テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第27話「死を思う」

【ガルデニア帝国-城内勤務者専用大食堂】
「は〜、今日も実戦訓練疲れたな〜」
城内訓練場から一人、ストレッチをしながら僕は食堂へと進む。
久慈クジ、お疲れ~。今日のメニュー何~?」
食堂とは言っても、城内にある勤務者専用の大食堂なんだけど。この一角を僕達は使っている。
「おう、和部ワブか。お疲れさん。今日は皆大好き異世界ハンバーガーセットだ」
目の前で明るく応えてくれたこの男は新皇高校料理研究会の久慈学クジ・マナブ。誇張でもなんでもなく、彼がいなければ僕達は今頃相当数が餓死していただろう。
それ程までに舌の肥えた現代人にとって、異世界の料理?は生ゴミも同然だった。
彼に発現したチートはそこまで強力なモノではなかったのだが、彼が持っていたその知識はそれを補って余りある代物だった。
彼なくしては僕達のこの二年間は語れない。
「後は炭酸飲料があれば完璧なんだけど?」
「はっはっは、無茶言うなよ。そういや聞いたか?ウェアリアの話」
「あ~、封印されてたドラゴンが復活して山一つ吹き飛ばしたって奴?」
「ああ。もしかすると俺達、魔族よりも先にドラゴンと対峙するかもな」
「いやいや、久慈は対峙しないでしょ。てか、僕達が対峙させないし。久慈の美味しいご飯が食べれなくなったら僕達はどうすればいいのさ?さんざん僕達の身体を虜にした癖に。責任、とってよね!」
「うぉぉぉ!馬鹿、やめろやめろ!誤解を招く様な言い方をするんじゃねぇ!」
「(ほら、やっぱりクジ✕ワブよ!)」
「(嘘!?ワブ✕クジじゃなかったの!?)」
「ほれみろ。変な小声が聞こえてくるじゃねぇか!」
あっはっはっはっは、やっぱりクラスメイトとの何気ない会話は楽しいね。
「まぁ、『ランキング(チート)』上位のお前等なら心配はないと思うけどよ……」
「ま~、正直僕等リアル生物兵器だからね〜」
「本当に油断はすんなよ?聞いただろ?イングランスに行った奴等の話」
ああ、あれね。
「向こうの上の人怒らせてワンパンでのされた話でしょ?聞いた、聞いた。まぁ、でも生徒とはやり合える位だったんだからいいんじゃない?『ランキング』最底辺の三重君達でそれなら十分強さの物差しにはなっただろうし」
「さらっと毒吐くね、お前は」
「だって仕方ないじゃないか。僕達だってそろそろ外の世界ファンタジーに触れてみたいんだよ。なのに、あいつ等ばっかり……ズルくない?」
「いやいや、流石にここで和部達みたいなランキング上位勢を失うリスクをガルデニアが負うわけないだろ。佐藤達だって未だ見つかってないんだからな」
「そうだったね……」
佐藤に鈴木、田中だったっけ?この男子三人に加え、何人かの女子はいつの間にか姿を消した。
クラスの中でも特にこういう状況が書かれた書物に詳しかった人物達だ。
二年前のあの日、彼等は未だ困惑していた僕等を余所に早々と自分達だけでこの城から逃げおおせている。
確かに能力が何も分かっていないクラスメイトが何処かに潜んでいるとしたら、これ程の脅威はない。
能力の如何によっては『ランキング』上位の僕等にも匹敵する存在がいてもおかしくはないからだ。
「でも僕達だって本気出せば山一つ位、単独で吹き飛ばせるし!」
「いや、何と張り合ってんだよ……あ。張り合うと言えば、その噂のドラゴンから獣人達を守り抜いた銀髪の冒険者が居たらしいぞ」
へー。スゴイネー。
「タイミング、良すぎない?」
僕達が勇者として公表された直後にウェアリアでドラゴンが現れて、その被害を食い止めたエルカトルの冒険者がいる。なんて偶然、本当にあるかなぁ?
「ガルデニアに対する各国の示威行為だって言いたいのか?」
「も、あるんじゃない?うちの国にも僕等(勇者)に匹敵する存在(戦力)がいるぞ、みたいな」
「なる程。確かにそういう見方も出来るか……」
「まぁもし当たってたとしても、文字通りこんな首輪(勇者の紋章)を付けられてる僕等にはどうする事も出来ないんだけどね」
これがある限り僕等は帝国に仇なす事が出来ないし、仇なす者も無視出来ない。自殺をしようと試みる奴が現れるもそれすらもこの紋章は許してくれない。正に魂の首輪だ。僕達のこの身は紋章を刻まれた時から帝国の財産であり、所有物なのだ。
勇者(愛玩動物)に自由はない。
僕等は皆、王族や貴族に手を付けられている。男も、女も見境なしに。既に女子の何人かは出産もしているし、向こうの用意した女共が孕んだなんて話は数え切れていない。
「言うなよ……悲しくなんだろ」
低確率ではあるそうなのだが、チートやこの紋章は遺伝するらしい。それも、所有者が死んだ後に。
「……ごめん」
全く……巫山戯てるよね。そんな事が分かっているという事は前例があったって事だ。あいつ等は地球人を使い潰す事に何の罪悪感も覚えていない。
だからあいつ等の「魔王を殺せば元の世界に戻れる」なんてお決まりのセリフも信じちゃいないさ。
僕達は殺らなければ死ねないからやるんだ。
「ああ、早く戦争にならないかなぁ……」
願わくば七魔王達が僕達を殺せる程の化物であって欲しいものである。

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