テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第23話「○ックマンXV リザードマンを倒せない」

「ぁぁぁぁぁぁあ!」
 マズイな。予想以上に覚醒が早かったか。聞きたくもないだろう話を聞かせてしまった。
「失礼致します、ガンド様!この叫びは一体……こ、これは!?」
「馬鹿もの!下がっていろ!既にリルラの竜化は始まっている!こうなっては最早止められん!」
「リ、リルラ様の竜化ですと!?ど、どういう……」
「っ……ちぃ!」
「Ahhhhhhh!」
 ガンドさんが入ってきた人や周囲のモノを守る様に身を寄せ、とぐろを巻くや否や彼女の肉体は膨張に膨張を重ね、遂にはその身を弾けさせた。
 恐らく、この状況を遠目から見たら誰もが山が噴火したのだと錯覚しただろう。
 それ程の爆発が眼前にて起こされたのだ。
 彼女の口から放たれた圧倒的なまでの質量砲によって。
「Gahhhhhhhh!」
 金色の竜か。この娘はまるで1つ首のキング○ドラの様な見た目になるんだな。
それにしても凄まじい。
 こりゃ確かに一週間もあれば国が滅ぶわ。
 現に今、彼女の一撃で天井(山の山頂部)が跡形も無く消し飛んで綺麗な青い月が視認出来る様になっている。
 こんな威力の砲撃がほぼノータイムで頭上から降ってくるんだろ?それも遠距離から。
 よくこんな生物兵器の一人を殺そうと思ったな。当時の人間は馬鹿なのか?
「ぐ……ぬ……」
 あ、そうだった。質量砲は何とか上に反らせたけど、その他の衝撃波や諸々は向こうに直撃してたんだった。
「ガンドさん、大丈夫ですか!?」
「何とかな……貴様がアレを反らしてくれねば、我も危ない所であった」
 良かった。娘さんを蘇らせたはいいが、その娘さんの攻撃によってお父さんが死んでしまいました――じゃあ悲劇が過ぎるもんな。危うく極悪非道の最低野郎になってしまう所だった。セーフ。
「一応聞いておきますが、こうなった竜人の対処方法は?」
「ある筈が無かろう。我も経験があるが、こうなってしまってはもう誰の言葉も届きはせぬ。後はただ、暴走が止まるのを待つのみよ」
 経験者は語る、か。つまり今の状態では聞く耳すら持っていないと。困ったな。
「こんな時に何ですが、人型には戻れますか?」
「……我がこの姿を保っていたのは後悔の念からだ。『戻れるのか?』という疑問には是と答えよう」
「なら、タイミングを見計らって戻ってみてはくれませんか?娘さんもお父さんの姿を見れば正気を取り戻すかも知れないので」
「それは構わぬが……一人でリルラと対峙するつもりか?」
「そりゃ、手伝ってくれるのならありがたいですけどね。先に周辺住民の避難誘導をお願いします。見境の無くなった貴方がかつてどれだけの被害……いや、加害を出したかは貴方自身よく分かっているでしょう?彼女を放っておけば、この辺り一帯が今度はそうなるんですよ?」
「だが……」
「大丈夫です。殺しはしません。何とか暴走が収まるまでは凌ぐつもりなので、後はお願いしま――」
「ガァッ(Flash!)!」
「さっきのでこっちはもう標的にされてるんだよ。囮になってやるから守りたい奴等がいるならさっさと避難させやがれ!」
 って事ですよ!
「……っ、分かった。恩に着る」
 やべ、本音と建前が逆になってしまった。まぁいいか。それどころじゃないし。ほれ、気絶で済んでる従者達連れてさっさと出ていけ出ていけ。
「Grrrr……」
 おおっと。余所見はしてくれるなよ、お嬢さん。
 あんたの境遇を考えれば今の状態は仕方の無い事だとは思うが、ソレはあんたの親父さんだ。殺させる訳にはいかないの〜、よ!
「グガッ?!」
 っと。顔面キ〜ック!
「(ズ、ズン!)」
 お〜、凄え。人間だったら軽く爆散しそうな威力で蹴ったのに、ちょっとたたらを踏む位で済ませやがった。
「ギジャァァァァァァ(怒)!」
 そうそう。あんたの相手は、この俺だ。間違えんじゃね――
「(ヒン!)」
 は?
「ぉ、わぁぁぁぁぁあ!?」
「(ドゴォォォォォン!)」
 やけに甲高い風切り音が鳴ったと思ったら、いつの間にか身体ごと岩肌に叩きつけられていた。
 ったく、暴走してる割にはクレバーな攻撃してくるじゃないの。
 死角からの尾撃。それも信じられないくらいの速さと重さだ。こっちがさっきの攻撃終わりで落下中なのをいい事に狙ってきやがった。
「ギィィィ、ガァァァァ!」
 んで、ここで間髪入れずにさっきのビームブレスかよ。
「ぬおおおおおおおおりゃあぁあ!」
 相変わらず凄え威力してやがる!被害を減らす為に上へ逸してはいるが、流石にしんどいぜ。おら、元○玉を受ける魔人ブ○みてえな気持ちになってきたぞ!
「ジュア!ア!ア!ア!」
ん何じゃそりゃぁぁぁ!?
コイツ、左右の巨大な翼手を使って幾つものトルネードを発生させやがった。
「ギァァ!」
 ちょ、おま……それ、なんてリアルエア○マン!?
 こんな規模のトルネードを一斉に寄越されても困るんですけどぉぉ!
『フレミング・グラビティ』!
引・斥力を操作してトルネードに巻き込まれない様に身体を地面へと固定しつつ隙間を移動!
「ぬぁぁぁぁ!」
 飛ばされてたまるかぁぁ!うぉぉぉぉ!
「よし、抜け……!」
「ガァァァァ!」
 くそ、これすら計算の内かよ!だがそのブレスは俺には効果が無いと分かっている筈。何故ここでその選択を……って、ああ!足場かぁあ!?
「おわぁぁぁぁあ!?」
 やられたぁぁぁあ。
 俺の身体はトルネードによってかなり上空まで飛ばされてしまった。
 真下でトルネードが山肌をゴリゴリと削っていく様がよく見える。
 かなり広大だったその空間は、竜と化したお嬢様のブレスビームとトルネードによって最早原型を留めておらず、半ドーム型の球場みたいな様相を呈していた。
 あそこにいるのはガンドさんか。何とか麓住民達の避難を進めてるみたいだけど、この短時間じゃあ流石に厳しいだろうな。出来る事といえば、その巨体を生かしてこっちの余波を防ぐ位が精一杯の様に思える。援軍は期待出来ない。
「ギィィィィ(バチバチ)……」
 そして眼下では今まで以上にブレスをタメているお嬢さんがいる。成程。こんな足場のない空中でアレを受け止めれば戦線離脱は免れない。そうなれば後はお前の好き勝手に出来るって寸法か。
「舐めんなよ?てめえが竜人か何かは知らねえけどな、こっちだって謎の技術の塊みてえな人間なんだよ。その程度の浅知恵で、簡単に排除出来ると思うんじゃねぇ!」
 おおおおお、唸れ!俺のコスモォォォ!
「『バスターアームズ』、クリエイト!」
 俺はナノマテリアルを使って右手に短身のバーストレールガンの様なものを顕現させた。まさか異世界に来て初めて使う(創る)武器が非殺傷兵器とはな。ドラゴンスレイヤー(生きる上で何の役にも立たない力)とはよく言ったもんだぜ。
 それ(ブレス)も、このトルネードもお前が魔法か何かを使って発生させているキネティックエナジー現象なんだろう?だったらその構成式をコレで根本から解除してやるよ!
「ガァァァァァァ!」
「アンロックゥゥゥ……バスタァァァ!」
 そして双方向から放たれた極大のレーザーがぶつかり合い、目を焼かんばかりの光と共に対消滅した。

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