千夏さんは友達ごっこを極めてる!

関枚

短いようで長い

「もう……しんどいよ」


 千夏は俺にもたれかかるように肩を掴んだ。俺はゾクン!と体を震わせてすぐに千夏を引き離した。マジで公共の場でこうもべったりされるのはやめてほしい。周りの目が痛いんだ、特に男子!!気付けよ!周りの目に気付けよ!


 心の奥で叫ぶのに鈍感な千夏は気がつかない。俺を取り囲む獲物を狙う鷹のような視線に、今すぐ喉元に食らいつこうとする獅子のように。俺はタラタラと冷や汗をかいた。クラスの男子からどう思われてるかが怖すぎる。


「ねぇ次四時間目でしょ?お昼一緒に食べようよ」


「今その話やめろ」


「どうして?朝からずっとそっけないよ」


「周りの反応に気付け……!」


 俺は小声で千夏に伝えて一旦教室を出て避難した。長い廊下を渡った先に自販機がある。そこでジュースでも買って息抜きしよう。少し感情的になってしまった。落ち着かせるんだ、心を。


 俺は長い廊下を渡っていきついでに他のクラスがどんな様子かを見てみる。俺自身恥ずかしいと思っていた行為である女子とのお喋りを普通にしている男子もいた。俺はサッと教室から目をそらして早歩きで自販機に向かう。赤色の自販機が見えてポケットから財布を出して俺はコーラを買った。


 ガタン!とボトルが出てきて俺はシュパッとキャップを外して4分の1ほど一気飲みをした。シュワシュワした炭酸が俺の喉と心を癒していく。俺は「はぁ~」と深いため息をついて腕時計を見た。後五分か……、ゆっくり歩いて教室に帰るとしよう。


 俺が自販機から視線を廊下に移すと吹き抜けのベランダに行く通路を見つけた。行きの視界には映らない道だった。そこに朝比奈君がスケッチブックを持って鉛筆で絵を描いていた。俺は自然と彼のところへ向かう。


「よっ、絵描いてんの?」


 声をかけられた当の本人はキュルっと目玉だけを動かして俺を見た。そしてスケッチブックに視線を移して鉛筆を動かす。そして声を出した。


「そうだけど」


「風景画が好きなの?」


「まぁね、ここから見える景色は好きだから」


 車やバイクが行き交う道路にチリリンと自転車が信号を待っている。犬の散歩に行ってる人もいれば普通に散歩してる人もいた。そしてベランダから見える木には鳥が囀っている。ここから見える景色は豊かだった。


「いろんな物が見えるんだ。綺麗なものから汚いものまで、それを絵に興してみんな綺麗なものにしたいんだ」


 俺は彼の綺麗なもの理論を聞いていた。人には人の理論や理想があるが彼の場合は中身だった。見た目が綺麗とかじゃあなくて中身の問題。人の奥底に潜む闇や光、誰もが持っているものを彼は描いていたんだ。


「生まれた時はね、みんな綺麗なんだ。けど時が経つほど周りの影響を受けて黒く染まっていく。そうなる前に僕は綺麗なままで描き止めたいんだよ」


 彼は腕時計を見てハッとした顔になった。


「後2分で始まるよ。早めに戻ろう」


 俺は頷いて彼の後ろをついていこうとすると朝比奈君は「あ、そうそう」と振り返ってちょっぴり笑って言った。


「水嶋さん、好きで君と一緒にいるんじゃあないと思うよ」


それだけ言って彼は走り去っていった。その言葉は妙に俺の心に響くものだった。友達ごっこと思ってるのは俺だけなんだろうか?俺の恥ずかしい思い込みか?だとしたらさっきの俺の言葉は非常に恥ずかしい、情けない。


 俺はここで立ち止まるのはなんだかアレなので教室に戻ると早速出迎えたのは千夏だった。


「ね、ね!今日美術部の見学あるって!見にいこう!」


「お、おう。あのさ……」


「なに?」


「昼は一緒に食べよ?」


 俺がそういうと彼女はパヤァッと顔を明るくして


「いいよ!!」


相変わらず声は大きかったがまぁいいだろう。俺は気恥ずかしい思いを隠して席に座った。本当にこの学校の人間はすごいよ。短いようで長い休み時間だったな。俺はそんなことを思いながら四時間目の準備をした。四時間目は世界史だ。




「ここの答え何?」


 世界史はプリントが配られて先生の話を聞きながら穴埋めをするという授業方式でさっきの数学と比べれば断然こっちの方が楽であった。俺はチョコチョコ書いてプリントの端に適当に鳥の絵を描いていた。家で買ってる文鳥のムゥの絵だ。真っ白い鳥なんだが影を濃くすればそれなりの絵になる。俺はムゥかネットで見つけた動物の絵を描くのが好きだった。


 そんな時に後ろから突かれて振り返ると千夏が答え見してと言っていたのである。彼女は教科書でメモ帳を隠しておりそのメモ帳に色々なイラスト調の絵を描いていた。俺はササっと見せてなんでもないフリをした。見つかったら面倒なんだから。


 そんなもんで世界史を乗り越える。世界史の先生は新人らしくどこかちょろそうな印象を持ったが先生をいじめるような趣味は持ってないので苦労しそうだなと思う俺であった。四時間目が終わったってことは昼休みが始まるっていうことだ。千夏が弁当を持ってきた。


「食べようよ」


「あぁ~、俺弁当ないから食堂に行かせてくれ」


「わかった」


 俺と千夏は教室を出て食堂に向かった。教室は二階で食堂は一階の端に位置する。この学校は廊下が長いので行き方が何パターンか存在するのだが俺はその中でも近場を知っていたので俺はその通路を利用する。食堂は食券売り場が3台ほど並んでおり俺は一台のメニューを凝視する。カツ丼、唐揚げ丼、日替わり定食、肉うどん、醤油ラーメン……etc。迷うな、俺はどれにしようかなと思ったが無難に日替わり定食のボタンを押した。ジャラララァ!と気持ちのいい音が流れて小銭と券が出てくる。俺はササっと取って食堂に入った。


 白い机と椅子が綺麗に並んでいる食堂でかなり綺麗な方だった。俺は席取りを千夏に任せて受取り場に行く。カウンター方式で麺と定食とか看板があってそこで渡して受け取るシステムだ。俺は定食コーナーでおばちゃんに券を渡した。


「はいお待たせ」


 その時間約16秒、早すぎた。俺は「あ……ども」と少々驚きながらトレイを持って千夏を探した。


「タカヤー!」


千夏が俺を呼ぶ声がして手を振っている姿を見つける。俺はそこに向かった。ちょうど向き合って座れる席を取ってくれた。グッジョブ千夏。


「美味しそうだね!これでいくら?」


「えっと……460円」


「安い!!」


白ごはんとタルタルソースがかかったフィッシュフライとサラダ、味噌汁に申し訳程度にバナナがある定食を見てそう思う。椅子に座った時に俺は箸を取っていただきますをした。千夏も弁当箱を開けて食べ始める。千夏は主菜副菜がしっかりと詰められたいわゆるバランスの良い食事だった。


「お母さんが作ったの?」


「……え?いや、私が……」


 なんか歯切れが悪いな……俺は変に思ったが深入りはしないようにした。白ごはんを一口、ホクホクで美味しい。フライもソースといい相性でご飯がよく進む。味噌汁は良い出汁聞いてるし、俺は夢中になって食堂のご飯を堪能した。千夏は比較的ゆっくりなペースで弁当の唐揚げを食べてた。


「それ、千夏が作ったんだよね?」


「そうだよ、一個食べてみる?」


 千夏は俺の皿に唐揚げを一つ置いてくれた。俺はその唐揚げをハムッと頬張る。めちゃくちゃ美味しかった。外はパリパリ中はジューシー、ありきたりなコメントだがその通りである。


「めっちゃうまいじゃん!!」


「本当!?じゃあ明日もあげちゃうよ?」


「これだと無限に食えるぞ!」


 俺と千夏は笑い合った。小学校の頃もこんなのだったっけ?何かあれば千夏に手を引かれて遊びに誘われて一回だけ転んだ時に手当てもしてくれたな。小学校の頃の思い出が頭をよぎった。今も楽しいがあの時も楽しかった。今は物心があるから何か気にしながら接している。


 俺は千夏に何を思ってるんだろう。どうしてもらいたいんだろう?逆に千夏は俺に何を求めてるんだろうか?千夏の理想ってなんなんだろう?千夏のことをもっと知りたい欲が深まっていく。けど今はこの友達ごっこの関係は好きだ。詳細ごとはまたいつかだな。


 俺はくるか分からないようないつかにもどかしい思いを持った。俺も友達ごっこを極めないとね。






 

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