ギルティブレイブ ~『戦えば絶対に勝つ神託』を持つEXランク神託者とあがめられて、チヤホヤされてウハウハな件について~

佐倉唄

1章3話 金髪碧眼の美少女が、願いのためになんでもする件について(2)



 神託を保持する赤子がこの世界に生まれ始めてから、もうすでに約150年の時が流れた。

 神託を保持する人のことをいつからか、政府が正式に神託者と呼ぶようになり、目には目を、歯には歯を、神託者が犯す悪事には、国家が認めた正義の神託者が対応するようになったヴォルフラント。
 その首都には国家神託者統制機関:神の番犬の本部があり、それの支配下にある国家神託者の教育機関が、件の学園なのだが――、

「ハァ、先輩と決闘するために入学したのに、そのために本当に2ヶ月も待たないといけないなんて……」

 翌日の昼休み、講義室の自分の席でアンナは軽く頭を抱えていた。
 彼女は新入生代表を務めた才女なので、今、その周りには大勢の学生が集まっている。が、この有様に集まった学生たちは少々困ってしまっていた。

 集まったのは大体、アンナと友達になりたい女子が8割、彼女に多かれ少なかれ興味がある勇敢な男子が2割、と、いったところか。

「ちなみに一度負けて再戦を挑む場合、再戦そのものではなく、その申し込みにも1ヶ月の禁止期間があるそうですよ」
「これでも去年や一昨年からしたら、全然減ったらしいんだけどね~」

「しかも、一応決闘するには、名前、学年、学級、学籍番号を書いた紙さえ提出すればいんだけど……」
「男子相手なら滅多にないんだけど、女の子だとファンクラブの過激派が……」

「ハーフェンフォルトさん! アナタ、決闘を口実にアルベルト様と仲良くなろうという魂胆なんでしょう!? そんな羨ましいこと許しません!」
「……まぁ、こんな感じなわけで」

 自分のクラスにもアルベルトのファンクラブの会員がいたことに驚くアンナ。
 なぜ彼女以外の女の子がここまで情報を持っているか? 疑問の答えは1つ。アンナに、許しません! と、言った女の子が過激派というだけで、他の女の子もアルベルトのファンクラブの会員だからだ。

 学内ファンクラブは入学試験に受かった段階で、事前登録できるらしい。
 そしてファンクラブの会員の女の子は、同じく会員の先輩から情報をもらえる、という仕組みらしかった。

「どうしたものかなぁ……」

 アンナは可愛らしく小首を傾げて少し考えてみることに。
 数秒後、解決策を見出したわけではないが、確認してみたいことが思い浮かんだ。彼女は周囲に集まったクラスメイトに、あることを訊いてみる。

「ねぇ、この学園って、いつか実戦に赴く本科と、アタシたち本科生を支援してくれる予科とかがあるでしょ? で、その本科のクラス分けって、神託が世界に与える影響力の順に、Sクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスに分かれているわよね?」

「そうだけど?」
「それで、Sクラスに所属できるのは、世界そのもの、因果、概念、時間、空間とかに影響を及ぼせる人だけ。で、このAクラスは光とか、炎、水、風、雷、土とか、あとはベクトルやスカラー、そんな科学の講義で扱いそうなモノに干渉できる人たちの集まり。Bクラスはそういうのに無関係だけど、各々、1人につき1個って決まっているとはいえ、特別な現象を発生させる人たちの集まり。Cクラスは仮に因果とか概念、ベクトルやスカラーとかに干渉できても、神託の発動制限が厳しくて、それが理由で世界への影響力が少し下がってしまう神託者の集まり」

「うんうん、それで?」
「EXランクっていうのは、言ってしまえば二つ名みたいなモノでしょう? けれど、実際の先輩はやっぱり――」

「どこからどう考えてもSランクの神託者だよ」
「簡単に言うと『開戦』という事象を起因とした、『勝ち』、『負け』、『引き分け』という結果から、勝利の結果だけを強制的に現実にして、敗北と引き分けの結果を絶対に現実にしないっていう、因果強制の神託者だね」

「それで、1つ質問。先輩がSクラスなら、勝つのが楽だから比較的AクラスやBクラスやCクラスと戦ってくれる~、なんてことは――」
「「「「「ないない」」」」」

「あぅ!」
「っていうか、神託者としてのランクって、世界への影響力で決まるんであって、戦闘力で決まるわけじゃないし。上位のランクの方が強い傾向になりやすい、っていうのは認めるけど」

 クラスメイトの否定の声が重なった。
 だが、確かに考えてみれば当たり前だ。EXランク、学園最強を司る先輩が、決闘の相手を選り好みする。そのようなこと、アルベルト自身のプライド的に許さなそうだ。仮に許したとしても、そのような事実があったなら、ファンクラブに所属していないアンナにも噂が届くはずだろう。

 さて、また行き詰った、と、アンナが「う~ん……」と唸って天井を向いた、その時だった。

「いうて、先輩も年頃の男なんだし、色仕掛け、要は裸でも見せて、それをネタに決闘するように揺すればw」

 と、少し軽そうな女の子が冗談交じりにそんな提案をする。
 無論、その子は笑っているし、どこにも本気で発言している感じはない。

 ゆえに、周りのクラスメイトたちも「えぇ~、先輩は色仕掛けに屈しないよ~」とか、「いやいや、私は決闘なんてしなくていいから、先輩にそのまま襲われたいなぁ♡」とか、「私の初めてをもらってほしいなぁ♡」とか、「当たり前だけど、先輩って見るからに男の子らしい逞《たくま》しい身体してるよねぇ♡」とか、正確にその発言が冗談であることを認識している。

 少し軽そうな女の子だが、イメージどおりなのは発言の内容だけで、質《たち》の悪いイジリはしなさそうだ。
 だが――、

「そうだ! それでいく!」
「「「「「は?」」」」」

「アタシ、正直申し訳ないとは思うけど、先輩にワザと引け目を感じさせて、そこにつけ込んで決闘の約束を掴んでみせる!」

 そこに集まっていたクラスメイト全員、開いた口が塞がらない。
 軽いギャグとはいえ、一番に発言してしまった手前、少し軽めの女の子が一応、アンナに言い聞かせてみる。

「いや……、言ったウチも悪いけど、冗談、ネタ発言、会話を楽しむための、みんなが絶対にウソだって理解しているウソだよ……?」
「うん、でも、ありがとう。参考になったことには変わりないから」

「えぇ……、いや、いや、待って。少し待って……。確かに先輩に抱かれたい女の子、初めてをもらってほしい女の子が、国中にごまんといるのは事実だけど、マジで裸見せるの……?」
「最終手段ではあるけど、他に方法が思い付かないなら」

「おっと……、生真面目がバカな方向に進んでいるぞ、これは」
「確かに、昨日初めて出会った人に裸を見せるなんて、先輩からは絶対に変態な女の子だって思われるかもしれない。アタシ自身だって、きっと死ぬほど恥ずかしいと思う。主観的にも客観的にもいいことなんてほとんどない。でも――」

「でも?」
「――だとしても、アタシには先輩に決闘を挑む理由がある。勝たなければならない理由がある。決闘を受けてもらえるなら、アタシは比喩表現でも誇張表現でもなく、本気でなんでもしてみせるわよ。そのためにアタシはこの学園に入学したんだから」

「――――」
「アタシには、やるべきことがあるんだから」


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