キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきて人類滅亡の大ピンチ! 前代未聞、いまだかつてない物語があなたの人生すら変えてしまう ~ヴィーナシアンの花嫁~

月城友麻

28.エロ豚に迫る地獄耳

 2週間に及ぶエンジニアチームの活躍でマウスは基本動作を一通りできるようになった。
 飛んだり跳ねたり歩き回ったり、物を掴んだり鳴いたりしてもはや普通のマウスと遜色ない動きを見せてくれる。
 
 さて、いよいよこれからAIマウス・シアンが自律的な学習をして知的生命体として育ち始める。
 一体どんなマウスに育つのだろうか? 全く想像がつかない。
 初代シアンと大差ないお馬鹿さんかもしれないし、一気に人類の後継者レベルにまで達してしまうかも知れない。
 みんな胸を膨らませて学習プロセスをスタートさせた。
 
 部屋に巨大な鉄道模型の様な大きなジオラマを用意して、そこにシアンを放して学習をさせてみる。
 ジオラマには芝生や植木や岩場、プールやジャングルジムなどいろいろな体験ができる要素を加えた。
 
 AIには初代ロボット・シアンのAIをベースにした物をマーカスが調整し、実装済みだ。
 
 さて、学習スタート!

 エンジニアチームは皆、画面を食い入るように見つめて、流れていくログやステータス表示に異常がないか探している。

 俺は美奈ちゃんと実験室に入り、シアンの動作を見る事にした。
 
 シアンは最初、ロボットみたいにぎこちなく、周りの様子をうかがっていたようだったが……

「あ、動き出したよ!」
 美奈ちゃんが嬉しそうに言う。

 まずは芝生の上を真っすぐに歩く。

「おぉ、まずは歩き出したか。次はどうするのかな……」

 しばらく歩いたら今度はUターンして元に戻り始めた。

 どうしたんだろう?
 
 と、みんなが怪訝な顔で見ていると……しばらくしてまたUターンした。

 うーん、何やってるのかな?

 そう思って見てるとまたUターンである。

「これ……? 大丈夫?」
 美奈ちゃんが不安げに言う。

 壁に掲げられた大画面モニターにはステータスが表示されており、特に異状は見られない。
 品川のIDCにあるAIチップの稼働率は60%を超えていて、相当頭使ってる状態だ。
 
「何かを感じて学習していると思うから、いつまでもこうじゃないと思うんだけど……」
 俺も不安になってきた。
 
 その後数十回Uターンを繰り返し、美奈ちゃんが飽きた頃、シアンは植木の方へと動いて行った。

「あら……、ついに何かやるみたいよ!」
 あくびしながら美奈ちゃんが言う。
 
 シアンは植木の幹にぶつかると後ずさりし、しばらく何かを考えた後、再度植木にぶつかった。

「誠さん、ずっとこんな感じなの?」
 美奈ちゃんは呆れたように言う。

「まだシアンは生まれたばかりの赤ちゃんだからね、まずは一通り何でも繰り返しやってみる所からがスタートだろう」
「ふぅん……、じゃ、私は先輩ん所行ってるわ」
 そう言って出て行った。

 まぁ確かに見てて面白い物じゃないな。
 俺も植木の周りをぐるぐる回りだしたシアンを見た後、自分の席に戻った。
 

          ◇


 翌日、見に行くとシアンはジャングルジムに挑戦していたが――――
 ジャングルジムに登るためには棒を掴む動作が必要になるが、それをどうも理解できていないようだった。

 ぴょんと飛んでは跳ね返されて戻ってくるというのを繰り返している。
 確かにこういう失敗を繰り返すというのがAIの学習には大切ではあるが、こう失敗続きだと学習にならないんじゃないかと不安になる。
 
 後から見に来た美奈ちゃんも、すでに同じことの繰り返しで飽き始めている。

「なんでこう掴んで登らないのかしら?」
「掴んで登った経験がまだ一度もないんだよ。一度でも経験出来たら違うんだろうけど……」
「手伝っちゃダメなの?」
「うーん、でもマウスを手伝うって難しくないか?」
「あー、指なんかすごいちっちゃいからねぇ……」
「そもそも近づいたら逃げそうだ」

 美奈ちゃんの目がキラッと輝く
「え? 逃げるの? やってみていい?」

 飽きてきてるから何か面白い事やりたいんだろう。

「ダメダメ!マーカスに怒られるよ!」
「大丈夫! 大丈夫! マーカス優しいから」
 そう言ってジオラマに入ろうとする美奈ちゃんをすかさず引き留める。

「ちょっと! 女神様! ダメダメ!」
 抱き着いた格好になって手が胸をムニュっと掴む形になった。

「あー! どこ触ってんのよ!」
 美奈ちゃんが俺の手をピシピシ叩く。

「痛い痛い! 早く戻って!」
「分かったから放しなさいよ!」
「いいからちょっと戻ってきて!」
「手を離すのが先でしょ!」
 揉めていると大画面モニタに鬼の形相をしたマーカスの顔が出た。

「Hey! Be quiet!! (静かにして!)」
 マジ怒りの怒声が部屋に響く。

「Oh! Sorry……(ごめんなさい)」
 俺も美奈ちゃんも叱られてしおしおである。

「Get out! (出ていけ!)」
「は~い」「は~い」

 俺と美奈ちゃんは目でお互いを非難しながら、ゆっくり部屋を出てそーっとドアを閉めた。

「それみろ! 怒られちゃったじゃないか!」
「何言ってんの! 私の胸触ったくせに!」
「触りたくて触ったんじゃないぞ!」
「触りたかったくせに~!」

 言い争いしながらオフィススペースに降りてくると
 由香ちゃんの怪訝そうな視線が刺さる。

 誤解させたかも……。

「先輩~! 誠に胸触られちゃったの~!」
 美奈ちゃんがオーバーに被害を訴える。

「いやいや、由香ちゃん違うんだよ!」
「セクハラされた~!」
 そう言ってウソ泣きのしぐさをしながら、由香ちゃんの胸に顔をうずめる美奈ちゃん。

 由香ちゃんが非難の目で俺を睨む。

「美奈ちゃんが入っちゃいけない所にいきなり入るから、一生懸命止めただけなの!」
「あー! 傷物にされたー!」
 美奈ちゃんが大げさにわめく。

 由香ちゃんは美奈ちゃんの頭をなでながら言う。

「でも触ったんですよね?」
「いや、まぁ……」
「だったら謝った方が良いかもしれませんね……」
「…… はい」

 俺は美奈ちゃんに謝った。
「悪かったよ美奈ちゃん」

 美奈ちゃんはウソ泣きを止めて、
「最初からそう言いなさいよ」
 そう言ってニヤッと笑った。

 くそぅ! すごいムカつく!

 でもあの手触りは確かにヤバかったので致し方ないか……。

「先輩も誠には気をつけてね。どさくさに紛れて胸触るから」
「何てこと言うんだ! 由香ちゃんは『ダメだ』って言う事なんてしないから大丈夫だよね?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください、今珈琲入れますから」
 由香ちゃんは大人である。

 美奈ちゃんは勝ち誇った様子でこちらを見てる。
 とんだおてんば娘だ。
 
「Hi Everybody!(こんちわー)」
 玄関からにぎやかな男がやってきた。修一郎だ。

 タイミング悪い奴め。

「皆さん元気~?」
 妙にテンション高く浮かれてる修一郎をみんな無言で見つめる。

「あれ? どうしたの?」
「いや、何でもないよ、久しぶりだな、今日はどうしたんだ?」
 俺は淡々と答える。

「いやー、由香先輩がジョインしたって言うからさー、様子見に来たんだよ」

「そうそう、先輩は私の秘書になったのよ」
 美奈ちゃんが偉そうに言う。秘書じゃないんだけどな。

「えー、俺にも秘書つけてよ~!」
 修一郎がバカなことを言い出すので俺が拒否する。

「お前会社に来ないじゃねーか、秘書なんか要らんよ!」
「えー……」
「どうしても欲しければ親父さんに付けてもらえ」
「親父はそういうの許してくれないよ……。まぁいいや、それでうちの会社には慣れた?」
 修一郎は由香ちゃんに振る。

「あ、そうね、なんとか……」
「美奈ちゃんに虐められてない?」
「大丈夫! あ、セクハラはされた……かな?」
「セ、セ、セクハラ!?」
 修一郎はオーバーアクションでわざとらしく言う。

「あんなの単なる親愛なる愛情表現じゃない! 私が誠さんに胸揉まれた方がセクハラだわ!」
「え―――――! 誠さん、それ犯罪ですよ! 姫の胸揉んだなんてことサークルの連中にバレたらうちの連中暴動起こしますよ!」
「いやちょっと誤解だって!」
 またややこしい話になってしまった。

「でも触ったんですよね?」
 またこれか……。

「いや……まぁ……」
 修一郎はいきなり俺の肩を組んで、オフィスの隅まで連れてきてひそひそ声で聞いてきた。

「美奈ちゃんの胸には胸パッドで盛り盛り疑惑があるんすよ。パッドでした?」
 なんだその疑惑は。

「いや、触った感じそんなでは……」
 
「聞こえてんのよ! このエロ豚どもめ!」
 美奈ちゃんはこっちに駆けてくると、書類を丸めて修一郎と俺の頭を スパーン! スパーン! と叩いた。

 オフィスにいい音が響く。
 何という地獄耳、なぜあの距離で聞こえるのか?
 
 それにしても先日から胸で揉めてばかりだ、大丈夫かこの会社。

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