問一 この三角関係の答えを求めてください。

花水木

問6



 学校近くの駄菓子屋前にあるベンチの上で、一人の少女が雨宿りをしている。

「あーぁ。なんであたしって、こんな損な役回りばっかり回ってくるんだろうなぁ」

 少女が発した小さな独り言は、アスファルトに叩きつけられた雨音のせいで、誰の耳に届くこともなく搔き消える。

 ついつい思い出してしまうのは、さっきまで隣に座っていた男の子のこと。
 あたしの言葉を聞くや否や、花柄の傘を片手に飛び出していった。

「あの時、何も言わなかったら、今頃どうなっていたのかな……」

 男の子があたしを意識しているのは薄々感じていた。それを待っていたあたしもいる。
 だけど、あの時あのことを言っていなければきっと後悔していたと思う。だから大丈夫、あたしは間違ってなんかない。

 そう自分に言い聞かせ、雨が降り止むのを待ち続けていた。



 少し時が経ち、雨脚が徐々に弱まってきた頃。

「おばあちゃん、ありがとー!」
「あ、ありがとうございます」

「はいはい、またおいでね」

 扉をガラガラと勢いよく音を立てて、駄菓子屋の中から幼稚園くらいの小さな子供達が飛び出してくる。
 一人は坊主頭の元気の良い男の子、もう一人はおかっぱ頭のおどおどとしている女の子で、どちらも違う意味で落ち着きがない相容れなそうな二人だ。

「はい。これ、半分あげる!」

「えっ? いいの? こんなのもらっちゃって……」

 二人はあたしの隣のベンチに腰掛け、買った駄菓子をつまみながら雨宿りをするようだ。

「うん! これも、これも、あとこれも!」

「いや、でも、こんなに受け取れないよ……」

 男の子が買った駄菓子やおもちゃを袋から出しては渡し、出しては渡して女の子を困らせていた。
 女の子に好感を持たれたいのか、気持ちが空回りしている様子だ。何とかしてあげたいお節介根性に火がつくが、ここは十歳くらい歳が離れてるであろうあたしの出番ではないだろうと足を止める。

「あ、あと。これは僕の宝物なんだけど、このカードもあげるよ!」

「いや、ほんとに大丈夫だから……。ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」

「そっか、わかった」

 財布から取り出した大切そうなトレイディングカードを拒まれて、しゅんとうなだれる男の子。
 女の子が再び駄菓子屋の中に入ったのを見計らって、あたしは男の子に声をかけてみる。

「プレゼントはさ、相手の好きなものを選んだほうがいいよ?」

「お姉ちゃん、誰?」

 急に話しかけられた男の子は、あたしのことを怪訝そうな表情で見つめる。

「えっと、通りすがりのただの高校生なんだけど。そんなことよりも、あの女の子が欲しそうにしてるものをあげたら仲良くなれると思うよ?」

「だって、僕そんなのわかんないもん……」

「もっと視野を広く持って、女の子のことを見てあげたら自ずと答えは見えてくるかもよ?」

 あたしが軽くヒントを出してあげると、何かを思い出した様子の男の子が声を上げる。

「あ、わかった! たまちゃんが履いてた靴、プリチャンのやつだった気がする!」

「そう正解! プリチャンのおもちゃの指輪が売ってるし、それを買ってきたら喜んでくれると思うよ」

「あ、でも。さっきの買い物で、お金が……」

「うーんと、じゃあ、あたしがこのお菓子一つ君から買うね」

 あたしはベンチの上に置かれたお菓子を拾い、財布からお札を一枚取り出す。

「え? でも、これ、こんなにしないよ?」

「細かいことを言う男の子は嫌われちゃうぞ? たまちゃんって子が帰ってくる前に早く買ってきな」

「うん! わかった! ありがとうお姉ちゃん!」

 男の子が元気よく駄菓子屋に入っていき、女の子にプレゼントするまでの一部始終を見守ってから、小雨の中ある場所へとを歩いていく。



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