねぇ」
「あの方もっ……警備兵志望…なのでありますかっ…」


ざわざわ……がやがや…


「凄ぇ……何だあの不可思議な技術は…」「警備兵にしては中々やるではないか」「そうだな…しかし所詮は警備兵だろ…」「それよりも騎士様達は無事なのっ!?」「そうだっ!それに勇者様は!?警備兵なんてどーでもいいから勇者様は映せないのか!?どこにいるんだ!?」「そうよ!警備兵が何をしてようが街は救えないでしょ!?それより騎士様や勇者様達を映してよ!」


ギャーギャー!


「き…貴様らぁっ…」プルプル…
「あわわ……お、落ち着いてくださいマルボウさん!ケンカはだめでありますぅ!」
「あらあらぁ…困ったわねぇ…わたぁしの水晶は『一地点』しか映せないのよぉ……そうねぇ……もう東西門も大丈夫そうだし…北門の状況を映してあげ…………………………!!」


「……グランマ?……驚いた顔をされて…どうかしたでありますか…?」


「……………いぃえ、もう…………『一地点』を映すだけで充分みたい…」
「……?一つの場所を映すだけで充分…でありますか?グランマ…それは一体どういう意味で……」




「……もう間に合わなぃのよ…全ての状況が……『一地点』に集結しようとしているのよぉ…」



































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