三大ゾンビ 地上最大の決戦

島倉大大主

7:音声データ

 以下、BOUT氏からいただいた音声データを基にした記事を掲載する。
 本記事を読んだ後に降りかかるかもしれない様々な不都合に関しては、当方は一切責任を追わないものとする。


 匿名希望O氏、以下『O』
「まあ、つまりだよ、肝心な部分はゾンビ共が何なのかって事だ。
 災害なのか、伝染病なのか、怪物なのか、妖怪なのか、外敵なのか、被害者なのか、まーるでわからんわけだな。警察や自衛隊が出たって、逮捕も鎮圧もできないんだよ」
(成程。元は人ですもんね)
 O
「そうさ! 厄介だぜ? これが目が四つでおっぱいが七個ありますってんなら、みんな躊躇なく攻撃できるんだけどな。結局、追いつめられないと皆行動できなかっただろう?
 そういや、猟友会を呼べって言った奴がいたがね、あれが一番正しいかもな
 つまり『害獣』だな」
(害獣……ですか?)
 O
「しかも極めて性質が悪いやつだ。腹が減って山から下りた熊と違って、人を食うわけじゃねえ。増えるだけが目的だ。でっかいウィルスって言ってるやつもいるんだろ?
 そっちは詳しくないが、似てるのかい?」
(さ、さあ……諸説ありますので……)
 O
「ふん、で、さっきの質問だがな、『封じ込め』の失敗の原因な。
 まあ、三つあるな」
(ああ、そうですね)
 O
「お、判ってるの? 調べた?」
(はい。インタビューの中でそれに言及する人が大勢いましたので)
 O
「へえ……。試しに言ってみてよ」
(は、はあ。第一に、ゾンビの数が想定より多かったこと。第二に、幹線道路に放置された車両が、かなりの数だったこと。そして第三に、ゾンビが音等に敏感だった――)

 O
「(笑い出す)そうかそうか! まあ、そう言うわな!」
(はあ?)
 O
「……まあ、一部分は当たってるな。音に敏感って所だ。人権擁護やら何やらを掲げる胡散臭い連中が集まってきて騒いだんで、バリケードが壊れた。なあ?」
(はあ)
 O
「問題は連中がどうやって正確な場所を知ったかだ。これは動画を配信している連中の所為だ。あいつらは承認要求のみで動いてるからな。まあ――ゾンビみたいなもんだよ。お前さん達だって、なんでこんなインタビューをしているのやらってね?」
(それは、その……真実を……)
 O
「その『真実を追求する』ゾンビ共、そして『自分の中の正義を数の暴力で他人に押しつけようとする』ゾンビ共があの場にいたわけだよ」
(…………)
 O
「しかし、だ。どうして動画配信をやってる連中は正確に情報を掴めたんだ?
 どうして連中は非常線が何重にも張ってある場所に入っていけたんだ?
 どうしてデモ隊は短時間であれだけ頭数を揃えられたんだ?」
(……何が言いたいんですか?)
 O
「……いいか、動画配信者達が来ると、『封じ込め』に関わっている連中は大変困るんだ。
 何故か?
『自衛のために発砲できなくなる』んだよ。
 警察や自衛隊だって人間だ。最悪の場合は発砲は認められてたんだよ。相手は『威嚇』が効かないんだ。だったら銃を持っていく意味って何だ? お守りか?」
(………………)

 O
「だが、動画配信者達は取り押さえられてしまう。何故なら『単独』だからだ。
 そこで、デモ隊の登場だ。連中は集団だ。これは抑え込むのに時間がかかる。
 ところで――あの場に来たデモ隊の目的はなんだと思う?」
(……ゾンビにも人権が――)
 O
「おいおいおい! 連中がまさか本気でそれを考えてると思ってるのか? 618の最中に? アメリカかどっかの馬鹿歌手が、『愛があればゾンビだって~』って噛まれてたが、あんな馬鹿はそうはいないぜ?」
(……つまり、どういうことなのでしょうか?)
「そりゃ決まってるんだよ。銃を撃たせたくなかったのさ」
(……………)
「それが第三のゾンビ共だな。
 勿論その場にはいない。だが、一番最悪だな。
 銃を撃たせたくない。だから、他の二つのゾンビをうまーく操ってあの場を大混乱に陥れたわけだよ。
 そういや、幹線道路の壁の残骸から、プラスチック爆弾の残骸が見つかったのは知ってるか?」
(そ、それは――)
 O
「あの場は大混乱だった。『自衛官の格好をした』奴が一人か二人いた所で、誰が気付くって言うんだ?」
(……つまり、『封じ込め作戦』は『意図的』に失敗させられた、と?)
 O
「(声を潜めて)いいか、自衛隊ってのは軍隊じゃねえ。防衛とか治安出動とかな、『日本を守るための必要最小限度の実力組織』なわけだよ。
 それに対しては色々な意見があるさ。外からは『てめぇで国を守れ』って言われてな、中からは『違憲だ』『持ち過ぎだ』ってな。聞いたことはあるだろ?」
(はあ、まあ……)
 O
「そういう顔をするなよ(笑) 話半分で聞け。
 でな、そういう状況を618で一気に傾けようとした連中が、まあ……『いたとする』。ここまではいいか?」
(……はい)
 O
「連中の片方はこう思う。
 『今こそ、自衛隊の必要性を確実にする時だ』ってね。戦後日本から脱却して、『軍隊』として自衛隊が必要な時代が唐突にやってきたわけだよ。
 いつまた発生するか判らないゾンビ。それに対する、迅速かつ適切な処置を行える、国民を守る軍隊ってわけだ」
(…………成程)
 O
「で、もう片方の連中はこう思うわけだ。
 『今そんな事をされたら、戦中に逆戻りだ。なんとしても防がなければ』ってな。警察と組んで事に当たれば、『今の自衛隊』で十分というわけだ。
 更に言えば、警察や自衛隊が元とは言え『国民』に武器を向けるとは何事だ、と。まあ、こういうわけだな。
 これは『連中のバックにいるどっかの国の思惑』なんてのも関係してるんだが――まあ、それは置いとけ」
(…………まあ、そういう噂もありますね)
 O
「ふふふ、そういう噂、ね。○○事件の時に同じように噂扱いになったっけな?
 ま、ともかくそういうわけで『封じ込め作戦』はダメだったんだよ。
 最初から、色々な思惑が裏にあった。
 それが各部署を通過するうちに、更に色々な思惑が追加されていって――例えば、老巧化した幹線道路の設備メンテナンスの補助金申請のいい口実、ゾンビ専用の産廃施設の利権、少子化打開への呼びかけとしてのパフォーマンス……まあ、誰も彼もがゾンビと自衛隊と警察を利用しようとした。
 となると、だ。『自衛隊を認めさせたい』連中の中にも、『銃を撃たせたくない』ってのが出てくる。
 つまり計画立案の裏で『喰い合い』が始まるわけだな。
 で、お互いをむさぼった挙句に出た結論は――ま、知っての通りだ」
(……銃撃命令は出なかった)
「はははは! そりゃ、それだけの思いが注がれちゃあ、道路から溢れるわな!」
(……はは)

 O
「さて、ここで根本的な問題を思い出してみるか?
 どうして全世界規模で同時多発的にゾンビが出現したんだ? って奴だな」
(それは――それこそがテロの証拠なわけで――)
 O
「おいおいおい! とぼけるなって! ネットの住民ってもっと大胆な発言するんじゃねーのか? あ、匿名じゃないと駄目って?
 じゃあ、なんで今に至るも『犯行声明』が出ていないんだ? テロってのは目的があるんだよ。ふんわりしてても、命をかける目的が無いと『意味』がない」
(……まあ、そうですね)
 O
「さて――世界に目を向けようじゃないか?
 618は――ゾンビは世界に何をもたらしたか?
 『平和』さ」
(……大勢の人が亡くなりましたよ)
 O
「『一部の人』って言ってほしいね。
 確かに618は、世界の人口を減らした。
 だが、それでそうなった? 
 食糧問題、民族問題なんかが解決した地域がどれだけあると? 
 アフリカや中東の某国は、ゾンビ殲滅戦の為に手を取り合って、長期間の民族、宗教紛争が終結したんだぞ?」
(……飛躍しすぎじゃないでしょうか?)
 O
「はっはっはっは! 
 俺に言わせりゃあ、『世界平和』とか『人類みな兄弟』って方が遥かに『飛躍』していると思うがねえ!
 だってだよ――狭い教室に人をつめこんだら『いじめ』が起きました。根本的な解決策はありません――これ、世界共通だぜ?
 どうやって、人類を団結させるんだ? 平和? 具体的な方法は?」
(……………………………)
 O
「(囁くように)実は簡単なんだよ。
 『共通の外敵』を作るのさ。
 映画やゲームじゃあ、エイリアンが攻めて来ると、みんな団結するじゃないか?
 だが、エイリアンは用意できないわな? となると、どうする?
 テロ組織のように『生身』ではなく、『話は通じない』。しかし、『外見は常識の範囲内』でないといけない。あまりにも無茶苦茶だと、人ってのは『抵抗を諦める』からな」
(……そこで、ゾンビというわけですか)
 O
「判ってるじゃないか!
 初期費用だけで大量生産ができ、宗教で扱えて、殺傷能力も申し分が無い存在だぞ! しかも時期が来たら簡単に鎮圧できて、ちょっと臭いぐらいで深刻な環境汚染もない!
 日本を含めて、ゾンビのお陰で色々な法案が通りやすくなった国がどのくらいあると思う? 
 建前上、引き下がれなかったが、ゾンビのお陰で国内に目を向ける状態に戻れた国がどのくらいあると思う?」
(……つまり、その……ゾンビは意図的に……政府機関によってばらまかれたと?)
 O
「それは多分違うだろうな。
 何しろ、損な部分が多すぎるからな。そんなら永久に議論してた方がましって事だよ」
(じゃあ、何処が――)
 O
「さあねえ……(笑いながら)まあ、妄想の類だよ、あまり真面目な顔をしなさんな!
 俺が今話してきたことは、殆ど状況証拠しかないからな?
 だから、ゾンビはただの『害獣』でもいいさ。
 テロ組織が『勝手に壊滅した』んで、犯行声明が出ない。それでもいい。
 だが、あの『封じ込め』が失敗したのは、間違いなくそういう背景があった所為だ。だから、『命令』は出なかったし、『増援』が後から湧いてきた。
 つまり、あの時、自衛隊と警察は、『618ゾンビ』と、様々な思惑で発生した『三大ゾンビ』を同時に相手していたってわけさ。
 そりゃ、失敗もするわな(笑)」
(……ありがとうございました)

 了

コメント

コメントを書く

「ホラー」の人気作品

書籍化作品