テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第17話「異世界グルメ三昧-ほんの少しシリアスを添えて-」

 うは〜、この異世界にはこんな大っきい女性もいるのか。2.5……いや、3mはあるぞ。
「どうよ、驚いたか?こいつが俺のカミさんよ」
「なんだいエドガー、アンタが客連れてくるなんて珍しいじゃない……か!?」
 ん?
「あ、はじめまして。ジュウゴと言います」
「…………ああ、知ってるよ」
 は?
「何だ、知り合いだったのか?」
 いや?完全に初対面の筈ですが?
「銀髪に緑眼、それにその名前。アンタ、最近リオンとこのギルドで冒険者登録した坊主だろう?」
リオン?ああ、なる程。敬称が無いってことは、この人もリオンさんと同じ位のお偉いさんなのか。なら俺についての話が通っていてもおかしくはない。何やかんやでギルドの話題に上がる様な事してるしな、俺。
「御明察の通りです」
「おお、そうだったのか。凄えな兄ちゃん。その歳であの『セントラル』に登録たぁ、やるじゃねぇか!ガハハハハ!」
「で、あんたみたいな奴がこの『バブルネット』に一体何の用だい?生憎とセントラルとこっちとじゃあ依頼内容は全くの別もんだよ?」
 何の用だも何も、飯食いに来ただけなんだが……
「いや、ミルガーよ。俺はこの兄ちゃんが美味い魚を食いてえっつうから連れて来ただけだぞ?」
 うん、うん。そう、そう。
「はぁ?」
「兄ちゃん、セントラル預かりってこたぁ金に余裕はあるんだろ?ウチならさっき見てた高級魚も取り扱ってるからよ。兄ちゃんさえ、よけりゃあ何品か見繕うぜ?」
 おほ〜、それはありがたい。
「是非、お願いします」
「あいよ。って事でミルガー、飯出してくれ!飯!俺の分も合わせて二人前!」
 いや、あんたも食うのかよ!まぁ、別にいいけどさ。
「『あいよ。』じゃないよ!まだ仕込みも済ませてないってぇのに、そうホイホイ飯が出せる訳ないだろうが!それにしても……あんた、本当に飯を食いに来ただけなのかい?」
「え?そうですけど……」
他に何か?
「……いや、そうかい。確かに話に聞く通り、変わった坊主だね」
 何それ。俺、ギルドの人達にそんな風に言われてんの?
「ふん、待ってな。普段は値が張るんでそうそう出しゃしないが、極上のやつを用意してやる。せいぜい財布と相談するこった。おい、野郎共!アホみたいに金持った奴が来たよ!とびきり高えの出すぞ!準備しな!」
「「「「うぉぉぉぉ!了解でさぁ、お頭ぁ!」」」」
 お、おう……確かに美味しい魚を、とは言ったけどさあ。根が庶民なんでそこまで高級な魚を出されても味の違いなんて分からんぞ、俺は。
 普通の美味しい魚でいいんですが、なんて今更言えない雰囲気だし。
「ガハハハ、やったな兄ちゃん。こりゃ、とんでもねえ奴が出てくるかもしんねえぞ?」
 いや、笑い事じゃねぇよ!?俺が金持ってなけりゃ、ボッタクリの恐喝と言われてもおかしくない状況だからなコレ!
「あの……ギルドカードでの支払いでも大丈夫なんですよね?」
「ん?ああ、別に大丈夫だぞ。寧ろこの国の奴等は大抵カード払いだな。金貨ジャラジャラ使うのは他国の奴等ぐれえなもんだ。さっき兄ちゃんが見てた市場なんかでもカード払いが普通だしな」
 なる程。流石はギルドカード(オーパーツ)。変な所でキャッシュレス(近未来)化を実現してやがる。
だがつまり、これから金貨数枚が当たり前の何かが出てくるのか……恐ろしいぜ。
「お頭ぁ!ウマアジの塩焼き完成しやした!」
「ほれ、一品目だ。説明はアンタがしてやんなエドガー」
「おお、先ずはプラチナブロンドウマアジの塩焼きか。兄ちゃんがさっき見た奴の更に上のランクの奴だな。コイツはな、タテガミが美しい金色になればなる程身が美味えんだ。タテガミ自体は食えねえが、身の旨さを分かりやすく表示させる為に添える事が多い。プラチナブロンドともなると、この量でも兄ちゃんが見た奴の仕入れ額と同じ位の値がつくな」
 マジか?!こんな一般的な切り身の量で百万円以上すんのコレ!?ヤバ、異世界。地球のボッタクリが可愛く見える程のお値段じゃねぇか。てか、一品目から何て額のメニューを出して来やがるんだ。
「まぁまぁ、兄ちゃん。騙されたと思って食ってみな。ただの塩焼きだが、これ食っちまったら他の塩焼きなんざもう食えなくなっちまうぜ?」
 いやいやいや(笑)。そんな常套句を言われましてもですね。こちとら美味しいものがあり溢れていた日本育ちな訳ですよ。幾ら美味しいって言ったって、所詮異世界の料理な訳でしょ?舐めてもらっちゃあ困……モグ。
「……美っ味」
 え?ナニコレ?美味すぎるんですけど?え?マジでコレ、塩だけ?魚の旨味がやばたにえん。口に含んだウマアジの身に歯を入れた瞬間、まるで出汁の様な旨味がじんわりじんわり滲み出てくるんですけど!?一噛み一噛みが至高過ぎるんですけどぉぉ!!
「どうよ?最高だろう?」
 ぐぬぬ……異世界舐めてたぜ。料理の種類云々は地球の方が多いかも知れないが、素材の質が段違い過ぎる。悔しいが、このオッサンの言い分を認めざるを得ない。
「美味い……です」
「ガハハハハ。そうだろう、そうだろう。ほれ、次はコイツだ」
「これは?」
「フカツナのヒレステーキだ。フカツナのヒレを一旦乾燥させて、ウチの秘伝のスープで戻した後に焼いた自慢の一品だ。はっきり言って絶品だぞ?」
 ほほう?確かにこの三日月状の様な形は見覚えがある。要は地球で言うフカヒレのステーキ的な何かか。どれ……
「美味すぎるわ!」
 トロっトロのブリンブリンやないか、ボケぇ!
 口に入れた瞬間、旨味のゼリーに変わったぞ!ただトロトロしてるのではなく、きちんと食感は残しつつも凝縮されたマグロの様な風味が口一杯にのびていく。魚特有の嫌な雑味もなく、ただただ純粋な旨味が俺の口の中を支配した。
「だろう?そんな兄ちゃんにダメ押しだ。ほれ」
「これは……酒、ですか?」
「グルクマムーンパッファのヒレ骨酒よ。酒精は強えが慣れるとやみつきになんぞ」
 まるで某格闘漫画の死刑囚みたいな事を言いなさる。ならば飲ませてもらおう。やみつき?私は一向に構わん!
「……(クイッ)」
 ん〜♡何の酒かは知らないが、香ばしさと旨味が上手く溶け込んでいる。良い酒だ。お互いがお互いの風味の邪魔をしていない。どちらかと言うと焼酎に近いかな?
「お。兄ちゃん、イケる口だな」
 ふふっ、オッサンもな。
「エドガー、アンタまで一緒になって飲んでんじゃないよ!そりゃ客の酒だよ!」
「痛え!?す、すまねぇミルガー。兄ちゃんが余りにも美味そうに飲むもんだからつい……」
 おお、なんて重そうなチョッピングライト(げんこつ)だ。まさに異世界のかかあ天下。
「ほれ、ツマミだ。次の出し物までこれで繋ぎな」
 了解です、お頭。って、あれ?これは……
「たこ焼き……?」
 何故に異世界でたこ焼き?
「おや、よく知ってるね。もしかして、あんたレンの知り合いかい?」
レン?誰だ?
「この『たこ焼き』って料理は何年か前に来た流れの冒険者のレンって奴に教えて貰ったんだよ。ヤマタノデビルフィッシュっていうかなり不気味な姿形をした奴のヒレをぶつ切りにして、秘伝の小麦粉生地で包んだ一品さ。とにかく見た目が気持ち悪いんでレンが来るまではギルドじゃ雑魚扱いだったんだが、この『たこ焼き』が広まってからはコイツを専漁にするギルドも増えてね。今じゃ人気メニューの仲間入りしてんだよ」
 んー、レンか……一応、失踪者リストに該当する奴が1人いるな。
 猫柳恋ネコヤナギ レン。うわ、こいつあの大震災の被災者か。転校した矢先に異世界とは何とまぁ……
 あれ?でも、おかしいな。あの新皇高校失踪事件の被害者達はガルデニアが勇者として囲ってたんじゃなかったか?何でコイツだけ別行動を?
 ……いや、違うな。別行動してたんじゃなくて、逃げていたのかもしれない。
イングランスにいた彼等の様子を見るに、ハズレ寄りの異世界転移っぽかったしな。
それにしても凄いなぁ、そのレンって奴。よっぽどガルデニアという国がヤバかったのか、それともよっぽどいいチートを引き当てたのか、はたまたその両方か。幾らハズレだったとしても高校生位の子が何の保証もない冒険者という道を選び、そして衆人環視であっただろう環境から逃げおおせるとは感服する。要注意人物の一人としてリストしておこう。
「そうなんですか。もしかしたら故郷が近かったのかも知れません。レンという名前の人物は知りませんが、たこ焼きは自分の故郷でも作られていたので」
「ほぉ、じゃあ兄ちゃんも何処かの港町育ちなのか?」
「港町……と呼べる程、漁の盛んな地域ではなかったですけど一応海の近くでは育ちましたね」
まぁ色々な偶然が重なって現在は異世界ここにいますけど。
「だから、この街の潮の香りが懐かしいんですよ」
「懐かしい、か。確か、レンの坊主も同じ様な事を言ってたね」
「ですか……」
だろうなぁ……ただ、俺と違って、彼の場合は懐郷に耽けるだけじゃ済まないだろうから複雑な気持ちになる。
「おお、それにシオンの嬢ちゃんもな」
ん?シオンの嬢ちゃん?
「ああ、レンと一緒にいた娘っ子か。ありゃいい娘だったね。ウチの息子達の嫁に貰いたい位だったよ」
「ガハハハハ、そりゃ違えねぇ!」
シオン……と、この子か。
思草紫苑。なる程。この子も一緒に行動してたのか。場所は違えど、レンって子と同じくあの震災の被災者で同じ転校生と書いてある……
なんだろう。凄いな、この二人。少し聞いた限りでも、なんていうかこう物凄く行動が大人びてると言うか現実的な印象を受ける。当時まだ高校生になったばかり位の年齢だろう?突然何も分からない様な状況に置かれて、少しは集団に混じっていようとか思わなかったのだろうか。
……思わなかったんだろうな。
フローズンアイ症候群とはまた違うが、どうしようもない状況下に置かれ続けた人間は生き残る為に非常に現実的な思考をとる様になる。多分この子達は震災を経験してる分だけ、他の子達よりも大人だったのだろう。
 願わくば、この異世界という荒野で生き延びている事を望むばかりだ。
「お頭ぁ!サワビのキモワサビ煮出来やしたぁ!」
 俺は少しツンとするワサビの様な肝ソースがかかったアワビともサザエともとれる極上の味の貝に舌鼓を打ちながら、そんな事を思った。





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