千夏さんは友達ごっこを極めてる!
お悩み事
解せぬ……それが俺の高校生活の第一声であった。「思ってたんと違う……」みたいな無責任なことでもないしクラスにヤバイヤンキーがいたとか自分に不釣り合いな奴しかいないというわけでもない。
今俺は高校の通学路でスマホにダウンロードした音楽を聞いていた。好きなバンドマンのベースやドラムの音で周りの音をある程度までかき消していた。その理由としては隣にいる人物が原因である。
「タカヤ無視しないでよ~」
「マジでその呼び方やめろ。なんか……恥ずかしい」
高校生のあだ名とは思えない呼び方で俺に構ってくるのは高校に進学して再会した幼馴染み、水嶋千夏だ。透き通るように白い肌にクリッとした綺麗な二重まぶた、髪はツヤツヤでサラサラでポニーテールにくくっている。背は俺と同じぐらいでちなみに俺は170である。女子の中では背が高い方なのかな?いちばんの印象はその笑顔だろう。
「俺には松下隆也っていう名前があるって言ってるでしょ?松下って呼ぶんだったらいいけどな、マジでタカヤはやめろ」
「どうして?」
俺の説得も聞きそうにもなかった。何回この問答をしただろうか、朝はゆっくりしたいのが俺なのに……。中学の頃は7時半まで寝ていて十分ぐらいで準備して8時半に間に合うようにゆっくり歩いていたのだが高校に進学するにつれて電車通学になったので6時半に起きる羽目になった。
「名字で呼ぶなんて堅いことしたくないよ。タカヤだって私のこと千夏って呼んでくれるのに」
「ここまでべったりされるのが……どうもな」
千夏と俺の関わり合いは幼稚園まで遡る。家も近所で幼稚園でも年中と年長が一緒の組で小学校でも一年三年四年が一緒だった。その当時の俺は何かあれば千夏のところに行っていた気がする。それが頭から離れてないのかな?俺かてもう16になろうとしてるんだからもう幼馴染みなんて気恥ずかしく思う年代になったんだ。こいつだけが子供なんだ。
ただ五年生になったあたりで千夏は両親の仕事の影響で引っ越した。違う県に行ったとかじゃあなくて県自体は一緒だが校区が全く違うところだったので中学も一緒になる事はなかったのだが思わぬところで再会した。高校の合格発表日である。
首にもこもこしたマフラーをして受験番号が書かれた紙をギュッと握り潰しかけていて歓喜に溢れた彼女を見つけた。その時俺は一瞬小学校の頃のビジョンがファッと浮かんで千夏だと確信したのだがどうも声がかけづらかった。
人違いだったらどうしようみたいな一見しょうもないかんがえしかなかったのだが彼女からトコトコと近づいてきて恐る恐る声をかけてくれたのだ。
「あの……松下隆也さんですか?」
その時の俺は自分から声をかけられなかった気恥ずかしさと再会の喜びが入り混じってなんとも言えない感情となっていた。そして俺も恐る恐る声をかけたんだ。
「千夏……?」
俺の受験番号、348を見て学校の壁に貼られてある合格発表を見た。あった、348番。やったと言う前に千夏が俺の両手をギュッと掴んでブンブン腕を振っていた。
「やった!一緒の高校だよ!これから一緒だよ!!」
そんな千夏を思い出しながら俺は朝の通学路を歩いていた。学校が近づいてきたのでイヤホンジャックをズボンのポケットにしまった。耳を塞ぐものがなくなって千夏はさらに声をかける。
「一緒のクラスだよね?お弁当も一緒に食べれるんじゃない?」
「俺は男友達とで食べたいからそこは別々でいいだろ?」
「初めは不安だから一緒、ね?」
上目遣いやめろ!!俺は顔が赤くなったのを隠すかのように咳をするフリで顔を隠した。ゴホンと作った感半端ない咳をしてチラチラと彼女の視線を伺う。彼女は「悪いことなんて知らないよ!」と言った顔でニッコリ微笑んだ。
校門をくぐり俺と千夏は下駄箱で履き替える。この学校は上靴がスリッパ方式だ。制服は男は真っ白いシャツにブレザーにネクタイを締める、女子はシャツに透け防止のベスト姿で下はスカートである。夏はお互い半袖になるぐらい。ネクタイは自分でキュッと締めないといけないもので入学式の日に父さんに教わったものだ。
靴を履き替える千夏の足を見ると透き通るような白で俺の目を惹く。バレない程度にサッと下駄箱に戻した。ちょうどよく膨れた脹脛が俺の好みである。
教室のドアを開けると何人かのグループが出来上がりかけていた。三人、多くて五人ぐらいの。今は出席番号順の席なので俺は後ろの席に座る。名字的に俺の後ろは千夏だ。俺は椅子に座り鞄を開けて水筒のお茶をゴクンと飲んだ。そして机を枕に少し寝ようとしたのだがユサユサと椅子を千夏が揺らしてきて寝るのを邪魔する。
「寝ないでよー暇」
「俺は……寝たいの」
ここまで密着した中のクラスメイトなんて俺と千夏しかいないんだろうな。周りの目が感じられる。千夏は誰が見ても可愛い美少女で俺はただの美術部のインキャだしな。まぁ千夏も絵を描くのが好きだから同じく美術部志望なのだが。
千夏といるのは楽しいし俺も彼女のおかげで楽しい高校生活を送れそうなのだが俺には彼女に対する未練がたったひとつだけ残ってるんだ。
小学校四年、彼女といた最後の小学生生活の時だった。その年も同じクラスで小学校の頃は俺のことを「たっくん」って言ってたかな?席も近かったがその当時はお互いの友達もいたから帰りは一緒に帰るぐらいの仲だった。
そんな日々が一学期、夏休みに二学期からの冬休みで過ぎていった。三学期の頃に俺は久しぶりに千夏と遊んだ。雪が降っていた公園で雪をかき集めて二人で雪だるまとか雪ウサギとか作って遊んでいた。
その時に彼女が口に出したんだ。「三学期が終われば離れ離れにならないといけない」って。その時の俺は話についていけずただ黙ってしまっていた。どうせ嘘をついてるんだ。心配させたいだけなんだ。そんなふうに思っていたら泣きそうになった表情で彼女は帰っていった。
茫然となっていたら公園のベンチに彼女が大事にしていた小さな手袋があった。その日に届ければよかったのだが俺は千夏の話を信じることができずに家に持って帰った。
次の日になって学校に行くと千夏の席は空っぽになっていて担任の先生が「水嶋さんは遠くに転校することになりました」と言ったのを聞いて俺の顔から血の気がひいてゾワっと背中に寒いものが走った。
今更ながらに本当であったと知ったのだ。学校が終わりすぐに千夏の家に向かった。謝りたかった、申し訳がなかった、手袋を返してやりたかった。自分が情けないと言う思いだけが募り涙を流しながら彼女の家に向かった。
しかし千夏の家は空っぽで窓の中には家具ひとつなく寂しそうに存在するだけだった。そう、俺は間に合わなかったんだ。涙は枯れてトボトボと家に帰っていた。
「タカヤ、どうしたの?」
自然と顔が曇っていたようだ。俺はハッとした顔で千夏の方へ向き直る。心配したように俺を見る千夏に俺は「何でもないよ」と言った。今まで心の奥底に眠っていたこの申し訳ない気持ちは最近になって表面へと這い出てくるようになった。家でも自然と顔が曇る。その手袋は引き出しの中に今でもあるんだから。
「本当に寝不足なの?しっかりと寝ないと」
「あぁ……すまんな」
あくびをするフリをして俺はハァー……とため息を吐いた。俺は千夏とどう言う関係なんだろう。友達以上だと言うことはわかるのだがなんなのだろう。知人か?千夏はあの冬を覚えているのだろうか?だとしたらさらに気まずいものである。
ただ鈍感な千夏は俺の心境に気づいてない。彼女からしたら俺は幼なじみでも俺からしたらただの友達ごっこみたいなものである。もう友達ごっこは嫌だ。けどその先へ行くことはないんだろうか?
ひとつだけ言えること、それは友達ごっこは終わりそうにないと言うことだけだった。
今俺は高校の通学路でスマホにダウンロードした音楽を聞いていた。好きなバンドマンのベースやドラムの音で周りの音をある程度までかき消していた。その理由としては隣にいる人物が原因である。
「タカヤ無視しないでよ~」
「マジでその呼び方やめろ。なんか……恥ずかしい」
高校生のあだ名とは思えない呼び方で俺に構ってくるのは高校に進学して再会した幼馴染み、水嶋千夏だ。透き通るように白い肌にクリッとした綺麗な二重まぶた、髪はツヤツヤでサラサラでポニーテールにくくっている。背は俺と同じぐらいでちなみに俺は170である。女子の中では背が高い方なのかな?いちばんの印象はその笑顔だろう。
「俺には松下隆也っていう名前があるって言ってるでしょ?松下って呼ぶんだったらいいけどな、マジでタカヤはやめろ」
「どうして?」
俺の説得も聞きそうにもなかった。何回この問答をしただろうか、朝はゆっくりしたいのが俺なのに……。中学の頃は7時半まで寝ていて十分ぐらいで準備して8時半に間に合うようにゆっくり歩いていたのだが高校に進学するにつれて電車通学になったので6時半に起きる羽目になった。
「名字で呼ぶなんて堅いことしたくないよ。タカヤだって私のこと千夏って呼んでくれるのに」
「ここまでべったりされるのが……どうもな」
千夏と俺の関わり合いは幼稚園まで遡る。家も近所で幼稚園でも年中と年長が一緒の組で小学校でも一年三年四年が一緒だった。その当時の俺は何かあれば千夏のところに行っていた気がする。それが頭から離れてないのかな?俺かてもう16になろうとしてるんだからもう幼馴染みなんて気恥ずかしく思う年代になったんだ。こいつだけが子供なんだ。
ただ五年生になったあたりで千夏は両親の仕事の影響で引っ越した。違う県に行ったとかじゃあなくて県自体は一緒だが校区が全く違うところだったので中学も一緒になる事はなかったのだが思わぬところで再会した。高校の合格発表日である。
首にもこもこしたマフラーをして受験番号が書かれた紙をギュッと握り潰しかけていて歓喜に溢れた彼女を見つけた。その時俺は一瞬小学校の頃のビジョンがファッと浮かんで千夏だと確信したのだがどうも声がかけづらかった。
人違いだったらどうしようみたいな一見しょうもないかんがえしかなかったのだが彼女からトコトコと近づいてきて恐る恐る声をかけてくれたのだ。
「あの……松下隆也さんですか?」
その時の俺は自分から声をかけられなかった気恥ずかしさと再会の喜びが入り混じってなんとも言えない感情となっていた。そして俺も恐る恐る声をかけたんだ。
「千夏……?」
俺の受験番号、348を見て学校の壁に貼られてある合格発表を見た。あった、348番。やったと言う前に千夏が俺の両手をギュッと掴んでブンブン腕を振っていた。
「やった!一緒の高校だよ!これから一緒だよ!!」
そんな千夏を思い出しながら俺は朝の通学路を歩いていた。学校が近づいてきたのでイヤホンジャックをズボンのポケットにしまった。耳を塞ぐものがなくなって千夏はさらに声をかける。
「一緒のクラスだよね?お弁当も一緒に食べれるんじゃない?」
「俺は男友達とで食べたいからそこは別々でいいだろ?」
「初めは不安だから一緒、ね?」
上目遣いやめろ!!俺は顔が赤くなったのを隠すかのように咳をするフリで顔を隠した。ゴホンと作った感半端ない咳をしてチラチラと彼女の視線を伺う。彼女は「悪いことなんて知らないよ!」と言った顔でニッコリ微笑んだ。
校門をくぐり俺と千夏は下駄箱で履き替える。この学校は上靴がスリッパ方式だ。制服は男は真っ白いシャツにブレザーにネクタイを締める、女子はシャツに透け防止のベスト姿で下はスカートである。夏はお互い半袖になるぐらい。ネクタイは自分でキュッと締めないといけないもので入学式の日に父さんに教わったものだ。
靴を履き替える千夏の足を見ると透き通るような白で俺の目を惹く。バレない程度にサッと下駄箱に戻した。ちょうどよく膨れた脹脛が俺の好みである。
教室のドアを開けると何人かのグループが出来上がりかけていた。三人、多くて五人ぐらいの。今は出席番号順の席なので俺は後ろの席に座る。名字的に俺の後ろは千夏だ。俺は椅子に座り鞄を開けて水筒のお茶をゴクンと飲んだ。そして机を枕に少し寝ようとしたのだがユサユサと椅子を千夏が揺らしてきて寝るのを邪魔する。
「寝ないでよー暇」
「俺は……寝たいの」
ここまで密着した中のクラスメイトなんて俺と千夏しかいないんだろうな。周りの目が感じられる。千夏は誰が見ても可愛い美少女で俺はただの美術部のインキャだしな。まぁ千夏も絵を描くのが好きだから同じく美術部志望なのだが。
千夏といるのは楽しいし俺も彼女のおかげで楽しい高校生活を送れそうなのだが俺には彼女に対する未練がたったひとつだけ残ってるんだ。
小学校四年、彼女といた最後の小学生生活の時だった。その年も同じクラスで小学校の頃は俺のことを「たっくん」って言ってたかな?席も近かったがその当時はお互いの友達もいたから帰りは一緒に帰るぐらいの仲だった。
そんな日々が一学期、夏休みに二学期からの冬休みで過ぎていった。三学期の頃に俺は久しぶりに千夏と遊んだ。雪が降っていた公園で雪をかき集めて二人で雪だるまとか雪ウサギとか作って遊んでいた。
その時に彼女が口に出したんだ。「三学期が終われば離れ離れにならないといけない」って。その時の俺は話についていけずただ黙ってしまっていた。どうせ嘘をついてるんだ。心配させたいだけなんだ。そんなふうに思っていたら泣きそうになった表情で彼女は帰っていった。
茫然となっていたら公園のベンチに彼女が大事にしていた小さな手袋があった。その日に届ければよかったのだが俺は千夏の話を信じることができずに家に持って帰った。
次の日になって学校に行くと千夏の席は空っぽになっていて担任の先生が「水嶋さんは遠くに転校することになりました」と言ったのを聞いて俺の顔から血の気がひいてゾワっと背中に寒いものが走った。
今更ながらに本当であったと知ったのだ。学校が終わりすぐに千夏の家に向かった。謝りたかった、申し訳がなかった、手袋を返してやりたかった。自分が情けないと言う思いだけが募り涙を流しながら彼女の家に向かった。
しかし千夏の家は空っぽで窓の中には家具ひとつなく寂しそうに存在するだけだった。そう、俺は間に合わなかったんだ。涙は枯れてトボトボと家に帰っていた。
「タカヤ、どうしたの?」
自然と顔が曇っていたようだ。俺はハッとした顔で千夏の方へ向き直る。心配したように俺を見る千夏に俺は「何でもないよ」と言った。今まで心の奥底に眠っていたこの申し訳ない気持ちは最近になって表面へと這い出てくるようになった。家でも自然と顔が曇る。その手袋は引き出しの中に今でもあるんだから。
「本当に寝不足なの?しっかりと寝ないと」
「あぁ……すまんな」
あくびをするフリをして俺はハァー……とため息を吐いた。俺は千夏とどう言う関係なんだろう。友達以上だと言うことはわかるのだがなんなのだろう。知人か?千夏はあの冬を覚えているのだろうか?だとしたらさらに気まずいものである。
ただ鈍感な千夏は俺の心境に気づいてない。彼女からしたら俺は幼なじみでも俺からしたらただの友達ごっこみたいなものである。もう友達ごっこは嫌だ。けどその先へ行くことはないんだろうか?
ひとつだけ言えること、それは友達ごっこは終わりそうにないと言うことだけだった。
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