一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

二十六.十二位



俺達はムセンを休ませるために、小さな村へとたどり着いた。
ファンタジーもののゲームやアニメで一番最初に立ち寄るようなのどかな自然の村だ。


どうでもいいがファンタジーものの物語で最初はのどかな自然豊かな村や町が多いのに、終盤に差し掛かるにつれてどんどん機械的なステージや荒廃的なステージが増えていくのが俺は嫌いだ。
自然豊かなラストダンジョンがあってもいいと思わないか?


そんな思いと共に宿屋で休む事にした。




〈マジネム村・宿屋『望遠鏡を覗く時、望遠鏡もこちらを覗いている』〉


「イシハラさん……みなさん…いつもすみません…」


ムセンをベッドに寝かせた。
意識ははっきりしてきたようだし後は体力を回復すれば平気だろう。
ムセン自身が技術を使って回復すればいいだけの話なんだが、ここに着くまでの道中、食料や回復アイテムなどの道具をこの村で調達していこうという話になったのでどちらにせよ一旦休憩となった。
それならば無理矢理回復させるよりゆっくり休ませた方がいいだろう。


「また……みなさんにご迷惑を…かけてしまいましたね…ごめんなさい……」
「…………」
「ムセン君…気にしなくても…」


「でも、もう、あんな事はしません。次こそは、絶対に、みなさんのお役に立てるように、頑張ります」グッ…
「……ムセン君…」


ムセンは泣きそうになっている顔を口を固く結ぶ事によってこらえた。
ウジウジ言わなくなったな、成長したもんだ。


「いいからもう休んでろ、シューズ、見ててやってくれ。俺達は買い出しに行ってくる」
「うん、イシハラ君が言うならそうしてるよー」


「あ、あの…イシハラさん…一つ聞いても…よろしいですか…?」


ムセンが俺に質問してきた。


「何だ?」
「あの…………………………………い、いえ…やっぱり何でもありません…」


ムセンは何かを躊躇したのか質問をやめた。
よくわからない表情をしている。


「じゃあスズキさん、エミリ、行こう」
「ひゃいっ!」
「………」


ガキはガキで何か変な顔して俺を見ている。
何だこの雰囲気。


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サァァァァッ……


「のどかな村ですねぇ……城下町からは大分離れましたが近くにこんな村があったんですねぇ……老後はこんな場所で暮らしたいものです…」


全くの同意見だ。
何もする事なく、田舎の風景を見て自然に囲まれながら暮らせたらどんなに幸せな事か。


「………………あの、イ、イシハラ…なのよ…」グイッ


なんかガキが俺の服を掴みながらボソボソ話しかけてきた。
さっきから何か変だなこいつ。


「………わ、悪かった……なのよ……」
「何が?」
「…その……警備兵をバカにして……あんた達に頼らなきゃよかったなんて言って……なのよ……」


いつそんな事言ってたんだ?
前世の話か?前世でも私とあなたは一緒だった的なオカルト的な発言をする危ないやつなのかこのガキ。
いや、そういえば俺の前世は地球人だった。


「よくわからんが、気にするな。覚えてないし」
「………………あんたは本当によくわからないやつなのよ…」


こっちの台詞だ。


「……イシハラはムセンと同じ異界人なのよ……何で警備兵になろうと思ったのよ?」
「別に理由なんざない。ただ楽して生きようと思ったからだ」
「……それで警備兵を選ぶ意味がわからないのよ…奴隷職じゃないのよ…」


まぁそれは人それぞれの見解の違いだな。
俺には性に合っていて楽な仕事だし。


「……ムセンみたいに…何かを守りたいからとか…そんな理由はないのよ?」
「ないな、仕事ならやる、そうじゃないならやらない。それだけだ」
「…………」


「あんた達冒険者か何かか?」


話しながら村を歩いていると何か村人Aが話しかけてきた。


「そうだが」
「間の悪い時にきたな…今日は巡回兵士が来てるんだよ…徴税のために王国の騎士…領主様を連れてな。今は見回りに行ってるが……あまり問題を起こさないでくれよ?」
「どういう意味だ?俺達は買い物に立ち寄っただけだ。問題を起こすわけないだろ」
「いや、別にあんた達が悪いってんじゃねえんだ…ただ、この村の領主様が『絶対職業主義』の方でなぁ…国王様や勇者様や神官様…同じ騎士や領主達以外の職業を奴隷としか思ってないような人なんだよ…」


ほーん、地球にもよくいたなぁそーいうやつ。


「会ったらカチンと来るかもしれねえが……それであまり問題を起こされると地代が上がっちまうかもしれねぇ…最近では魔物の数も多くなって『警備税』なんてもんもできちまった…これ以上税収をかけられたらたまったもんじゃねぇんだよ…」


なるほど、こんなとこにも面倒くさい時代のあれこれが存在しているんだな。
まぁ心配しなくてもいい、俺達はそんなやつに用はない。
向こうから突っかかってこなければ何もするはずないだろう。


「……なんかその言い方だとすぐに何か問題を起こしそうなのよ…イシハラは特になのよ」


まったく、ガキというのは思った事をすぐに口に出したがるな。
失礼にも程がある。


ザッ ザッ ザッ……


「ほら…噂をすれば来やがった……領主だ…あんた達大人しくしといてくれよ」タッタッタッ…


そう言って村人Aはどっか行った。
まったく心配性なやつだ。
確かに向こうから兵士みたいなやつらを引き連れた大げさな鎧を来たやつが重い足音を立てて歩いてくるな。


「あれは……王国騎士序列12位の【アクア・マリンセイバー】さんですよ…イシハラ君…確かに彼女は評判があまり良くないみたいなんですよぉ…【冷笑の騎士】…周りを見下すように冷たい眼をして鼻で笑うその様からそう呼ばれているんですぅ…」


スズキさんが解説してくれる。
何か色々情報が多かったが、俺はとにかく一つの事が気になって他の情報は頭に入ってこなかった。


12位って。序列12位って。
騎士が何人いるか知らないし、凄い事なのかもしれないが12位て。
その肩書き公表する必要あるか?
逆に中途半端すぎて雑魚にしか感じられない。


ザッ ザッ ザッ……


「イ、イシハラ、何かこっちに近づいてくるなのよ…」
「ひ、ひぇぇ…二人共、頭を下げましょう」


ザッ!


俺達の目の前で騎士とお供の兵士が立ち止まった。
近くで見ると騎士は透き通るような蒼い長い髪に目鼻立ちがしっかりと整っていて相当な美人だった。
しかし、スズキさんの解説通り蒼く光る眼からは冷笑騎士と呼ばれるその様が感じ取れる。
周りのやつらをゴミとしか見ていないような、そんな感じだ。


女騎士は俺達をジロジロと見定めるように見た後、口を開いた。




「……見ない顔だ……しかし、服装等から察するに冒険者の類か……ふっ、貴様らが騎士や神官でなければ…私の前ではひざまづけ。奴隷共の顔など見るに堪えん」


「わかった、12位(笑)」


あ、しまった。
気になりすぎて口に出してしまった。











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