一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

四十六.王都戦争①



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ……………


地平線を埋め尽くす程の魔物の数。
村を襲おうとした行軍の比じゃない、どこまでも途切れない多種多様な魔物達。


それが今、王都を滅ぼさんと…勇者を討ち取ろうと列を為し、もう目に見える程近くまで来ている。


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◇騎士【アクア・マリンセイバー】視点
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「来ましたか…かつて、我輩達が参加した『職業戦争』と同等の数くらいの魔物ですかな?」
「……そのようだ。……嘆かわしい」


私は自軍数百の兵を従え、ガレン砦と王都を結ぶ行路のある門の壁上に立つ。
隣には同じく数百の兵を従える…同胞の騎士二名。
序列三位の【マグマ・ブラッドセイバー】と序列四位【シャドウ・ナイトセイバー】が立つ。


序列上位の二名が王都周辺にいた事はありがたい。
この二人は【天職の騎士】。
これで少しは勝てる確率もあがったから。


だけど、冒険者ギルドの面々や属性検定技術者を合わせてもこの北門に配備された兵力は1000と少し。
魔物達の進行が予想より遥かに速いために各国の支援が間に合いそうにない。


ガレン砦でツリー達が数を減らしてくれたとはいえ、報告によると…まだ魔物達はおおよそ兵の五倍ほどの数がいる。


そして、住民の避難も未だに半分も済んではいない。
警備協会の人達が必死に誘導してくれてはいるけど……何せ人数が多くパニックになっている人達もいるため中々スムーズにはいっていない。


まさに背水の陣。
けど、それでもやるしかない。
私はそう決めたから。




「アクア殿、貴女は無理をなさらない方がいい。ツリー殿とボルト殿を同時に相手して払いのける程の魔物です。正直なところ、我輩達の手にも負えないかもしれませぬ。貴女には他にできる事があるはず」
「…………ふっ、わかっている。唯一…騎士団の中で騎士適性を持たない序列最下位の私なぞ………この規模の戦いには役に立たない事くらいはな」
「………いえ、そんなつもりで言ったわけでは……」
「だが、それでも私はここに立つ。私は国を、民を守る騎士だからな」
「……アクア殿……」
「せめて勇者様が来るまでは私も戦いに参加する、私が戦う事で少しでも民が救われるのならば、本望だ」


肝心の勇者は、ここ数日…姿を眩ましているらしい。
王国諜報部隊すらも行方を追えないなんて…さすが勇者…と言いたいところだけど、こんな時に一体何をやってるのよ。


建前上、勇者には逆らったりできないけど…私はあの勇者を正直良くは思っていない。
美人を見つけてははべらせ、勇者の肩書きを振りかざす…乱暴で最低な男。
仲間の回復技術者も…高位属性技術者も…やりたい放題。
何であんな奴らが勇者一行として崇められてるんだか…。


「……アクアマリンセイバー……貴様…少し見ない間に変わったな…」
「えぇ、以前の冷徹な気迫が薄れたように見えますな。良い事ですが。心境の変化でもありましたかな?」


「…………ふっ、別に何でもない。ただ自分のすべき事を思い出しただけだ。……お喋りは終わりだ、開戦の合図を」
「…………あぁ」
「そうですな、では……参りましょうか!」




そう、私は、民を守る、騎士だもんっ!


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ザワザワ…ガヤガヤ…


「皆様、落ち着いてくださいね。慌てずに避難して頂ければ大丈夫ですね。こういった状況で恐れなければいけないのは二次災害ですからね、パニックに陥れば陥るほど怪我も増え、助かる可能性が薄くなりますからね。ゆっくりと迅速に、伝えた避難経路を進んでくださいね」


タッタッタッタッタッタッ……


「アマクダリさん!お偉方の避難はあらかた済みましたぜ!」
「ありがとうございますね、門兵長ダイスさん。エリートの兵士さん達に協力して頂けるのは助かりますね」
「よしてくださいや……いくら【兵士】の適性があったとは言え…門兵なんざ下っ端もいいところですから。騎士さん達が門の守備をしてくれんなら俺達ぁ邪魔にしかならねぇ。だから今はあんた方【警備兵】と立場は同じだ。民を少しでも危険から遠ざける、それが今俺達にできる事だ」
「……兵士が全員あなたみたいな方だったのならもう少しワタクシ達も立場が違っていたかもしれませんね………しかし今はどうでもいいですね。次は……」




ドォンッ……ドォンッドォンッ…………


「!!……大筒の音…っ!まさか……」
「……始まってしまいましたね……時間がありませんね。こちらは事前にワタクシ達が記した避難計画書ですね。ダイスさん、あなた方には西側一帯をお任せしますね」ピラッ…
「…………これは……あんたら警備協会は事前にこんな事態を想定してたのか……凄ぇな……わかった!こっちは任せてくれ!」


タッタッタッタッタッタッ……


「………現在街にいる兵力は二千程…対して魔物は倍、そして避難民の数は未だ二万人以上……非常に厳しいですね……しかし、やるしかないですね。……イシハラさん、貴方は無事でしょうかね……」


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〈ウルベリオン城〉


「陛下、すぐに避難を。陛下の指示により城にはもう誰も残ってないわ。全ての兵が戦場へ向かいました。戦えない者達は全員避難した…城にはもう私と陛下だけよ。……全く、何て無茶な指示をするのよ。自分の立場というものを少し考えて?自分や城をフリーにして全兵を戦場に向かわせる王なんて聞いた事ないわ。魔物が城に攻め込んできたらどうするつもり?みんなを説得するのにどれだけ時間がかかったか…」


「……これで良い、大層にワシや城を守る必要なぞないのだ、生かすべきは『人』。ワシや城ではない。『人』さえ生きておれば国はいつでも再建できるだろう」


「……本当に破天荒な王でございますこと……ふふ、だから私は騎士を引退してもこの国に尽くしてるわけだけどね。でも、諦めたからじゃないんでしょ?」


「…無論だ。このくらいの事をせんと勝利をおさめるのは難しいというだけだ。それほどまでに魔物は力をつけておる……特に役職に就いた魔物の力は計り知れん。立場や常識に囚われていては人類はいずれ淘汰されるであろう」


「……既に国の各地から兵士達が王都に向かっているわ。更に隣国の『シュヴァルトハイム』、同盟国、エルフの大里、竜人国家、ドワーフ達の職人国家などから支援を取り付けたけど……それでも足りない?まぁ…間に合うかどうかはわからないけど…」


「……お主がこの国にいてくれてよかった。…しかし、それはお主が一番良くわかっておるだろう?」


「意地悪な王様ね……確かに私は昔…魔王軍幹部の一人にこてんぱんにやられちゃったけどね。……片腕を失っただけで済んだのは奇跡だったわ。確かにあれは『騎士』じゃ勝てない、仮令たとえ『天職』の才をもってようと。『勇者』じゃなければね」


「………」


「でも頼みの綱の『勇者』はまだ見つからないんでしょ?つい数日前までは街にいたはずなのに…」


「………やはり、お主でさえもそう感じておるか。…人の心に根付くものは厄介なものだ…」


「……うん?何の話?」


「……今、この世界には明らかな『職業格差』『職業差別』が根付いておる。…このままでは世界はやがて魔物達に支配されてしまうだろう。人々の心に根付くそれらを取り払い、人が一丸となって立ち向かう新たな時代を創る時が近づいておるのだ」























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