ギルティブレイブ ~『戦えば絶対に勝つ神託』を持つEXランク神託者とあがめられて、チヤホヤされてウハウハな件について~

佐倉唄

1章5話 神様からの贈り物について(2)



 納得するとアルベルトはその場で軽く頷く。

 普通に考えてなかなか強い神託だった。
 光の速度はアルベルトたちの住む惑星を1秒間で約7周半もするぐらい速い。つまり理論上、惑星のどこでも一瞬で移動できるわけだ。

 しかもそれだけではなく、悪事を犯す神託者=異端者と殺し合いになった場合、敵に一度でも触れれば宇宙空間に転移、そしてそのまま死体を放置することもできる。
 仮に敵が接触を許さなかったとしても、地面や建造物の一部を敵の頭上に転移させて落とすとか、一度触れた地点に敵を誘導できれば、その部分を別の場所に転移させて足場を崩す、ということも可能。

 しかも――、

「触れた物を光にできるということは、剣や槍は攻撃した瞬間に手元から転移され、武装の強奪が容易。並びに言わずもがな、殴られたり蹴られたりすれば、敵の腕とか脚とかを、部位ごとに転移して、四肢をもいで戦闘不能、生け捕りにも優れている、か」

「さ、流石に先輩にそんなことはしませんよ……? 決闘にもルールがあって、一番有名なので、相手を殺してはいけない、ってヤツがありますし。合法的に殺してもいいのは指定された異端者だけです」

「そう、それは決闘法に明記されてある。人の営みである以上、そこには法律と理念があるからな」

 アルベルトは特に驚きもせず、冷めた感じで肯定した。
 逆を言えば、決闘ではなく本物の殺し合いなら、それが可能ということなのに。

 この涼しげな態度から推測できることは1つ。
 すでに、彼はアンナに勝利できる可能性が高い方法を、いくつか思い付いているのだ。

 だが――、
 違和感がないわけではない。
 彼女の神託の説明にではなく、彼女の思惑に。

「――よかったのか? 俺が説明を要求したとはいえ、決闘の前に自分の神託を明かしてしまって」
「ふぇ?」

「ウソを吐いた方がよかったんじゃないか?」
「いいんです。アタシは入学する前から先輩の神託を知っていますし、それなのに自分だけ神託を隠していたら、フェアじゃないじゃないですか」

「――そうか。ウソを吐くのはフェアじゃない、か」

 と、アルベルトは半ば独り言のように返事した。
 正直、アンナのような決闘の相手は珍しいというほどではない。が、それでもある程度記憶できるほど少なかった。勝利することを目標として合理的に考えるなら、どう考えても、自分の神託の内容を明かさない方が有利だから。

 別に、アルベルトはそれを卑怯だとは思わない。なぜなら、自分もそれが合理的だと考えているから。
 根本的な話、敵に神託を教えるなんて、実戦なら自殺志願者のすることだ。

 だが一方で、実戦ではなく決闘や模擬戦なら、彼女のようなスタイルも、人間として誇らしい、良心的と考えることができる。
 だからアルベルトは――彼女の礼節に対して誠意を見せる、と、決めた。

「1つ、先輩として助言してやろう」

「助言、ですか?」
「神託者が意識しただけで、なぜ神託は発動するのか、説明できるか?」

「えぇ、っと……、人間は集合無意識の端末で、逆を言えば、集合無意識は全人類の意識のサーバーなんですよね?」
「あぁ、あっている」

「それで150年ほど前、脳内、感覚に『フィルター』を宿す者たちが生まれるようになりました。それは言ってしまえば、視覚に留まらない色眼鏡であり、それをオンにすると、世界が加工されて観える。聴こえる。感じる。即ち、加工とはフィルター保持者にとっての世界が変わるということ。少なくとも、変わったように感じるということ」
「そうだな」

「でも当然、それは本来、その個人だけの世界改変のはずなんです。しかしフィルター越しに加工されて観測された世界は、観測する側のサーバー、つまり集合無意識に送信されてしまうんですよね? 結果、集合無意識を経由して、全人類はリンクしているため、全ての人間にフィルター越しの世界、上書きされた現実が共有される」
「そしてその個人ごとのフィルターの名前を、俺の場合は〈救世を願う罪重ねた屍〉、君の場合は〈万物を光に還す理法〉ということにしているわけだ」

「けれど、例えばアタシの場合、物に触れてそれが光に変わるなんて、現実的に考えたらありえません。明らかに直感に反しています。脳内に存在するフィルターのせいで、そのように観測しているだけです」
「肯定だ」

「つまり、これはどういうことかと言うと、直感に反していても本当はそれだけで充分で、アタシがフィルター越しに観測した『触れた物が光に変わった世界』が、集合無意識を経由して、他の人間の視界やその他に反映されているわけです」
「……頭が悪い行動をする割に、意外と勉強をしているのか」

「コホン! ここで生じる当然の疑問として、なぜ人間がそのように観測しただけで世界が変わるのか? 世界あっての人間であって、人間の観測あっての世界ではないはずではないのか? ってモノがあります。けど、南極に近いどこかの国で『人間によって観測されるまで、この世界は存在しない』という仮説が発表されました。まだまだ憶測の域を出ませんが、仮にこれが真実なら、世界ありきの人間ではなく、人間、いえ、少なくとも意識ありきの世界ということ」
「――――」

「よって、人間の観測に、とにかく加工が行われると、エフェクトのとおりに世界が上書きされてしまう、ですよね?」
「正解だ。それで――」

「? それで?」
「これがそのまま、君の神託の弱点になる」


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