転生したら天使に職業を選べと言われたので全部選んだら大変なことになりました

神王

第一章 四十四話 姫に会いました。


「………………」



俺は一人王座の前に残され、じっと沈黙を続けていた。



「遅いな……」



王が部屋を後にしてからすでに十分ほどが経過していた。



流石に俺の事を忘れてるなんてないよな……



「あのー」



俺は王が出ていった扉をゆっくり開ける。

流石にあんな広い空間に長い時間待たされるのは嫌だからな。



扉の先には、長い廊下が続いていた。



そして俺が廊下に出てゆっくり歩いていると。



「嫌よ!!どうせまた変なところの貴族とか冒険者とかなんでしょ!!」



「違う!!今度は違うんだ!!英雄だぞ!」



すぐ右にあった部屋から声が聞こえる。

片方は女の子の声で、もう片方は国王の声だ。



なんかめっちゃ喧嘩してる……



そういえばユティナ姫だったかは何十回も貴族の求婚を断ってるんだったよな。



そんな娘に俺を紹介したってまず認められるはずがないと思うんだが。



確かに空間魔法が使えたり他の強い魔法が使えたりするのは強いって思われるかもしれないが、それって身分があった上での話なんじゃないのか。俺は貴族でもなんでもないぞ。



そんな事を考えながら部屋の前に立っていると。



ガチャッ



突然扉が開いた。



「あ」



「お」



王と目が合う。



「聞こえておったか……?」



「あ、ああ」



「待たせてすまんのう、今のは気にしないでおくれ」



「ああ」



なんか気まずい。



「へえ。貴方が」



王に続き、ユティナ姫だと思われる赤髪の女の子が部屋から出て来た。

ドレスのような可憐な服装をしていて、剣を携えている。



「一旦王座に戻ろうではないか」



「あ、ああ」



俺たちは王に言われた通り、王座のある部屋に戻った。







「それで、貴方がそのタケルとかいう冒険者ね。知ってると思うけど、私はユティナよ」



部屋に戻った後、女の子が話しかけて来る。



「ああ、そうだ」



やはりそうだったか。噂通り可愛いな。



「それで、貴方が強いって本当かしら」



ユティナが腰に携えている剣の取っ手に手を添える。



「まあ魔物が倒せるくらいの強さはあるな」



「ふーん?」



姫が少しだけ目を細くしてこちらをじっと見る。



「………………」



それから数秒の沈黙が続いた後。



「期待はずれね。全然強くないわ。私戻るわね」



急に姫が踵を返し、部屋を出ようとする。



「待、待ってくれ!!魔法が得意な人なんだ!!だからせめて魔法を見てからでも!!!」



王が部屋から出ようとする姫に声をかける。



「魔法?そんなもの興味ないわ。剣以外の強さは私には関係ないの」



そう言い残すと、バタンと扉を閉めて廊下に出ていった。



「すまんのう……」



「いやいいんだ。俺がユティナ姫のお眼鏡にかなわなかっただけだからな」



それにしても一瞬で嫌われたな。

剣を抜くかと思って少し警戒したけど抜かなかったし。



「そうか……だが流石に結局なんの礼も渡せずに返してしまうわけにはいかぬ!!」

「どんな些細なことでも何か困っていることはないのか!?」



「そう言われても……」



「どんなことでもいいんだ!!」



「うーん、強いて言うならば宿とか……」



王都に来たばかりで泊まる場所がまだ決まってないからな。まあ正直そこらへんの宿を借りるとかすれば済む話なんだが。



「よし!!分かった!!」



「え?」



わざわざ宿代を払ってくれるとでも言うのだろうか。

確かに有り難くないわけじゃないけれど、俺たちには白金貨がーー



「王城に泊まる事を許可しよう!!」



「ぁぁあああああ!?!?!?!?!?」



王城に泊まるだと!?さ、流石に冗談だよな……



「きっと王城に住んでいればユティナもタケル殿の良いところに気がつくはずだ!」



まだ諦めてなかったのかよ……



「客人用の部屋を貸し与える!もちろん食事も付いている!是非泊まってくれ!!」



「いやでも……」



「お願いだ!!」



お願いなのかよ。



「そ、それならまあ……」



「本当か!!」



「あ、ああ」



どうやら冗談じゃなかったみたいだ。



「誰かおらぬか!」



王が俺の両手を握ったあと、大きな声で叫ぶ。



「はっ!!」



俺が最初に入って来た扉から兵士が出て来る。



「先の客人を呼べ!」



「はっ!!」



王が言うと、兵士が扉を出ていった。



いやまさかこんな急に本当に王城に泊まることになるとは。





それから数分後。





「おじゃましまーす……」



エッシェル達が部屋に入って来た。



「汝らは今日からこの王城に泊まる事になったぞ!!」



エッシェル達が部屋に入った瞬間、王が突然言い放った。



「「……………………ぇぇぇぇぇえええええええええ!?!?!?!?!?!?」」



案の定、エッシェル達も俺と同じような反応をした。

やっぱり王城に泊まるって普通ない事だよな。良かった。良くないけど。



「よし!三人を客人用の部屋に案内したまえ!」



「はっ!!」



「えっ?えっ?」



「ボク達がいない間に何があったの!?」



二人を置いてきぼりに進む周囲に、二人は戸惑っていた。





ああ、改めて王城に泊まるって本当に冗談とかじゃなくてガチだったんだ。





兵士たちに案内されながら、心の中で呟いた。









その頃、ユティナ姫は。



「まったく!!お父様ったら少し強そうな人が来たからってすぐ私に紹介して!!」



イライラしながら廊下を歩いていた。



「いっつも大して強くないじゃないの!!それに自分から求婚しにくる貴族達は下心丸出しだし!!」



ガチャ、バタン!!!



勢いよく自分の部屋に入る。



「今回に関してはただの出来のいい魔術師じゃないの!!腰に良さげな剣があったから勘違いしちゃったじゃないの!!」



机に置いてあった紅茶を一口飲み、ソファーに座る。



「はあ、全くいつになったらあの斬撃に気付ける骨のある奴が現れるのかしら」



そう、先程彼女が剣に手を添えた直後、誰も反応できず、気付く事すらできない速度で斬撃を放っていたのだ。

ちなみに誰かが王である父親に紹介される度に超速の斬撃を放っていた。

その斬撃を当てる事はしなかったものの、気付く事すら出来なかった時点で彼女が認める強さに到達していないのは言うまでもなかった。



ソファーから立ち上がり、大きな鏡の前まで歩く。



「念のためドレスを着ておけとか言われたから着ておいたのに、まさかこんなことだったなんてーー」



ドレスを脱ごうと鏡の前に立った直後、ある事に気がつく。



ドレスの腹の部分が少しだけ破けていたのだ。



「こんな傷私がドレスを着た時はなかったわよね……」



鏡から、ドレスの腹の部分に視線を移し、破けている部分を指でつまんで観察する。



「綺麗な切り口……それこそまるで剣で斬ったような……」



しばらく切り口を眺める。

部屋から出た時にこの傷はなかった。

しかし戻ってきたらこの傷がついていた。



「まさか!?」



信じられないような可能性が、一瞬彼女の頭の中をよぎった。





"あの時もしも、自分よりも早い速度で、切り返されていたとしたら。"

"気付かなかったのではなく、気付かない振りをしていたとしたら。"



そんな事は万に一つもあるはずがない。

自分の斬撃を見切れる人すらいなかったと言うのに、自分より早い斬撃を返す人なんているはずがない。

部屋を出るときに傷を見逃していたに違いない。



そう考えるのが当然だが、彼女はそうとは考えず、今までに感じたことのない好奇心に突き動かされ、部屋を勢いよく出ていった。









その時できた傷がタケルが持つ黄金剣士のスキルである、"自動反撃"によるものだということは、誰も知る由がなかった。












皆さんこんにちは(こんばんは)、神王です。誤字脱字がありましたらいってください。あとお気に入りとハートもよろしくお願いします。これからも転生したら天使に職業を選べと言われたので全部選んだら大変なことになりましたをよろしくお願いします。

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