転生したら天使に職業を選べと言われたので全部選んだら大変なことになりました

神王

第一章 二十話 奇跡を1000年、待ちました。

魔物達が凄まじい炎に包まれる。
その炎は勢い良く燃え上がり、勢いを落とさない。
それもそのはずだ。
エッシェルが森を出てから放った魔法の何よりも強い、第六階位の魔法を通常詠唱で放ったからだ。
高階位の魔法を通常詠唱で放ったのだから、小さい街ならこれ一発で滅べるだろう。

「ふぅ……」

エッシェルが無事に魔法を放てたことに対して安堵のため息をつく。

第六階位の魔法は呪文が長いため、詠唱に時間がかかる。そのため詠唱の間攻撃を避け続けるのは至難の技だったのだ。
だが、エッシェルは無事それをやり遂げた。


ーーーーしかし、次の瞬間。エッシェルは衝撃の事実を目にする。

そう、周囲が焼け野原になっているのにも関わらず魔物達はほぼ無傷で立っていたのだ。

「どうして!?」

エッシェルがすぐに後ろに跳んで魔物から距離を置き、体制を整える。

「ククク……クハハハハハハハハハ!!!!!」

魔人が笑い出す。

「なかなかいい反応を見せてくれたじゃないかヒューマンよ!!」
「悪いがこいつらは昨日のやつとは全く違うんだよ!!もうこの魔物達に魔法なんて効かない!!!!こいつらには俺たちが丹精込めて3年かけて作った防御魔法が掛かってるのさ!!」

魔人が勝ち誇った顔で言う。
実際魔法に特化したエッシェルの渾身の一撃を防いだのだ。もう誰が見ても魔人の勝ちを確信するだろう。

「でも……さっきは……」

エッシェルが最初の一体を倒した時を思い出す。

「あー。そういえば最初の魔物だけは魔法耐性をつけるの忘れてたっけなー」

魔人が嘲笑うかのように言う。

「そんな……」

エッシェルが膝をつく。
絶対に一発で決められると思っていた攻撃が防がれた。
第六階位の魔法は今エッシェルが使える魔法の中で最も強力な一撃であり、切り札だった。
それを防がれたとなると、もうこの勝負に勝算など残っていない。
それどころか、最初の一発で魔法が効くと思い込まされ、切り札を使わされた。
エッシェルの心が折れるには、既にこの事実だけで十分だった。



ーーーーーそう、あの森の外に出るまではーーーーー

10日、10週間、10ヶ月。

城から逃げてから多くの月日が過ぎた。
しかしだれも手を差し伸べてくれることはなかった。眷属たちも次第に力を失っていった。

10年、20年、30年。

少女はずっと剣や弓の鍛錬を積み、魔法や座学の勉強も怠ることなく続けていた。
誰も手を差し伸べてくれないんじゃないかとすら思った。

それでも少女は待ち続けた。

100年、200年、300年。

少女はただひたすら、奇跡を待ち続けた。

しかし少女はしばしば考えてしまう。

魔族で私より強い人なんて父しかいなかった。

魔族以外が私を助けてくれるはずなんてない。

じゃあ一体誰が私を助けてくれるの?

そんな疑問が少女の心を焼き続けた。

本当は最初から奇跡なんて来ないと思っていたのかもしれない。

それでも少女は自分に言い聞かせるように、奇跡を待ち続けた。

もちろん父親も戻ってくるはずもなく、誰かが来るはずもなく。

あそこで私も死んでいたら。

ヒューマンなんて種族がいなければ。

少女は一時期そう思った。

しかし、時が経つに連れ、そんな気持ちすらも消えていった。

400年、500年、600年。

もう側にいるのは、迷い込んで来たヒューマンを退治する言葉の話せないドラゴンだけ。

そして心の中にあるのは、もう既に寂しさだけになっていた。

怒りや憎しみは、もうとっくに消えていた。

その時少女が思っていたことはただ一つ。

"独りはもういやだ"

しかし少女に帰る場所なんてあるはずがなく、ヒューマンが彼女を受け入れてくれるはずもない。

それどころか、常に命を狙われ続けている。

そんな少女に手を差し伸べてくれる人なんて、どこにもいなかったのだ。

700年、800年、900年。

少女は孤独の中で生き続けた。

何度も少女は待ち続けるのを投げ出したくなった。

それでも、少女は待ち続けた。

万に一つもない奇跡が訪れる可能性を、ただひたすらに信じて。

父親が死んでしまったことはとっくに知っている。

もう父を救って欲しいとは思わない。




ただ、独りがいやなだけなんだ。




また一人じゃ越えられない壁が来た時、もうあんな思いはしたくないんだ。




そして1000年。

ある日、唯一森を守っていたドラゴンを倒した、恐ろしい魔力を持ったヒューマンが現れた。

とうとう殺される時が来てしまった。結局最後まで孤独だった。奇跡なんて存在しなかったんだ。

少女はそう思い、死を覚悟した。

しかしそれは、1000年間待ち続けた奇跡そのものだった。

その時、1000年間心を焼き続けた炎が、初めて少女の中から消えたのだった。








「私は諦めない!!」

あの森を出てからの思い出が、エッシェルを突き動かした。

「せっかく独りじゃなくなったのに、こんなところで終わるわけにはいかない!!」

エッシェルが立ち上がる。

もう少女に勝算なんて関係ない。

万に一つもない、そう思っていた奇跡が訪れたのだから。

だから少女は、ただひたすらに待ち続ける。

あの時訪れた、奇跡をーーーー

「炎の剣よ、我が身の前に!豪炎の剣!!」

エッシェルが炎の剣を出し、構える。

「ハッハッハ!!健気なものだな!!」

魔物達が一斉にエッシェルに向けて飛び出す。

「あの1000年間は、今この時のためにあるんだ!!」

あの孤独だった1000年で培った剣術。これを生かすには今しかない!

一斉に飛び出てくる魔物を、冷静に一体ずつ切り裂く。

一撃ずつ全て本気で斬っているのに、魔物達にまともなダメージは入らない。

しかし、エッシェルに諦めなんていう言葉は微塵も無かった。

「はあああっ!!!」

「はっ!!」

「やあっ!!」

エッシェルは魔物にほとんどダメージを与えられていない。
しかし、エッシェルもまた、魔物からダメージを受けていない。

圧倒的と思われた戦力の差があるのにもかかわらず、エッシェルは互角の戦いを続けたのだ。

「はっ!!」

「やあっ!!」

エッシェルはすべての攻撃を防ぎ、ほんの少しずつ魔物にダメージを与えている。

その戦いは、もしやエッシェルに勝ち目があるのではと思わせるほどのものだった。

一発も敵の攻撃に当たらない。

このまま1000年間だって待ち続けられる。

そう思えるほどだった。


ーーしかし、そんな希望は突如消え去った。

「グアアアアアアッ!!」

とうとう魔物が、エッシェルの剣を消しとばしてしまった。

そして魔物達が飛びかかる。
もうこの攻撃を防ぐことはできない。

「やっぱ、ダメか……」

1000年も待ってやっと来た奇跡が、そう簡単に訪れるはずがない。

今までの出来事が走馬灯のように流れてくる。
しかしそのほとんどがここ数日での出来事だった。

もし、もしもう一度会えたら。

もし、またあの奇跡が起きたら。

もし、孤独な私に手を差し伸べてくれる人がいたなら。

エッシェルがそう思った直後ーー






エッシェルに飛びかかった魔物達が突如横に吹き飛ばされた。

「待たせたな、エッシェル!!」

エッシェルの目には、奇跡が映っていた。















皆さんこんにちは(こんばんは)、神王です。誤字脱字がありましたら、いってください。あと、お気に入りとハートとをお願いします。これからも、転生したら職業を選べと言われたので全部選んだら大変なことになりました。をよろしくお願いします。

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