キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきて人類滅亡の大ピンチ! 前代未聞、いまだかつてない物語があなたの人生すら変えてしまう ~ヴィーナシアンの花嫁~
14.裸の王様の道
「そう言えばシュウちゃんは?」
美奈ちゃんはリスみたいに珈琲のマグカップを両手で持って、聞いてくる。
「大学かな? 最近見ないなあいつ。slackには反応してるから生きてるんだとは思うんだけど」
とは言え、彼に無脳症の赤ちゃんを使った実験を見せるのはさすがに難しそうだ。
彼には太陽興産とのパイプ役さえやってくれればいいので、オフィスに来ないのは好都合ではある。
最終的に太陽興産が株式会社Deep Childの筆頭株主になれば彼ももっと経営に参加してもらわないとならないが、彼が大学生のうちは月1の取締役会に出てきてくれる程度が丁度いい。
「…。これ、明日のレポート」
クリスが手書きのメモをくれた。
そこには達筆な字で太陽興産が新規に扱うべき商材、やめるべき商材、新規に契約すべき会社、契約解除すべき会社、昇進させるべき社員、問題社員が丁寧に書かれてあった。
「ありがとう、清書して渡してくるよ」
きっとこのメモ通りにやれば売り上げも利益も一段上がるのだろう。まさに神のメモ。AIが完成するまではこれをAIの成果と見せかけないとならないのがやや鬱陶しいが、100億円には代えられない。
翌朝、レポートを持って太陽興産へ行った――――
太陽興産は田町の外れの煤こけたビルに入っていた。上場企業なんだからもっと綺麗なビルに入ればいいのにと思わんでもない。
応接室に通されたが、応接室には金をかけていた。豪華なソファーにでかい油絵、やや成金っぽいが大丈夫か……。
タバコ臭い空気に辟易しながらその油絵の風景を見入っていると、親父さんと修一郎が現れた。
俺はすかさず大きな声で、
「おはようございます!」
あいさつはビジネスの基本、しっかりとね。
「神崎君、記者会見の時はありがとう。おかげでうちの株価は2倍くらいになったよ」
親父さんは上機嫌で太鼓腹をなでながら話す。
「こちらこそありがとうございました。株価はまだまだ行きますよ、目標は1兆円ですから」
「わはははは、そうなったら最高だな。で、事業の方はどんな感じ? オフィスも開いたんだろ?」
「はい、今はマーカス始め、うちの最高のエンジニアチームがバリバリ開発を進めてますよ。うちのシアンも相当にパワーアップしそうです」
「なるほど、それは楽しみだな。で、レポートは?」
「こちらです。シアンの計算結果がこちらですので、これに合った対応をお願い致します。きっと株価がまた上がりますよ」
「どれどれ……。なるほどな……進めよう。で……、ちょっとこのシアンに幾つか聞きたい事があるんだけど……いいかな?」
親父さんはちょっと遠慮しながら切り出す。
「はい、今日も用意していますのでご質問をどうぞ」
俺はにっこり笑顔で答える。笑顔重要。クリスにはちゃんとスタンバってもらっているので大丈夫だろう。
「こないだの宮崎の件で凄いショック受けてな、実は社員は俺のことどう思ってるのか気になる様になって……それ、聞いてみたいんだが」
「分かりました! 質問としては……うーん、親父さんを尊敬している人は何人いるか聞いてみましょうか?」
「それそれ! それ聞いてくれ!」
『Makoto:田中修司を尊敬している人は会社に何人いますか?』
『Cyan:0人です。』
ヤバい……質問の仕方間違った……。
親父さんはスマホの画面を見たまま口を開けて止まってしまった。
フォローの言葉が全く思い浮かばない……ヤバい……
冷や汗がタラりと垂れてくる。
「あ、聞き方が悪かったですね。じゃ、こう聞いてみましょう」
『Makoto:田中修司の実力を評価している人は会社に何人いますか?』
『Cyan:30人です。』
また微妙な数字が……。
「うむむむむ……」
親父さんは腕組みしてソファーの背にもたれかかった。
しばらくこの結果をどう受け止めたものか思案している様子だった。
「うちの社員は1000人ほどいるんだが、他の人は俺のことどう思っているのかね?」
「聞いてみましょう」
親父さんを怒らせないような設問を考えないとならないが…… どう聞いたらいいかわからない。もうクリスに丸投げ!
『Makoto:会社の人は田中修司の事をどう思っていますか?』
『Cyan:良く知らない:843人、面倒臭そう:64人、ただの上役:36人』
「知らないって何だよ! いつも朝礼とかで話してるだろうが! 何だこいつらは!」
親父さんは立ち上がりながら叫んだ。
怒らせてしまった……。マズい。何とかとりつくろわないと……。
「あー、でも親父さん、社員の名前全部言えます?」
「言える訳ないだろ!」
「つまりそういう事なんだと思います。お互い親しくなって心の交流をして初めて人は相手を知る事ができるという事じゃないでしょうか?」
「む……。一方的な情報伝達だけでは心は伝わらんという事かね?」
「芸能人や歌手だったら伝わる人もいるかもしれませんが、ビジネスマンだと難しいかと……」
「うむむ……」
また考え込んでしまった。
しばらく考え込んだ後言った、
「どうやったら心は伝わるのかね?」
「うーん、どうでしょうか? これは個人的な意見ですが、親父さんは今でも立派に会社を伸ばし、成功者として揺ぎ無い位置に居るのですからあえて会社の人と心繋げなくてもいいのではないでしょうか?」
「でも、裸の王様じゃないかこれじゃ!」
「裸の王様、私は悪くないと思います。王様には王様にしか見えない世界、社長には社長にしか見えない世界がございます。社員とは元々世界は違うのです。社員には見えない世界で闘う社長は、社員の所へ降りて行かなくてもいいのではないでしょうか? 少なくとも私は親父さんを尊敬しております」
親父さんは一瞬、厳しい顔をして、そのまま椅子の背にもたれかかった。
そして、ポケットから電子タバコを出してスイッチを入れた。
しばらく考え込み……
「ふむ……。社長にしか見えない世界か……。ま、そうかもな……」
そう言って電子タバコを美味しそうに吸った。
「差し出がましい事を申しまして申し訳ありません」
「いやいや、神崎君の言う通りだと思うよ。社長とは何かについてはちょっと考えた方が良さそうだ」
「恐縮です」
「最後に一ついいかね? 愛社精神の高い奴を教えて欲しい。そういう人は重用したい」
「かしこまりました。」
『Makoto:愛社精神が一番高いのは誰ですか』
『Cyan:加賀美さやかです』
「え? 加賀美? 彼女は言う事聞かないし、俺にも平気で苦情言ってくる煙たい奴なんだよ。なんで一番愛社精神高いんだ?」
「逆ですよ、愛社精神高いから言いにくい事をしっかりと言うって事じゃないですかね? 逆に言えばYesマンには愛社精神なんて無いのかと」
「うむむむ……」
また考え込んでしまった。
外から見てたら当たり前の事でも、当事者には気づかないものなんだろうな。
親父さんは膝をポンと叩いて言った。
「なるほど、なるほど、分かった! 神崎君と話をしていると目から鱗がどんどん落ちるよ!」
「恐縮です」
「加賀美君は昇進させて俺にどんどん意見させるようにするよ」
「正解だと思います」
打ち合わせは無事終了、修一郎と一緒に会社に戻る。
「修一郎、君も何か発言しないとダメだよ」
「えー、でも俺関係ないし」
「いやいや、関係はどんどん自分で作っていくんだよ。海外では発言しない人は次から会議に呼ばれなくなるんだよ」
「え~、厳しいっすね」
「何でも思った事はどんどん話すと良いよ」
最終的に株式会社Deep Childの株式は太陽興産が51%を握る。そうなれば修一郎がうちの会社で一番偉い立場になるだろう。そうなった時に使えないボンボンだといろいろ困る。修一郎には折に触れてビジネスを教えていかないとならない。
そしてそれが親父さんが俺達に100億円も出した理由の一つでもあるはずだ。
美奈ちゃんはリスみたいに珈琲のマグカップを両手で持って、聞いてくる。
「大学かな? 最近見ないなあいつ。slackには反応してるから生きてるんだとは思うんだけど」
とは言え、彼に無脳症の赤ちゃんを使った実験を見せるのはさすがに難しそうだ。
彼には太陽興産とのパイプ役さえやってくれればいいので、オフィスに来ないのは好都合ではある。
最終的に太陽興産が株式会社Deep Childの筆頭株主になれば彼ももっと経営に参加してもらわないとならないが、彼が大学生のうちは月1の取締役会に出てきてくれる程度が丁度いい。
「…。これ、明日のレポート」
クリスが手書きのメモをくれた。
そこには達筆な字で太陽興産が新規に扱うべき商材、やめるべき商材、新規に契約すべき会社、契約解除すべき会社、昇進させるべき社員、問題社員が丁寧に書かれてあった。
「ありがとう、清書して渡してくるよ」
きっとこのメモ通りにやれば売り上げも利益も一段上がるのだろう。まさに神のメモ。AIが完成するまではこれをAIの成果と見せかけないとならないのがやや鬱陶しいが、100億円には代えられない。
翌朝、レポートを持って太陽興産へ行った――――
太陽興産は田町の外れの煤こけたビルに入っていた。上場企業なんだからもっと綺麗なビルに入ればいいのにと思わんでもない。
応接室に通されたが、応接室には金をかけていた。豪華なソファーにでかい油絵、やや成金っぽいが大丈夫か……。
タバコ臭い空気に辟易しながらその油絵の風景を見入っていると、親父さんと修一郎が現れた。
俺はすかさず大きな声で、
「おはようございます!」
あいさつはビジネスの基本、しっかりとね。
「神崎君、記者会見の時はありがとう。おかげでうちの株価は2倍くらいになったよ」
親父さんは上機嫌で太鼓腹をなでながら話す。
「こちらこそありがとうございました。株価はまだまだ行きますよ、目標は1兆円ですから」
「わはははは、そうなったら最高だな。で、事業の方はどんな感じ? オフィスも開いたんだろ?」
「はい、今はマーカス始め、うちの最高のエンジニアチームがバリバリ開発を進めてますよ。うちのシアンも相当にパワーアップしそうです」
「なるほど、それは楽しみだな。で、レポートは?」
「こちらです。シアンの計算結果がこちらですので、これに合った対応をお願い致します。きっと株価がまた上がりますよ」
「どれどれ……。なるほどな……進めよう。で……、ちょっとこのシアンに幾つか聞きたい事があるんだけど……いいかな?」
親父さんはちょっと遠慮しながら切り出す。
「はい、今日も用意していますのでご質問をどうぞ」
俺はにっこり笑顔で答える。笑顔重要。クリスにはちゃんとスタンバってもらっているので大丈夫だろう。
「こないだの宮崎の件で凄いショック受けてな、実は社員は俺のことどう思ってるのか気になる様になって……それ、聞いてみたいんだが」
「分かりました! 質問としては……うーん、親父さんを尊敬している人は何人いるか聞いてみましょうか?」
「それそれ! それ聞いてくれ!」
『Makoto:田中修司を尊敬している人は会社に何人いますか?』
『Cyan:0人です。』
ヤバい……質問の仕方間違った……。
親父さんはスマホの画面を見たまま口を開けて止まってしまった。
フォローの言葉が全く思い浮かばない……ヤバい……
冷や汗がタラりと垂れてくる。
「あ、聞き方が悪かったですね。じゃ、こう聞いてみましょう」
『Makoto:田中修司の実力を評価している人は会社に何人いますか?』
『Cyan:30人です。』
また微妙な数字が……。
「うむむむむ……」
親父さんは腕組みしてソファーの背にもたれかかった。
しばらくこの結果をどう受け止めたものか思案している様子だった。
「うちの社員は1000人ほどいるんだが、他の人は俺のことどう思っているのかね?」
「聞いてみましょう」
親父さんを怒らせないような設問を考えないとならないが…… どう聞いたらいいかわからない。もうクリスに丸投げ!
『Makoto:会社の人は田中修司の事をどう思っていますか?』
『Cyan:良く知らない:843人、面倒臭そう:64人、ただの上役:36人』
「知らないって何だよ! いつも朝礼とかで話してるだろうが! 何だこいつらは!」
親父さんは立ち上がりながら叫んだ。
怒らせてしまった……。マズい。何とかとりつくろわないと……。
「あー、でも親父さん、社員の名前全部言えます?」
「言える訳ないだろ!」
「つまりそういう事なんだと思います。お互い親しくなって心の交流をして初めて人は相手を知る事ができるという事じゃないでしょうか?」
「む……。一方的な情報伝達だけでは心は伝わらんという事かね?」
「芸能人や歌手だったら伝わる人もいるかもしれませんが、ビジネスマンだと難しいかと……」
「うむむ……」
また考え込んでしまった。
しばらく考え込んだ後言った、
「どうやったら心は伝わるのかね?」
「うーん、どうでしょうか? これは個人的な意見ですが、親父さんは今でも立派に会社を伸ばし、成功者として揺ぎ無い位置に居るのですからあえて会社の人と心繋げなくてもいいのではないでしょうか?」
「でも、裸の王様じゃないかこれじゃ!」
「裸の王様、私は悪くないと思います。王様には王様にしか見えない世界、社長には社長にしか見えない世界がございます。社員とは元々世界は違うのです。社員には見えない世界で闘う社長は、社員の所へ降りて行かなくてもいいのではないでしょうか? 少なくとも私は親父さんを尊敬しております」
親父さんは一瞬、厳しい顔をして、そのまま椅子の背にもたれかかった。
そして、ポケットから電子タバコを出してスイッチを入れた。
しばらく考え込み……
「ふむ……。社長にしか見えない世界か……。ま、そうかもな……」
そう言って電子タバコを美味しそうに吸った。
「差し出がましい事を申しまして申し訳ありません」
「いやいや、神崎君の言う通りだと思うよ。社長とは何かについてはちょっと考えた方が良さそうだ」
「恐縮です」
「最後に一ついいかね? 愛社精神の高い奴を教えて欲しい。そういう人は重用したい」
「かしこまりました。」
『Makoto:愛社精神が一番高いのは誰ですか』
『Cyan:加賀美さやかです』
「え? 加賀美? 彼女は言う事聞かないし、俺にも平気で苦情言ってくる煙たい奴なんだよ。なんで一番愛社精神高いんだ?」
「逆ですよ、愛社精神高いから言いにくい事をしっかりと言うって事じゃないですかね? 逆に言えばYesマンには愛社精神なんて無いのかと」
「うむむむ……」
また考え込んでしまった。
外から見てたら当たり前の事でも、当事者には気づかないものなんだろうな。
親父さんは膝をポンと叩いて言った。
「なるほど、なるほど、分かった! 神崎君と話をしていると目から鱗がどんどん落ちるよ!」
「恐縮です」
「加賀美君は昇進させて俺にどんどん意見させるようにするよ」
「正解だと思います」
打ち合わせは無事終了、修一郎と一緒に会社に戻る。
「修一郎、君も何か発言しないとダメだよ」
「えー、でも俺関係ないし」
「いやいや、関係はどんどん自分で作っていくんだよ。海外では発言しない人は次から会議に呼ばれなくなるんだよ」
「え~、厳しいっすね」
「何でも思った事はどんどん話すと良いよ」
最終的に株式会社Deep Childの株式は太陽興産が51%を握る。そうなれば修一郎がうちの会社で一番偉い立場になるだろう。そうなった時に使えないボンボンだといろいろ困る。修一郎には折に触れてビジネスを教えていかないとならない。
そしてそれが親父さんが俺達に100億円も出した理由の一つでもあるはずだ。
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