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テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第15話「ESCAPE FROM」

 初めは、ただただ煩わしいと感じていました。
 数日前。あまり……というか滅多に人の来ないこのライブラリーに珍しく他人が来たのです。
 学院長から案内を頼まれた時は他国の、それも魔法も使えない人間がこんなライブラリーに何の様なんだろう?とも思いましたが、考えてみれば私も同じ穴のムジナなので特に言葉にはしませんでした。
勿論、最初は「(私の聖域が!っていうか他国の人の案内なんて無理!)」なんて事をちょっぴり思ったりもしましたが……向こうも向こうでこんな誰も来ない様なライブラリーに一人来ている私を気遣ってくれている様で、私の中の空気感……とでも言うのでしょうか?は意外と悪くはなりませんでした。
 相手が魔女の系譜ではなかった、というのもありますが(ホントはいけないのですが)何だかよく分からないくらい美味しいお茶菓子と飲み物を頂いたのも大きな一因だったのかも知れません。
 お菓子に釣られてついポロッと私の事情も愚痴ってしまいましたが、この人はそれ以上を聞いてきませんでした。ああ、こういう所ですよね。根掘り葉掘り聞いたり揶揄してくる同年代のガキと違ってこの人は大人なんだなぁと感嘆させられたのを覚えています。
 そんなこんなのやり取りを経て、ようやく目の前の人物との距離感が分かってきた矢先にまたまたこのライブラリーにお客様がいらっしゃいました。
 後で聞いて驚いたのですが、彼等は別の国の勇者様御一行だったそうです。この学院に来ているとは話に聞いていたのですが、私みたいな知識の魔女(※決して良い意味ではありません。魔法の使えない魔女を指す差別用語)には縁のない話だったのでスルーしてました。
 勇者。
 嘗て始祖である三魔の皇帝を倒したと言われている伝説の称号。
 ですが、何故でしょう。ちらっと遠巻きに見た感じではそんな荘厳な印象は受けませんでした。
 というか私が嫌いな学院生達の様な雰囲気だったので思わず隠れて過ごしていたのですが、「何だったんですか、アレ」と聞いても「さあ?」としか返って来なかったので私には何が何だかさっぱりでした。
 それにしても……『マグラ理論』とはまたニッチな本を読んでますね。それはマグラ・ドグラという知識の魔女が書いた天才的な願望作と呼ばれている代物ですよ?
 私と同じく魔法の使えなかった彼女が魔法を学んで学んで、やっと辿り着いた先に書き遺した世紀の遺作。
 理論の筋は通っているものの、彼女自身が終ぞ自らの力で魔法を使う事が出来なかった事と魔法を使える者でさえその理論を実証する事が出来なかった為『魔法の使えない魔女の人生を賭した願望作』としてライブラリーに埋もれる事となった奇書。
 然しながらそのアイデアには数多の魔女が注目し今では一部最先端魔術の元にもなっている為、私も以前、参考の為に読んだ事があります。
 丁度いい機会なので(魔法も使えない)私の事をどう思うか聞いてみたら、凄く悪い顔をして『魔法が使える様になるなら何でもする?』なんて質問を返して来たので私は一気に心の距離を取りました。
 最低。最低。最低です。
 そう言えば『マグラ理論』には姦通信仰なる性行為万歳のイカれた思想も載ってました。そもそもあれは男性の体液に準ずるモノを女性が体内に取り込む事によって起こる魔力譲渡に近いものだとの結果が出ています。Q.E.D!
 って言うか、あれ?何で私、こんな最近の事を思い返してるんだろ……
「……カ!……ンカ!」
 ……?
「ビンカ!」
 あ、えっ!?
「キャァァァァァァ!!」
「おま、馬鹿っ……!」
 え、あれ!?魔法?!何で???
 私、魔法が使えてる!?
「何これ……?何これ!?何これぇぇぇぇ!?」
 そうだ!
私、あの人の提案に頷いて……それで……
「こっちのセリフだ、バカヤロォォォオ!」
 そうだ。この人だ。突然身体が熱くなったと思ったら急に時間の流れが遅くなった様に感じて……気づいたら私は魔法を放っていた。
 蛇のようにうねる稲光が目の前の人物に向かって走り続けている。
 こんな魔法、見た事も聞いた事もない。
 そんな魔法を受け止めるこの人もこの人だけど。
 この人は一体、私に何をしたの?
 ああ、本当に景色がまるで違って見える。
 私の中に流れ込んで来てるこの力。
多分、これが魔力なんだ。
凄い。
これが魔法を使える人の世界。
 でも、だからこそ見えてしまったナニカに私は叫んでしまった。
 怖い。
 この人は恐ろしい程までに美しく荒々しいナニカを内に秘めている。
 ちらりと見えてしまったその片鱗に私は初めて自分の死を覚悟した。
 魔法が使えるとかどうかじゃない。
 人が知らず知らずの内に足元の小さな虫を踏み潰すように、この人は私という存在をいともたやすく終わらせられるだけの力がある。
 何で誰もこんな化け物みたいな存在に気づいてないの?
 学院長も誰も何も言わなかった。もしかして気づいてるの私だけ?誰か!誰か助けて!
「(は〜い)」
 え、何?頭の中に声が……誰!?
「(僕?ナノコマ)」
 ナノコマ?
「(そうだよ。僕はビンカちゃんと同期した事で生まれたビンカちゃん専用のA.I.なんだ)」
 同期……?A.I.……?
「(ん〜、そうだ。ビンカちゃん専用の精霊って言った方が分かる?)」
 ……は?え?えぇぇぇぇ!?何それ!?私に精霊の加護が付いたって言うの?何で!?ホントに何したのこの人!?
「(元マスターはビンカちゃんが魔法を使える様にしただけだよ?)」
 だから!それが!訳分かんないの!説明して!
「(えっとね、ビンカちゃんの身体には魔法の使用に必要な器官が元々無かったんだ)」
 ……え?
「(多分、生まれた時から備わって無かったんだね。だから何をしようとも前のままのビンカちゃんじゃあ一生魔法が使えなかったんだよ?)」
 何それ……じゃあ、生まれた時から私は魔法を使えないのが決まってたって事?
「(うん、そう。だから元マスターは『造ったんだ』よ。ビンカちゃんが魔法を使える様になる器官を)」
 うん、そう。って簡単に言うけど!そんな事(ただの人間に)出来る訳が無いじゃない!何なのよこの人!
「(そうだよ?ただの人間が単独でこんな事出来る訳ないじゃない。元マスターはね、マザーのお気に入りなんだよ?)」
 マザー?貴方達のお母さんって事?
「(うん。何せマザーの実を食べたのにソウルハック出来なかった初めての人間だからね〜)」
 ソウルハック?え?食べたって何??
「(魂にはね、形は色々あるんだけど共通して何層もの防壁があるんだ。本来であればそんな防壁を突破してマザーがその人間を乗っ取るんだけど、元マスターの魂はねそんなマザーのソウルハックに使われた知識や技術を逆に利用してハック仕返しちゃったんだ。凄いよね?自分の身体を作り替えてまでマザーを逆に取り込む人間なんて、もうただの人間じゃないよ)」
 うん。この子が何を言ってるのか私にはさっぱり分からない。けど、ただの人間じゃないって事だけは同意出来る。どうしよう。私殺されちゃうの?
「(え、何で?元マスターはビンカちゃんを不憫に思って助けて(魔法を使える様にして)くれたんだよ?そんな事する訳ないじゃない)」
 その言葉に私はハッとした。
 そう。元はといえば、これは私がこの人に望んだ事。感謝こそすれ、怖がるなんて以ての外だ。
 どうして私はそんな事に気づかなかったんだろう。
「(元マスターの中にいるマザーを見たんなら仕方ないよ。僕も怖いもん)」
 うん。だよね。仕方ないよね……じゃなくて!
私はどうしたらいいの?この魔法、止まらないんだけど!?
「(それはビンカちゃんの中に突然魔法を使える器官が出来ちゃったからだね。多分、入出力の制御が出来てないからだと思うよ)」
 どうすればいいの?魔法を使える様になったのは嬉しいけど、このままじゃ……
「(元マスターの心配なら別にしなくてもいいと思うよ?電力ならそのままマザーの栄養になるから)」
 私が気にするの(って言うか、魔法が栄養になるって何)!
「(う〜ん、じゃあこの魔法の制御は取り敢えず僕がするね?使いたい時には一言言って貰う様な形になるけどいいの?)」
 十分!今すぐやって!
「(は〜い)」
 そして『バチン!』という音と共に私が放っていた魔法が収まった。
「止まっ……た?」
「ふぅ〜、何とか魔力を制御出来たみたいだな」 「いや〜、良かった。良かった」なんて目の前の人物は言ってるけど、あれ?(貴方の)ナノコマが制御してくれたんじゃないの?とも思う。
「(僕はビンカちゃんのナノコマだから、元マスターは何もしてないよ?)」
 そう……なんだ?
「(うん)」
「ふむ。ライブラリーで強力な魔法反応が発生したと報告があったので来てみたのだが、これは一体どういう状況なのかな?」
 が、学院長!?どうして此処に……って、当然か。基本、ライブラリースペースでの魔法の使用は厳禁。無意識とはいえ、あんな危険な魔法を使ってしまったのだから最悪退学もあり得る。
 ど、どうしよう……折角、魔法が使える様になったのに私学院にいられなくなっちゃうの?
「あ〜……すみません。自分の不手際です。この子を魔法が使える様にしたんですが、突然の事だったので魔法を制御出来なかったみたいです。処分を下すならどうぞ自分にお願い致します」
 え、それ『他言無用』なんじゃ!?
「(元マスターからバラす分には問題がないのでは?)」
 いや、それはそうかも知れないけど元はといえば私が望んだ事だし……
「聞き間違いだったらすまない……今この子を『魔法が使える様にした』と、君はそう言ったのか?」
「ええ」
「……方法は?」
「秘密です。でも今回の様な手段は多分この子にしか使えなかった、とだけ」
「汎用性は無いと?」
「ありませんし、やりませんよ?今回だけは特別です。これまで闇雲に頑張って来た、この子へのご褒美とでも考えて頂ければ」
「あ、え……?」
 その言葉に私は思わず涙を溢してしまった。このタイミングでそれはズルい。ズルいよ。
「ふふっ、ご褒美で『魔法の使えなかった生徒』を『魔法の使える生徒』にされてはたまったものではないな……可愛い生徒の涙に免じてこの(ライブラリーで魔法を使った)事は不問にしよう」
「ああ、一応言っておきますが。この子に何を聞いても無駄ですよ?目を瞑ってもらってましたし、一瞬の事だったので彼女自身も何をされたのか分かってない筈です」
「む……そうか、それは残念だ。だが彼女がどの様な魔法を使える様になったかだけは確認させて貰えるかな?」
「……(どうする?)」
 いや、そこで私に振られても……え〜っと、ナノコマさん聞こえますか?
「(うん、聞こえてるよ〜。基本的なフレーム(枠組み)……あ、魔法の構成って言った方がいいかな?は構築してあるからさっきのであれば何時でもどうぞ〜)」
「あの、でも……」
 此処でさっきのを使えと(チラッ)?
「あ〜、学院長。この子が使う魔法は彼女達より危険なモノです。出来れば周りに人や可燃物がなく尚且頑丈な場所をお願いしたいのですが?」
「ほう?ついさっき魔法を使える様になったばかりの子があの子達より強力な魔法を使うと?」
 そう言えばこの人って、臨時講師として一度この学院で講義してるんですよね。あの子達って誰の事だろう?
「ええ。それは保証しますよ」
 そんなこんなで魔法の修練場を貸し切る流れになってしまったのですが……はい。自分でも驚いてます。
何ですか、これ。遠くに見える的が一瞬で消失したんですけど?
「(サンダースネーク!)」
私に触れようとすると痺れて動けなくなる?強くすると死ぬ?何の冗談ですか?
「(サンダーボールバリアー!)」
ナノコマさん、煩い。魔法名を教えてくれるのはありがたいのですが、ちょっと静かにして下さい。
「発動すれば不可避の雷撃に、それを応用した雷の壁だと……まさか光のエレメントと契約でもしたとでも?威力や攻撃性だけを鑑みればスピリッツの中でもトップクラスに準ずるではないか。それに無詠唱とは……協会も俄には信じてくれまい。これがつい先程まで魔法の使えなかった魔女だと一体誰が信じる……」
「う〜ん……雷撃の方は下手しなくても即死だなこりゃ。雷壁の方は部分的に展開する事が出来れば近接戦闘にも使えそうだけど、威力の調整しないとこっちもアウトか」
 ほら、何やら物騒な評価が聞こえるじゃないですか!
 その後。ジュウゴさんのアドバイスを聞きながら様々な方法を試してみましたが、どれも危険極まりない結果を発揮してしまった為、協議の結果、魔法の威力が調整出来るまでは余程の事がない限り他人への使用は不可となりました。
 諸々の事情を考慮して、私はスピリッツに転科だそうです。
「本日からこちら(スピリッツ)に転科する事となったビンカ・マートリーさんです。諸事情により暫くは対人における魔法の使用が禁止されていますので、皆さん気をつけて下さい」
「よ、よろしくお願いします」
 パチパチパチ……と、教室にまばらな歓迎の拍手が鳴り響いた。
「(良かったね。ビンカちゃん)」
 あはは……本当に良かったのかなこれ?
 うわ、見渡す限り学院で有名な人ばっかりだ。その中でも目立つのはスピリッツで三姫と呼ばれているドレイク家の『火』のメーディアさんにルブラン家の『風』のシルフィードさん。そのお姉さんでもある『水』のルイズ総代かな。
 改めて本当に凄い面子。
「(あ、元マスターが倒してた子達だね。僕、知ってる)」
 ……うん。それは私の精神の安定の為に聞かなかった事にします。
 拝啓。
お父さん、お母さん。詳しい事は分からないけど私、魔法が使える様になったよ。だからもう私に謝ったりしなくていいからね?魔法が使えなかったのは別にお母さん達のせいじゃないってあの人に教えて貰ったの。私、今日からスピリッツなんだよ。今迄迷惑かけちゃった分、寧ろご近所さんに自慢しちゃっていいから。うん。手紙じゃこんな事絶対伝えきれないから今度帰った時にでもお話するね。私が出会った、他国から来ていた変な男の人の話を。
「(ねぇねぇ、ビンカちゃんの速度なら手紙なんて出さなくても一瞬で帰れるんじゃない?)」
 煩いなあ。こう言うのは、これで良いの!
 こうして、私のあの人との出合いは終わりました。
 残念ながらジュウゴさんは突然「すみません。ギルドの方から何か催促(脅迫)めいたメッセージが届いたのでちょっと戻ります」と言って旅立ってしまいましたが、またイングランスに立ち寄った際には是非ともお母さん達に紹介したいです。この人が私を……いや私達を救ってくれたジュウゴさんだよ、って。
「(それ、ビンカちゃんのお父さんに誤解されない?)」
 誤解?何をどう誤解するって言うんですか?大丈夫です。ウチのお父さんは昔から家族の事以外は冷静沈着で有名なんですよ?



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